18 東エルドヴィレッジ大混乱!
「る、ルミナさま……!? いったい、何を……」
突然のお師匠さまの奇行に困惑する私。姿が見えないと思ったら、あんな屋根の上にいたなんて。
「く、くそっ、眩しくてよく……誰だ貴様は!」
今はまだ朝方。冬の太陽は空の低い位置を灼いている。どうやら、盗賊団がいるところからだと逆光になっているらしい。手を翳しながらの誰何の声に、
「悪党に名乗る名はないッ!!」
ルミナさまは何故か待ってましたと言わんばかりに即答した。ちょっとうれしそう。
『キャーーーーー!!! ルミナちゃーーーーーん!!!』
突如上がる黄色い声援(プラス野太い声)。駆けつけた女の子たちやお店の常連の男性陣により、あっという間に素性がモロバレしたルミナさま。ちょっと困り顔。
……そういえば忘れてたけど。実はルミナさまが男の子だというのは周知の事実だったりする。
我らが変態オーナーミモリさんの手により、店先の看板に『激カワ男の娘、揃えてます』などという、いかがわしい一文が書き足されてしまったからです。いえ揃えてませんしルミナさまだけですし。
まあ、そういうわけなので。
「ルミナちゃーーーん!!! 俺だーーーーっ!!! 見えそうで見えないいやでも見えたッと言えるくらいのミニスカを履いてそのほっそりとしたおみ足で俺の顔面を踏みつけながら時折見せる極寒の視線と感情の籠らない氷点下の声で俺を蔑んでくれーーーーっ!!!」
アレも、理解しての発言だと思います。おや、もしかしてこの町、変態さんしかいない感じです?
そんな声援(?)なんて意にも介さずに、事態はさらに進行していく。
「人に名前を尋ねるときは自分から、って知らないのかこの変人盗賊団め!」
「ヘンリー盗賊団だちょっと近いな確かに!」
「というかさっきから名乗ってるだろう!」
「そうだそうだ! 俺たちゃ泣く子も泣き止ませるヘンリー盗賊団!」
あ、泣き止ませてくれるんですね。
なんとも可笑しな五人組だった。そして別に名乗ってない気がする。
「はー? 頭に紙袋被ったヤツなんざ変質者以外いないだろうが!」
「え、うそッ!?」
ミモリさんに流れ弾が当たっていた。自覚無かったことに驚きですオーナー。
というかこの状況なんなんでしょう。さっきからツッコミどころしかないんですけど。私、置いてけぼりになっちゃってます。早く終わらないかなー。
先にお店に帰ってようかと真剣に悩み始めたとき、
「……よし。わりと満足したから、そろそろシバくか。よっと!」
ルミナさまが屋根の上から飛び降りてきた。
軽やかに着地、少し頭を振りつつ可愛い三つ編みをぱしっ、と弾いて肩から前に。ルミナさま、いつもそのスタイルなんですよね。お気に入りなんでしょうか。
「さーてと、それじゃ公然ワイセツ物ども。一瞬で昏倒させてやるから大人しくしとけよ?」
「…………っ!」
いよいよこの茶ば……事件を解決するつもりなのか。だけど。
「る、ルミナさま! まだミモリさんが!」
人質はナイフを突きつけられたまま。このままじゃ大変なことに!
「ん? ああ、大丈夫。心配はいらない。ミモリはそのままじっとしてればいいから」
何か秘策でもあるような口ぶり。ルミナさまは不敵な笑みを浮かべている。
「な、なにぃ……!? こいつ、人質がどうなってもいいってのか……!?」
「くそっ! まずいですぜボス……ボス?」
慌てる素振りを見せる盗賊団の面々に鋭い目を向け、ルミナさまは一気に間合いを詰めようとして――
「――――――――美しい(イケボ)」
「は……!?」
盗賊団のボスが発した、やたらとカッコイイ声に出鼻をくじかれた。
予想外の発言だったのか、ルミナさまはつんのめって立ち止まる。その隙に。
「え? あ、あれ?」
「ちょおっ!? ぼ、ボス!?」
盗賊団のボスはミモリさんを解放し、ルミナさまに向かって歩いていく。その足取りはなんの迷いもない。そしてルミナさまの目の前で立ち止まったかと思うと、いきなり跪き。
「麗しいお嬢さん。どうか俺と、結婚を前提にお付き合いしていただけるかな?(イケボ)」
紙袋を被ったまま、無駄にシブくてダンディな低音ボイスで求婚した。
――――――――――――――――――――――――は?
いきなり何言ってるんでしょうこのイケボ私キレそう。いえマジギレしそう。
「うわ~~~ん、フィオレ~~~~……ヒィ!?」
命からがら拘束から抜け出したミモリさんは、私に縋りつこうとして――飛びのいた。よく見たら周囲にいたセイランさんたちや、野次馬の皆さんも私から離れていっている。あっといけない。思わず魔力が。
「は、はあ!? アンタ、いきなり何言って」
「いやすまないね。君のあまりの美しさに気持ちが先走ってしまったようだ。――――どうか許してほしいマドモアゼェル……(イケボ)」
「キモ……」
紙袋から発せられる無意味にいい声のキモイセリフに、さすがのルミナさまも不快感を隠せない。後ずさりながら顔を背けている。いつもだったら相手をおちょくり倒すのに、
「い、いやオレ男だから。女じゃないから。勘違いするな」
冗談を言う気力もないのか普通に諫めていた。
あの人、キモいけどなかなかにすごい。ルミナさまをあそこまで狼狽えさせるなんて。――――だけどそれをしていいのは私だけなんですけど。
「残念だったなオッサン。その一目惚れはゴミ箱行きだ。恥ずかしいマネはもうやめて、さっさとお縄に……」
「――――構わない」
「は?」
聞き間違いかと疑うルミナさま。だけどそれは無慈悲にも、聞き間違いなどではなく。
「男でも――――一向に、構わないッ!!!」
広場どころか町中に響き渡りそうな大声で放たれた宣誓。錯乱しているとしか思えない暴言。その言葉を聞いた、広場に集まっていた人たちは全員。
『ええーーーーーーーーっ!!!』
腰を抜かしそうなほど仰天していた。ちなみに盗賊団のほかのメンツもドン引きしていた。
「ぼ、ボス……! そういう……」
「俺たちゃどうすりゃ……お、応援、したほうが!?」
「あれ、でもボスって奥さんが……」
自分たちのリーダーのカミンクアウトに、それでも寄り添おうとしている。いい人たちですね。
野次馬のみなさんなんか、もう大騒ぎ。
「きゃあきゃあ! どうしよー! すごい場面に出くわしちゃったよ!」
「あのイケボから繰り出される力強い宣言……これは、滾るね!」
「――愛よ。愛さえあれば、なんだって出来るのよ!」
もはや何かのイベントなのかと疑うくらい、みんな固唾を飲んで見守っていた。あっちにいる商人さんなんか商売始めてるし。商魂逞しいですね。
そんな、おそらくこの町で最初で最後であろう一世一代の大告白は。
「~~~! わ、悪いがオレはノーマルアンド変態はお断りだ! いいからとっとと――地べたを這いつくばれ色ボケどもッ!!」
『ギャアアアアアアア!!!』
ルミナさまが嫌悪感とともにバチバチィっ! と放った雷撃により、あっさり打ち砕かれてしまった。
「……な、なんと、刺激的な返答……うぐぅ(イケボ)」
「俺たち、は、色ボケ、じゃ、な、い……がくっ」
ルミナさまにキモい告白をしたボスほか、盗賊団の四人全員が地面に沈み、ようやく、この大混乱は終わりを迎えることとなる。――だけど。
「あーあ。振られちゃったか。根性ないねー、あれくらいで……あっ」
「あんた好き放題言い過ぎ……え?」
演劇を鑑賞し終えたあとの観客よろしく、思い思いの感想を雑談しあう野次馬たち。それが、一斉に黙りこくる。私が、前に進み出た瞬間に。
「ちょ、ちょっとフィオレちゃん?」
セイランさんが私を止めようとするけれど無視。……えーっと、確か持ってきてたはず……あ、あった。ちゃきん。
「はあ、はあ……なんてヤツらだ。このオレが……って、フィオレ? なんで武器を持って……」
「――――ルミナさまは離れててください」
精神的に疲れたのか、呼吸が荒いルミナさまを手で制し。
「――――よくも」
手にしたマギアロッドを大きく振りかざし、
「よくも、私のルミナさまに勝手に求婚してくれましたね」
全霊を込めて、倒れ伏した盗賊団のボスに叩き込んだ。
「グボアッ!?」
「よくも」
「ギャヒィ!?」
「よくも」
「いや俺たちはしてなブゲラッ!?」
「よくも……!」
「ちくしょう動けねえ誰か助けイヤアッ!?」
私は次から次へと、身動きの取れない盗賊団の頭に武器をめり込ませていく。
「なんて、惨い……!」
「恐ろしく恐ろしい処刑。俺でなきゃ目を逸らしちゃうね」
「こっち見て言うな」
野次馬さんたちは、さっきとは別の意味で固唾を飲んでいる。かすかに漏れ聞こえる声は、どこか恐怖に震えているようだった。
「――――ふう。よいしょっと」
盗賊団全員の頭をカチ割り、落ちていた玩具のナイフをばきっと踏み潰す。……ふと気になって、ボスの頭の紙袋をはぎ取ってみた。するとそこには。
「…………普通、ですね」
なんとも冴えない中年男性の顔が。かっこいいのは声だけだったみたい。まあ、どうでもいいですけどね。
そうして、周囲を見渡して微笑んでみせる。
「それじゃあこれで、事件解決ですね。お疲れさまでしたみなさん。もう、どっか行っていいですよ」
――――こうして。
東エルドヴィレッジを騒がせた『ビーフシチュー要求人質事件』は終わりを迎えた。
怪我人ゼロ。じつに平和な終わり方です。……盗賊団? さあ、知りませんね。
……まあ、ちゃんとそのあと、ルミナさまが治療したので大丈夫です。別に治さなくても良かったのに。
ちなみに。あとで聞いたのだけど、ルミナさまが突然おかしな行動を取ったのは、『一回やってみたかった』からだそう。
もう……そういうところは男の子なんですから。可愛いです。
失ったものは何一つない事件だったけど。
町の人から『無慈悲なる盗賊殴殺者』の呼び名を得てしまったのは、ちょっと納得がいかない私だった。




