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星の真理は切なくて、全てを滅するバ火力魔法!  作者: オマエもネコだニャ
第二章 変態どもへ捧ぐ、幻痛の天象儀
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28 逆鱗

「誰か! 治癒魔術を……いや、何か縛れるものでもいい! 持ってきてくれ!」

「いた……痛、い……」

「こっちにも頼む! ああくそ、血が止まんねぇ……早く止血を……」


 私がルミナさまとともに町に出ると。


「ちくしょう、売りモンごっそり持ってかれた……!」

「これじゃ商売なんて……それ以前に生活が……」

「どうして、こんなことに……」


 東エルドヴィレッジは、地獄になっていた。


「…………なんですか、これ……」


 血塗れで倒れ伏した人。手を赤く染めながら治療する人。

 地面に散らばる木箱の破片。膝をついてうなだれる人。

 入り口が粉砕されたお店の前に、抱き合ってへたり込む夫婦と思しき二人。


 あちこちから子供の泣き声が聞こえる。いえ、それは老若男女の区別はなく。

 さっきまで平和だったこの町は、ほんのひとときの間に、嘆きの坩堝と化していた。


「フィオレ。ショックかもだけど、まずは怪我人の手当てだ。オレ一人じゃ手が回らない」

「わ、わかりました」


 震える足に活を入れ、周囲を見渡す。近くに腕から血を流して座り込む男性がいた。駆け寄って治癒魔術を施す。……これ、剣で切られた傷?


「た、助かったよお嬢さん。私はもういいから、向こう側を頼む。あっちの方が酷いんだ」


 男性が指さしたのは町の北側。おそらく山賊はそちらから襲ってきたのでしょう。

 ……そう、山賊。協会で聞いた、近隣の町を騒がせているという。

 そんな話があったものだから、私はヘンリーさんたちがそれなのかなと勘違いしていた。でもよく考えてみたら、


 "いよいよ盗賊まがいのことをするしかないか、と覚悟を決めて――"


 ミモリさんの一件が初犯なんだから、ヘンリーさんたちが山賊なわけなかった。そもそも盗賊団ですし。


「ひどい……!」


 町の北側はさらに被害が深刻だった。火がついている建物すらある。嘆きの声はさらに勢いを増して、私の心にも燃え移りそう。……気を、しっかり、保たないと。

 ルミナさまは屋根の上を飛び回り、燃える家屋に魔術の水をかけていく。あの分なら、これ以上の延焼は起こらないはず。私は傷ついた人の治療を――


「………………ぁ」


 赤い、池があった。

 その中心には倒れた女性。縋りついて咽び泣く男性。

 どうしてそんなところにいるのだろう。服が、赤く染まっちゃう。

 ああ、怪我をしてるのか。じゃあ早く治療してあげないと。


「ああ……!」


 きっと痛いはず。すごくすごく苦しいはず。

 だって、あんなに、喉を切り裂かれて――――


「ここはいいわフィオレちゃん。あたしたちがやる」

「……あ……セイラン、さん」


 いつの間にか後ろにいたセイランさんに、手で目隠しされた。そのままくるり、と体の位置を入れ替えられる。


「向こうに怪我人を集めてるから。魔術で治療してあげてくれる?」

「はい……ってセイランさん、怪我を……!」

「ん? ああこれ? もう自分で治したからダイジョブダイジョブ」


 セイランさんの肩辺りの服が裂けていた。血もついている。もしかしてセイランさんたちも戦って……?


「あー、いや。あたしのパーティー、あんま戦いが得意なほうじゃなくてさ。急に襲われて、情けないけどビビっちゃってて。そしたらあいつらが助けてくれたの」


 投げた視線の先には、なんとロックさんが。イーガさんたちもいる。


「あいつら、メッチャ強いじゃない。おかげで助かったわ。……あたしらも危うく殺されるところだった」

「!!」

「あの四人が山賊どもを相手してくれたおかげで、被害が抑えられた。そのあと、なんかすんごい圧力を感じて。山賊どもが魔人がいるのか、って」


 ルミナさまの威圧を魔人のものと錯覚して撤退したらしい。三十人近くいた、とルミナさまは言っていた。もし退いてくれなかったら、それだけの人数の山賊が町を破壊していたでしょう。……そして、住人も。


「あれ……ヘンリーさんは?」


 退院したばかりのロックさんがあそこにいる、ということはヘンリーさんもいるはず。帰りが遅かったのは襲撃に巻き込まれていたからだと、思うのだけど――とすぐに見つかった。だけど。


「っ!」


 私は倒れた女性にばかり目がいっていて、気づかなかった。ヘンリーさんはすぐ近くの建物の壁に、背を預けて座っている。なにかを抱えるようにして、そして――――顔の右半分から血を流していた。


「ヘンリーさんっ!?」


 思わず駆け寄る。その体には力が入っていない。不安に駆られるけれど、ちゃんと呼吸をしていた。単に呆然としているだけ……いえ、出血が止まっていない。

 顔の切り傷は眼球部分に達していた。私の治癒魔術で治せる……? とにかく治療してルミナさまを!


「…………な」

「!? ヘンリーさん、どうしました!?」


 何事かを呟いている。治癒魔術を使いつつ耳を傾け、そして気づく。


「…………ごめん、な……ボウヤ…………」


 ヘンリーさんが抱えていたもの。それは、小さな男の子だった。

 見覚えがある。一年の終わりの日、広場で遊んでいて転んでしまった男の子。その子は抱き抱えられたまま、小さく、


「ママは……?」


 胸が張り裂けそうな、取り返しのつかない言葉を口にした。

 ……それで私は、悟ってしまう。あそこで女性に縋りついているのは、この子のお父さんで。

 ――――事切れた女性は、この子のお母さん。


「ごめんな……お兄さん……奥さん、守れなくて……」

「ヘンリーさん……」


 ヘンリーさんはずっと謝っている。あの男性に。抱えた男の子に。


「ごめんなボウヤ……お母さん、守れなくて……おじさん、弱くて……臆病で……本当にごめんなぁ……!」


 血が、止まらない。次から次へと溢れてくる。

 それはまるで、涙を流すようで。


「それは違います! ヘンリーさんのせいじゃありません! いま、傷の治療をしますから!」


 私はそれを止めたくて必死に治療をする。傷が塞がらない。

 思ったより傷が深いのか。それとも、それはヘンリーさんの心の傷を象徴しているのか。

 赤い涙はとめどなく零れてきて、どうしたらいいかわからなくて、私も悲しくて泣きそうになったとき。


「――――泣くな、オッサン。アンタは決して弱くない」


 ルミナさまが私たちのそばに立っていた。ヘンリーさんの傷に手をかざす。


異天星辰象(ゾディアック・サイン)――――献心より注ぐ癒水(アクエリアス)


 瞬間、手の平から白い光が流れ落ち、ヘンリーさんの傷口に注がれていった。

 

「オレはアンタがどんなヤツなのか、実のところよく知らない。戦うのが怖い。傷付くのが怖い。死ぬのが怖い。そんな、当たり前の人間だってことしか、な。それは誰だってそうだろう」


 それは魔術の癒しではなかった。私の目では変異式(コード)が見抜けない。おそらくルミナさまが持つ『星の魔法』の、その一端。


「オレだって戦うのが好きなわけじゃない。慣れてるだけだ。同じことを繰り返し、学び、刻み込み。未知への恐怖を噛み砕き、受け入れる。そうやって人は成長していく。オッサンは確かに臆病者かもだけどさ。――――フィオレを、助けようとしてくれた」

「!!」


 傷が、みるみるうちに塞がっていく。そして、赤い涙も。


「その男の子だってそうだ。きっとアンタは震えながら、それでもその子を助けようとしたんだろ。……お母さんは、残念だったけど。それはアンタのせいじゃない。そんなの殺したヤツが悪いに決まってる」


 そうして魔法使いさまは、無力を嘆く人に優しく笑いかけた。


「だからさ。――――その子を助けてくれてありがとな、ヘンリーさん」


 ……その言葉に、ヘンリーさんは顔を上げた。


「…………っ。う、ううう……!」

「だから泣くなって。戦いは得意なヤツに任せればいい。アンタは少し休んでろ」


 そうしてルミナさまは、最初に亡くなった母親を見て。父親を見て。

 いまだ呆然とする、ヘンリーさんの腕の中の男の子に目を向けた。


「――――ああ。ほんとうに」


 その目は男の子を見ているようで、どこか違うものを見ているような。

 私には、なぜだかそれが――――遠い過去を偲んでいるように見えた。そしてルミナさまが次に見せたのは。


「やってくれたな、雑魚ども」


 ――――魔人に見せたものと同じ、凍り付くような殺意の目だった。



      ◇



「…………ルミナさま、大丈夫でしょうか」


 だいたいの怪我人を救助し終え、私は喫茶エルディオに戻ってきた。

 ルミナさまは一緒じゃない。先に帰るように言われたから。というのも。


 ”イーガたちが山賊の一人を捕まえたらしいから。アジトの場所を聞き出してくる”


 そう言って一人で牢屋に向かってしまった。たぶん、山賊のアジトを襲撃するつもりなのでしょう。だから私を置いて行って……

  

「…………どうするつもり、なのかな」


 ルミナさまは強いから。万が一もないだろうけど……でも。

 どういう風に決着を着けるつもりなのか。まさか――――


「っ……」


 私にはなにもわからない。出来ることもない。だから、せめて。


「…………ルミナさま、早く帰ってきてくださいね」


 みんなで美味しいご飯を作って、待ってますから。

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