5 紙袋は万能!
「さあ。えんりょなく。好きなトコ座っていいよ」
きっと私たちは疲れていたんでしょう。明らかに怪しい人物に誘われるがまま、これまた怪しい建物の中までついて行ってしまったのです。
…………だって、寒かったんですもん。
「ここ……喫茶店、でしょうか?」
不審者に案内された場所は、薄暗いけど飲食店の体をなしていた。
等間隔に並べられた六つのテーブル。二人用の椅子が向かい合わせに置かれているので、単純計算で二十四人のお客さんを収容可能と思われます。
テーブルの上にはメニューと思しきリーフレット。あとはナプキンと……煙草を吸う人用の灰皿。店の奥にはキッチンらしきスペースも。
壁には何やら前衛的な絵画が掛かっていて、店内の薄暗さも相まってちょっと不気味。それ以外の調度品は年季入った風でなかなかセンスあるのに、あれ一つで全体の調和が台無しになっていた。
……誰でしょう、あんなキモ……変な絵飾ったの。
「あ、あれ? あたしが買ってきたやつ。お店で見て一目惚れした。ビビッときたの。飾ったらなんかキモくて失敗したなぁって」
「いや外せよ……」
手近な椅子に座るルミナさまのツッコミにも動じない女性。さすがにもう紙袋は被っていない。
私たちを言葉巧み(?)にここまで連れてきた不審者さんは、ぱっと見二十歳くらいの薄紫色の髪の女性だった。
あんまり手入れしてないのが丸わかりなセミロングの髪。見る人を脱力させるほど垂れ下がった眉と、こちらは濃度高めな紫の瞳。全体的に気力というものが感じられず、口調もなんだか投げやり……というか抑揚がない。
有り体に言って。なんか変な人だった。
「そういえば名乗ってなかった。あたし、ミモリ。ミモリ・フェンネル。よろしくね。君たちの名前、教えて?」
「あ、えっと、私は――」
「ちょっと待った」
名乗ろうとしたところをルミナさまに制止される。
「んー? どうしたの? 名前、わかんないと困る。可愛い君とカワイイ君って呼ぶしかなくなるよ?」
「なんだその呼び方。他にあるだろ。いやそんなことはどうでもよくて。……さっき言ってたこと、どういう意味なのかまだ聞いてない」
「さっき?」
「だから。オレたちをアンタの家に泊めてくれるって話」
そう。つい先刻、町の通りで声をかけてきた女性――ミモリさんはそう言って、私たちをここまで連れてきたのです。
正直、怪しいことこの上ない。それでもここまでついてきたのは、ひとえに町中で野宿は勘弁という切実な願いと、何かあっても私たちならすぐ逃げられるから、という理由。ミモリさんの誘いに乗る前に、二人で相談して決めたのです。
そして、ルミナさまの質問に。
「――――――――」
ミモリさんは何故か、固まってしまった。……あれ? やっぱりヨコシマな考えを……? と、少し警戒していたら。
「――――――オレっ娘だ」
「は?」
ユルユルたれ目をキラキラさせて、ミモリさんはルミナさまにガバッと詰め寄った。な、何事!?
「すごい。君、オレっ娘なの? 初めて見た。初めて出会ったよ。すごいすごい。レアリティ高い。あたし、すごく感激してる」
「え、いやちょっ、ちがっ」
「ねえねえ、サインちょうだい? こんな可愛くてキレイなオレっ娘に出会ったって、みんなに自慢してくる」
「一瞬でフードをはがれた!? 自慢ってなに言ってんだ――てか、手を掴むな!」
さっきまでの無気力さはどこへやら。ルミナさますら面食らうほどの機敏さで、フードの下のお顔を拝みつつその手を掴んでいる。
――――私の、ルミナさまの、手を。
「ああ、でも色紙ないや。どうしよう……そだ、この紙袋に書いてもらおう」
「………………」
「紙袋って便利。顔も隠せるし、サインも書いてもらえる。……もしや、万能アイテムなのでは?」
「……………………」
「ん、なんか入ってる。果物と野菜? 誰、こんなの入れたの。邪魔。……よし、全部出た。それじゃあ君、ここに――」
「…………………………あの」
片手で紙袋から中身を取り出しつつも、ルミナさまの手を離さない不届きもの。ついに私は我慢出来なくなり、
「――――いい加減、その手を離して下さい」
抑え込んでいた魔力を解放した。
「ひい!?」
「ちょっ、フィオレ!?」
瞬間、竦みあがるミモリさん。でも手を離してくれない――どころか、ルミナさまにしがみついて――!?
「あ、あわわわわ……」
「く、くっつくなアンタ! 離れろ! フィオレも、落ち着いて……そ、そのままだと窓、割れる!」
「――――――はっ」
ルミナさまの指摘に我に返る。確かに私の魔力に共鳴したのか、窓ガラスがビリビリと震えていた。慌てて魔力を抑え込む。……ゆっくり、震えが収まっていく。
あ、危なかったです……窓が割れてたら冷たい風にひゃう! ってなるところでした。深呼吸、深呼吸……ふう、落ち着きました。
いつの間にかミモリさんもルミナさまから離れている。まったくもう、気をつけて下さい。
次、そんなことしたら……どうしてくれましょう?




