表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の真理は切なくて、全てを滅するバ火力魔法!  作者: オマエもネコだニャ
第二章 変態どもへ捧ぐ、幻痛の天象儀
65/66

30 エピローグ いつかきっと、必ず

 風が頬を撫でる。僅かにはらんだ春の気配に、口元が思わず緩んでしまう。

 三の月(トルニル)の二十二日。晴天。暖かな日差しがすごく気持ちいい昼下がり。

 

「ずいぶん、長めの滞在になっちゃいましたね、ルミナさま」


 ついに東エルドヴィレッジを発った私たちは今、馬車に揺られ峠道を移動している。


「結局、三ヶ月くらいいたな。あそこに。ホントならもっと先に進めてたハズなのに……まあ、そういうトラブルも旅の醍醐味か」

「ふふっ、ですね」


 山賊襲撃事件から二ヶ月。特になんということもなく日々は過ぎていった。

 私たちはその間も喫茶エルディオで働き続けた。

 コルトスでもそうだったけど、町のみんな、辛い出来事にも負けずに笑って過ごしていて。

 ……私は、逆に元気づけられる思いだった。そんな中、すごく印象深かったのは。


 "――――君は、あのときの"


 お母さんを亡くした男の子が、お父さんと一緒にお店に来たことだった。なんでも、ヘンリーさんにお礼を言いたくて来たのだそう。

 残念ながら、ヘンリーさんの右目は完全には復元しなかった。眼帯で右目を隠し、だけど"これは自分が受けるべき罰だから"と受け入れていたヘンリーさんが。


 "ありがとう、おじちゃん"


 笑いながら、泣いていて。眼帯の奥から溢れる涙を拭いもしないで頷き続ける姿はなんだか――赦しを得た罪人のようで。

 私もつい、『良かったですねヘンリーさん』と泣きそうになってしまった。


 それからヘンリーさんは一ヶ月ほど旅に出た。……亡くなった奥さんと子供の墓参りに行くために。

『酷いこと言っちゃった!』と震える私たちを、笑って許してくれたヘンリーさんが不在となり。調理担当の私がいっぱい頑張らないと! と気合いを入れたのだけど。


 "なぜだ……なぜ、こんなに普通なんだ……!?"

 "おかしい……こんなに美味しそうなのに、食べても全く印象に残らないなんて……!"


 私のビーフシチューは、不評でも好評でもない、なんのネタにもならない味だと評価されました。ちゃんとレシピ通りに作ったんですけどー!!


 悶々としつつも営業を続けていたら、ヘンリーさんが帰ってきて。


 "はは、彼女の両親にこっぴどく殴られたよ"


 その顔は、憑き物が落ちたように晴れやかだった。

 そうして三の月(トルニル)になり、そろそろ私たちも旅を続けよう、とルミナさまと相談して決断した。


「……ミモリさん、大丈夫でしょうか」

「心配ないだろ。みんないるし、なんだかんだでやっていくさ」


 私たちが町を出発すると聞いたミモリさんは、


 "え? ホントに行っちゃうの? ホントにホント? …………うわーーーん、やだーーー!!"


 それはもう駄々をこねまくりました。

 この三ヶ月、ずっと同じ屋根の下で暮らしてきたから。いざ独りに戻るとなって、急に寂しくなっちゃったみたい。説得にだいぶ時間がかかってしまった。

 一緒に働いていた女の子たちも、


 "オーナー、ルミナちゃんとフィオレちゃん困らせちゃダメだよ。……あたしも寂しいけど"

 "そうそう。笑顔で見送ってあげないと。……ホントは引き止めたいけど"

 "二人も困らせてんじゃん。……泣いて縋れば思い直してくれるかな"


 名残惜しい気持ちを押し殺して見送ってくれた。……すごく、いい子たちだった。私なんかと仲良くしてくれて、本当にありがとう。

 お店に来てくれていた町の人たちからも惜しまれつつ、私たちは今、馬車の中で思い出話に花を咲かせている、というわけです。


「……ところで、フィオレ?」

「? はい、なんでしょう」

「――――なんで、そんなにくっついてくんの?」


 はて? なんで、とはなんのことでしょう。

 私は狭い馬車のキャビンの中、ルミナさまにぐももっと体を寄せている。それは当然です。だって狭いんですもの。

 ――――あー、しょうがないですよねー。こうやって体をくっつけないと、他の人の迷惑になっちゃいますものねー。恥ずかしいけど仕方ない。仕方ないです、うんうん。


「いや他の客なんていないだろ! いいから離れなさいこのハレンチ娘!」

「んなっ!? ひ、酷いですルミナさま……! ……ルミナさまだって嬉しいくせに、巨乳好き(小声)」

「なんか言ったか?」


 なんでもありませんよぅ、と仕方なく離れる潔い私。こういうのは押してばかりではダメなのです。時には引くことも大事だと、()()()()()に書いてありましたから。私は詳しいのです。


「…………」


 ……でも私がルミナさまにくっつくのは、私がそうしたいからというのも、もちろんあるけれど。

 あの日。山賊のアジトへと向かったルミナさまは、夜になるころには帰ってきた。

『もう山賊は現れない』。それだけをみんなに伝え、何があったのかを語らなかったルミナさま。

 殺すつもりはないらしい、とイーガさんたちに聞いた。おそらくそれは真実で、山賊が現れないというのも同じく。なので、ルミナさまは手を汚したわけではない、と思うのだけど。


「ルミナさま」

「ん?」


 あれから時折、山の方を見ることがあった。その表情は普段と何一つ変わらないもの。ルミナさまは自身の行動になんの後悔もしていない、というのは、わかっている。でも。


「私、ずっとおそばにいますね」

「は? いきなりどうした?」


 ――――ルミナさまは、優しいから。

 私は、その心に寄り添ってあげたい。そう、思うのです。


「私がそうしたいからです。……ああ、そういえば。――捕まえた山賊の一人、いなくなったんでしたっけ」

「いきなり話変わるな……まあいいけど。確かに牢屋からいつの間にか脱獄してたらしい。もうマトモに動けないはず、だったんだけどな。……意外と根性あるヤツだったのか」


 なんでも、憲兵さんが子供に道を教えていた間に、牢屋から忽然と姿を消した、という話。どうやって脱獄したのかも不明なら、その山賊の行方も不明。

 ルミナさまによれば、もう悪さを出来るような精神状態ではなかった、とのことなので報復とかは気にしなくていいそうだけど……不思議な話です。

 まるで、最初からそこに誰もいなかったかのように消えてしまうなんて。


「まあ終わったことはいいよ。それよりフィオレ、ミティス峠を越えても、王都まではまだまだ遠いんだろう?」

「そうですね。普通に行けば、あと四、五ヶ月くらいかかるはずです」

「……わかってたけど遠いなぁ。地道に進むしかないか」

「はい。頑張りましょうね、ルミナさま」


 まずは西エルドヴィレッジで宿をとって、その先の針路を定めて――と、未来のことに思いを馳せながら。


 ――――あの町で出会った人たちのことを思い返す。


 旅に出てから最も長く滞在した場所。

 多くの人と出会い。

 たくさんの未知を経験し。

 辛い出来事もそこにはあった。

 だけど最後には、正しい悲しみとともに、そのすべてと別れを告げることが出来た。


 ――――そう。あの、手を振る優しい人たちとの別れは、悲しみは、正しいもの。

 だって、そこには『いつかまた』という、大切な約束が込められているから。

 それがいつになるかはわからない。私の旅がいつ終わるのかも。だけど。

 いつかコルトスの家に帰るときには、必ず通るから。絶対、絶対にまた、会いに行きますからね。

 

 小さな誓いを一つ。胸の奥に大切に仕舞い込みながら。

 ――――それじゃあ。私たちの旅をまた、続けるとしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ