俺がマスター?勘弁してくれ
とにかく中の様子を調べてみないとな。
俺の登録が抹消されていないと言うことは、俺の研究室も残っているはず・・だよな
俺は受付から2Fに上がり、昔、自分が働いていたはずの部屋に入る。
しかし、その部屋の中は、もう何年も使われていない事を示すように机や椅子には
埃が積もり、蜘蛛の巣が張っていた。
俺が使っていたはずの端末は、俺の知っている端末では無く、近未来SF映画に出て
くるような端末だったが、パソコンオタクの俺は見当を付けてタッチパネル式の
キーボードを操作してみた。
しかし、サーバへのアクセスが拒否される。root権限でログインしようとしても
そもそも走っているOSが俺の頃の物では無いようでホログラム画面には、赤い文字で
「LOCK OUT」と表示されるだけだった。
これってこの研究所、何者かに襲撃されたのか? そういう時の緊急対応として
全ての端末をログアウトさせてサーバルームへのアクセスをさせない処置をしたという
事か。 だとしたらサーバがあるフロアは全面閉鎖されている可能性があるな。
俺は、サーバが設置されているB2Fフロアに行くためエレベータに乗ったが、やはり
B2Fはロックされていてボタンが点灯しない。
俺は非常階段をB2Fまで駆け下りた。 しかし、やはりドアが開かない。
カードキーをドアの横のパネルに当ててみると、カチリとロックが外れた。
ドアを開けて廊下に出る。
な、なんだ! ドアから出た廊下の壁は、ところどころ黒く煤けたようになって
おり、いくつもの弾痕が残っている。左右にあるドアのいくつかは、爆発でめくり
上がっている物も有る。 ここで激しい戦闘があったと言うことか?おいおい
俺はただの民間人なんだぞぉこんなシチュエーション想定外だって!
廊下の突き当たり、サーバルームに続くドアは、ドアの上に『LOCK OUT』と、赤い
文字が点滅し、分厚い耐爆耐衝撃ドアが被さるように閉じていた。
やっぱりなぁ でも多分、このカードなら・・・
俺は、操作パネルの上にIDカードを置く。
『マスターキーを確認。パスワードを音声にてお願いします。』
げっ・・またパスワードかよ。 「きのこのさとさいこう」
『パスワード確認。ロックを解除します』
ロックの外れる音を聞いて、俺は、手前にある分厚い金属のドアを開け、さらに
奥にあるドアをスライドさせ開け放つ。
サーバルームの前室に入ると、傷だらけで床に倒れている女性が目に飛び込んできた。
「お、おいっ!大丈夫か! この世界に来て最初に出会った人間が重症者なんて
勘弁しろよな!」
倒れている女性に駆け寄り抱き起こす。 途端に何か違和感を感じ俺はその女性を
なめ回すように観察する。この研究所のロゴマークの入った戦闘服らしいピッタリした
ウェットスーツのようなものを身に纏い、胸にサブマシンガンを抱えている。身体の
数カ所に撃たれた痕があり、出血した痕も見られるがその傷跡に一部金属のような物が
露出している・・・
有機アンドロイド・・・・アニオタである俺の脳にそんな単語が浮かぶ。
未来らしいからな、そういう存在があってもおかしくないか・・・
と、とにかく今はこの女性、いや、容姿からして少女か。この子をなんとかしないと
アンドロイドでは、生死も分からないしな。
俺は、彼女が抱きかかえていたサブマシンガンを肩にさげ、お姫様抱っこしようとして
ふと思った。生まれて55年、女性をお姫様抱っこなんてしたこと無い、感動だぁぁ
じゃなくて・・・アンドロイドならメチャクチャ重いんじゃ無いか?運べるのか俺?
ぎっくり腰になっちゃわないか・・・この間1.2秒。
んなこと言ってられる状態じゃ無いよな。
俺は女性をお姫様抱っこで抱きかかえると、サーバルームのドアの前に立つ。
女性は思っていたよりも軽かった。未来科学ってスゲーと思ったわ。
「マスターが命ずる。ドアを開放しろ!」これでドアが開いたらたいしたもんだ
『マスターキーを確認、ドアを開放します』開くのかよ!マスターとか自分で言うの
恥ずかしいぞ・・
明け放れたドアをくぐり抜けサーバルームに入ると、照明が点灯し、
『マスターキーを確認しました。システムを起動します』という合成音声が流れ
室内の全ての機器に電源が入っていく。
『管理者権限を確認します。コントロールパネルに右手を当て、パスワードをどうぞ』
「おいおい、ここでもあのパスワードが必要なのか・・・あとで変更出来るか試そう・・」
そう思いながら、右手を当てながらパスワードを囁く。
『管理者権限確認。マスターと認識します。』
「システム、確認する。今は西暦何年だ」
『西暦2123年6月19日午後2時24分18秒です』
「うぉ・・そうか100年近い未来に来ちゃったのか俺は。 そういえば・・この研究所
もこのサーバルーム以外は廃墟に近かったな。確かに有機アンドロイドがいたり、こんな
システムが構築されているんだから未来なんだろうけど。 あっそうだった!システム、
このアンドロイドを修復出来るか?」そう問いかけると、俺が担いでいるアンドロイドに
青い光線が撫でるように照射される。
『スキャン完了。 認識番号ZH002。TYPE7 戦闘型有機アンドロイド。そこの空いている
カプセルに寝かせてください。 修復を開始します。』
「よし、任せたぞ。」そう言って抱きかかえていたアンドロイドをカプセルに寝かせる
時に他にも何個かカプセルがある事に気がついた。
「他にも修理中のアンドロイドがいるのか?」
『いえ、隣のカプセルに入っているのは、TYPE9、新たに開発されたアンドロイドです。
調整が完了し、まもなく起動する予定でしたが、緊急閉鎖が発令されたため、保護対象
である、人間3体とともに凍結処理を施していました。』
「そ・・そうなのか」俺は、並べられたカプセルをよく見ようと近づいた。
俺が開発していた冬眠カプセルの進化形かこれは。俺の研究は誰かが引き継ぎ完成させたって
ことなんだろうな。 後でサーバにあるはずの研究データを見せてもらうとするか
そう俺が考えていたとき、明け放れていた後方のドアから数人の兵士らしき連中が銃を
構え、サーバ室に入ってくると同時に銃を乱射し始めた。
「戻ってきて正解だったなドアが開放されているとはラッキーだったぜ、コンピュータ
を全部破壊し冬眠カプセルも全て破壊するぞ」
「なっ! しまった! ドアのロックを解除したままにしたのが不味かったか!」
俺は、すばやくコントロールパネルの影に隠したが、兵士が乱射した銃弾がコンソール
や壁で跳弾し右足太腿に被弾した。
「くっ・・くそぉ」俺は、肩に担いでいたサブマシンガンを構えると侵入者に向かって
引き金を引いた。軽い発射音と共に弾丸が高速に飛んでいく。グァムで拳銃を撃った事はあるが、
マシンガンなんて撃ったこと無いから腕の中でマシンガンが暴れまくり、弾が
メチャクチャな方向に飛んでいく。
「なに!さっきのアンドロイド以外に誰かいたのか! 速やかに制圧するぞ!」
兵士の弾がコントロールパネルのいくつかに当たり火花を散らす。
「くそぉぉぉ」マシンガンの弾倉を両脇で挟むようにして固定し兵士に向かって残りの
弾を浴びせまくる。
「うわっ! 下がれ! 下がって体勢を立て直すぞ!」
兵士達はこちらに向かって威嚇射撃しながらドアの外へと下がっていく。
「うぐっ!!」威嚇射撃の弾丸の一つが俺の右肩を貫き俺は、意識が薄れる。
「うううっ・・し、システム・・このフロアのロックアウトを再実行。サーバルームの
ドアを閉鎖、そ・・それから・・か、カプセルを緊急開放し・・しろ・・・・」そこまで言うと
俺は気を失った・・・。