2 ドキドキ! 二人旅!
そんなこんなで。ルミナさまと旅に出て、はや二週間。
街の外を旅するのは、お母さんとその後輩の女の人と一緒にコルトスまで引越しした時以来。
当時は旅のあれこれはお母さんや後輩さんがやってくれていたので、まったく気にしていなかったのですが……
「――――魔機具って、便利すぎません?」
便利すぎるのでした。
旅である以上、一日で街に辿り着くことばかりじゃない。街道の途中、なんにもない草原のど真ん中で野宿をしなくてはならないことも、もちろんある。
そういう時に魔機具の有難みを骨の髄まで刻み込まれるのです。ありがたやー。
「ルミナさま。夕飯の支度が出来ました」
「ありがと。そんじゃ、いただきます。…………」
「ど、どうでしょうか?」
「ん? そうだな……。特におかしなとこはないけど特筆するような味でも無し。有り体に言って――普通」
「………………(しょぼん)」
まず料理。私とルミナさまは魔術で火を出すことは出来ます。でも料理の間中ずっと魔術を使っているのは、さすがにしんどいものがあります。
そこで取り出したるはこの、火を起こせるプレート状の魔機具。各家庭にもあるだろうソレの小型版。調理器具と食材があれば、これに載せて魔機具を起動するだけでどこでも温かい料理が作れちゃいます。
「あ、川がありますよルミナさま。水を汲んできてもいいですか?」
「落ちないようにな。……お、魚泳いでる。そういや最近食べられてないな……」
「獲りましょう」
「は? いや釣り具はな――ってえ! なんで川に飛び込む!? この季節じゃ風邪ひくわ! ホントにこの子はもー!」
ほかにも水を綺麗にできる魔機具もあります。川の水や、どうしようもないときはなんと雨水さえも、その魔機具でろ過すればいつでも綺麗な水が飲み放題です。
お風呂と洗濯はちょっと難しいですが、私たち魔術師は魔術で出したお湯をざばーっと被り、風でぶおーっと服を乾かせるので、そこは魔術師の勝ちですね。いちおう、濡れた髪を温風で乾かせる魔機具もあるので普段はそっちを使ってますけど。
……魔術で出した水は飲めるのか? 飲めますけど喉は潤いません。そのあたりはまた別の機会に。
「それじゃおやすみフィオレ。なんかあったらすぐ呼べよ」
「はい。………………あの。一緒のテントならそんな心配はないのでは、ってルミナさま? 聞いてます?」
そして極めつけはテント。なんとなんと! 魔力を込めるだけで勝手に組み上がるのです! しかも、簡易の魔獣除け結界まで展開する至れり尽くせり。
魔獣に全く襲われない、とまではいきませんが、あるとないとでは大違い。ちょっとやそっとじゃ壊れないくらいの強度はあるので、魔獣蔓延る街の外の夜に安らかな眠りを提供してくれます。
まあ、でも。
「…………………………あ、あの、ルミナさま……」
「ん-? ……ああ、お手洗いか」
「も、もう! ルミナさま!」
こればっかりは、どうしようもありませんけれど。
一応、周囲からの視線を遮る魔術をルミナさまに教えてもらいましたが。
「ぜったい、こっち来ちゃだめですからね!」
「わかってるわかってる」
ルミナさまからは物凄く離れなきゃいけないのは変わりません。うう。
「ルミナさま。あれを出してもらえますか?」
「どれ? ……わかった。ちょっと待って」
ちなみに旅に必要な数多くの荷物は、ルミナさまが持っています。いえ、持っているというか……
「えーっと…………あ、あった。はい、フィオレ」
「ありがとうございますルミナさま!」
これはコルトスから旅立つ時に教えてもらったんですが。
どうやらルミナさまは、魔法の中になんでも仕舞えるみたいなのです。
ルミナさまがコルトスの我が家に滞在することになった時にも思った疑問。――――ルミナさまはいったいどこに荷物を持っていたのか? その答えがそれでした。
”いや、他の魔法使いがどうだかは知らないけど。魔法って要するに自分ルールの究極だからさ。もしかしたら出来るって思ったら物質も放り込めるんじゃないかなーってやってみたら、出来た。すごく便利。むしろこれがオレの魔法なのかと錯覚するくらい”
実際、大量にある荷物を持ち運ばなくていいのはすごく楽です。食材なんかも仕舞っておけるので、旅の途中にひもじい思いをすることもありません。
なので私の荷物も、すぐに必要になるもの、大事なもの以外はルミナさまに預けているのですが……実はちょっとしたひと悶着があったり。それもまた、別の機会に。
もちろん魔獣に襲われることもあります。だけど。
「――――よっと!」
「が、がんばってください~~……」
ルミナさまと一緒なら、へっちゃらです。
いつものように魔法で出来た星の剣――ルミナさま曰くカタナというらしい――を振るい、それこそ流星の速さで魔獣たちを斬り伏せていく。私はただ、応援しているだけです。楽なもんです。
私はまだ攻撃魔術を教えてもらってない――というより、
”絶対、オレの許可なく使おうとするんじゃない”
お師匠さまが許してくれないので、お預け状態です。ルミナさまに貸してもらう魔術書も町の書店で買うものも、そういった戦闘関連の書籍は除外されている徹底ぶり。
なので、未だに魔獣との戦闘経験のない私だったりします。そのことに少しの安堵感と、同時に微かな焦りのような感情も胸に燻ってしまう。
――――私はいつか、お母さんに死の呪いをかけた魔人を殺す。
それがこの旅の目的の一つ。
私の大好きなシルヴィアお母さんを苦しめた魔人は、絶対に許さない。ぜったいにぜったいです。
魔獣なんかよりはるかに強い、常識外の存在。そんな化け物を倒そうとするならば、もっともっと強くならなければならない。そのためには攻撃魔術は必須。……まあ、とは言っても。
ついこの前まで戦場とは無縁の生活を送ってきた私。ただの街娘にとっては、私に傷一つ付けられない魔獣と相対することすら、普通に怖い。
……少しづつ、一歩ずつ、進んでいくしかありませんね。
というわけで。今のところ、割と快適な旅を満喫している私たちだったりします。
◇
「――――お、あれがグランディオ山脈か」
つい先日ようやく、垂れ流しにしていた自身の魔力の制御法を覚えた私。お馬さんに怯えられることもなくなり、馬車に揺られながら次の街を目指す私たちの視線の先には。
――そびえ立つ急峻な岩山の群れ。
視界の端から端まで埋め尽くすその山々は、それこそ巨人がその身を横たえているかのよう。
白い岩肌がむき出しのその威容は大自然の峻厳さと、どこか崇高さすらをも見るものに叩きつけてくる。
あれこそは大地が作り上げた、雄大豪壮な天然の関所。私たちが暮らす、エクスマキニア国随一の長さを誇る――グランディオ山脈です。
そしてその足元にある町が、私たちの次の目的地。魔獣対策の壁に囲われた――あれ?
町の周囲にテントがたくさん張ってある。……なんでしょう、あれ。




