野菜は出来たぞ、抗ウィルス薬はまだかいな
五木姉妹が抗ウィルス薬の臨床実験、そして製造にいそしむ一方で、俺と翔子、ベガ、
カオスは、野菜作りにいそしんでいた。
「そっちのトマトとキュウリの添え木、もっとしっかり作ってくれよ。実がなったら
重みで倒れちゃったじゃ、かなわないからな」
「分かってるわよ。 ちゃんと作ってるって」
「ジャガイモ植えたところに、もう少し水をやってくれ ベガ」
こんな風に、畑で野菜作りに精を出して3ヶ月が過ぎた頃だった。
トマトもキュウリもジャガイモも白菜も順調に育ち、収穫出来るところまで来た。
翔子とカオスと俺は、実った野菜達を丁寧に収穫し、カゴに入れながら出来映えを
喜び合っていた。
そこにベガから、機動要塞からの信号をキャッチしたとの知らせが入った。
「ベガ、その信号というのは、例の大阪に有るという機動要塞からか?」
「方向から、大阪の機動要塞だと思われますが、ほんの一瞬しか受信できなかったので、なんとも言えないのです」
「一瞬? 一瞬受信してその後、反応が無いのか?」
「そうなのです。機動要塞自体が、起動したと言うことは、切羽詰まった事態が
起こったからだと思うのです。多分、マスターキー抜きで起動したと思われます。」
「ガイアが起動したときと同じ状況と言うことか・・・」
「ええ、多分、E-OSが起動したのだと思います。」
「そして、その後、通信が途絶えたと? E-OSで起動した管理コンピュータが
何らかの形で乗っ取られたか破壊されたと考えるのが妥当か・・・・」
「私もそう思います、マスター」
「抗ウィルス薬が出来たら大阪に向かい最後の機動要塞と合流する予定だったが
少し考えないとまずいな・・・・まあとりあえず抗ウィルス完成待ちか」
「ねぇねぇお兄ちゃん! これ、食べられるの?」
「こんな真っ赤な物、毒に決まってるだろ! 明日香!」
「でも、良い匂いだよ 兄ちゃん」
「あ、やめろ!明日香」
「美味しいぃぃぃ!」
「ど、どれ・・・うんめぇぇぇぇぇ」
「おい・・・・お前ら、なにしてんだ?」
俺は収穫カゴからトマトを手づかみで貪る小学生くらいの兄妹の頭に
げんこつを食らわせる
「いってぇぇぇ! なにすんだよ! おっさん」
「何って、お前達こそ俺の野菜を勝手に食いやがって、泥棒と同じだぞ」
「これ、おっさんのなのかよ」
「そうだ。 だから勝手に食うな」
「貴様! その子達から離れろ! 撃つぞ!」
いきなりそんな怒号が聞こえてきた。
声の方を向くと迷彩服を着た体格の良い兵士が拳銃を構え、
俺に狙いをつけていた。
「ちょっと待て! この子達が俺の作った野菜を勝手に食ってたから
叱ってただけだ。 あんた、この子らの保護者か何かか?」
両手を上げながら翔子とカオスにも手を上げるよう指示する。
「叱ってただけ だと・・」兵士はゆっくりと構えていた拳銃を
降ろすと2人の子供に確認する。
「お前達、勝手に食べたのか?」
「・・・・ごめんなさい リチャードさん」
「そうか・・・」
兵士はゆっくり俺に振り返ると
「誤解があったようだ、すまない。 子供達には俺がよく言い聞かせる」
「いや・・こっちも俺たち以外に生存者がいたことに気が動転してなぁ、
大人げない対応ですまなかったな」
「君たちは、その変な機械の搭乗員なのか?」
俺は、背中にあるピンクの円盤と、地面から生えているドリルを振り返りながら
「まあ、そんなところだ。外見に関しては何も言うなよ。俺は坂井、こっちの子は
翔子、そしてアンドロイドのベガとカオスだ」
俺は苦笑いしながらそう言ってから
「君たちは、どうやってウィルスから逃れられたんだ?」
「俺は、リチャード。俺は、横田米軍基地で、冬眠カプセルに入っていたんだ。
そこでゼウスの空爆に遭って、カプセルが非常排出を行ったわけだ。その後、基地から
脱出した途中で、同じようにカプセルから脱出しただろうこの子達に出会って、一緒に
逃げ回ったって感じだな」
「その子らは、日本人らしいけど、君はアメリカ空軍だよな?日本語上手だな」
「妻が日本人でね、必要にかられて日本語を覚えたよ」
「そうか、カプセルには、他にも冬眠していたんだろ? その人達はまさか
ゼウスに?」
リチャードの沈痛な表情が全てを物語っていた。
「すまない、余計な事を聞いた・・・」
「いや・・・あいつらは、悪魔だ。男と子供は首の後ろにチップを埋め込み、逆らえば
電流を流して殺すと脅し、服従させ、兵隊として使い捨てる一方で女は慰み者にされ、
人口増加に使われる始末なんだよ」
「そうやって強制的に兵隊にされたってのは、結構いるのか?」
「どうだろうか、世界中の冬眠カプセルを襲われているとしたら、かなりの
数になるんじゃないだろうか」
「うーーん・・・今までそういった兵士と交戦したのは無いからなぁ、実感が
沸かないんだが・・・」
俺は、翔子に耳打ちして、アルタイルに向かわせると
「ところで君たちは、この辺りに隠れ場所を確保しているのか?」
と、リチャードにたずねる。
「ああ、この辺りは、自然も多いから隠れる場所に困らないんでね。」
「君らのように隠れて暮らしている人達は、まだまだいるんだろうな。そのあたり
何か情報を持っているかい?」
「いや・・・自分たちのことで精一杯だからなぁ 少なくともこの辺りで俺たち
以外の人間は、君らが初めてだよ」
「そうか・・・」
そこに翔子が、両手にコンビニ袋をぶら下げて戻ってきた。 俺は、その2つの
袋を受け取ると、リチャードに渡す。
「子供達に少しだけどスナック菓子だ。それと2食分程度のレトルトパックも
入れておいた。シチュー系だから、もし温めなくても食べられないことは無い。」
「良いのか? 食料は貴重だろうに」
「腹を空かせた子供の姿を見て、手ぶらで帰すわけにもいかんだろう。それと
もし、可能ならこの少し先にあるノスタルジックスペースに行ってみると良い、
これらの食料も、そこから調達してきたんだ」
「ノスタルジックスペース? なんだそれは?」
「日本政府の高官が、趣味で作った昭和の街並みだ」
「昭和?」
「ああ、気にしなくて良い、とにかく、過去の日本の街並みを再現した場所と
思ってくれれば良いと思う。目につくところから、食料等を回収してきたけど
多分、街の規模からして、まだどこかに食料や日常に役立つ物があると思うよ」
「分かった、貴重な情報提供、感謝する。 では、俺たちは隠れ家に帰還するよ
おい、お前達、帰るぞ!」
「リチャード、その袋はなんだい?おおお、なんか美味しそうな袋がいっぱい
入ってる!」
「あのおじさんに礼を言いなさい、お前達のために貴重な食べ物を分けてくれたん
だからな」
そうリチャードが言うと、兄妹は、揃って頭を下げながら「おじさん、ありがとう」
と、言って、袋を大事そうに抱えながら、林の中へと走り去った。
その後ろ姿を見ながら翔子がポツリと呟いた
「ああいう人達がいっぱいいるのかな? あたし達でなんとかしてあげられるかな」
「ああ・・・どうなるか分からないけど、俺たちで出来る限りの事をするしかないな」
「うん・・・・そうだね」
「それと思ったんだが、ああいう生き残ってる人達とのコミュニケーションを取る
方法とか考えておいた方が良いかもしれないな。無線機とかラジオ、テレビ、ネット
とか色々考えてみるのも良いかもしれない」
「そうだね 残った人達で力を合わせて行くのも大事だと思うしね」
「やることは一杯だけど、希望を持つのは大事だしな、そうか・・・俺たちだけじゃ
なく、敵だって、連絡を取り合ってるはずなんだよな・・・アルタイル、下は100Hz、
上は500GHz迄の周波数をスキャン、データ通信、音声通信の有無を調査、フォルダーに
分けて保存してくれ」
「了解しました。スキャン及び調査期間はどうしますか?」
「とりあえず、今から1週間だ」
「了解」
「さて、通信チェックはアルタイルに任せるとしてだ、そろそろ大阪方面に移動も考え
ないとな。 畑の撤収、食料の備蓄チェックなど、ワクチンの完成まで2ヶ月、それま
でにやること一杯で忙しくなるぞ」
それから俺たちは、行く先で食料とか調達できるか分からないのでノスタルジック
スペース等で可能な限り食料を調達し、行った先でも畑を作れるように肥料や種、
球根等も備蓄することにした。
「ねぇおっちゃん、この畑はどうするの? 廃棄しちゃう?」
「残しておこう、あいつらがまた来て収穫するかもしれないしな、もし出発する
までにまた来るようなら、世話の仕方とか教えてやってもいいしな」
「そっか そうだね」
ノスタルジックスペースで日用雑貨などを物色していると、リチャード達に遭遇した。
「おっ、早速来てみたんだな? リチャード」
「ああ、君か、いやあここはなんなのだ? 確かに食べ物らしい物はあるし、他にも
使えそうなものがあるのだが、使い方が分からない物が多い。」
「あははは、そうかもしれないな、100年以上前の時代の物ばかりだからなぁ」
「ああ、確かにそんなことが書いてあったが・・・君はなぜ、戸惑いも無くここを
利用出来るんだ? 考古学でもやってたのか?」
「ああ、それはなぁ信じてもらえないと思うけど、俺、100年前の世界から転生して
きたんだよ」
「なんだ、転生者だったのか、あんた」
「おい・・なんでそんなにあっさり納得するんだ?」
「この時代、世界、何でもありだからさ、でもそっかぁ転生者は初めて見たかなぁ、
俺らと変わらないじゃないなぁ 何か魔法が使えるとか無いのか?」
「残念ながら、オプションは何も付かずに呼ばれたようでね」
「へぇ、そういう転生も有るのか」
「まあな、あ、そうだせっかく再会出来たのだし、いくつか相談したいことがある
んだわ、良いかな?」
「おっ? 俺は構わんが?」
「そっか、んじゃあっちのフードコートに行こう。何か飲みながら相談しようよ」
「あ、ああ、そりゃ構わないが・・」
俺は、リチャードをフードコートに連れて行くと、勝手知ったるなんとかで店舗の
裏の冷蔵庫からコーラの350ml缶を2つ持ってきてテーブルに乗せた。
「こいつは・・・飲み物だったのか」
「そうだよ、コーラと言うんだ、ここをこうして引き上げると蓋に穴が空いて、
飲めるようになるんだ、こんな感じ」
「こ、こうか? うわっ!! なんだこれは! 泡が吹き出したぞ!」
「あはははは 悪い悪い、そっちの缶、さっき落としちゃった奴だったわ」
「わざとか! ああもう・・ベタベタだ・・・」
「で、相談なんだが・・・」
「おい、謝罪は無しかよ まあいいや、なんだい?」
「一つは、先日の畑だ。俺たちはもうすぐここを離れ、関西方面に出発する。
で、あの畑は、君らに残そうと思っているんだ、管理してくれるか?」
「畑って、あの赤い実を付けた草とか生えてる奴か?」
「ああ」
「俺たちは、畑を維持管理する知識なんか無いぜ?」
「畑の取説みたいな物を用意するから安心してくれ、上手く管理出来れば
定期的に、野菜を収穫出来るぞ」
「そ、そうか、じゃあ、ありがたく受け取ることにするぜ」
「オッケーじゃあ、畑の件はそれでよしと。で、もう一つなんだが」
そう言うと、俺は、床に置いておいた段ボール箱から小さな箱を取り出して
テーブルの上に置いた」
「これを渡しておきたい。こいつは、スターリンクという通信機器で、こっちが
それを使ってデータを送受信出来るタブレット端末だ」
リチャードはテーブルに置かれた2つの電子機器を手にし、あれこれと弄りながら
「こんな小さな機械で通信が出来るのか?すごいな」
「衛星を介しての通信なので、多分、日本のどこからでも送受信出来るはずなんだけど
何しろ、使う相手がいなかったから、どこまで有効かまだ分からないんだ。しかし
この先、お互いに協力し合うことも出てくると思うので、保険の意味で持っていてくれ」「分かった。 ああ、でもこいつらのバッテリーって充電出来るのか?」
「ああ、そうだった、どこかにAC100Vのコンセントがあって、電気が生きていれば
この充電器で充電可能だ」
「そうか、まあ、なんとかなるかな、じゃあ、貰っておくよ」
「じゃあ、俺たちは今日明日にでも出発なんで、ここでお別れだ、元気で!」
「ああ、おまえらも じゃあな」
俺たちは、リチャードと軽く握手した後、アルタイルへと戻った。
「マスターほぼほぼ出発準備完了です」
「ほぼほぼってなんだ? あと、何が残ってるんだ、アルタイル」
「指示された周波数のスキャンなのですが、あと1時間ほどかかります。」
「ああ、そうだった、で、今の時点で何かキャッチ出来たか?」
「一つ、極超長波を探知しました。ずっと北のシベリアの奥地から四方八方に
拡散するように発信されています。」
「極超長波って、あれだな、地中や水中の相手に連絡するときに使う波長だな、
シベリアの奥地からって言うのがいまいち分からないけど、敵は、地中や水中にも
いるって事か?・・・」
「それとVHF帯に暗号通信を複数探知しています。これらは、定期的に相互通信を
行っている模様で今、その方向と発信源を探索中です。」
「暗号通信か・・・解読は出来そうか?」
「内容については、私の解析能力をもってしても数ヶ月はかかってしまうでしょうね」
「リアルタイムで内容が分からないと意味は無いけれど、暗号解析さえ出来れば、
いずれは、リアルタイムで分かるわけだから、周波数のスキャンと並行して解析を
頼むよ、アルタイル」
「分かりました、しかし、これ以上の作業を並行して行うと、関西方面への移動の際、
機体の維持に支障が出る可能性があります。」
「そうか・・・関西にあるという機動要塞も気になるところだが、敵の通信も気になる
難しいところだな・・・全周波の解析は、あとどのくらいかかりそうかな?」
「後2日もあれば特定のパターン等の解析は完了する予定です。」
「分かった、では、余裕を見て、4日後に関西に向けて出発するというスケジュールで
行こうか」
「了解しました」




