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0 幕間 異天の下の奇跡
小さな頃のこと。
私にとって夜の星々は、見知らぬ誰かの墓標だった。
他愛のない子どもだまし。幼い日にのみ許された、命の終幕の真理。
もちろん、すぐにそれは嘘だと気づいた。
気づいていながら、見上げていた。
冷たくなった手のひらの記憶とか。
一人きりで過ごす部屋の静寂とか。
そんな、どうしようもない現実を受け入れるためにではなく。
その眩いばかりの軌跡に見惚れるように。
ただ静かに、星空に追悼を捧げ続けていた。
……でも一つだけ。今でも不条理だと感じることがある。
――――幕が下りた後にキラキラ輝くなんて。
なんというか、ずいぶん、意地の悪い話だと思うのだ。
「………………ぁ」
深い夜。凍る空。自由落下。
砕けた鼓動。止まる呼吸。薄れる意識。
満天の星空の下、私はひとり、瞼を落とす。
走馬灯はとっくにエンドロールに。
胸には空虚な残響。ならば未練は微塵もない。
夜の帳は下りた。私もあの光のように、遠い過去になるとしよう。
別に悲しくはない。強がりでもない。
だってこんなにも――左手が温かい。
一人きりの最期に、小さな奇跡がこの手にある。
もしかしたら。
――――優しい誰かが、手を握ってくれていたのかもね。




