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8 可憐なあの子はプリンセス?

「――――――はあ」


 協会を後にして。ため息をつきながら、先生の診療所へ忘れ物を届けに行く。

 なんでも、昨日先生が往診に来てくれた時に渡すはずだった、シルヴィア様作の薬をそのまま置いて帰ってしまったらしい。ここ二週間、シルヴィア様は臥せっていたけれど、薬のストックならある。それを渡そうと思っていたら――先生はうっかりしてしまったようです。

 普段通りなら、次の往診は一週間後。先生も忙しいだろうし、早く届けてあげてほしい――と、シルヴィア様。


「――――――はあ」


 その診療所への道すがら。私はまたしてもため息をつく。別にさっき協会で、ルミナ様にしょんぼりさせられたからじゃありません。というのも……


「フィオレー? まだ気にしてるのか? フィオレは別に悪くないって言ったろ?」

「そう、ですけど……」


 協会を出る直前。ウェンディさんに呼び止められた。


 ”昨日のこと、なんだけど。……彼らをあんまり悪く思わないでやってほしいの。彼らは彼らなりに頑張っている、ってことをわかってほしい"


 彼ら、というのは代行者たちのこと。ウェンディさんは少し迷っているふうだったけど、意を決して私たちに昨日の出来事を話してくれた。

 私が一人で森に向かった日の、早朝のこと。

 ――――南門の門番さんが死んだらしい。


 "死んだ、といっても、そうかもしれない、って感じで曖昧なんだけど。……というのも、死体が一部しか見つかってないのよ。左手だけ"


 昨日の早朝、交代のために南門へ向かった門番さんが、夜間の担当者がいないことに気づき――門の外側で、()()を発見したとのこと。


 "身元は、わからない。でも、いるはずの人がいなくて、それが街の外にあった。……なら、もう間違いないでしょ"


 もしかして街の近くまで魔獣が接近しているのでは、と代行者の皆さんが周辺警戒に出向き。結局、いつも通り街の北東方面に湧き出ていた魔獣の群れを討伐して、帰ってきた。それがちょうど、誰かに直接お願いをしようと私が協会に訪れた時だった、らしい。


 "彼ら、結構落ち込んでてね。犠牲者が()()出てしまったことに。それに一カ月近く経っても、一向に状況が良くならないし。だからつい、協会内での飲酒を許可しちゃったのよねー。ホントはダメなんだけど"


 要するに空元気だったのです。昨日のあの騒ぎは。

 そこへ愚かな街娘が、魔獣溢れる森へ薬草を取ってきてとお願いしたワケですね。――魔獣退治で疲れていた人たちが、見知らぬ人の死に心を痛めていたときに。


「――――――――はあ……」


 あの時ルミナ様が言っていたように、私はホントに世間知らずの箱入り娘だったみたい。なんにも知らないくせに、お願いを聞いてもらえなかったからと、あの人たちを蔑んで……

 あの人たちは。――魔獣に殺された、マイクおじさんの仇を取ってくれているのに。


「……こりゃダメそうかも。……あー、ところでさ、フィオレ。さっきから気になってたんだけど」

「……? はい、なんでしょう」


 私の落ち込みようから話題を変えたほうがいいと判断したのか、ルミナ様は私が目を逸らしていた事実を指摘した。


「気のせいか、とも思ったけど。なんか街の人――フィオレを見ると、ぎょっ、として道を開けてくれるのはなんでだ?」


 ………………あー、それですか。


「気のせいです、ルミナ様」

「いやでも」

「気のせい「ひぃ!? あ、あいつは"コルトスの可憐な狂犬"、フィオレ!?」ですよ」

「待て待て今なんか聞こえた」


 もう……ルミナ様ったら。幻聴でも聞こえちゃったんですか? お疲れみたいですね。


「聞き間違いでしょう。私が狂犬だなんてそんな「イャァッ!? あ、あのどこぞの病弱な深窓のご令嬢みたいに儚げな女の子は、"森に咲く一輪の爆弾"、フィオレ!?」ことあるわけないじゃないですか」

「いまなんか不穏な単語聞こえた!」


 ふう、やれやれです。どうやら私と同名のフィオレさんが近くにいるみたいですね。問題児の。とんだ風評被害です。やんなっちゃいます。


「あ、そこの角を曲がります。そっちへ――」

「ママー! あ、あのおひめさまみたいにかわいくておむねのおおきいおねえちゃん、なんかこわい!」

「だ、大丈夫よぼうや。あの薄桃色のミディアムヘアと宝石みたいに綺麗な赤い瞳の子は"止まることを忘れた哀しき猪"、フィオレっていうの。まっすぐしか、走れないの。正面を塞がなければ――道を曲がった、ですって……?」

「おいおいおい、あの親子、完全にフィオレを指差してたんだけど!? ていうかお嬢様と爆弾、お姫様と猪って、どう考えても結びつかない単語だろ!」


 ………………う、うぐぐ。

 なんで……こんな日に限って、私に気づく人が多いんですか! ルミナ様、ドン引きしてるじゃないですか!

 そう。私は昔から、なぜか街の人に怖がられているのです。理由はさっぱりわかりません。

 特に何かした覚えはありません。本当です。ないったらないんです。確かにちょーっと、ご迷惑をおかけしたことがあるかもしれませんが。でも、ただ歩いているだけで道行く人が私を避ける、なんてこと、あるはずがないんです。

 

 顔を隠すように俯きながら、そそくさと道を進む。私を知ってる人に出くわしませんように……なんて考えていたら。

 もっとすごい場面に出くわしてしまった。


「ど、どけェッ!!」

「キャーー! ドロボーー!」

「!?」


 突然、進行方向の左側の路地から、一人の男性が飛び出してきた。その手には……女性もののカバンが。


「んー? なんだ、ひったくりか? アホだなぁ……どこに逃げるつもりなんだか。って、お?」


 ひったくりの男性は一瞬、周囲を見渡すと、私たちの方へ走ってくる。


「こっちに来るな。……はあ、仕方ない。フィオレは後ろに――」

「――止めないと」

「隠れ、ってフィオレ!? なんで前に出る!? あ、こら!」


 ルミナ様が何かを言っていたけど、すごく焦っていた私には聞こえなかった。

 ――た、大変、大変です! つ、捕まえないと! 街の平和、守らないと! やってやります、とりゃー!

 駆け出す。こちらに向かってくるひったくりは、私を見るなりぎょっとしたけれど、構わず突っ込んでくる。私がただの女の子だと見て、走りながら吹き飛ばそうとしたんでしょう。ちなみに私はどう捕まえるかなんて、まったく考えていなかった。なので。


「――――」


 動きを見る。時間が間延びしたような錯覚。ひったくりの一挙手一投足、その全てをつぶさに観察し、


「えいっ」


 タイミングを合わせてしゃがみこみ、左足を軸に右足をコンパスみたいに回転。ひったくりの足に引っ掛けた。逃げるのを止めるために、足払いで転ばせようとしたのです。すると。


「――!? う、うおっ、と――うわっ!」


 全力で走っていた盗人さんは、体勢を崩しつつもなんとか持ち直そうと足をもつれさせ――すてん。

 結局耐えきれず、思いっ切りすっ転んだ。――通りの右手側にあった、服屋さんのショーウインドウへと。その結果。


 ガシャーーーーーン!!!


 耳をつんざく、取り返しのつかない破裂音。通りに飛び散るガラス片。事態を見守っていた通行人たちの、『やっちまった』感溢れる驚き顔。私を止めようと、右腕を前に突き出した姿勢のルミナ様。そして。


『――――あっ』


 粉々に割れたショーウインドウの中で、マネキンにしなだれかかる、血みどろのひったくりさんのオブジェが一つ。

 …………………………………………だっ、


「誰かーーーっ!? お医者さんーーーっ!?」


 その後。

 ルミナ様がそのひったくりを魔術で治療し、憲兵さんに引き渡しました。周囲の人の私を見る目が、なんだか怯えているふうでしたけど、たぶん、気のせいだと思います。

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