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星の真理は切なくて、全てを滅するバ火力魔法!  作者: オマエもネコだニャ
第二章 変態どもへ捧ぐ、幻痛の天象儀
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23 戦う、ということ

 バキン! と一瞬で拘束魔術を砕かれた。


「……やっぱり、重すぎですね」


 この巨体なら当て放題、と魔術で動きを封じてみようとしたけど、ほんのわずかしか歩みを阻害できなかった。変わらずズシンと大地を揺らしだすリザード。

 この拘束魔術はもう少し常識的な質量の物体に使うもの。こんな馬鹿みたいにデカいトカゲは想定外もいいところです。スッパリと、時間稼ぎは諦めることにする。


「――!!」


 私から向けられる敵意に反応したのか。標的を完全に私に定めたリザードは右前脚を振りかざす。鈍く光る五本の爪。――まるで曲剣のよう。


「速……!」


 空をがりがりと削りながら迫る五つの剣閃。……鈍重だなんてとんでもない。

 さっきまでは離れた位置から見ていたから、そう錯覚しただけで。それは戦闘に不慣れな素人が回避できる速度じゃなかった。


「う、わわっ」


 マギアロッドによる防御すら間に合わず爪の直撃を受けてしまう。パリン。発生した『反転』によりわずかに体勢を崩すリザードと、即座に再起動する『境界線』。

 ……情けない。ルミナさまに大口叩いたのに、速攻で一撃をもらってしまった。残り九回。でも。


「やあっ!」


 生まれた隙を見逃したりはしない。驚いたように右前脚を引っ込め揺らぐ巨体に、恐怖を噛み殺しつつ武器を叩き込む。

 ルミナさまに教わったことを正確になぞる。踏み込む足の裏、振るう両手の初速、衝撃(インパクト)の瞬間のだめ押し。その全てで魔力放出を行い破壊の結果を生み出していく。


『グアアッ!?』


 ぐしゃり、と打ち込んだ左前脚からなんとも生々しい音が響く。――いける。

 私の攻撃はちゃんとダメージを与えられている。さすがに一撃程度ではリザードの巨体はびくともしないけど、ウロコが砕け魔力光が漏れ出す様子に確かな手応えを感じた。


 ……普通に殴る分にはなんの問題もないのに、どうして攻撃魔術を使えないんでしょうね、私。自分でも摩訶不思議な精神状態だと思う。


「よし、このまま……ひゃあ!」


 打ち込んだ左前脚が私を振り払うように大きく動き、びっくりしつつ後ろに飛びすさる。目と鼻の先を裂く鋭い爪にヒヤリとした。

 ――――油断しちゃダメ。私はまだ素人同然なんだから。

 魔獣との初陣がこんな、とんでもない化け物相手とは思わなかったけど。自分でも、どうかしてると思うけど!


「――――ふう」


 やると決めたからにはやる。それだけです。


「どんどん行きます――ていっ!」


 リザードの動きを注視しつつ、わずかな隙を狙ってマギアロッドを振るっていく。

 拘束魔術は効果が薄いけど無意味というわけでもない。地面に穴を掘る魔術を使えば、その巨体を簡単に(かし)がせることができる。

 私が使える攻撃以外の魔術であの手この手を尽くし、その一挙手一投足をとことんまで邪魔し尽くし。

 リザードにとってはかすり傷みたいな一撃を、一つ一つ積み重ねていく。


 なんだか本のなかに迷い込んだ気分。いま立ち向かっている魔獣は、実情はどうあれ見た目はドラゴンそのもの。その爪も顎も、大きな翼も。毎晩、眠りにつく前に夢見た物語と何一つ変わらない。

 かつて読みふけった幻想は今、私を主役としてここに再現された。

 残念なのはその主役が大根役者なことか。転がるように逃げ回り、力任せに武器を打ち付ける私はどう見ても主人公(えいゆう)には程遠いでしょう。


 ルミナさまのような目を奪うほどの剣舞なんて望むべくもない。私にできることはただ、


「ひあっ!?」


 泥臭く攻撃を回避し、


「こ、このぉ!!」


 一生懸命武器を振るう。


「これで……どうですか!!」


 要するに――――いつも通り全力で生きることだけだった。


『――――グウゥッ!!』


 煩わしいハエを叩き落とさんと、上空より降り注ぐ十本の斬撃。バックステップ……は間に合わない、爪がかすってしまう。なら!


「っ! え、えぇい!」


 スライディングでリザードの胴体下に潜り込み、全力でその無防備なお腹を打ち上げた。


『グオオオォォァッ!!』


 たまらず悲鳴――のような咆哮を上げるリザード。押し潰される前に胴体下から這い出し、私は再び武器を構え直す。

 ……あの大きさだから、鳴き声が本当にうるさい。ちょっとした精神攻撃です。

『境界線』はさすがに音までは防げない。そうしたら会話もできなくなるし。集中を切られないように、気をしっかりと持たないと……!


「はあ、はあ、はあ…………くうっ!」


 私を噛み砕かんと迫る顎を辛うじてすり抜ける。ほかの攻撃はともかく噛みつきは駄目です。なんとしても回避しなくてはいけない。

 そう簡単に傷を負うことはないし、噛みつかれてもすぐに口が開きはするでしょう。でも、もし上手く抜け出せなかったとしたら? 連続で『境界線』を割られる危険性がある。

 そればかりか、万が一牙の一本が刺さりでもしたらその時点でアウト。ぐちゃり、とトカゲのお腹行きです。イヤすぎる。


 アイオーンとの追いかけっこで足に穴を開けられたことは、ちょっとしたトラウマ。これはほかの全てのケースにも言えるけれど、とにかく『掴まれる、拘束される』系の攻撃は一切受けてはならない。

 

「はあっ…………はあっ…………」


 ……だけどここで、致命的な欠点が露呈してしまう。

 私はつい先日戦闘訓練を開始したばかり。実戦なんてもってのほか。アイオーンとの一件はただ逃げ回っていただけなので、到底戦闘と呼べるものではなかった。

 自ら武器を持ち、間合いを測り、恐れを越えて踏み込んでいく。

 その、あまりにも一般的な『立ち向かう』という行為がどれほど体力を消耗するか、私はルミナさまとの訓練でしか体験出来ていなかった。


 しかも。敵は自分よりはるかに巨大な化け物。放たれる咆哮は否が応でも身を竦ませる力を持っている。魔人の絶望感には及ばなくとも、精神を削るには十分すぎるほどの存在強度。足の震えを抑えるのが難しくなる。


 つまり。

 初めての戦いという緊張感から、私は五分も経たないうちにバテてしまっていた。


「う、うう……ルミナさま、まだ…………い、いいえ」


 弱音がこぼれそうになり、ぐっと武器を握る手に力を込める。

 ダメ。自分から言い出したことなんだから。ルミナさまがロックさんの治療を終えればそれでおしまい。私はただ、このトカゲを引き付けているだけでいいんだから。

 

 いまルミナさまがどういう状況なのか、確認する余裕はない。一時たりともこの化け物から目を離すことができない。集中、集中しないと!

 なんて決意を固めているそばから、また右前脚の振り下ろし。地面ごと私を叩き潰す、ないし切り裂くための、馬鹿みたいな質量をともなった一撃。圧し潰されて、ドカンドカンと連続で『境界線』を割られたらたまったものじゃない。サイドステップで回避しようとして――――

 

「――――あ、れ」


 何かに足を取られてしまう。これは――さっき私が――魔術で掘った穴――――?


『――――――――!!!』


 リザードの大きな口が迫る。ズラリと並んだ寒気がするほど鋭い牙。冬の冷気すら超えて私の体温を奪う、冷たい死の予感。

 その牙の向こう側には、何もない暗闇が私を飲み込もうとしていて。


 ――――――――――――あ、これ、まずいです。

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