表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の真理は切なくて、全てを滅するバ火力魔法!  作者: オマエもネコだニャ
第二章 変態どもへ捧ぐ、幻痛の天象儀
60/66

25 細氷の眠り

「……まあ、後先考えずに魔力を無駄使いしたこととか。最後の最後で油断したこととか。まだまだ拙い部分はあるけどな。すごく頑張ったのは間違いない。――――さすが、オレの一番弟子って誉めてあげよう」


 極度の緊張から解放され、へたり込む私を労うルミナさま。ちょっと泣きそう。


「それに。――――これは、イレギュラーもいいとこだ。まさかここまで損傷して、なお動くなんて。フィオレは()()に勝ったけど、()()()()には負けた――って感じだな」


 ルミナさまは、いまだのたうち回るリザードに視線を向ける。

 ――本当に、どうして動いているのか。

 頭部を完膚なきまでに砕かれ、お腹と背中がくっつきそうなくらい胴体がひしゃげているのに。まだ再生しようというのか、異常なほどの蒸気を全身から噴き出している。

 通常の生物、どころか魔獣だってとっくに息絶えている致命傷のはず。それに……あの爪。

 もはや大剣を五つ備えているかのような威容に震えが走る。さっきまではあんなに大きくなかった。そういえば最初に盗賊団のみなさんに砕かれ再生したときも、以前より長くなっていたような。


 ……もしかして、だけど。

 あの、通常よりも巨大だというリザードは――――再生するたびに大きくなっていく?

 

「再生する魔獣なんてものも初めて見たけどな。死にかけるごとに巨大化す(つよくな)るなんて、どこの戦闘民族だよ。爪だけすぐに再生するのは、"殺人"という単一機能特化のなせる技か。……そうまでして人を殺したいとは、生き汚いにもほどがある」


 魔獣は人を殺す。それしかしない。それ以外には何もない。

 つまり、魔獣にとって生きるとは人を殺し続けることにほかならない。この世の害悪の具現、とはよく言ったものです。


「とにもかくにも、これで終いだ。サクっと仕留めて――と、そうだ」

「? ルミナさま?」


 魔力を高めリザードの息の根――息してないけど――を止めようとしたルミナさまは、なぜか私の方をチラリと見て、


「…………まあ。弟子がこんなに頑張ったんだからな。師匠として少しはいいところを見せないと嘘か」


 なにやら意味深な発言を――――はっ、まさか!

 呆けている場合じゃありませんよ私! これからルミナさまが行うことを、いえ、変異式刻印(コードキャスト)を余さずこの眼に焼き付けないと!


「ぐ……すんごい見られてる。言わなきゃよか……って、()()()()()()()()()()んだから関係ないか。くそぅ、どうしてオレは()()()()()()()()()()()()()()()……」


 後悔と諦めをないまぜにしたような顔をするルミナさま。だけど次の瞬間。


「ああ、もういいや。とりあえずこのクソでかいトカゲを――――師匠らしく派手に仕留めるとするか!」


 規格外の魔力がルミナさまから溢れ出す。


「さあ。冬籠もりの時間だ爬虫類。栄養は十分か? まだ殺し(くい)足りない? そんだけデカくなればもういいだろ。それに、どちらにせよ――」


 ルミナさまは右手にカタナを持ち、左手を天へと掲げて。


「――――オマエに、目覚めの春は訪れない」


 終わらぬ眠りへいざなう必殺の魔術を起動した。


「――――寒、い?」


 体が震える。もとより気温は氷点下。寒いのは当たり前だけれど――それすら生温い。

 明らかに気温がさらに低下している。かと、思えば。


「!?」


 ガガガガッ! と空から、のたうつリザードを囲うようになにかが降り注いだ。あれは、透明な四本の柱――いえ、違う。


 ――――氷で出来た、巨大な剣?


 きん、と。落ちてきた剣を頂点とした四角い結界が形成される。わずかに寒さがマシになった。あの剣の内側に、極低温の冷気が渦を巻いているらしい。


「わ、あ……」


 思わず感嘆の吐息をもらす。もう、私にはなにが起こるか理解できている。きっと今から見える景色は、すごく美しいものになるだろうことも。

 極限まで下降する気温。世界を斬り取る剣。であれば、その結末は考えるまでもない。

 そこで私はもう一つの勘違いに気づく。あれは、剣というより、()と呼ぶべきなのだということに。


 私の目が、あの魔術に込められた想いを読み取る。

 ――――これは一つの終わりを示すもの。

 たとえ目の前の存在がどれほどの質量、どれほどの熱量を誇ろうが関係ない。

 それを超える密度。それを凌駕する絶対零度で閉ざし、砕き、殺す。その終局から逃れることは許されない。

 そう、あの氷の檻の名は――”斬り鎖す終極の檻アブソリュート・ゼログラム”。


「そら、仕上げだ」


 掲げた左手を振り下ろすルミナさま。とたん。

 バキッ!! と結界内が一瞬で凍結する。まさしく氷の檻。そこに閉ざされたリザードの姿はなんだか、氷づけにされた古代生物を思わせる。……首とか前脚とかないので、なんの生き物かさっぱりわかりませんけど。


「来世までおやすみ――ってオマエたちに魂なんかないけど、さ!」


 ルミナさまが右手のカタナで檻の一部を軽く切り上げた瞬間。


「…………きれい」


 しゃん、と透き通った音とともに、中のリザードごと檻が微細な粒子となって弾け飛んだ。それはまるで雪のように風に乗り、きらきらと日の光を反射しながら空を流れていく。


「……どうやらあのトカゲ、最後に空を飛べたみたいですね」


 地を這う、といったのは撤回しないといけないかも。まあ、その代わり。

 ――――二度と地に足をつけることはできないけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ