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星の真理は切なくて、全てを滅するバ火力魔法!  作者: オマエもネコだニャ
第二章 変態どもへ捧ぐ、幻痛の天象儀
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11 使命と欲求の狭間で

 翌朝。年の終わり、想縁逢瀬の日の初日。

 昨夜の爆弾発言をサクっと脳内から削除し、私はルミナさまの部屋を訪ねていた。


「……いや。考えていたことって、これかよ」


 早朝の澄んだ大気。室内は暖房用の魔機具(マギア)のおかげで寒くはない。

 曇り窓には淡い青色。ぼんやりとした冷たさが、浮き足立つ気持ちを静めていく。


「はい。以前から少し、気になっていたので。いい機会かな、って」


 一応、接客業ですから。身だしなみはきちんとしないと。

 ルミナさまは私に背を向けるように椅子に座っている。その体はミモリさんにお借りしたシーツで包まれていて、端的に言うと蓑虫みたい。

 そこから頭だけ出し、いつも結んでいる髪は解いている。シーツの上に広がる夜の帳はため息が出るほど麗しい。心臓が爆発しそうになりつつも、丁寧に丁寧に、自前の櫛で梳いていく。


「まさか髪を切らせてほしい、なんて言い出すとは思わなかった。まあ、こっちは助かるけど」


 そう、昨夜ルミナさまにお願いした『考えていたこと』とは。

 ――――その伸び放題な御髪(おぐし)を、私に整えさせてください、ということだったのです!

 

「ご安心ください。バッサリ切るつもりはありません。そんなもったいな――こほん、もったいないこと出来ませんので」

「言い直せてないぞー」

「こほんこほん、とにかく。私、手先は器用な方ですから。絶対に絶対、おかしな風には致しません」

「…………いやまあ。前に自分で髪切ってるの見て知ってるけど」


 私はいつも自分で髪を切っている。手先が器用だから――というわけではなく、単純にお店に行って切ってもらうのが恥ずかしいからです。人見知り万歳。

 霧吹きでルミナさまの髪を少し濡らし、ヘアカット用の鋏を手に取る。……昔、お母さんに買ってもらった、ちょっとお高いやつです。


「それでは――――覚悟はよろしいですかルミナさま」

「覚悟いるのかよ不安になってきた」


 ごめんなさい間違えました。覚悟するのは私のほうでした。

 ふう、と深呼吸。なにせ他人の髪を切るのは久しぶり。お母さんと――あと、マイクお父さんの髪を実験台にしたとき以来。言っときますけど、ちゃんと喜んでくれましたよ? "あまりに迷いなくスパスパ切るから()()()()切られてるのかと思った"……って。どういう意味でしょうね? なんか頭をペタペタ触ってましたけど。


「…………」


 工程を脳内で試案する(シミュレート)。これより断ち切るは、秘かに思慕を寄せるお方の御髪。緊張に手が震える。失敗は、断じて許されない。

 さっきルミナさまにも伝えた通り、大きく髪型を変える気はない。毛先を整えて、あとは……前髪をどうしよう。

 ルミナさまはいわゆる目隠れ美少女――ではなく美少年です。いつも右目側が長い前髪で隠れてしまっている。

 ちゃんと見えてるのかな、と心配になることもある――ルミナさまに聞いたら問題ないらしい――けど。正直、すごく神秘性マシマシで素敵です。

 夜色の髪がふわりと揺れて、金の瞳がチラリ。それこそ雲間に隠れた月が姿を現すかのような光景に、いっつもドキッとさせられちゃいます。……でも。


「前髪。少し短くしますね」

「ん。いいぞ」


 やっぱり好きな人のお顔は、しっかり見たい。切り過ぎないよう注意して……よし。

 作業工程は把握した。それではそろそろ――征きましょうか。

 震える手を覚悟でねじ伏せ、視線は真っ直ぐ標的を見定めて。鋏を、入れていく。


 ちょきん。

 最初の一断ち。あとは流れるように。

 ちょきちょきと、さくさくと。

 星が散るように艶やかな夜色の髪を裁断していく。


「――――――」


 自分で言うのもなんですが、すごい集中力だと思います。だって鋏の駆動(おと)どころか自分の呼吸(おと)すら聞こえない。

 ルミナさまは目を瞑っている。私が散髪を提案した時はなんの抵抗もなく受け入れていたけれど。


「…………………………」


 よく見ると、ちょっと顔が赤い。やっぱり同年代の女の子に髪を弄られるのは気恥ずかしかったのでしょうか。

 そして当然、同年代の男の子の髪を切るなんて初体験な私も、ものすっごく恥ずかしい。それでもこうしているのは、体の内から湧き出る使命感に燃えているからです。バーニンです。つまり。

 ――――私は! ルミナさまの! さらさらツヤツヤな髪を感情の赴くまま弄り倒したい! ……と。あれ、それただの欲求ですね。


「…………ふ、ぅ」


 息を吐き集中を切る。あとはもう仕上げの段階。

 毛先を綺麗に整えて、長すぎた前髪もある程度の長さは維持しつつも、以前よりぐっとそのお顔が拝見しやすくなった。――ふふ、もう誤魔化しは利きませんよ、そのあかーいほっぺが丸見えです――なんて。ミモリさんみたいなことを考える私。実はちょっと興奮気味です。

 さてと。あとは最終確認をしたら、細かい毛を魔術か魔機具(マギア)で吹き飛ばしていつものように結んであげて――と。

 そこまで考えた時。


「――――――――!!!」


 私に、電流が走る――――!!!

 閃いてしまった。思いついてしまった。神のお告げを聞いてしまった――いえそれは違いますね。私のお手柄です。神サマは引っ込んでてください。

 そう、そうです! 普通に髪を結んだだけじゃつまらない。私の欲……使命感は満たされない。

 ミモリさんも言っていたじゃないですか。”結ぶ位置を変えてみたり”――って。


「…………ルミナさま。細かい毛を飛ばしたら、髪を結んで差し上げますので。もう少し、じっとしててください」

「え、いやそこまでは……ま、まあ。それじゃお願いしようかな」


 困惑した様子だけれど受け入れてくれるルミナさま。ちなみにまだ目を瞑っています。どうしてでしょう?

 とにかく好都合。さくっと済ませてしまいましょう。細かい毛を飛ばしていた魔機具(マギア)を止め、作戦実行。ぱぱぱっと閃きを現実にしていく。さすが私、あっという間です。


「終わりました。どうぞ、鏡で確認してみてください」

「ん、ありがとうフィオレ。どれどれ……」


 手鏡を渡す。ようやく目を開けたルミナさまは自身の変貌をしげしげと見つめ、


「………………うん。さっぱりしている。しているけど……聞いていいか?」


 ジト目で私を睨んだ。


「――――()()()()()()()()()()?」


 おっと、そこに気づくとは。さすがですねお師匠さま。一目瞭然? そうですね。

 その通り、私はなんとなんと。

 ルミナさまの長い髪をただ結ぶのではなく、可愛らしい三つ編みにしてしまったのです。天才の発想……!


「当然、似合うと思ったからです」


 しれっと答える私。だってそれ以外にないので。そしてルミナさまなら。


「……まあ、確かに似合ってる」


 あっさり受け入れることも想定済みです。もう、自信家なんですからー。

 とはいえさすがにルミナさまにとって初めての髪型。少し不安な様子。


「似合ってるけど、ちょっと()()()()じゃないか? 一応、オレ男だからさあ……」

「ご安心ください。男性が三つ編みでもおかしくはないと思います。ルミナさまならなおのこと。胸を張って皆さんに見せびらかしてください」

「いや見せびらかさんけど。……まあ、おかしくないならいいか。とにかくありがとう。掃除はオレがやっとくから」


 私も手伝います、という間もなく、ルミナさまはパパっと魔術も使いつつ掃除を終えてしまった。ルミナさまって、家事全般得意なんですよね。手慣れているというか。


「よし。じゃあ朝食を済ませたら外に行くか。戦闘訓練、したいんだろ?」

「! はい! よろしくお願いいたします!」


 ――――ちなみに。


「ふおぉぉぉぉぉぉ!?!?!? み、三つ編み……! 激カワ男の娘の三つ編みスタイルとか……! と、尊い……! あ、鼻血でた」


 新生ルミナさまの姿を見たミモリさんは大興奮でした。気に入ってくれたようで、何よりです。でもルミナさまに近づかないでください。なんか、ルミナさまが汚されそうです。

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