7 お小遣い復活!
「この間フィオレさんが出した薬草採取の依頼だけど……えっと。ルミナさんが達成した、という認識でいいのかしら」
さっそくここに来た目的を果たす。薬草を見つけてくれたルミナ様に、報酬を渡さないと。
「は、はい。こちらのルミナ様に、その……報酬を、お渡ししたいと思います」
渡さないと……いけないんですけど。つい歯切れが悪くなってしまう。うう、私の全財産~~。
あれがあれば欲しかった本や、来月に迎えることになるアレの準備も出来るのに……だけど、仕方ありません。これはこれで必要な出費だったのです。シルヴィア様の体調も良くなりましたし。割り切ろう。
ウェンディさんが用意したお金をルミナ様が受け取るのを未練がましく見届ける。――これが、経済。お金を武器にしのぎを削る、無慈悲なる戦場の姿なのですね――と、世間の荒波に揉まれ、酸いも甘いもかみ分けた自立したオトナのような気持ちでいると。
「…………なる、ほど。よしフィオレ。このお金をどうぞ」
「……え? あ、はい…………って、え!?」
なんとルミナ様が、受け取った報酬を私に手渡してきた! 何故に!? 私、大混乱!
「な、ななな、なにををを……!?!?」
「あー落ち着け―、動揺しすぎだから」
「ちょ、ちょおーっとルミナさん!? それ、私の前でやられちゃうと……!」
そして動揺したのはウェンディさんも同じだった。カウンターから身を乗り出してルミナに詰め寄る。
「さ、さすがにそれは感心しないわよ。フィオレさんが依頼を出して、ルミナさんがそれを達成した。どんなに少ない、依頼を受理すべきかどうか知恵熱が出そうなほど悩んだくらいの金額だとしても、フィオレさんは報酬を支払う義務がある。それを……」
「わかってます。これであの森へ行かせようとしたのか、と戦慄するほどの雀の涙みたいな金額だとしても、契約は成立している。そういや昔は、依頼を達成した代行者を襲って依頼料を回収してた不届きものもいたらしいですね。だけど……」
あ、あれ? なんか……さっきから私の全財産が貶されてる気がします。全財産ですよ全財産。オールアセット。それを少ないだの鳥さんの涙だの……え、そんなに依頼を出すには不十分だったんですか、これ。
「ほら、えっと……フィオレって、今いくつだっけ?」
「……え!? わ、私の年齢ですか? そ、その。十五歳、くらいですけど……」
急に話を振られ、びっくりしつつも答える。
「くらい? アバウトな……いや、そうか。そういうことか。よく考えたら、オレも似たようなもんだった。とにかく、それくらいの年齢だとこれでも結構な大金でしょう。そんな子からお金を巻き上げるのも寝覚めが悪い。だから――」
そこでルミナ様は、ウェンディさんを下から覗きこむようにしつつ小首を傾げ、
「――――今回だけ、見逃してほしいなぁ? ね? おねがい――おねえちゃん☆」
憂いを帯びた表情と、子猫みたいな愛らしい声でウェンディさんにお願いをってなんですかいまのーーーーー!?!?
「きゅーーーーん……!」
そんな、男女問わずきゅーーんとなっちゃうような一撃を受け、ウェンディさん撃沈。胸を押さえてカウンターに突っ伏した。ぜえぜえ、と呼吸が物凄く荒い。どうやら、致命傷だったみたいですね。
「……チョロ……」
――――ルミナ様? 今なんて言いました?
「ぐ、ぐうぅっ! い、いえでも……だけど、あんな風にお願いされたら……うぐぐぐ……!」
「う、ウェンディさん……?」
何やらものすごく葛藤しているみたい。ウェンディさんはしばらくの間、謎のうめき声を上げていたかと思うと、
「…………シルヴィアさんは、元気になったのかしら」
深く息を吐いて、私に問い掛けてきた。
「え、あ、はい。今朝にはもう……って、ウェンディさん、シルヴィア様のこと知ってるんですか?」
「……ええまあ。昔、ちょっとお世話になってね。……そっか。うん、わかったわ」
何事かを納得した様子で、両手を腰に当てながら私たちを見つめる。そして。
「しょうがないから今回だけ、見逃してあげちゃいましょう! 感謝するように! ……あ、ホントに今回だけよ、マジで。それやられると、何でもありな無法地帯になっちゃうから」
こちらも楽しくなるような、素敵な笑顔を見せてくれた。
「だってさ。良かったなフィオレ。無一文から脱却できて」
「あ、ありがとうございますルミナ様……! 本当に、なんてお礼を言ったらいいか……」
やったーーーー! 仲介料は取られちゃってますけど、これで欲しい本も買えるし、アレを選ぶこともできます! いえ、予算内で、という制約が付きますが! 予想だにしない結果に、内心有頂天になる私。だけど。
「いやいいよ。オレ、お金に困ってないから。それにそれ――――受け取って嬉しいほど多くないし」
ルミナ様の言葉で、地の底まで一気にしょんぼりさせられた。




