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星の真理は切なくて、全てを滅するバ火力魔法!  作者: オマエもネコだニャ
第二章 変態どもへ捧ぐ、幻痛の天象儀
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29 幕間 プラネタリウムへようこそ

「……ホントに一人で行くんか? ルミナちゃん」

「俺らも一緒に行った方が……」


 憲兵の詰め所、その地下にある留置場にて。

 ルミナはイーガたち四人とともに、捕らえた山賊の一人を尋問していた。

 いや、正確にはもう終わっている。

 逃げ遅れ、仲間に見捨てられ、そして()()()()()()()その男は。

 ()()()()()()()()()()()、自分たちのアジトを吐いてしまった。


「ああ。一人のほうがやりやすい。っていうか、ロックはまだ病み上がりだろ。ヘンリーと一緒にちゃんと休んだほうがいい」

「はっ、こんなんどうってことねぇ――と、言いたいんだけどよ。いや、やっぱ退院したてであの人数とバトんのはキツかったわ」

「それでそこまで動けるなら大したものだよ。いや、四人がいてくれて本当に助かった。ありがとう」

 

 標的の根城は割れた。あとはそこまで赴き、しかるべき報いを受けさせるだけ。


「……まあ、町のみんなの役に立てたならいいんだけどよ……」

「正直、俺たちもハラワタが煮えくり返っててな。ボスを傷つけられたこともそうだが」

「……許せないな……あんな子供にも手をかけようとするとは……」

「気持ちはわかるけど、この件はオレに任せてほしい。大丈夫。二度と悪事に手を出せないようにしてくるから」


 ルミナが四人の同行を断る理由はシンプルだ。――人手はいらない。ただそれだけ。

 イーガたちもルミナの強さを理解している。異常なほど巨大化した魔獣すら一撃で屠る魔術行使。あれを目にしては、心配することこそ不毛だろう。


「そこまで言うなら、わかった。頼んだぜ、ルミナちゃん」

「……何でもいいけど。アンタらが”ちゃん”付けで呼ぶな、なんかキモい」

「ひでぇな!? だぁってあんな姿見たらよぉ……なあ?」

「……男とわかっても……ときめかざるを得ない……」


 やっぱりあの時ウェイトレス姿を披露したのは失敗だった、と嘆息しつつ。


「とにかく行ってくるよ。夜には帰るってフィオレに伝えといてくれ」


 ルミナは踵を返し留置所を出て行こうとする。そこへ。


「なあ。――――いったいどうやってケリつけるつもりなんだ?」


 ロックは先ほどとは別の心配を口にする。それはルミナの身を案じたものではなく。


「中途半端に痛めつけるだけじゃ、奴らは報復に来るかも知んねぇ。それを避けるためには、やっぱり奴らを――」

「ん? ああ、それは多分ないよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに物騒なことを言うんじゃない。オレは、アイツらを殺しに行くんじゃなく」


 ……その金色の瞳。それを見た瞬間、ロックは声を掛けたことを後悔した。


「――――()()()()()()()()


 ゾッとするほど冷たい言葉を残し、少女にしか見えない魔術師は歩き去る。

 ただでさえ冷え切った牢獄。気のせいだろうか。さらに底を突き抜けた冷気が体に纏わりつく錯覚に、四人は知れず息をつく。


「…………ボスがビビり散らかすのも納得だな……」

「ああ……あの時、完全に敵対してたらどうなっていたことか」

「……これからはマジメに働こう……ところで」


 後ろを振り返る。そこには牢屋に閉じ込められた男が一人。

 部屋の片隅で全身をかき抱くように横たわり、ブツブツとよくわからない音を漏らし続けている。

 その目に光はなく。まるでこの牢獄ではない、終わらない悪夢に囚われ続けているような――


「……さっきのことだけど。ルミナちゃんはなにをしたんだ……?」

「さあ……?」

「あいつもよくわかんないこと言ってたよな」


 先ほどの光景を思い返す。その不可思議さに、四人は首を傾げるしかない。

 本当に運のない男。だがそれは早いか遅いかの違いだ。この町を襲撃した時点で、彼らの命運は尽きている。


「手がー、とか足がーとか。……別に何ともなってないよな?」


 要するに。

 ――――その男は、一足先に壊されただけのこと。



      ◇

 


 エルド山の中腹より少し低い場所に、その空洞はある。

 まさに()()()、と言わざるをえない。隠れ家にぴったりの、数十人はくつろげそうな大きな洞穴と、周囲には安定した広さの平地。キャンプをするにはうってつけの、誰も知らない穴場だ。そこが、その男たちにとってのホームだった。


「おい。――テメェら、こいつはどういうことだ、ああ!?」


 品のない罵声が穴蔵に響く。想定していたものには程遠い戦果を目にし、その男は手下を殴りつけた。

 男の名は――まあ語る必要はないだろう。とにかく、手下たちから『お頭』と呼ばれ恐れられているその偉丈夫は苛立っていた。


「す、すんませんお頭……ほんと、すんません!」

「あ、あの町やべえっす! やたらツエー代行者いたし……そ、そう! 魔人! 絶対あの町に魔人がいます!」


 情けない手下ども。()()()()すらマトモにこなせないのか。

 ただでさえミティス峠を通る人間が少なくなっているというのに。これでは、()()()()()()()()()()()()()()()


 元代行者のその男の精神構造は、端的に最低辺である。破綻しきっている。他者を陥れることに抵抗なんかないし、増えすぎた手下の間引きすら一考する畜生のたぐい。

 ……ではあるのだが、なんてことはない。ただ単に周囲に馴染めず、社会から孤立(ドロップアウト)した不適合者の一人にすぎない。

 それは彼の手下も同じ。『自分はあいつらとは違う』。そんなくだらない自尊心に縋り、悪事に手を染める自分に酔っているだけの逃亡者。


 彼らは今も逃げ続けている。

 自らが犯した罪から逃げ続けている。

 受けるべき罰から逃げて逃げて、逃げ続け。


 ――――その果てに何が待ち受けるのかなんて、まるで考えもしない愚か者ども。


「ちっ……一人、捕まったか。使えねえグズどもだな」


 強い代行者がいると言っていた。そんな根性があの軟弱者どもにあるとは思えないが、報復にくるかもしれない。面倒事は避けるべきだ。

 そろそろ場所を変えるか。ついでに役に立たない幾人かを切り捨ててしまおう。そう、お頭は即断し腰を上げようとして。


「!?」


 ――――だが、残念ながら。

 その判断は、寝ぼけているとしか思えないほど、遅すぎた。


「な、なんだ!?」


 洞穴の中ほどに座るお頭の頭上を、なにかが通り過ぎる。奪い取った魔機具(マギア)の明かりを超える光。――魔術の火球。

 それは洞穴の奥に着弾し火を吹き上げた。

 火は勢いを増し、お頭は慌てて手下どもを蹴り飛ばしつつ外へと駆け出す。


 "くそ、もう報復に来やがったか。あのグズあっさりしゃべりやがって!"


 捕まった手下に心の中で悪態をつきながらも、だがこちらのほうが人数は多いはず、と冷静に状況を分析する。

 二十人の手下を引き連れ、見張りに立たせていた五人と合流し、これで二十六人。よくここまで増やしたものだとお頭自身も思う。

 最近煩わしくなりつつあった、この大所帯が役に立つときが来た。襲撃者が何人だろうが、この人数ならば――


「――――ようこそ、お客様。この残酷なるプラネタリウムへ」


 そんな、お頭の冷静な戦力分析は。

 外に出た瞬間、微動だにしなくなった己の脚と。

 冬の夜の冷気より凍てつく、凛とした声によって打ち砕かれた。


「毎夜続く素敵な公演。煌めくような幻想体験。どうぞ心ゆくまで、お楽しみください」


 ――――動かない。

 お頭だけではない。二十五人の手下全員が棒立ちのまま、その顔を強ばらせ体に力をいれるが、動かない。

 声は頭上から聞こえた。ということは、声の主は洞穴がある崖の上にいるのか。


「ぁ――――あ」


 誰だ――そう、お頭が怒声を上げようとするがそれも叶わない。

 声が、出せない。それは手下たちも同じ。

 さながら糸で吊られたマリオネット。操り手の許しがなければ、誰一人動けないし。何一つ音も立てられない。


「ああ、お客様。公演中はお静かに。その程度の良識はあるでしょう?」


 芝居がかった言い回し。男たちを敬うようでありながら、その首筋に刃物を突きつけているような、一切の温度を排除した声。……動けないまま、体が萎縮していくのがわかる。

 ――いったいなんだ、これは。崖の上に何がいる?

 さっきは手下どものフカシだと切り捨てたが。まさか本当に魔人がここに――


「失礼だな。オレは人間だ――っといけないいけない。こほん。――それでは、()()()()()()()()()()()()()()()()。素晴らしい光景を目にしたときには、思わず出てしまうものですから。存分に、その喉をかき鳴らしていただいて構いません」


 声の主は姿を見せない。そもそも後ろを振り返れないので確かめることも。――ただ。


「ではこれより始まるのは、この季節に似合いの物語。冬の星座たちによる、愚かな獣の解体劇」


 おかしい、と。その場の全員がまぶたすら閉じられずに目に涙を浮かべながら。

 空がおかしいことに、気がついていた。

 いったいいつ、夜になったのか。それにどうして。


「どうか死なないように――――」


 あの星空は、あんな、怖気が走るほどに美しいのだろう――――?


「――――死に続けるといい」


 歓声が上がる。

 現れたのは赤い瞳の輝く牡牛。大きな体は真っ白で、まさに雪のよう。だけど大雑把な性格なのか、ぐしゃりぐしゃりと無造作にその体を汚していく。


 歓声が上がる。

 次に現れたるは屈強な狩人。大きな犬と小さな犬をともなって、悪い獣を懲らしめに。だけど言うことを聞かない犬たちは、ぐちゃぐちゃ、バクバクと暴食三昧。呆れた狩人は怒り出し、手近にあったソレをぐちゅっと握り潰してしまった。


 歓声が上がる。

 今度は仲良しな双子が。遊びたい盛りな二人は手を取り合って、くるりくるりと不思議なオブジェを制作中。どっちが上手く出来るか競争しているらしい。次から次へと作品を作り上げていく。


『――――――――――――!!!!!』


 断末魔(かんせい)が、絶え間なく、上がり続ける。


 ――――やめて。たすけて。じぶんは、そんなふうにまがらない。なかみなんてみてもつまらない。

 くっつけてもたのしくない。たべてもおいしくない。つぶれたらもどれない。

 いたい。いたい。いたい。いたい。しにたい。なんで。なんで。

 ――――どうして、しなないの?


 すでに原型を留めている山賊は存在しない。生存可能なカタチをしている人間はどこにも見当たらない。

 なのに、悲鳴がいつまでも止まらない。


「では、次の公演をお楽しみください」


 かと思えば瞬きの間に元通り。山賊は原型を留めていて、みんなみんな人間のカタチをしていて。

 ――――またすぐに、ぐちゃぐちゃになる。

 それでも死なない。当然歓声も上がり続ける。

 喉なんてどこにもないのに叫び続ける。

 痛みは上限なく増殖していく。心は際限なく裁断されていく。


「では、次の公演をお楽しみください」


 その言葉で繰り返す。終わらない。

 公演というなら、終わったら幕が下りるはず。

 ふざけてる。ルールに反している。規則が行方不明だ。ちゃんと守ってほしい。

 ほら、もう終わったろう? みんな死んだろう? これで閉幕のはずだ。なのに。

 なのに……どうして!


『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!』


 ――――どうして、いつまでも、これ、いつまで、つづくの――――?


「夜が明けるまで。……どうやらお気に召していただけたようで、何よりです。ああ、ご安心ください。夜が明けたら終わると言っても――――」


 そうして、凄惨なプラネタリウムの支配人は告げる。


「夜は、またやってきます。夜が来るたびこの素敵な体験を繰り返せます。あなた方の心に焼き付いて。その汚らしい魂に刻まれて。夜が来るたび思い出します。いつまでもいつまでも。それこそ」


 その残酷な事実を聞いた、山賊たちは。


「――――オマエらが本当に死ぬ時まで続く。良かったな。死ぬ体験なんてそうそうできない。オレだって一回しかない。せいぜい楽しむといいよ」


 完全に、心が圧壊した。



      ◇



「これで獲られたのは全部かな……多分だけど。まあ、あらかた持って行けばいいだろ。こういう時、魔法の中に仕舞えるのは便利だよなー」


 ルミナは金品やら魔機具(マギア)やらを物色し終えて洞穴を出る。外には倒れ伏した山賊たち。その体は、ちゃんと人間の形を保っている。

 というより傷一つない。先ほどまでの惨劇が幻だったかのよう。そして実際、幻だったのだ。


 異世界の存在であるルミナが持つ『星の魔法』。

 もう二度と帰らぬ人、戻らぬ日々を星の煌めきに見いだし、悼む――そんな静謐の世界。

 ルミナはさっき、『星の霊廟』を見上げる彼らの悼む気持ちを極限まで増幅し、彼らの精神を際限なく不安定にさせた。

 そこにトドメとばかりに叩き込まれたのが、先ほどの『公演』だ。自身の体が美しいナニカに破壊され続ける悪夢の光景。


 プラネタリウム、とルミナは呼称したがまさにその通り。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()極小の天体演劇。

 あまりにもリアリティ溢れるその映像に、彼らの脳が『実際に体が損壊している』と誤認。増幅された『悼み』は『痛み』へと置き換えられ、死にたくなるほどの激痛が彼らを襲ったというわけだ。


 ――――これは残酷極まる星座たちの狂宴。地上に煌めく阿鼻叫喚地獄。

 救い難い人間の悪心を完膚なきまでに砕く。そのために、魔法使いルミナが生み出した対人精神破壊魔法――――『幻光映す激痛の天象儀ブライトペイン・カースシアター』。


「…………いや。奪われたものは取り返せても、奪われた命は取り戻せない。オレに出来るのは悪党どもに報いを受けさせることだけ。それが少しでもみんなの悲しみを軽く出来たらいいんだけど……そんな簡単な話じゃないか」


 母親を喪った幼い少年のことを気にしつつ、ルミナは山を下りるべく歩き出す。それを止めようとするものはいない。

 ちなみに山賊たちの心に絶望的な損傷を与えた『公演』は、たった五分間の出来事である。

 星のカタナや星の弾丸など、普段から使える魔法もあるにはあるが。全力を出すためには『星の霊廟』を展開しなければならず、それも無制限というわけではない。それが五分。

 ルミナ自身はそのことに不満はない。むしろ『この世界セキュリティガバすぎない?』とすら思っていた。なにせ少し待てば、また魔法を使えてしまうのだから。

 

 閑話休題。そのたった五分間の惨劇に囚われた山賊たちだが、実際に体に傷を負っているわけではない。ロックの懸念通り、いずれ復帰して報復に来るのではないか――――というと、答えはノーだろう。

 山賊たちの心にはあの光景(ひかり)が焼き付いている。痛みはいつでも再現できるほど刻み込まれている。


 ルミナの言葉通り。夜が来るたび思い出し、終わりのない幻痛に苛まれ続けることになる。


 そんな状態で普通の生活が送れるかどうか。そもそも今の状態から立ち直ることが出来るのか。

 ……終わった物語の続きを願うような、無意味な想像だ。


 要するに――――そんな未来(エピソード)はない。


「さて帰るか。フィオレ、心配しすぎて何かやらかしてなきゃいいけど」


 そして当然そんなものに興味もないルミナは、スタスタと山賊たちの間を歩いていく。だけど、ふと。


「あ、そういえば」


 あることに気がついた。でも歩みは止まらない。

 ……どうでもいいことだけど。もしかしたらこいつら、ちょっとくらい根性があったのかもしれない。


「――――誰一人、”殺してくれ”って言わなかったな」


 もはや意味のある音を発せぬ、生きた屍(リビングデッド)には目もくれず。

 魔法使いは静かにその場を立ち去って行った。

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