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星の真理は切なくて、全てを滅するバ火力魔法!  作者: オマエもネコだニャ
第二章 変態どもへ捧ぐ、幻痛の天象儀
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20 優しさ峠に巣くう魔獣

 ――――ミティス峠。

 大陸最大の山脈に名を連ねる、エルド山とカラクシナ山の鞍部に形成された通過点。

 その標高は五百メートルほどしかなく、周囲の山々が二千メートル級の偉容ばかりなのも相まって、まるで山の一部を上から叩き潰したかのよう。

 当然、傾斜も緩く道幅も広いため馬車での通行も容易。山脈の向こう側との交流が途絶えないのは、この峠道のおかげだと人々は言う。


 ――――なのでこのミティス峠をこう呼ぶ人もいる。

『大自然の厳しさの中に見えた優しさ峠』――と。もっとなにかあったでしょう、と思わなくもない。



      ◇



「――ところでヘンリーさんたちって、魔獣討伐は得意なんですか?」


 ミティス峠へと向かう峠道を馬車で移動中。私は勇気を振り絞って、盗賊団のボスに話しかけてみた。……結局、セイランさんたちの善意を無碍にはできなかったのです。

 ちなみに馬車のキャビンには私とルミナさま、盗賊団の五人、合わせて七人が同乗している。多い。

 なので必然、私はスペースを開けるべくルミナさまにぐぐっ、と体を寄せないといけない。――あー、しょうがないですねー。だって狭いんですものねー。こうやってピタッとくっつかないと。うんうん。


「…………」


 ルミナさまの赤い顔を視界の端に収めつつ、盗賊団のみんなに問いかけてみたのだけど……返事がない。


「…………あの? ヘンリーさん?」


 もしかして聞こえなかったかな、ともう一度話しかけてみる。でも、やっぱり反応なし。


「……おや、可憐で恐ろしいお嬢さん。誰かをお探しかな?」


 逆にヘンリーさんに不思議そうな顔をされた。……あ、あれ?


「え、えっと。ヘンリーさん、ですよね? "ヘンリー盗賊団"のボスさん」

「ん? ……あっはっは。そういうことか」


 なぜか笑われてしまった。……もしかして、このイケボさんがボスじゃなかったんでしょうか。でもボスって呼ばれていたし……と、なにか勘違いでもしていたのかと恥ずかしくなっていたら。


「俺がボスなのは合っているとも。だがそもそもの話。――――悪事を働こうというのに本名を名乗るわけがないだろう?」

 

 ……………………え。


「ええっ!?」


 私、驚愕。い、言われてみればそのとおりです!

 ヘンリー、が人の名前としておかしくないものだったから、ついボスの名前を冠しているんだと勘違いしてしまった。


「確かにそうだけど。……アンタに言われるとなんか腹立つな……」

「ははは、すまんね。いやなに、ヘンリーと呼んでくれても構わんさ。偽名だがね」

「ちなみに俺はイーガだ。偽名だぞ」

「俺はロック。もちろん偽名」

「ハミルトンと呼んでくれ。偽名で悪いが」

「ニコル……偽名でよろしく……」


「ルミナさまこの人たち殴りたいです」

「落ち着けフィオレ。もう殴ったろ。あともう少し離れなさい」


 ほんっとにふざけた人たちですね。胸の激情を抑えるべく、ルミナさまにもっとくっ付く私。別の意味で激情に焦がされそう。


「それで、魔獣討伐についてだったか。……ふむ。得意かどうかはわからんが、まあそれなりにこなしているよ。今の仲間とはそこまで長いわけじゃないが。一年もたってないかな」

「え、そうなんですか?」


 意外。五人とも、すごく仲がいいように見える。もっと長い期間を共に過ごした仲間なのかと思っていたけど。


「ボスはよ。町でくすぶってた俺らに声をかけてくれてさ。ハラ、減ってないかって」

「まさか本人も金欠とは思わなかったけど。でもなんか……嬉しくて」

「なんつーのかな……思いやり? みたいな。声がさ、そういうの伝わってきて。魔獣との戦いでも指示が的確なんだよな」

「そうそう! ボスが後ろから見守ってくれると勇気出んだよ。なんかさ」

「……(こくり)」

「ふっ……よせよ、お前ら(イケボ)」


『ぼ、ボス~~~!』


 ひし、と抱き合う盗賊団。冬なのに暑苦しい。


「指示、ね。まあ戦闘経験がそれなりにあるならいいけど。一枚噛ませろ、と言ったからには働いてもらうぞ」

「ああもちろん。サポートは任せ……」


「いや。オレは手を出さないから。アンタたちだけで山の魔獣を討伐して見せろ」


『…………………………え』


 ぴしりとフリーズする盗賊団。さっきまでの熱量は一瞬で氷点下に。凍りついた顔でルミナさまを見つめている。


「ち、ちょっと待ってくれ。俺たちだけで、か?」

「そうだ。ああ、安心しろ。死にそうになったらちゃんと助けるから」

「待て待て少年! 山の魔獣は強いと聞く! 討伐に向かったパーティーが帰還しないとも! それを俺たち五人だけでとは……!」


 正直、私も驚いてしまった。山に巣くう『リザード』というのがどんな魔獣かは知らないけれど。今まで討伐されていない、ということは強大な魔獣なんでしょう。――それこそ、墓送りの巨人(グレイブドール)のような。


「はあ? 牢屋行き、資格剥奪のところを見逃してやったんだから、文句なんかないだろ? あと言っとくけど――逃げようとしたらただじゃおかない。具体的に言うと、死んだ方がマシ――いや、もう殺してくれ、と言いたくなる目に合わせるから」

『…………!!』


 ……たぶん、ルミナさまは怒っているのでしょう。ミモリさんを怖がらせたことを。

 ルミナさまは本気の目をしている。逃げたら絶対にそうする、とその視線を向けられていない私でもわかるくらい。そして、実際に向けられた五人の心境は……


「……わ、わかった。本当に、ピンチになったら助けてくれるのだな?」

「もちろん。そこは心配しなくていい。死なない限り、傷もちゃんと治してやる。……まあ、そこまで気負うほどのもんじゃないだろ。強いと言っても魔獣だし。それこそ――」


 そうして少し雰囲気を和らげてルミナさまは、


「――――魔人を相手にするより、はるかにマシだろうよ」


 本当に、常人には笑えないことを言った。



      ◇



 曲がりくねった峠道を、馬車揺られ進むこと二時間ほど。


「――みなさん。このあたりで降りてください」


 御者の代行者さん――協会で紹介してもらった――が、私たちにそう促してきた。


「これ以上進むと、馬が怯えて危険です。ここからは徒歩で進んでください」


 魔獣は基本的に人間しか襲わない。普通の魔獣なら動物たちも警戒する程度で済むけど、強い魔獣が近くにいると過剰反応を示すことがある。

 こんな山の中で暴れられたらどうなるかわからない。言われた通り馬車を降りて進むことにする。


「自分はここで待機して馬車を守っています。どうかお気をつけて」

「ありがとうございます。オレたちが二時間たっても戻らなかったら、先に町に引き返してください」


 まあそんなことにはならないだろう、と言葉にはしないルミナさま。今のはあくまで、御者の代行者さんを心配してのもの。盗賊団相手のときとは雲泥の差です。


「よし。じゃあ行くぞ」

「お、おー……」


 声、小さい。元気なさすぎです。

 ヘンリー盗賊団は自分たちが魔獣と戦わなくてはならないと知ってから、ずっとこんな感じだった。きっとルミナさまの力に期待して、楽して魔獣を倒せるとでも思っていたのでしょうね。ダメな大人です。だから悪の道に落ち掛けるのです。

 

「ルミナさま、私はどうすれば……」

「フィオレはオレのそばにいればいい。とりあえずな。状況次第でなにかしてもらうかもだから、気を抜かないように」

「は、はい。わかりました」


 この討伐依頼は、私の経験値を増やす目的もある。『境界線』があればそう簡単に死ぬことはないし……不安はあるけど、頑張らないと。


 峠道を進んでいく。右に曲がり左に曲がり、緩やかにアップ、時折ダウン。

 馬車に乗っていたときからチラホラ魔獣が出現したけれど、そのどれもがルミナさまによって瞬殺されていた。……万全の状態で、盗賊団に戦わせるために。


「……そろそろか」


 この道の最も標高が高い地点、つまり峠にさしかかったころ。――――空気が変わった。

 匂い、でしょうか。なにか焼け焦げたような、そんな空気。この防寒着を貫通する冷気の空に、いったい何が燃えているというのか――


「全員、止まれ」


 ルミナさまの制止の声。視線は正面に向けられたまま。

 緩い傾斜の頂点、ミティス峠のだだっ広いキャンプ場。私の立ち位置からだと、ちょうど視界に入るくらい。そこには。


「――――あ」


 ナニかがいる。

 明らかにキャンプ場の備品ではない。もしそうだとしたら巨大すぎる。どんな化け物がここでキャンプするというのか。あれは到底人に扱えるモノではなく。

 そう、つまりはそういうこと。


 あれこそが、山に巣くう魔獣。


「……おいおい。マジでか」


 ヘンリーさんの呟き。他のメンバーも言葉を失っている。

 なんて大きさ。ミティス峠に開設されたキャンプ場はかなり広い。目算だけれど、端から端まで二百メートルはあるように見える。あの巨体はその広大なキャンプ場の――四分の一を占めていた。

 墓送りの巨人(グレイブドール)のような魔獣かも、と推測していたけどまさしくその通りだった。感じる圧迫感はここまでの道のりで出現した魔獣の比じゃない。周囲には鳥の鳴き声すら聞こえない。大自然の全てが、あの化け物を忌避しているかのよう。

 

 人間に打倒できるのか疑わしくなるほどの異常個体。だけど、


「――――あ、あれ、は」

 

 私は、ちょっとそれどころじゃなかった。


「ま、ままま、まさか……!」


 これまで聞いた『リザード』という呼称。それがあの魔獣の種族名なのでしょう。実は私は魔獣については詳しくない。関わることはないだろうな、と思っていたので。そんな私にも、あの魔獣は見覚えがあるものだった。


 ――――全身を覆う闇夜のようなウロコ。

 縦長の体躯には四本の脚。大木をすら引き裂きそうな鉤爪。これまたウロコに覆われた、太く長大な尻尾。

 爬虫類を思わせる頭部の(かたち)には、真紅の眼球と、大岩だって噛み砕けそうな恐ろしい牙が並んでいる。

 そして背部には最も特徴的な、コウモリの羽根にも似た、風を掴み取る巨大な翼。この姿形が示すものは一つしかない。


「ど、どどどど、ど……!!」


 私は本を読むのが好きで、作り物(フィクション)の冒険譚もよく嗜む。それには挿し絵がついているものもあって……そういうものの中で、見たことがあるのです。

 あれは伝説上の生物。『こんなのどこにもいないけど、いたらいいな』と人々に空想される、全ての生命体の頂点。

 あのロマンあふれるフォルムを持つ魔獣は、まさしく――――!


「ど、ドラゴンですーーーーっ!?!?」


 間違いなく、竜と呼ばれるもののそれだった。

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