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6 素敵な笑顔のウェンディさん

「…………むぅ」


 あまりに酷いルミナ様の言葉に、拗ねてみせる私。『いま私すごく傷つきました』という思いを込めて、ぐももーっとルミナ様を見つめる。でも、


「あっ……! い、いや! す、すごいなフィオレ! こんな馬鹿みたいな……じゃない、難しい魔術を起動出来るなんて! うん、すごいすごい馬鹿みたいにすごいな!」


 一生懸命誉めてくれたので……許してあげます。…………やった♪

 気がつけば、ルミナ様と自然に会話出来ているような。人見知りの私がここまで気を許すとは。やりますね、ルミナ様。自分で言うのもなんですけれど。

 そんなやり取りのあと、ルミナ様による初めての魔術講座はお開きになり。二人で森を抜け街に出ることにする。シルヴィア様に頼まれたお使いをこなさないといけません。


 "ああ、フィオレ。すみませんが、先生のところに忘れ物を届けてはもらえませんか。それと……貴女、協会に依頼を出したのでしょう? ルミナ様が依頼を達成してくださったのですから。ちゃんと、報酬をお支払いするように。"


 というわけで。

 先生こと、シルヴィア様の主治医さんが開いている診療所に行く前に、協会へ足を運ぶことになった私たちです。

 二分ほどの森林散策を謳歌する。街壁についている扉を抜けたら、そこはもう賑やかな街。


 ちなみに街の中まで魔獣は入ってこない。私の家の付近にも。その理由は、この壁の上にあるもののおかげ。


 ――魔機具(マギア)。魔術を使うための変異式(コード)を物体に刻み、誰でもお手軽に魔術を使えるようになる便利道具。日常生活の必需品です。


 東西南北の四か所の街壁の上に、自動で効果を発揮するタイプの魔機具(マギア)が設置され、魔獣除けの結界を展開している。自動発動型ゆえ、”あー、なんかこの辺嫌な感じだなー、近寄りたくないなー”と魔獣に感じさせる程度のものですけど、この辺りは比較的魔獣の発生が少ない方なので十分……と思われます。

 ……街の北東方面で大量の魔獣の発生が確認される前、の話ですけど。


 一週間前、なけなしのお小遣いと勇気を握り締め、協会を訪れた時のことを思い出す。……対応してくれた受付のお姉さん、いい人だったな……確か、ウェンディさんと呼ばれてたはず。今日もいるでしょうか。


 そして現在。魔獣の大量発生のせいか、普段より三割減くらいの喧騒の中を抜け。

 その建物の意義を示す、なにやら長ったらしい文字が掲げられた扉の前で、なぜか立ち尽くす私達。

 街の中心部、大広場の北東あたりに面した場所にでん、と佇む二階建ての煉瓦造り。二階の窓からは忙しなく動き回る職員さんの姿が見える。いつもお仕事お疲れ様です。

 扉のハンドルに手をかけ、後は引くだけ……というところで固まってしまった私。もし協会に用件がある人が来たら、邪魔なことこの上ないでしょう。


「フィオレー? どうした? 早く入ろう」

「は、はいっ」


 ルミナ様に急かされ、覚悟を決める。

 ……べっ、別にびびってなんかいません! 昨日の旅団の人たちがいたらどうしよう、逃げたい、なんて思ってませんとも! ええそうです! 私は過去に囚われない女の子!

 気合いを入れて扉を引き、中に入る。失礼しまーす……と言おうと思ったけど、声が出なかった。恥ずかしい。

 中をさっと見渡す……あれ? 誰もいない……

 協会の中に昨日の人たちはいなかった。それどころか、他の代行者や依頼主らしき姿もない。昨日、酔っ払いの笑い声が響いていたとはとても思えない静寂。……ぱらり、と何かをめくる音。

 よく見たら扉の正面、受付内に誰かいる。協会の職員さんでしょう。椅子に座って俯いて……もしかして、暇すぎて本でも読んでるのでしょうか?


 ルミナ様と一緒に受付に近づく……と、そこで職員さんがこちらに視線を向けた。私たちの接近に気がついたみたい。そして、


「……? おっと。……いらっしゃいませ。何かご用件……って。あぁぁぁっ! あなたたち!」

「――!?」


 いきなり大声を出されて、すごくびっくりする。

 受付内で座って本を読んでいたお姉さんは、目線を上げこちらを見た瞬間。椅子から立ち上がって、私たちを指差した。その顔を見て、私もあっ、となる。

 このお姉さんが初めて協会に依頼を出しに来た私に、すっごく親切にしてくれたウェンディさんです。


「あ、あの。こ、この間は……その……あのっ」


 ここで私の人見知りが発動。うまく喋れずもごもごとした声しか出ない。


「ああ、落ち着いて? いきなり大声を出してごめんなさい……ってぇ! そうじゃなーーい!」


 いきなりウェンディさんが、カウンターを華麗に跳び越えてこちらに迫ってきた。な、何事!?


「あなたね! 一人で森に行くなんて何考えてるの! 呼び止めたのに無視するし! あの時いた奴らじゃなくて、他の代行者にも声を掛けてあげようかって言おうとしてたのに!」

「あうあうあうーーー!?」


 がしっ、と私の肩を掴んでぶんぶん振り回すウェンディさん。すごい力です――あ、ちょっと、あたまふらないでくださいめがまわります。


「あ……あうぅぅぅ……」


 ひとしきり私を振り回した後は、ルミナ様ににじり寄り――次の瞬間。

 なんとむんずっ、とルミナ様の両頬を思いっきり抓り上げてしまった。


「あとあなた! あの時のフードの子よね! この子を連れ戻してくれてありがとう! ――でもッ! 報告をッ! しなさいッ! し、ん、ぱ、い! したでしょうがぁぁぁぁぁッ!」

「ご、ごふぇんふぁふぁい……」


 お礼を言いながら全力で頬を抓り上げるウェンディさんと、されるがままのルミナ様。多分、報告をしなかったことを悪いと思っているからでしょう……あれ?

 そういえば。街に戻ってきた後、無理やりルミナ様を家に連れて行ったのって……いえ、考えるのはよしましょう。きっと――誰も幸せにはなれません。あ、せかいがまわってます。 

 二人揃ってお叱りのお言葉を頂戴した後、ようやく自己紹介をすることが出来た。ルミナ様、ご迷惑ばかり掛けて本当に申し訳ありません……多分、今後も掛けます。


「――私はウェンディ。ウェンディ・ウェストファリアよ。この教会でむさ苦しい(バカ)どもの相手をしてる、いわゆる受付嬢ってやつね。よろしく、可愛らしいお二人さん? ……ちょっとガサツなのは許してね?」


 あははっ! と快活に笑うウェンディさん。

 ガサツだなんてとんでもない。恐らくまだ二十代前半くらい、つり目で活動的な印象の美人さん。だけれど親しみやすさを感じるのはきっと、笑顔がとっても素敵だからでしょう。橙色のポニーテールに楽し気な表情。しゃべり方もハキハキとしていて……なんだかかっこいいお姉さんです。私とは大違い。うう。


「オレはルミナと言います。それでこの子が……」

「あっ、わ、私はフィオレ、と言いますっ。よろしくお願いしますっ」


 ルミナ様に促されて、しどろもどろになりながら自己紹介をする。やっぱりまだ、上手く話すことが出来ない。ルミナ様となら、普通に喋れるのに。


「ルミナさんにフィオレさん――ね。まあ、フィオレさんのことは()()()()()けれど、とにかくよろしくね――っと、いけないいけない」


 いつものお約束、やっておきますか! とウェンディさんは受付内で居住まいを正し――


「ようこそ! "エクスマキニア国協同国民生活安心推進会"へ! ――魔獣、間男ズバッと成敗! 家出に駆け落ち? お任せください! 只事(ただごと)揉め事、即・解・決! 無料(タダ)ものじゃない凄腕代行者、お客様にご紹介します! ――なんてね♪」


 そう、悪戯っぽく私たちに笑いかけるのだった。

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