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星の真理は切なくて、全てを滅するバ火力魔法!  作者: オマエもネコだニャ
第二章 変態どもへ捧ぐ、幻痛の天象儀
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21 ドラゴ、ン?

「ちょっ……フィオレ! 声大きい!」

「ご、ごめんなさい……で、でも」


 急に大声を出した私を窘めるルミナさま。思わず口元を押さえてしまう。だけど……


「あの魔獣が――"リザード"なんですか?」


 もう一度、キャンプ場の端っこあたりに我が物顔で寝そべる魔獣を見る。

 ……うん。何回見てもドラゴンです。あの姿形、今まで何度も読んだ本の挿し絵のとおり。自然界には存在しない異形でありながら、どこか神聖な生き物を眺めている気分になる。

 作り話の中にしかいないと思ってたけれど……まさか、魔獣として実在していたなんて……!


 正直、興奮が止められない。だってドラゴンですよドラゴン。

 たいていの冒険譚に登場する強大な存在。ときにラスボス。ときに主人公の相棒。そのどれもこれもが重要な立ち位置を獲得している、ある種のお約束。

 モノによっては高い知性を宿していて……あっ、もしかして! 


 その時、私に天啓が降り来る。

 ――――あの魔獣、喋り出すんじゃないですか?


 そういうドラゴンも珍しくはない。だいたいは自身を上位の生命体、人間を下等生物として見下してたりする。その知性と力に見合った尊大な態度で振る舞うのです。

 そう、例えば。


 "脆弱なニンゲンども……我に刃向かうとは命知らずな。瞬きの間に、塵芥としてくれよう!"


 ――――みたいな! きゃあきゃあ!

 空想が現実に変わりそうな予感に心を震わせる私。だけど。


「いやまあ、オレも驚いたのは確かだ。()()()()がいるなんてな」

「!! で、ですよねですよね! ルミナさまもやっぱりドラゴン――」


「ああ。あんなバカでかい――――トカゲの魔獣がいるなんて」


「そうです、あんなトカゲの魔獣いまなんて言いました?」


 キョトン、とするルミナさま。ポカン、とする私。

 聞き間違いかと思い、おずおずと魔獣を指差しながら確認してみる。


「…………ドラゴン?」

「トカゲ」

「……………………トカゲ?」

「トカゲ」


 こくり、と頷くルミナさま。かくり、と首を傾げる私。

 しばし見つめ合う。……あれ、聞き間違いじゃ、ない?


「いや蜥蜴(リザード)って言ったじゃん。異常に巨大化してるけど、あれは紛れもなく"偽翼の蜥蜴(イミテイトリザード)"ってトカゲの魔獣だよ」

「……………………えー」


 あまりにも現実的な(ゆめのない)ルミナさまの解説にガクリとする。

 そ、そんな……ウソです! なにかの間違いです! だって!


「あ、あんな大きな翼を持ってるのに?」

「翼がついたトカゲだな」

「あんな恐ろしい爪と牙があるのに?」

「爪と牙が恐ろしいトカゲだな」

「あんなに体が大きいのに?」

「魔獣ってだいたい大きくない? トカゲの魔獣なんだから大きいよ。それに――――ドラゴンなんているわけないだろ?」

「――――――」


 言葉を失う。ルミナさまったら、無慈悲にも『それはただの空想だ』と切り捨ててくれちゃいました。

 呆然としていると、今度は盗賊団の五人もルミナさまに同調し始めた。


「俺も驚いてしまったよ。とんでもないトカゲの魔獣だな」

「ああびっくりだぜ。あんなトカゲの魔獣がいるなんて」

「すごいトカゲだ。さすがは魔獣といったところか」


 …………。


「俺らに倒せるのか……? あれほどのトカゲの魔獣を」

「所詮はトカゲ……やるしかない」


『――――よし。それじゃあ、トカゲ狩りだ!』


 ……………っ。


「もうみなさん大キライです」


『え? なんで?』


 突然私に罵倒されたみんなが目を白黒させる。

 ……もういいです。なんですか、ルミナさまも。男の人なのにロマンというものがわかってないです。

 あれはドラゴン。だれがなんと言おうとドラゴン。私だけがその真実を理解してればいい。急にあのドラゴンが喋り出して、みんな腰を抜かしちゃえばいいんです。ふんだ。


「……? ま、まあとにかくお前ら。やるぞ。覚悟はいいか?」

『うっす! ボス!』


 ふてくされた私を不思議そうに見つめつつ、ヘンリーさんは仲間に号令をかける。さっきまでは不安そうだったのに、気持ちを切り替えられたみたい。それぞれ自身の武器――魔機具(マギア)を抜き放つ。

 ちなみに彼らの装備品は借り物だったりする。町をでる際、私たちが山の魔獣を討伐しにいくと聞いた商人さんが貸してくれた。もちろん、壊したら弁償です。

 

「それでは少年。行ってくるが……本当に頼むぞ?」

「ああ。安心して死んでこい」

「死にたくは、ないのだがね」


 苦笑しながら五人はキャンプ場へと足を踏み入れる。……そういえばヘンリーさん、ルミナさまにあんなに熱烈に告白してたのに、割と普通に話してますね。フラれたから、もう諦めたのでしょうか。どうでもいいですけど。


「イーガは右前脚、ロックは左前脚だ。ハミルトンとニコルは二人のサポートに入れ。俺は後方から魔術で頭部を狙い、行動を阻害していく。尻尾による薙ぎ払いに警戒しつつ、まずは脚を崩すぞ」

『了解!』


 ヘンリーさんが四人に指示を出していく。……なんか、歴戦の戦士みたい。

 最初の登場がふざけたものだったから勘違いしてたけど。みなさん代行者ということは、魔獣との戦いも慣れたものなんでしょう。ちょっとだけ評価を改めてみる。


「……でもルミナさま。あんなに長い尻尾なら先に切り落とした方がいいのでは? ここは広いとはいえ、回避が難しいんじゃ」

「いい指摘だけどその必要はない。言ったろ? アイツはトカゲだって」

「??」


 まあ見てればわかるよ、とルミナさまは完全に観戦モード。キャンプ場の端っこで、腕を組んで五人を見ている。

 本当にピンチになるまで手を出さないつもりらしい。みなさん大丈夫でしょうか……

 心配になりつつも目を向ければ、ヘンリーさんたちはドラゴンの前で武器を構え。


『――――――――!』


 寝そべり目を閉じていたドラゴンが、ついに敵対者の接近に気づく。


『グォォァァァアアアァッ!!!!!』


 ここに、ヘンリー盗賊団による竜退治の物語が幕を開けた。



      ◇



「す、すごい……!」


 目を見張る。想像だにしなかった戦況の趨勢に驚きを隠せない。


「あの五人。――――すごく強くないですか?」


 さきほどまで心配していた自分が恥ずかしくなるくらい、ドラゴンとの戦いは盗賊団優位に進んでいた。

 ドラゴンはその両前脚の大部分の爪を砕かれ、少しづつ傷を負い始めている。この分なら前脚を振るえなくなるのも時間の問題だった。


「本来、リザードはそんなに強い魔獣じゃない。あの個体は巨大化しているみたいだけど、種族としての性能(スペック)はそこまで変わらないはずだ。ただまあ、見た目のインパクトはすごいからな。今まで討伐に失敗したって代行者は、単純に見た目にビビって尻込みしてたんじゃない?」


 それと認めたくはないけど、とルミナさまは続ける。


「実際のところ、ヘンリーの指示は的確だ。あれのおかげでここまで有利に立ち回れていると言っても過言じゃない。危険察知能力、というのかな。リザードの行動前にはもう指示を出している。……ほら」


 促され、斬撃と魔術が入り乱れる戦場に耳を傾けてみる。


「イーガ! 右に思い切り跳べ! ハミルトンは()()()()()()に魔術! その隙にロックはニコルと交代(チェンジ)! 呼吸を整えろ! ニコルはそのまま後ろ脚に一撃入れて下がれ! 深追いはするなよ!」

『オーケー、ボス!』

 

 ――――流麗、という言葉がふさわしい。ヘンリーさんの指示に従い、仲間たちは牙をすり抜け、意識を削ぎ、態勢を整え、機動(あし)を奪っていく。

 目まぐるしく荒々しく、それでいて滑らかに。精密極まりない号令(しき)は戦意を加速させる。

 以前私はルミナさまの戦闘を踊るよう、と評したけれど。さながらこれは楽団です。

 きっと指揮者には音が見えている。魔獣の呼吸。四肢の撓み。牙の軋み。隠しきれない殺意の(りき)み。

 それらに剣戟(ぎじゅつ)心象(こころ)を乗せ、まるでひとつの音楽を奏でているかのよう。


「後ろから指示をくれると安心する、か。なるほど確かに納得だ。それを信頼し実行するあの四人の力量もそれなりの域にある。……正直なんで盗賊まがいのことをしようとしたのか、不思議でしょうがないな。まあ、強いだけじゃ世の中渡っていけないって世知辛い話かもだけど」


 一瞬、ルミナさまの言葉に引っかかるものがあったような気がしたけど……すぐにかき消えてしまう。はて? なにが気になったんでしょう、私。


「……それにしても」


 ルミナさまは一転、鋭い視線を戦場へと向ける。……いえ、ヘンリーさんのほうを見てる。

 

「――? ルミナさま、ヘンリーさんがどうかしました? とくに、変わりはないような」


 相変わらずイイ声をしている盗賊団のボスは、間断なく仲間たちに指示を飛ばしている。戦闘が始まってからその立ち位置にたいした変化はない。ちょっとだけ、後ろに下がっているくらい。

 たぶん、より正確に戦況を把握するためでしょう。とくに怪我をしている様子もない。


「……いや。あれの立ち回りは間違ってない。それが何に起因するものなのかは別にしてな」

「はあ……?」


 ルミナさまの視線は変わらない。前衛で奮戦する四人ではなく、指示を出すヘンリーさんを見つめている。なにか、気になることでもあるんでしょうか。

 というか。


『グォァッ!? グガッ!?』


 私もあのドラゴンの動きで気になることがある。戦闘前にヘンリーさんが危惧していたような、尻尾の薙ぎ払いを行わないこと。むしろ……


「なんか、あの尻尾。……重そうですね」


 明らかにドラゴン自身の動きを阻害してるくらいな邪魔さ加減。もしかして上手く動かせないんでしょうか。そして、もうひとつ。

 ……これが一番気になるのだけど。さっきルミナさまに聞いたあのドラゴンの名前。尻尾とは別に一度も行わない、()()()()


 もしかして、だけど。信じたくない、ほんっっとーーーに! 信じたくはないことだけれど!

 あの。――――大仰極まる()()って、まさか。


「あ、そろそろかな」

「え?」


 ルミナさまの声に目を向けると、ドラゴンがなにやら盗賊団から逃げるように背を向けていた。そして。


 ぷちん、と。


「回り込め! ()()()()()()()()()()()!」


 ………………………………………………………………………………あ、あれトカゲですね。

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