帝国薬科大学 バイオ研究室
「どぉ?お姉ちゃん」
「基本的な部分は出来た気がするんだけど、もう少し臨床実験してみないとねぇ」
「そっかぁ、あんまり無理しないでね。こっちのテーブルにスナック菓子とジュース
置いておくから、適当に休憩取ってよね」
「ありがとう菜穂」
「異常ありませんか?早苗、菜穂」
「あ、セブンさん、見回り?」
「マスター達が畑という物を構築している間、私は手持ち無沙汰なので様子を
見に来ました」
「へーおじさん、また何か始めたんだ」
「あなた方の食べ物の新鮮な材料を作るのだと、言っていました」
「そっかぁ あたし達のために そっかぁ」
『こちらベガ 論文の解析が終了しました。臨床実験に必要な数式及び必要な材料の
一覧が出ましたので、そちらのコンピューターに転送します』
セブンと話をしているとベガから連絡が入った。
「お姉ちゃん、なんかパソコンに来たよぉ」
「ん? どれどれ?」
早苗はポッキーを口にくわえながらパソコンの画面を覗き込んだ。
覗き込んだまま早苗はしばらく無心にポッキーを次々に口に運ぶ。
「ど、どうしたの?お姉ちゃん」
「大丈夫ですか早苗。 何か無表情ですよ」
画面を見つめていた早苗は、ふっと息を吐くと頭をうなだれながら呟いた。
「こんなの私には無理だよ・・・難解すぎるわ・・・無理よ無理無理・・・・」
早苗はその場でうずくまり、頭を抱えてしまった・・・
そんな姉の姿を見て菜穂もまた頭を抱えてしまった。
(またお姉ちゃんの悪い癖が出ちゃったよ。自分のキャパを超えると暗黒面に
引き寄せられちゃうんだよねぇ・・・それで黒い早苗ちゃんが出てきて・・・
はっ!いけない!止めないと!)
菜穂が現実を認識し早苗を介抱しようとした時、早苗がゆらりと立ち上がり虚ろな目で
「ふっふっふ、こんなもの・・・こんなもの・・・」
テーブルの上に乗ったパソコンの本体をケーブルを引きちぎりながら両手で持ち上げて
床に叩きつけた。
叩きつけられたパソコンは部品を四散させる。
「セブンさん、お姉ちゃんを取り押さえて! 早く!」
「こんなもの・・・こんなもの・・・」
ディスプレイを持ち上げて、壁に叩きつけようとする早苗の背後に回り込み、
羽交い締めにしながらナインは
「早苗、早苗、落ち着くのです。早苗!」と、押さえつけながら必死に早苗に
呼びかけるが、早苗は普段では考えられないような力で暴れまくる。
(うわぁ完全に理性が飛んじゃってるよぉ お、おじさん呼んでこなくっちゃ)
菜穂は、慌てて研究室を飛び出しておじさんの元へと走った。
「おじさーん おじさーん どこー?」
「おーぅ 菜穂かぁ? こっちだこっち」
菜穂が声のする方へ走って行き人影を見つけると
「おじさん! お姉ちゃんが大変なの、早く一緒に来・・・て・・って
なんて格好してんのよ!」
「何って、畑作りしてんだよ、土いじりするのに綺麗な格好なんて出来ないだろ?」
そういう俺は、泥だらけのランニングに短パンという姿でシャベルで土を掘っていた。
「まったくもぅ・・・良いわ その格好でも。早く一緒に来て 早く!」
「お、おい、菜穂、ちょっと どこに行くんだよ」
「良いからこっちこっち、早く!」
菜穂はおじさんの手を引いてバイオ研究室に飛び込んだ。
「お姉ちゃん! おじさん呼んできたよ!」
「あたしなんか、あたしなんか・・・なんの役にも立たないんだわぁぁぁ」
早苗は、床にうずくまって、だだをこねる子供のように泣きながら、その背中を
セブンにさすられていた。
「どういう状況なんだこいつは・・・」
状況を見ながら俺は、あっけにとられた。そんな俺に菜穂がこれまでの状況を
耳打ちする。
「なるほどな・・・」
俺は、菜穂に耳打ちし直すと、うずくまっている早苗の手首を取り、
無理矢理引き立て、そのまま屋上へと階段を上がっていく。
屋上に上がるとそこに置いてあるベンチに早苗を座らせ、その横に座る。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「落ち着いたか?」
しばらく座ったまま言葉もかけず、放置することで、自然に落ち着くのを
俺は待ち、静かにそう声をかけた。 早苗は、俺の言葉にコクとうなずく。
と、タイミング良く菜穂がお茶のペットボトルを持ってやってきた。
「おお、ナイスタイミング菜穂。 サンキュー。ほら早苗、これを飲め」
俺は早苗にお茶のペットボトルを渡しながら、俺もキャップをひねって、
お茶を一口飲む。
しばし3人でティータイム。
ただ黙ってペットボトルを飲んでるだけだけどな。
「あ、あの・・おじさん?」
沈黙に耐えられなくなったのは早苗。
「ん?」
「あたし、無理なの・・・」
「そっか・・ でも、基礎の部分は出来たんだろ?」
「基礎部分はね。 でも、実際のウィルスがあるわけじゃないし、効果は
分からないし、完成型の数式や分子構造は私が理解できる物じゃ無いのよ」
「確かにウィルスが無いと効果は分からないよなぁ・・草場君は炭疽菌で
テストしてみたらしいが、今の時代、ウィルスが保管されているような
場所は無さそうだしなぁ・・・ そういえば、完成型にドクターペッパー
って、やっぱり組み込まれてるのか?」
「あ・・そういえば・・・まさかあの分子構造式って・・・ドクター
ペッパーの構造式? なのかな」
「もしそうなら、俺の時代なら一財産かもしれないなぁ 某清涼飲料水
メーカーの企業秘密だからな。」
「そういうのはともかく!そういう事なら・・・・もしかしたら・・・」
「もしかしたら?」
「基礎構造の成分にドクターペッパーを混ぜて乾燥させたらいける・・かも?」
「そんな単純な物なのか!」って、思わず突っ込んじゃったよ・・・
草場く~~~~ん!




