19 盗賊団が仲間になりたそうにしている?
「えっと………………あ、あった。こいつらやっぱり、代行者くずれみたいね」
ルミナさまによる治療のあと。盗賊団の五人を魔術で拘束しつつ、セイランさんほか代行者さんたちによるボディチェックの結果。
どうやら彼らはもともと代行者だった、ということがわかった。
「代行者証を持ってるってことは、まあ、そうなんだろうけど。……何やってんだかこいつら」
呆れたように一枚のプレートをひらひらさせるセイランさん。それはルミナさまも持っている、代行者として協会に登録した証。『代行者証』という、身分証明書代わりにもなる一種の魔機具です。
代行者はみんなあのプレートを携帯していて、それを提示すれば各地の協会で依頼を受けることが出来るのだそう。発行自体は簡単な書類作成と、その人固有の魔力波長の計測だけで終わるらしいので、私も作っておこうかなと思っていたりする。まあ今はそんなことより。
「なに? どっかで悪さして資格を剥奪されたからこんなことしてんの、あんたら。……の割にはやることショボいけど」
「見くびるなっ! まだ剥奪されてはいないっ!」
「そうだそうだ! まだそれは有効のはずだ! たぶん!」
「ちょっと依頼主が気に入らなくてぶん殴っただけで剝奪されてたまるか!」
「いやダメじゃん」
たぶん、本当に資格が有効なのか確認しに行くんでしょう。セイランさんから五人分の代行者証を受け取った仲間の一人が、協会のほうへと駆けていき……すぐに戻ってきた。
「どうだった?」
「ああ、一応まだ有効だった。特に犯罪歴などは記録されてはいなかった」
「ふぅん? 良かったねあんた。ぶん殴られた依頼主サマは大事にはしなかったみたいよ。ほかの奴らが何したか知らないけど」
「依頼をほっぽり出して逃げた(イケボ)」
「うっかり財布を忘れて食い逃げした」
「依頼に失敗して怒られた腹いせに壁に落書きした」
「”あたしと仕事どっちが大事なの!”って言われて振られた」
「いやホントにショボいなこの変態ども!? あと最後のヤツ、それはなんか違うだろ!」
思わずツッコミを入れるルミナさま。今までなるべく関わらないように黙ってたのに、耐えきれなくなったみたい。
ちなみにミモリさんは先にお店に帰った。一人で帰るのが不安そうだったけど、
”ダイジョーブ! あたしらがオーナーさん送ってくから!”
ちょっと仲良くなった女の子三人組が付き添ってくれることになった。すごく、いい子たちです。さっき警戒心むき出しにしたこと、大いに反省。
……よく考えたら私、コルトスでも同年代の友達がいなかったから。こんな風に女の子同士でお話しするの、初めてかも。もっとひとづきあいをがんばろう。
するだけならタダな決意を固めていると、盗賊団のボスがルミナさまになにやら要求していた。
「すまない。水をいただけないだろうか。さっきからイイ声を出し過ぎてしまってね。喉がカラカラなんだ」
「はあ? 水ぅ? しょうがねーな……ほらよ!(バシャ!)」
「ゴボアッ!? げほげほっ、い、いきなり水を口に叩き込まれるとは……って、おや? 飲んだはずの水の冷たさもなく、喉の渇きも変わらない。――――幻術か(イケボ)」
「現実だわ魔術だわ。いや知ってんだろ。魔術で出した水を飲んでも魔力に変換されるだけだって」
その通り。魔術は自分の心を魔力と変異式で具現化させるワケだけれど。当然、永遠に存在するワケじゃない。
たとえばコルトスを襲ったアイオーンの石の柱やら棘やらは、時間とともに霞のように消えてしまった。
水も同じ。魔術の水を飲んでも水分として吸収されることはなく。それを具現化していた魔力を体内に取り込むことになるのです。なので一瞬は潤うけど、すぐに水じゃなくなるので結局喉は渇いたままになる。
……ちょっと納得がいかないのは、服を魔術の水で濡らすと濡れたままになること。たぶん、大気中の水分を巻き込んでしまっているのでしょう。魔術で洗濯をするときは、ちゃんと乾かさないといけないのが困りもの。まあそれも魔術でできますけど。
「ったく……んで? アンタら、なんでこんなことしたんだ? 食いモン要求してたってことは……」
「うむ。金が尽きてしまってな」
「いや働けよ。代行者なんだから、簡単な依頼でも受けりゃいいだろ」
「いやそうなのだが。……先ほどは見栄を張ったが、もしかしたら代行者の資格を剥奪されているかも、と怖くてな。協会に近寄れなかったのだ」
ボスの言葉に他の四人も恥ずかしそうにうつむいた。
「働かなくても腹は減る。働かないからカネもない。そうして手待ちの路銀も尽きて、いよいよ盗賊まがいのことをするしかないか、と覚悟を決めて――」
「あの嬢ちゃんを見つけたってワケだ」
「なーんか、フラフラ歩いてたからよ。これなら楽勝だぜ、と思って」
「やっぱ紙袋はすげえよ。剥き出しの顔に吹き付ける風もしのげるし、素性を隠して盗賊団になることもできる」
『うんうん』
「いや行動力! そんなことできんならサッサと協会に確認しにいけよ! あとその紙袋への全幅の信頼なんなの? 紙袋製造業界の回し者なの? ただの紙袋を悪事に使うんじゃねー! "あれ? あの人もしかして強盗予備軍?"って買いもの中の一般人疑いたくなるだろうが!」
「お、落ち着いて、ルミナさま」
いつもは大人びた雰囲気のルミナさまが珍しく荒ぶっておられます。さっきこの冴えないオジサンに求婚されたことが、よっぽど気分を害したのでしょう。おかわいそう……
よし、と気合いを入れる。ここは私がこの場をおさめないと!
「それじゃあセイランさん。この人たち憲兵さんに引き渡しましょう。寒くて暗い牢屋行きです」
「そうねー。ていうか、そこで待機してくれてるし」
「え!? ち、ちょっ! ま、待ってほしい!」
憲兵さーん、と騒ぎを聞きつけて来てくれていた、町の治安の守護者さんたちを呼ぶ。このまま五人は牢に繋がれ、相応の罰を受けることになるでしょう。
もう二度と会うことはない、とすぐにでも記憶から削除したかったのだけど。盗賊団は往生際が悪く駄々をこね始めた。
「ほ、ほら。そんなたいした被害は出なかっただろう? ここはその、穏便に……」
「そ、そうそう! 俺たちの代行者資格もまだ生きてるみたいだし! これからは心を入れ替えて真面目に……」
「え? そりゃさっきまでの話よ。もう協会にこの件、報告しちゃったし。資格剥奪は時間の問題ね」
『な、なにィィィッ!?』
残酷な現実に打ちのめされる五人組。というか、当然でしょう。怪我人はでなかったとはいえ……え? 盗賊団の頭をかち割った? わるいひとたちにじんけんはないのです。
「た、頼む! 見逃してはくれないか!」
「俺たち、もう帰るとこもないんだ!」
「なんでもする! だから……!」
「そうは言ってもねえ」
中年男性たちの見苦しい命乞いに、哀れに思いつつも冷ややかな目を向ける。大人しく罪を償うといいです。ルミナさまもそう思っていたのか。
「はあ。それじゃセイランさんたち、あとは任せてもいいかな? オレたち、そろそろ山に向かわないと」
盗賊団から視線を切り、私のそばに寄ってきた。
「え? ああ、魔獣討伐にいくのね? こっちは任せて。それと本当に気をつけてね」
「大丈夫です。よしフィオレ、行くとするか」
「はい、ルミナさま!」
そう、私たちには大事な仕事がある。まあがんばるのはほとんどルミナさまで、私はお供するだけなのだけれど。
峠を陣取る不届きものな魔獣を退治しにいかないと。
そうして二人でその場を離れようとしたとき。
『そ、それだーーーーーッ!!!』
諦めたように大人しくしていた五人組が、突然大声を上げた。
「な、なんだよいきなり」
「ふっ、すまないね麗しい少年少女お二人さま。山に向かう、ということはもしや……ウワサの魔獣を討伐しにいく、ということかな?」
「そうだけど……アンタらには関係ないだろ」
「いや大ありだとも!」
急に何を言い出すのか、と少し身構える私たち。すると。
「その魔獣討伐。――――俺たちにも一枚噛ませてもらえないだろうか」
本当に何を言い出したのか、すぐには理解できない頼みごとを口にした。
「……は? いやダメだけど。なに言ってんだ、そんなの――」
「そうだろうそうだろう! 二人では不安だろうとも! 安心したまえ、魔獣討伐に手慣れた我々が手伝ってあげるとも!」
「いや聞けよ! 不安なんて言ってねえよ!」
「お、落ち着いて、ルミナさま」
またしても荒ぶってしまうルミナさま。どうやらこのボスとは相性が悪い様子。
「山の魔獣は手強いと聞く。君たちがどれほどの力を持つのかはわからないが、さすがに二人だけでは危険なのではないかな?」
「関係ない。そもそもオレひとりで事足りる。この子はただ経験を積ませるために連れてくだけだ。これ以上の人手はいらない」
「そ、そうは言っても君も山での戦闘経験がそんなにある訳ではないだろう? やはりここは、経験豊富な人間のサポートが必要だと思うのだが」
「……そうねえ。その方が安心かも」
「ちょっ、セイランさん!?」
ルミナさまの本気を見たことがないセイランさんは、やっぱりまだ心配だったみたい。ボスの提案に同意する素振りを見せた。
「どうせあんたたち、この件に便乗するかたちで許してもらおう、とか思ってるんでしょ?」
『そうですっ!!!』
「ちょっとは見栄張りなよまったく。……そうね、それくらいの実績があれば、協会もすぐには資格を剥奪することはなくなる。報酬も出る。まさに一発逆転ってわけね」
うーん、と少し考えるセイランさんほか仲間のみなさん。そして何事かを相談していたかと思うと、私たちに向き直り、
「ごめんねルミナちゃんたち。こいつら、連れて行ってくれない? 荷物持ちでも肉の盾にしてくれても山に捨ててきてもいいからさ」
どちらにとっても、割と酷いことを仰るのでした。……え、マジですか?




