17 変態盗賊団、じゃないッ!
「――……遅いですね、ミモリさん」
一の月、二日。国中をあげた追悼の日の翌日のこと。
私たちはミモリさんに頼んで、お店を休みにしてもらうことにした。その理由はもちろん、山の魔獣討伐に向かうため。
「商工会の掲示板を確認してくるって言ってましたけど……」
「そういや、そっちの問題はまだ解決してなかったな。いまだに働きたいって人来ないし」
私たちのこの町でのもう一つの目的。喫茶エルディオが今後も営業していけるように、新規雇用を獲得すること。……こればっかりは、魔獣を倒してはいお終いといかないのがツラいところです。わりとすぐに人が来ると思ってたんですけどね。
「ていうかミモリは何しに行ったんだ? 求人見た人は直接ここに来るだろ」
「ああ、なんでも新しい求人広告を作ったとか。"これさえあれば、カワイコちゃんが入れ食い状態間違いナシ!"――って」
「やべぇ不安しかない。あとで確認した方がいいか……」
店内の椅子に座り待つこと数十分。求人を掲示板に貼ってくるだけなら、とっくに戻ってきてもいい頃合い。だけど。
「……ホントに遅いな。そろそろオレたちも山に向かいたいんだけど」
「なにかあったんでしょうか。ちょっと心配ですね」
ミモリさんのことだから、道端で転んで起き上がらないとか。ただでは起きない困ったさんなのです。あとは……カツアゲでもされてるとか? それはさすがに一大事ですけど。
「はぁ、しょうがない。ちょっと迎えに――」
そう言ってルミナさまが立ち上がった、まさにその時。
「た、たたた、たいへんたいへん、たいへんだよルミナちゃん!!」
店の出入り口から数人の女の子たちが飛び込んできた。知らない子たち、いえ確か以前お店に来てくれていた女の子たちだったような……?
「え、あ、えっとごめん。今日はお店は休みで」
「えーそうなんだぁ、ざんねーん! あ、ルミナちゃん髪型変えた? スッゴく似合って――じゃなくてぇ! 大変なことになってるんだよ!」
「あんたもなに自然に会話してんの! とにかく、マズいことになってて!」
「そうそう! オーナーさんが大変なの!」
「――なに?」
瞬間、ルミナさまは出入り口から外に飛び出した。
「どこだ?」
「あ、えっと、広場に!」
「わかった」
走りつつも女の子に場所を確認し、そのまま姿が見えなくなる。女の子たちが飛び込んできてから、たった十秒の出来事。は、速い……!
「す、すごぉ……普段と全然違うよ」
「いつもはあんなに可愛いのに、なんか凛々しくて……」
「か、カッコいい……」
――!!! ピピーッ! 結界に反応! 規定以上のトキメキを検知! これよりフィオレ、牽制行動に移ります!
「――あの、すみません。私、ルミナさまとこの店で働いてるんですが。いったい、なにがあったんでしょうか?」
「え? あなたは……もしかして、調理担当の謎の女の子?」
「は、初めて見た……! ホントに可愛い……!」
「ねえねえ名前教えて? 年は? あたしら十五! もしかしてタメ? どうしていつも引きこもってるの? どこかのお姫様ってホント? ルミナさまって? ルミナちゃんとどういう関係?」
「もしかして?」
「もしかするとー?」
「もしかしなくても!」
「え、あ、えっとえっと、そのあの……!」
し、しまったーーー! 私、人見知りなんでした!
矢継ぎ早に繰り出される女の子たちの質問。牽制するつもりが、こちらのほうが好奇心の波に押し流されそう。しかも警戒心百パーの私に対し、悪意ゼロのキラキラお目目。まぶしい。ど、どどどどう対応すれば……!?
「わ、私はフィオレと言いまして、ルミナさまとは……ってそんなことより! な、なにがあったんでしょう?」
「おっとそうだった。気になるハナシはまた今度」
「えっと、落ち着いて聞いてね? ついさっきのことなんだけど……」
「あの、なんだかいつもフラ~ってしてるオーナーさんが――」
そんな風に前置きしてくれた女の子たちだったけど。
「――――広場で悪い人たちに捕まってるの!」
さすがに、落ち着いてはいられなくなった。
◇
「ちょ、ちょっと失礼します……! すみません……!」
野次馬をかき分け広場に辿り着く。かなりの人が集まっていた。町の住人や武器を手にした代行者さんたち。広場のテントで寝泊まりしていたと思しき商人さんたちも、離れた場所で成り行きを見守っている。
そして広場の中心には。
「くっくっく。このお嬢さんがどうなってもいいのかぁ!!」
「早くしないとヨォ? タイヘンなことになっちまうゼェ!?」
すごく定型な悪役セリフを宣う屈強な――たぶん男性の五人組と。
「あ……ミモリさん……!」
「だれか、た、たすけて~~~~」
彼らのリーダーらしき人に捕まりナイフを突きつけられ、身動きできず半泣きになっている我らがオーナーさんがいた。さっきたぶんとつけたのは、なんと五人全員が目のあたりに穴を開けた紙袋を頭に被ってたから。もしかして流行ってますそれ?
「い、いったいなにがどうなって……」
「あ、フィオレちゃん!」
「え?」
声を掛けられ振り向くと、二日前に仲良くなった代行者のお姉さん、セイランさんがいた。
「ここは危ないから離れた方がいいわよ! あたしたちがなんとかするから……」
「くそ、だけど人質がいたんじゃ……」
近くにはセイランさんの仲間たちも。どうやらミモリさんを救出しようとしてくれていたらしい。うかつに手を出せずに様子を窺っていたみたい。
とにかく状況がわからない。セイランさんに事情を聞いてみる。
「これはいったい……なんでこんなことに?」
「それがあいつら、あの捕まってる人――確か、喫茶店のオーナーよね? フラフラ歩いてたあの人をいきなり捕まえたかと思ったら、広場の真ん中に陣取ってフザケた要求をし出したのよ」
「ふざけた要求……?」
なんでしょう。やっぱりとんでもない額の身代金とか?
先に出て行ったはずのルミナさまがいないことを疑問に思いつつ、事態のさらなる進行に意識を奪われる。
「いいかッ! もう一度だけ言うぞッ! その耳かっぽじってよーっく聞くがいい住人どもッ!」
「我らの要求は、ただ一つッ!」
「ご、ごくり……」
親切にも、もう一回教えてくれるらしい。きっとすごい金額を要求されてしまうんでしょう。ぶるぶる。
と、戦慄していたら。
「――――牛肉と玉ねぎとジャガイモとブロッコリーッ! 塩と砂糖と胡椒と半分煮詰めたソースッ! それと絶対欠かせない赤ワイン…………え、なに? ……欲張りさんどもめッ! あと安さと旨さが反比例してる酒だッ! それらを今すぐ――――五人分持ってこいッ!」
…………………………………………え、なんですって?
頭を疑う。もちろん私のじゃない。次第に脱力していくのを感じつつ、リーダーらしき、なんか声だけやたらとカッコイイ人の口上を聞いてみることにした。
「我らはヘンリー盗賊団――――このお嬢さんの命が惜しくば、迅速にビーフシチューの材料を持ってくるんだな! ふっはははははは!!! あ、あと酒もね」
…………えー。
もしかしてツッコミ待ちなんでしょうか。一つといいながら十個も食材を要求してるし。
「くっ、なんて恐ろしい奴らなの……。そんなくっだらない要求をするために、女性を人質に取れるだなんて……!」
「ほんとですね」
呆れすぎて顔を歪めるセイランさんに同意する。
ヘンリー盗賊団。もしかしてここ最近、巷を騒がせているという山賊さんとはこの人たちのこと? こんな、おそろしくあたまがわるい人たちだったんですね。ショボい。
「どうしたどうしたぁ! 我らの恐ろしさに震えて声も出ないか! 正直こっちも寒くて震えそうだから早くしてほしいのだが!」
「ボスはヤルって言ったらヤル、ヤベェお人だからよ! 急いだほうがこのお嬢さんのためにあるから、マジで早くしてネ!」
よく見たら五人ともぶるぶる震えている。強化魔術を使っているようだけど、たぶん心礎がひとつだけなんでしょう。防寒にまで手が回らない様子。ちょっと情けない人たちだけど……
「ミモリさんを人質に取られてるのは、変わりませんし……」
何より恐ろしいのは、要求がショボすぎるのでさっさと渡してしまった方が早そうなこと。このままだと相手の思うツボです……!
なんか商人さんたちが面倒くさそうに食材を用意してる姿が見えて、悔しさと『まあ別にいいか』という諦観に歯噛みしていると。
「――――そこまでだッ!!! 悪党どもッ!!!」
どこからともなく、すごく聞き覚えがあって私の好みドンピシャな凛々しい声が響いてきた。こ、この声は……!
「な、なに!? だ、誰だ!」
盗賊団と野次馬の皆さんがきょろきょろ辺りを見回す。だけど声は上の方から聞こえてきた。全員が一斉に上を見上げる。すると。
「あーーーっはっはっはー! オマエたちはずいぶん運がないな! よりにもよってこのオレがいる時に、しかも知人を人質に取るだなんてなぁ!」
広場近くの民家の屋根に、ずびしっ、と突き刺すように盗賊団に指を向けている、夜色の長い髪を三つ編みにした素敵なお姿があった。つまり。
「安心しろ雑魚ども。命までは取らないでやる。その代わり――――社会的に死んでもらうぞ、変態盗賊団!」
『変態ではないッ! ヘンリー盗賊団だッ!』
なんかノリノリで悪党を煽りたおす、私のお師匠さまがいた。なにやってるんですか?




