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星の真理は切なくて、全てを滅するバ火力魔法!  作者: オマエもネコだニャ
第二章 変態どもへ捧ぐ、幻痛の天象儀
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1 教えてルミナさま! そのいち

 馬車に乗れませんでした。そんな。


 十二の月(テルティア)の二十七日。寒さが厳しくなり、もう冬と言っていい透き通った空の下。

 記念すべき私の旅立ちの日、隣街まで向かう商人さんの馬車に便乗させてもらおうと思ったら……


「うおおおお!? ど、どうしたお前ら!? き、急に暴れて……!」


 馬車をひく二頭のお馬さん。大事にお世話されているのがわかる、綺麗な毛並みとたくましい筋肉。精悍ながらも愛嬌を感じさせる顔をしたその子たちは。

 ……私たちが近づくと、急に――怯え出したのです。というか私が、ですけど。


「……やっべ、そういや忘れてたな……今から訓練はさすがに時間が……」

 

 ちらりと私を見やり頭を押さえるルミナさま。……も、もしかして、これって。

 "ぶっちゃけあなた、すごく怖いわ"

 ウェンディさんの言葉を思い出す。埒外の存在である魔人に匹敵するという、私の魔力。それをこの子たちも感じて……? い、いえ待ってください。

 人間だけではなく。動物も私を怖がるということは……?


 『アルベド君トラウマ製造機』。いつかどこかで、そんなたわ言を耳にした気がしなくもない。

 真っ白ふわふわ、笑っているようなお口がとってもチャーミング。小さい頃、私と追いかけっこをして遊んでくれた、本当にワンちゃんなのかと疑うくらい大っきな体のアルベド君。私の唯一のお友達。

 追いかけっこの最後にはいつも、その背中に乗せてくれたけど。……なぜかプルプル震えているような気がしたのは――いえやめましょう。きっと、誰も幸せにはなれません。


「……あ、あのー。こ、怖くないですよー……ひぃ!?」


 威嚇された。こわい。いえ怖がっているのはお馬さんのほうですが。

 お、おかしいです。私、王都からこの街に引っ越して来たときも馬車を乗り継いできたんですよ? あの時はなんともなかったのに……いったい、なにが違うって……あ、そういえば。

 あの時。この街に初めてやってきたときのこと。お母さんが()()がどうとか言っていたような……?

 

「すまねぇあんたたち。この様子じゃ……」

「……ですよねー」


 そんなわけで。

 徒歩で隣街まで向かうことになりました! 私の門出~~。



      ◇



「ルミナさま。――魔法って、なんですか?」


 街道を歩く。隣街までなら徒歩でも日が暮れる前に辿り着ける、ということで頑張って歩きます。

 周囲に魔獣の姿はない。魔獣の大量発生の原因だったアイオーンは打ち倒した。元々、このあたりは比較的魔獣の出現が緩やかなので、なんとも平和な風景です。


「魔法? 前に説明したじゃん。皆使えるって。心象(スフィア)がそうだよ」


 草原を渡る風は凍えるように冷たい。ルミナさまに買ってもらった、黒を基調とした旅装束の上からお揃いの灰色の外套を羽織っていても、やっぱり寒い。ルミナさまに倣ってフードで頭を覆いつつ、気になっていたことを訪ねたのですが……

 

「ウソです。あんなのが心象(スフィア)だなんて信じられません。どう考えても、それ以上の――どころか、そもそも人間の力じゃないと思います」


 不滅の魔人アイオーンとの決着に使用された、ルミナさまの星の魔法。

 心の力を別の現象に変異させる魔術とは違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()としか思えない不可思議現象。その中で起きたことなんか、もはや夢でも見ていたのかと疑ってしまうくらい有り得ない出来事だった。


「いったい、魔法ってなんなんですか? どうして、あんな事が出来るんですか?」

「……それはまあ、なんというか…………はあ」


 ため息をつく魔法使いさま。何かを諦めたように。


「しょうがない。じゃあちょっとだけ、オレがわかる範囲で教えてあげよう」


 むむ、やっぱり何かを隠していたんですね。いけずなルミナさま。でも教えてくれるなら許してあげます。


「まず。オレが魔法を使える理由は――ぶっちゃけよくわからない。気がついた時には使えていた。師匠から軽く説明があったけど……これはフィオレには関係のないことだから割愛」

「えー」


 と思ったらまた隠し事です! もうもう! ぐももーっと見つめる。


「そんなに見つめても教えません。……本当にフィオレには関係ない話だから。それよりも魔法についてだけど。心象(スフィア)がそうだと言ったのは間違いじゃないけど少し違う」

「少し違う……?」


「ああ。魔法使いが使うのは心象(スフィア)じゃなくて――――"真理(イデア)"、と言うんだ」


 ――――真理(イデア)

 そういえば、あの時ルミナさまが魔法を使う際にもそんな言葉を口にしていた。『イデア・アクセス』と。


「それって……?」

「名前は違うけど、心象(スフィア)と同じく心の力なのは変わらない。だけど――使い方が違う」


 少し言葉を選ぶような間を置き、ルミナさまは魔法の真実を語り出した。


「ざっくり言うと()()に繋げるんだよ。魔術が心を具現化するのに対し、魔法は()()()()()()を書き換えるのさ」

「……世界を、書き換える?」


「そ。この世界にも真理(イデア)があって、そこに自分の真理(イデア)を接続し一時的に上書きする。()()()()()()()()()()()()()()()()、って言ってもいいかな。技術(スキル)の行使ではなく、法則(ルール)の更新。だから()()って言うわけ。もちろん、なんでも出来るわけじゃない。

 ――――心に刻まれた原風景。遠く彼方に過ぎ去っても消えない真実。そういう、その人だけの()()が、魔法として発現する……らしい」


 ……世界、ときましたか。

 ということは、世界が別の世界に変わる、という私の感想はあっているみたい。

 形成(セット)ではなく接続(アクセス)。世界の中心に向かって手を伸ばす……みたいなイメージでしょうか。

 そうすることで魔法は世界を塗り替える。ルミナさまにとっては……


「あの星空が、ルミナさまの真理(イデア)、ということでしょうか?」

「……ん……まあ、うん」

「ルミナさま?」


 なんだか様子がおかしい。あんまり聞かれたくないことだったのでしょうか。少し俯いてしまいました。

 ――何かを、悲しむように。


「……え、えっと。そ、そういえばあの魔法。すごかったです。アイオーンを倒した光」


 話題を変えよう。今度はちゃんと話したいこともある。

 アイオーンを光の中に消し去った魔法。星天すべてが渦を巻き集束していく光景。お母さんと一緒に見つめた幻想。今も私の心に焼き付いている。


「いつも使っている白い剣や、流れ星みたいな攻撃も魔法なんですよね? でもあの時のは、それとは比べものにならないくらいで……」

「ん? ああ、あの欠陥魔法かー」

「はい! その欠陥魔――なんて言いました?」

「欠陥魔法」

「………………はい?」


 ………………欠陥? あの、とんでもない攻撃が?


「いやあれ、使いどころがないんだよ。そりゃあ、破壊力は申し分ないけど、そもそもあんなの使わなきゃ倒せない敵なんていない。しかも発動クソ遅いし。それなら普通に剣でぶった切るか、魔術で吹き飛ばしたほうが早い」


 ………………えー。

 身もフタもないことをおっしゃるお師匠さま。


「オレの魔法ってそんなんばっかでさ。バカみたいに火力偏重なの。いや小さい頃に開発したから、ついついロマンに走っちゃって。師匠にも呆れられたよ。"オマエ何と戦うつもりなの"って」

「で、でもアイオーンには……」

「あっはっは。それオレが一番びっくりした。"え!? まさかコレに使いどころが!?"――ってさ。発動遅いのは変わらないから、動かないように煽ってみたり。アレ、発動中は身動き取れなくてさぁ。いやー、上手くいって良かった良かった」


 ――あっ!? あの時なんか挑発的だったのって、そういう理由なんですか!?

 いま明かされる衝撃の事実! つ、つまりあの時アイオーンが挑発に乗らなかったら…………いえ。

 それはもう、考える必要のないことですね。不滅の魔人の最期を思い出す。


「……ただ……」

「? ルミナさま?」

「あ、いや。いまさら言うのもあれだけど、()()()()()()()()()って」

「はい?」

「あの時、二人を不安にさせたくなくて余裕綽々みたいな態度を取ったけどさ。正直、攻撃が通るかは半信半疑だった。アイツが使ってた魔術。石化――に見える何か。オレにはあれがどんな魔術なのか、まるで理解できなかった。そもそも魔術なのかどうかさえ。……だから正直、普通に倒せて拍子抜けだったんだよな」

「………………」


 アイオーンが使っていた、自身を停止させる魔術。――『永劫墜落果てなき停滞タナトスタシス・アイオーン』。

 あれは、ルミナさまにもわからないものだった……? それなら。


「……超克魔術(テスタメント)

「いきなりどうしたフィオレ。遺言がどうかしたか?」

「…………遺言?」

「? 今そう言わなかったか?」

「あ、い、いえ何でもないんです。気にしないでください」


 ――――どうして私には、あれが()()()()()()だとわかったんでしょう……?

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