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星の真理は切なくて、全てを滅するバ火力魔法!  作者: オマエもネコだニャ
第二章 変態どもへ捧ぐ、幻痛の天象儀
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24 偽翼を墜とす

「う、ううっ!!」


 よろけながらも右手を『拘束』し、必死に体勢を立て直そうとするけれど間に合わない。


『グウゥッ!?』


 パリン。呆気なく私は噛みつかれ『境界線』を割られてしまう。驚いたように頭部を引っ込める大トカゲ。

 良かった、飲み込まれなかった。今のうちに距離を……!


『グオオッ!!』


 高速で迫る追撃。全力で後ろに跳ぶ私に左右から爪の薙ぎ払いがパリンパリンと。感情なんかないくせに怒り狂ったような滅茶苦茶ぶり。正直すごく怖い。

 あまり勢いに思わずたたらを踏んでしまう。そこへ、


『ガアアアアアアアアアア!!!』


 今度こそ私を丸呑みにしようとリザードの口が開き――


「く、そおおおおおおおおお!!!」

「!?」


 誰かの絶叫が聞こえる。私でもルミナさまでもない。まるで恐怖を噛み砕こうとするかのような、その声の主は。


「――ヘンリー、さん!?」


 さっきまで呆然と立ち尽くしていたはずの、盗賊団のボスだった。右手をリザードの頭部へと向けて、あれは……火の矢を放つ攻撃魔術!?


「だ、だめです! そんなことしたら……!」


 私から見ると遅すぎる変異式刻印(コードキャスト)。だけどゆっくりと、確実に形成された戦うための魔術。

 それは今まさに私に食らいつこうとするリザードの頭部へと、寸分違わず放たれた。


 ボンッ!


 リザードのウロコの一部を微かに焼いた音がした。だけどそれだけ。当然、決定打になるわけもない。

 リザードの固いウロコを突破するには、あの程度の威力ではまるで足りない。それどころか。


『――――!!!』

「ひいっ!」


 逆に、不必要に敵意を向けられてしまうだけ。


「逃げ――」


 私が言い終わる前に。

 ぐしゃり、とその体が宙を舞った。


「――――――」


 枯れ葉のように吹き飛ぶヘンリーさん。強化魔術を使っている様子はない。さっき攻撃魔術を使っていたから。

 つまり、あんな巨大な前脚の薙ぎ払いを、なんの支援もなく受けたということで。


「――――ぁ」


 フラッシュバック。果物のように潰された頭部。壁にめり込んだ体。吊り上げられて滴る赤い血。終わりを悟る声。そして。

 ――――私を救おうとして、半分だけになった、勇敢な人。


「っ、あああああああああ!!!」


 地面を砕きながら踏み込む。手にした武器を握りつぶしそうになるくらい力を込める。

 私の渾身の力で振り下ろされた一撃は、リザードの左顔部分を粉砕した。上からの衝撃にズシンと頭部が沈み、反動で跳ね上がる。そこへすかさず。


「――――許さない」


 空いたリザードの頭部の下に滑り込む私。激昂して急ぎ過ぎてしまった。体勢が崩れ四つん這いになる私。でも問題ない。


 ――――ここで唐突に、ある事実を一つ。

 自他ともに認める戦闘の素人である私ですが。実は素手のほうが強かったりする。

 それは武器の扱いに慣れていないから、という意味じゃない。単純に、ルミナさまに買ってもらったこのマギアロッドは。

 私の武器であると同時に、『枷』でもあるという意味。


 私がルミナさまに教えてもらった魔力放出は、武器を介すると上手く破壊力を生めなくなる。それはそうです、武器は私の体の一部じゃない。魔力を込めることはできても放出ができない。なので武器を使うときは、魔力を逆向きに放出して速度を上げたりしている。……アイオーンの本体に棒を叩き込んだとき魔力を込めたけど、あれはあんまり意味がなかったらしい。


 なので。本来は自身の手とか足とかで直接ぶっ叩いた方が威力が出るのです。と、いうわけで。


「――――ふぅ」


 跳ね上がっていた頭部がまた降りてくる。それを確認しつつ全身の駆動を開始する。


 地についた両手を起爆剤(スターター)に。魔力放出で上体を跳ね上げる。

 左足を支柱(アンカー)に。その場で回転(スピン)するように全身を捻り、後ろ回し蹴りを放つ要領で右足を振り上げる。

 踊るような螺旋運動。気分だけなら煌めく踊り子(トップスター)。力不足は百も承知だけど、それならせめて力の限り、荒々しく。


「せ、え――」


 力が、魔力が、振り上げた右足へと駆け上がり集束していく。

 それは限界まで引き絞った弓矢を解き放つかの如く。


「のっ!!」


 魔獣の下顎を――蹴り、穿つ――――!!


『グブォッ――!?』


 私の右足が着弾すると同時に魔力放出、ドグシャッ! とリザードの下顎――どころか頭部全てが粉々に吹き飛ばされる。

 自身が成した破壊の結果に、驚きは一瞬だけ。普通の生物なら即死確定の損傷。だけど。


「よくも」


 私の気は済まない。全身を駆ける魔力が白熱している。こんな程度じゃこの怒り(ねつ)は冷めやらない。

 よろよろと揺らぐリザードの体にぴょんと跳び乗った。そのまま目的の場所まで走り抜ける。

 ……ああ。ほんとう、イライラしてたんですよね。


 こんな、まさしく幻想そのもの、という見た目なのに。

 その実、ただのハリボテだったなんて。私のトキメキを返してほしい。


「――――恥知らず。地を這う蜥蜴(あなた)に、こんな大層な飾り(つばさ)は不要でしょう」


 マギアロッドを二度振るい、()()()()()()()()()()()()の根元を千切り飛ばす。これで正真正銘、ただのデカいトカゲ。

 頭がなくなったので耳障りな咆哮も聞こえない。このままトドメを刺すとしよう。

 マギアロッドの先端をリザードの背中にガン! 突き立てる。それを左手で掴み支えにしつつ、右手を固く握り締めた。


「――――――潰れちゃえ」


 膨大な魔力を込めた右拳。それを、無駄に大きいだけのトカゲの背中に打ち下ろす。


 グシャアアアアアア!!!


 生々しい破裂音。すごくびっくり。武器を打ち込んでもビクともしなかった、リザードの胴体は背中から腹部側へベコリとへこみ。

 トカゲらしく無様に、その体をズシンと大地へ沈ませた。……あ、今の一撃の反動で『境界線』も割れちゃった。残り回数は……まあ、もうお終いだから気にしなくてもいいか。


「ヘンリーさん!」


 ぴょんとリザードから飛び降り、倒れたヘンリーさんのもとに駆け寄る。

 ……さっき前脚の一撃をモロに受けていた。防御も間に合っていなかったように見えたし、もしかしたら……なんて不安を押し殺して治癒魔術の準備をする。すると。


「…………う、ぐ…………」

「!! ヘンリーさん、無事ですか!?」


 まだ、息がある! よく見たら出血もそんなにしていない。運のいいことに、爪で切り裂かれてはいないみたい。良かった!

 そのまま治療を開始する。たぶんこれ、左腕が骨折している。あの一撃を受けてその程度なら、安いものだと思うけど……早く治してあげないと。

 私はリザードから完全に意識を切り、治癒魔術を使い続ける。うーん、内臓とか大丈夫でしょうか。お医者さんじゃないからよくわからない。町に戻ったら、病院に行って――


「……お、お嬢さん……うしろ……だ!」

「え?」


 微かに目を開けたヘンリーさんがなにかを呟いた。後ろ? でももう、リザードは――と視線を後ろに向けると。


「――――な」


 首もなくて。胴体もへこんでいて。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私とヘンリーさん目掛けて振るわれようとしていた。うそ、でしょう?


「くっ!」


 だ、大丈夫。私の魔力はまだ尽きてない。『境界線』で防げばいい、と自分の状態を確認してみて愕然とする。――私の魔力、すごく減ってません? 具体的に言うと、いま展開している分を割られたら、もう再起動できないくらい。

 そこでようやく、自分のミスを悟る。さっき私は、魔術でリザードの動きを阻害したり、頭を蹴り砕いたり、胴体を殴り潰したりしていたけど。


 ――――それって自分の魔力を使っているんだから。

 使えば使うほど『境界線』の使用回数が減ってしまうのは当たり前だった。


 私の魔力総量から考えて、『境界線』を起動できるのは十回。

 ちょっとした魔術で魔力を消費するとしても、その時点で『境界線』の使用魔力一回分に届かなくなる。しかもさっき私は後先考えずに大盤振る舞いをしてしまった。それも二回も。なので、その結果。

 これで『境界線』を割られたら、もう後がない――!


「――――!!」


 思わず目を閉じかける。あの攻撃はきっと、反転させても高速で舞い戻ってくる。私にはそれを回避することはできないし、ヘンリーさんだってまだ動けない。――――だけど!

 私は諦めたくなくて、武器を構えて盾にする。一回は防げるんだから、あとは強化魔術を起動して凌げば――と、最後の悪足搔きをしようとしたとき。


「――――いや、本当に驚いた。すごいなフィオレ」


 私は、もう大丈夫だ、と力が抜けてしまった。

 どさり、と。迫り来ていたリザードの前脚が地面に落ちる。それを成したのは当然、このお方。


「マジでコイツ、倒しちゃうとは。いやはやこれが才能、ってやつか。羨ましいどころか、ちょっと嫉妬しそうだよ」

「る、ルミナさまぁ!」


 ロックさんの治療を終え、ついに最強のお師匠さま、参戦です!

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