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外伝 フィオレさん、コルトスに立つ!

「――――……さあ、フィオレ。降りていらっしゃい」


 エクスマキニア国、東方の街コルトス。

 魔獣の被害が少ない故、一際発展したこの街に降り立ったのは一人の女性。

 白い髪と細い体。初老、と呼ばれる年齢を少し過ぎたくらいの容貌。今にも消えてしまいそうな雰囲気を纏いながらも、内に秘めた強さを見るものに確信させる――シルヴィア・バニングスである。そして。


「あ、ま、まってくださいシルヴィアさま」


 シルヴィアの後に続いて馬車から降りてきたのは小さな少女。

 薄桃の、のちにある少年によって桜色と評される髪と宝石のような赤い瞳。可憐、という言葉を擬人化したかのような容姿と、儚くも気品らしきものを携えている。

 そして――――見るものに()()()()()()を与える少女こそ。フィオレ・バニングス、七歳くらい――だ。


「わあ……すごく、大きなまちですね、シルヴィアさま。ここが、シルヴィアさまの故郷なんですか?」

「ええ、そうですよ。そして、これから貴女が暮らす街です。どうです? 気に入りましたか?」

「えっと、えっと、うーん……わかんない、です。ひとが多そうで、ちょっとこわいかも、です」


 そう言いつつ、少女はシルヴィアの体に縋りつく。


「あらあら、貴女ったら。やっぱり人見知りなのですね。……ここはたくさんの人が行き交う街。ちょっとずつ、慣らしていきましょうね」

「う~~……はい」


 返事をしながらもフィオレは離れようとしない。街道で倒れていたところを拾われ、王都にて休養していた時も少女はシルヴィアにべったりだった。片時も離れようとせず、少しでもシルヴィアの姿が見えなくなると、不安から泣き出してしまうほど。

 そのたびにシルヴィアは、『大丈夫ですよ、(わたくし)はここにいますよ』と少女の手を握って落ち着かせてきた。

 今ではそこまでではないが、甘えん坊なのは変わらない。そしてシルヴィアもそんな少女が愛おしく、同時に少し悲しくなってしまう。


 ――――少女には、昔の記憶がない。

 シルヴィアが少女を見つけた時、今にも餓死してしまいそうなほどやせ細っていた。その上、自分がどこから来たのか、両親はどうしたのか、果ては自らの名前さえも少女は持ち合わせていなかった。

 読み書きは出来る。簡単な算数だって。だけどそれをいつ、だれに教えてもらったのかがわからない。

 人は日々を過ごし、他者と関わり、記憶を積み重ね自己を織り上げていく。逆説、自分を自分たらしめているのは、歩んできた記憶(みちのり)そのものだ。  

 

 フィオレにはそれがない。その小さな体はがらんどう。積み重ね織り上げた自己(なかみ)はすでに死に、何もないのに体だけが生きている。

 故に空っぽのフィオレには拠り所とするものが何一つなく。自らを助けてくれたシルヴィアに、縋るしかなかったのである。


「………………」

「? シルヴィアさま?」


 急に頭を撫でられたフィオレは、戸惑いながらも嬉しそうだ。表情の変化が乏しいと言われがちなフィオレだが、シルヴィアにとってはそんなことはない。

 今、フィオレは満面の笑みを浮かべている。シルヴィアにはそう見えている。その笑顔を見るたび、衰え切ったはずの体から、とてつもない力が湧き上がってくるのを感じた。

 ――自分の全てをかけて、この子を守ろう。そう、誓いを新たにしていると。


「ふひー! やぁーっと着きましたねえ先輩!」


 馬車から底抜けに明るい声が聞こえてきた。


「いやーさすがに遠い遠い! 色々ともー疲れましたぁー」

「アーシャ」


 姿を見せたのは金色の髪と青い瞳の若い少女。

 二十歳に届かないくらいだろう。人懐っこい笑顔は実年齢よりも幼く見え、張りのある声と賑やかな口調も相まって、『元気、有り余ってます』と自己主張しているかのようだ。

 その元気娘こそシルヴィアとフィオレに付き添い、その旅をサポートしてきた人物。

 アーシャこと、アルシェイラ・ルーエン。日々、魔獣魔人その他人々に害を成す存在と戦う、魔機技研(ラボラトリー)戦闘部門期待のルーキーにして、シルヴィアの元後輩である。


「……って、ああ! 違います違います! 別にここまで来るのがイヤだったワケでは……!」

「そんなこと疑ってませんよ。むしろ、申し訳ないのはこちらのほう。……本当にごめんなさいね。こんな辺境までついて来てもらって」

「いいんですよそんなの! 誰あろう、先輩の頼みですから!」

「ですが……」


 ちらりと、しがみついたままのフィオレを見る。


「この子の為にずっと、結界魔術を使っていて疲れたでしょう? 貴女がそうしてくれなかったら、馬車に乗ることすら出来なかったのですから」


 そう。馬車に乗ることが出来ない。

 フィオレが他者に与える威圧感の原因。その小さな体に秘めた強大な魔力。

 それが魔術に明るくない人間をも無条件に畏縮させ、のみならず動物にすら影響を与えてしまう。


 ――――有り体に言えば。

 馬がビビって暴れ出してしまうのである。


 それを解決したのがアーシャの結界魔術。フィオレの周囲だけを結界で囲い、その漏れ出し放題な魔力を押さえ込むことに成功。晴れて馬車旅を満喫することが出来た、というわけだ。

 その立ち居振る舞いからは想像出来ないほど精密な魔術行使。外見の能天気さからは全く結びつかない変異式(コード)への造詣の深さこそ、アーシャが期待のルーキーと言われる所以だ。


「さすがですね。結界で魔力を漏れ出ないようにする、なんて発想。(わたくし)では思い付きもしませんでした」

「そ、そんな~。誉めすぎですよ先輩……もっと誉めてくれてもいいですけど、えははー」

「……本当、人を見た目で判断してはいけませんね」


 尊敬する先輩から誉められ体をクネクネさせる金色のニヤケ顔。やれやれ、とため息をつきながらも、シルヴィアは心の中で感謝の念を送る。


「まー、あたしもフィオレちゃんには苦労して欲しくなかったですし。どーでしたかーフィオレちゃん? 馬車の旅は?」

「……………………」

「うーん、縮まらない距離感。そして膨れ上がる威圧感。あれ? やっぱりあたし、フィオレちゃんに嫌われてます?」

「こら、フィオレ? ちゃんとアーシャにお礼を言わないと」


 そうして促された人見知り少女は。


「あ、ありが……とう……ご、ござ……」


 生まれたての雛鳥だってもっと大きな声で鳴くだろう、と思ってしまうくらい、か細い声でお礼を言った。


「もう……この子ったら」

「あはは、いいんですよ先輩。ちゃんと聞こえましたから。……うーん、先輩はフィオレちゃんのそばにいても、なんの威圧感もないんですよね?」

「え? ええ、そうですね。この子の尋常ならざる魔力は、感じているのですが……特に怖いなどとは」

「そうですかー……。やっぱりそれはフィオレちゃんが先輩のこと、大好きだから、ですかね?」


 ねー? と同意を求めるが、ふいっとシルヴィアの後ろに隠れる少女。


「……あうぅ。けっこう長い間、一緒にいたんですけど……ダメでしたか。まあ、あまり無理させるものではないですね! それじゃあ、先輩、フィオレちゃん。――あたしはこれで」

「え? あ、アーシャ?」


 突然、背中を向けて歩き出したアーシャ。予想もしなかった後輩の行動に、シルヴィアは困惑を隠せない。


「も、もう行ってしまうのですか? 少しはこの街で休んでいったら……」

「いえ。早く王都に戻らないと行けませんし。あたし、まだまだ未熟者ですからね。もっとたくさん勉強しないと。……それに」

「それに?」


「――――――――惜しく、なっちゃいますから」


「――――アーシャ」


 恐らく。この脳天気が服を着て歩いているような少女にも、わかっているのだろう。

 ――――これが、今生の別れになることを。

 だからこそ、努めて明るく振る舞っていた。この旅を、悲しい思い出にしたくなかったから。

 そしてその意地ももうおしまい。……もう、これで、おしまいなのだ。


「あ、先輩に頼まれてた件。フィオレちゃんの素性については、友達とかにも手伝ってもらって調べてみます」

「……時間がある時で構いませんよ」

「はい、そうします。何かわかったら、手紙を書きます。わからなくても書きます。だから――……ちゃんと返事、くださいね」


 アーシャは背中を向けたまま、最後の別れを告げる。


「――――さようなら。あたし、先輩に――シルヴィアさんに、出会えて良かった」

「……はい。(わたくし)も、アーシャに出会えて、本当に良かった。――またいつか、どこかで」


「……っ! はいっ、先輩! お元気で! またいつか、どこかでお会いしましょう!」


 そうして。

 かつて、ある女性に命を救われた少女は、街道を駆けて去って行った。

 ――――果たされない約束を胸に。誰にも見られないよう、零れた涙を、風にさらわせながら。



      ◇



 懐かしい故郷を二人、歩いていく。

 シルヴィアがこの街を離れて十年。短くはない時の流れで、街の景色も様変わりしているかと思いきや。


「……知らないお店もありますが、ほとんど、記憶のままですね」


 自分にとっては長い十年で、大きな変化をもたらした日々だった。だが街の光景が大きく変わるほどの年月ではなかった。

 そのことに自身の自惚れを指摘されたような心地になりつつも、やはり久しぶりの故郷に胸が弾むのを止められない。

 旅行カバンを転がしながら、歩き慣れた大通りを見て回る。フィオレはキョロキョロと視線を動かして、なんだか楽しそうだ。


「シルヴィアさまシルヴィアさま」

「どうしました、フィオレ?」

「あの、わたしたちの家はどこにあるんですか?」


 この街で暮らしていくのだから、当然家が必要。そのことはシルヴィアもわかっているし、そもそも自宅があるのだからそこに行けばいい。だけど。


「えっと……そう、ですね」


 シルヴィアはいまいち、自宅へ足を向ける気にならなかった。

 その家に住んでいた祖母はもう、シルヴィアが魔機技研(ラボラトリー)に勤めている間に他界したと、昔の友人からの手紙で知っていた。

 シルヴィアは早くに両親を亡くし祖母に育てられてきた。あまり他人と関わりたがらない偏屈な老婆で、そのくせ薬師として街で名が知られている、という変わった人物だった。


 シルヴィアがその魔術の才を買われ魔機技研(ラボラトリー)にスカウトされた時も猛反対された。なんなら友人にも反対されたし、もう一人の朴念仁からは"君のしたいようにすればいい"、なんて曖昧なアドバイスをもらって腹を立てたりもした。

 結局、ケンカ別れみたいになってしまったが。……シルヴィアは今でも、あの時の選択が正しかったのか、わからないでいる。


「……それじゃあフィオレ。(わたくし)が昔住んでいた家に、行きましょうか」


 今、あの家を管理しているのは、()()シルヴィアにとって会いたくない二人の友人。ばったり、鉢合わせになる可能性を考えて足が向かなかったが……こうして街をうろついていても始まらない。

 それにどちらにせよ、二人には会わなければならない。この小さな少女の未来のために。覚悟を決めて街の北西に向かう。


 ほどなくして。街壁に設置された扉まで辿り着く。

 フィオレは不安そうにしている。大丈夫ですよ、と安心させシルヴィアは街の壁に面した森に足を踏み入れた。

 ――――懐かしい匂い。聞こえるのは木々のささやきと、小鳥たちの歌声だけ。

 壁一枚隔てた向こう側は活気に満ち溢れているのに。まるでここは、祈りを捧げるような静寂に包まれていた。魔獣に襲われる危険を冒してまでここに居を構えた祖母の人嫌いぶりに、シルヴィアは苦笑する。


「…………」


 少し、過去を偲ぶ。

 正直な話、シルヴィアは祖母のことが苦手だった。大して興味の無かった薬草学をイヤイヤ学ばされたし、褒められるよりも怒られた記憶の方が多い――どころかそれしか思い出せないくらいだった。

 ……とはいえ。


「あの人のおかげで不自由なく暮らせましたしね……」


 墓前に花くらいは手向けに行こう。シルヴィアはそう思いながら、森の中をフィオレと歩いて行く。


 壁の扉から家までは遠くない。すぐにシルヴィアの記憶にある通りの自宅が見えてきた。


「あ! シルヴィアさま! あれがシルヴィアさまのお家ですか?」

「ええそうですよ。そしてこれからは、貴女の家でもあります」


 木造の、二階建ての家屋。祖母と暮らしていた時も広すぎると感じていた。フィオレは気に入ってくれるだろうかと目を向ければ、瞳を輝かせている。


「気に入りましたか?」

「はい! なんだか、すごく……えっと……おもむき? があって、すごいです!」

「ふふ、それは良かった」


 自らがかつて育った家を、この子は気に入ってくれた。そのことが何だかすごく嬉しいと、シルヴィアは胸の内を温かくしながら、同時に緊張しつつ玄関の扉に手をかける。

 ――――果たして、友人たちはいるだろうか。管理しているといっても住んでいるわけではないはず。いきなり鉢合わせたりは……などと。

 シルヴィアが高を括っていた矢先。


「…………来客のようだ。俺が行こう…………」

「!?」


 家の中から、男性の声が聞こえてきた。

 思わず固まるシルヴィア。知らない人の声が聞こえて後ろに隠れるフィオレ。そんな風にまごついているうちに、


「どちら様だろうか――――む?」


 扉が開け放たれた。

 顔を見せたのは、ぱっと見だと三十台後半くらいの男性。茶色の短髪と鍛え抜かれた体。シルヴィアの記憶にある姿よりも、いっそう逞しくなっている。そして、本人も気にしている強面は変わらない。

 この男性こそシルヴィアの幼馴染にして、もっとも会いたくなかった朴念仁。

 ――――現在二十七歳。マイク・ガーランド、その人である。


「……………………」

「……………………」


 しばらく二人で見つめ合う――――いやシルヴィアはすぐさま顔を伏せた。

 理由は単純。今の、自分の姿を見られたくなかったから。

 というよりも、マイクには目の前の女性が誰かわからないだろう。それくらいシルヴィアは変わり果ててしまっている。――――だけど。


「……………………シルヴィア、か?」

「っ!?」

「いったい、どうしたんだ、その……いやとにかく「人違いです」家の中に――ってなに?」

「人違いです」

「いや、君はシル」

「人違いです」

「ヴィアってまだ何も言ってないのだが……」


 顔を伏せたまま否定し続けるシルヴィア。後ろにいるフィオレは大好きな女性の変貌ぶりにオロオロしているが、それも気づかない。


(わたくし)、シルヴィアなんて名前ではありません。そんな、天才美人魔術師とは無関係です」

「なにを言っているんだ君は……」

「ここへは……そう。迷子になっただけで、全く知らない家です。ここに住んでいた偏屈なババアとは縁もゆかりもございません」

「いや知っているじゃないか……」

「だって……だって……」


 シルヴィアは完全に混乱してた。それもそのはず。だって。


「――――どうして、わかるのですか」


 こんなにも自分は変わり果ててしまっているのに。


「――――どうして、気づけるのですか」


 こんなにも自分は貴方と違ってしまっているのに。


「どうして…………!」

「いや、どうしてと言われても……」


 マイクは目の前の女性が何を言いたいのかわからない。なので、わからないからとりあえず。


「――――わかるから、としか。とにかくおかえり、シルヴィア。疲れたろう? 家の中に入るといい」


 自分の大切な友人の帰りを喜んだ。


「う……うあぁぁぁぁぁ……!」

「お、おいどうした?」

「し、シルヴィアさまっ!?」


 泣き崩れるシルヴィア。狼狽える朴念仁。目の前の男性を敵と認識した少女。

 三者三様の混乱模様。先手はフィオレから仕掛けた。


「お、おお、おじ、おじさんっ! シルヴィアさまをいじめないでくださいっ!」

「おじ……!? 俺はまだ二十七なのだが……。いやそれよりも、この子は……?」


 シルヴィアの後ろに隠れていた少女は、どう見ても七歳くらい。だというのに。


「なんだこの圧力は……。というか、まさかこの子は――――」


 そうして朴念仁は、ある意味当然の盛大な勘違いをする。


「シルヴィア。まさか君の子供か? 向こうで結婚していたのか」

「し、していません! (わたくし)、まだ未婚です!」

「し、シルヴィアさまはわたしが守りますっ! どっか、行ってくださいっ!」


 やいのやいのと大騒ぎ。先ほどまでの静寂はどこへやら。そしてさらに。


「おーいマイク―? 騒がしいが、どちら様が来てんだー?」


 家の中から女性の声。白衣を翻し玄関までやってきたのは。


「――――ジュディ」


 紺色の髪にすらりとした長い足。くわえ煙草の眼鏡をかけた女性。

 シルヴィアのもう一人の友人。ジュディ・オネット、二十七歳。現在は街の診療所に医者として勤めている。

 ジュディは玄関先でへたり込むシルヴィアの姿をみとめ。


「な――――先、生?」


 ポロリと、くわえていた煙草を落とした。


「いや、違う……先生はもう……ということは、まさか――――シルちゃん?」

「! ジュディ、貴女まで……」

「シルちゃんなんだろ!? なあ!」


 駆け寄って跪きシルヴィアの肩を掴む。そうして顔を見つめ、その女性こそが十年前に別れた友人だと確信し、


「だから私は反対だ、って言ったんだ!!」


 思い切り抱き締めた。


「どうしたんだよシルちゃん……なんで、こんな……!」

「ごめ、ごめんなさいジュディ……本当に、ごめんなさい……!」


 なんて、細い。

 自分の友人は、果たしてこんなに悲しい軽さだったろうか。ジュディは胸が張り裂けそうになりながら、まずなによりも伝えなくてはならないことがある、と涙をこらえる。


「ああ、謝らないでおくれ。私は、あんたが帰って来てくれて嬉しい。だから……だからさ」


 ジュディは体を離し、大切な友人の顔をまっすぐ見つめ。


「――――おかえり、シルちゃん」


 再び出会えた奇跡を、神に感謝した。


「っ、さあさあ! こんなとこで立ち話も……いや立ってないけど。とにかく家の中へ入ろう。掃除とかは私らがしといたからさ」

「いや、ほとんど俺一人だろう。お前はサボりに来てただけ……」

「ぐすっ……と、というかジュディ? ここは禁煙、火気厳禁ですよ……」

「おっといけないバレちまった。まー問題は起きてないからさ。大目に見てよ」


 ――――変わらない。

 十年経っても、友人たちは何も変わっていない。この街と同じ。変わり続けていても、残るものが確かにある。そしてそれはシルヴィア自身も。だから。


「――――マイク。ジュディ。ただいま、戻りました」


 昔と同じ笑顔で、シルヴィアは友人たちに笑いかけた。



      ◇



 そして、十年来の友人たちの感動の再会は。


「え、ちょっと待ってよ……この子まさか――――シルちゃんの子供!? 向こうで結婚してたんか! マイク、あんた振られてんじゃん!」

「なにを言ってるんだジュディ。俺は、別に……」

「だから、違いますから!」

「あ、あうあう……」


 最後まで、騒がしいものとなるのだった。



 ――――今はもう色褪せた記憶(ユメ)

 こうして、誰でもなかった小さな少女は。

 眩いばかりの優しさの中。いつか花開くことを願われた。

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