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15 頑張りの報酬多すぎぃ!

 と、そんなわけで。

 ひと通り大騒ぎしたあと、やっと本題に入れました。


「はい。これが巨人(ドール)の討伐報酬よ。一応、確認をお願いね」

「……うん、確かに。ありがとうございます、ウェンディさん」

「いいえ、こちらこそ。……あと、さっきはごめんなさいね、ルミナさ……ルミナくん。私、暴走しちゃって……」

「わかってくれたのなら。ていうかオレの代行者登録、ちゃんと男になってるはずですけど」

「――――あ」


 ルミナ様の指摘にはっとしつつ、口に手をやるウェンディさん。それ、気づいてなかったんですね……

 ウェンディさんは誤魔化すように、


「テへっ☆」


 と舌を出し、自らの頭を拳で軽くコツンとした。可愛いので許してあげます。いえ被害を被ったのはルミナ様ですけど。


「えーっと……」

「……ルミナ様?」


 なぜか一度数えた紙幣を、また数えだしたルミナ様。……どうしたんでしょう。

 半分くらいを数えたところで、片方の束を懐に仕舞い、もう片方を手に私に近づいて来て、


「ほら。これ、フィオレの分ね。……シルヴィアさんには内緒だぞ?」


 ぽんと手渡してきた。…………え?


「えぇぇぇぇ!?!?」


 驚きすぎて、普段出さないような大声で叫んでしまう。それもそのはず、ルミナ様が手渡してきたお金は。


「いえっ、あ、あのあのっ! こここ、これっ!」


 私にとっては、とんでもない大金だったからです。

 数えるまでもない。一枚一枚は薄っぺらい紙でありながらこの厚み。私のお小遣い何ヶ月分、なんてレベルじゃない。

 間違いなく、普通に働く人のお給料何ヶ月分レベルの金額……! こんなお金持ったことありません……!


「どどどどうしてでしょう!? なんで、こんなっ!?」

「あー、落ち着けー。別におかしなことじゃないだろ。そのために一緒にここへ来たんだし」

「えっ? あっ!?」


 こ、このお金を渡すために連れて来たんですか!? 

 確かに、報酬を受け取るだけならルミナ様一人でいいのに、と不思議ではあったけれど……


「で、でもっ。私、なんにもしてないです……!」

「いやしたじゃん。ルーリィさん守ってくれたろ?」

「――!」

「いやまあ。恥ずかしい話だけど、あの時オレも気を抜いてたからさ。危うくルーリィさん、死ぬとこだったし。フィオレが来てくれて助かったというか……そのお礼? みたいな。あ、だからと言ってあんな無茶を許したワケじゃないからな? 勘違いして突っ走らないように」


 正直頭がクラクラしてしまって、ルミナ様の言葉が耳からすり抜けていたけれど。

 ルミナ様が私の無謀の結果に、ちゃんと報いようとしてくれたことはわかった。


「まあ、別に家で渡しても良かったんだけど。……シルヴィアさんに怒られるかもだし」

「ははは。ならそれはタンスにでも隠しておくといい。こっそりな?」


 ミゲール団長が朗らかに笑いながら、私に優しく語り掛けた。


「改めて。お前が頑張ってくれたおかげで、俺の仲間が救われた。本当に感謝する、フィオレ」

「でも、あんな無茶はもうだめですよ? 助けてもらっておいて言うのもなんですけど……あはは」

「――――――可憐な花よ。その蛮勇に、無上の感謝を……」

「お前こういう時くらいフツーに喋ったら?」

「どうもありがとうございました」

『フツーに喋った!?』


 他のみんなも口々に、私の無謀を――健闘を称える言葉を投げかける。

 たぶん私、顔が真っ赤になってたと思います。すごく恥ずかしくて、逃げたくなるくらいで……でも同時に、口元が緩むのを止められなくて。


「……えへへ……」

 

 やっぱり、一生懸命頑張ってよかったと、心の底から思ったのです。

 札束の厚みは非現実的だけど……実は願ってもないことだったりする。なぜなら。


「……これで、シルヴィア様の誕生日プレゼントも……」


 そうなんです。大好きな人の誕生日が近いんです。

 お小遣いは手数料マイナス分、戻って来てましたけど。予算内で、となるとなかなか難しいものがあった。

 ですがこれだけあれば、どんなものでもプレゼントし放題です!


「シルヴィアさんの誕生日?」


 ルミナ様が私の呟きに気づき声をかけてきた。


「あ、はいそうなんです。もうすぐなので……」

「……いつ?」


 ……えーっと、いまが十の月(ディース)の十五日だから……


「あと一か月後です。十一の月(イオニア)の十日で……」

「……一か月。……そうか」

「ルミナ様?」

「……ああいや、オレもなにか用意しようかと思って。なにがいいかな……」


 どうやらルミナ様も誕生日を祝ってくれるらしい。すごく嬉しい。嬉しい……けど。

 ――――それなら。どうしてそんな悲しそうな顔をするんですか? ……ルミナ様。


「お、そうだ。なあ! お前も参加しないか?」

「団長? 何にだ?」


 仲間内で話をしていたミゲール団長が話を振ってきて、ルミナ様はそちらに顔を向ける。……もうさっきの表情は完全に消していた。


「いや実はな。街の北東方面に馬車の残骸らしきものを発見したんだが……」

「馬車? それって……魔獣に襲われたとか?」

「恐らくな。どうやらどこぞの商人の物だったらしく、積み荷があちこちに散らばってしまってるのさ」

「ちなみにその商人とやらは?」


 団長は首を横に振った。ということはその人は……


「遺体は、見つかってないがな。なんにせよ、現れないということはそういうことだろう。なんでせめて遺品でも回収してやろうと思ったんだが、これがまた広範囲でな」

「発見した中には芸術品や宝石、魔機具(マギア)なんかもありまして。そのままにしておくのももったいないので、人海戦術であらかた回収してしまおう、となったんです」


 ルーリィさんが団長の言葉を引き継いだ。なるほど……つまり、散らばった積み荷の回収を手伝ってほしい、ということですか。

 この場にはミゲール団長の仲間以外の代行者も、多数いる。あの人たちも参加するんでしょう。ルミナ様はどうするのかな、と様子を窺っていたら。


「……ふむ。それなら、フィオレも一緒に連れて行っていいか?」


 お師匠様は思いもよらないことを言い出した。……え、私、ですか?


「……なに? いやまあ、湧き出してきている魔獣をあらかた片づけてから、回収班に出張ってもらうつもりではあるが……」

「いえ団長。さすがに危険では? ()()の存在も危惧されているわけですし……」

「……え、魔人?」


 ルーリィさんから飛び出した背筋が凍るような単語を聞き、さぁっ、と血の気が引く。


 ――――魔人。

 ヒトと同じ姿形をしていながらヒトでないモノ。

 高度な知性、逸脱した精神構造、超絶の身体能力を持つ理外の生命体。

 ()()()()()()使()()()という魔人は、魔獣なんかとは危険度が段違いらしい。積極的に人に危害を加えたりはしないそうだけれど、ただの気まぐれで一つの街を壊滅させた、なんて逸話もある。

 

 よって、人々の間では魔人はこういう認識をされている。

 ――――この世の理不尽の象徴。自然災害そのものだ、と。


「でもよぉルーリィ。いっくら探しても魔人の()の字も見つからねぇじゃん」

「魔獣の()の字は見つかってるじゃないハインツ。それもうんざりするくらい。……でもそうね。もしかしたら、魔獣大量発生の原因かもと思ったのにね……」


 なにかの本で読んだ気がする。魔人が存在する周辺では、魔獣が発生しやすくなるって。


「当然、オレがこの子のそばにいるよ。それに今のフィオレに傷をつけるのは、魔人だろうが至難の業だ。たぶん大丈夫だろう。……ああ、その魔獣の露払い、オレも同行するから」

「……いいのか? こちらは助かるが」

「人手は多い方が早く終わるだろ。それに、こういうのもフィオレにはいい経験になる。……なるべく、オレがそばにいる間にいろいろさせときたいんだ」

「……ルミナ様……?」


 今の言葉。"オレがそばにいる間に"ということは。

 ……やっぱり、いつかはこの街を去ってしまうのでしょうか。

 ――嫌だな。ずっとこの街に……私とシルヴィア様のそばにいてほしいな。


「そんな顔しないフィオレ。しばらくはここにいるつもりだから。シルヴィアさんとも約束したし」


 私の沈んだ表情を見て、ルミナ様は苦笑しつつも優しく諭してくれた。

 シルヴィア様との約束。そういえば初めて家にルミナ様が来たときも、私の知らない間に仲良くなっていた。……いったいどんな話をしていたのでしょうね。


「さて。話はまとまったな。それじゃあ俺たちは先行して魔獣を排除する。終わったら戻って来るが、どれくらいかかるかわからない。回収担当の代行者はそれまで好きに過ごしてくれていいぞ」


 団長の号令でルミナ様たちが出発する。他の代行者たちはここに残る者、一度協会を出て行く者に別れた。

 私はどうしよう……あっ、そうです。もらったお金、家に置いてこよう。こんな大金持ったままだと安心できないし。


 そうして一度家に帰り、こっそりタンスにお金を仕舞いつつ、シルヴィア様に大まかな報告をしてから協会に戻った。その間、約三十分。

 協会に戻ったあとはウェンディさんと雑談を少し。協会や代行者のことについていろいろと。……それが十分ほど。合計四十分、そのわずかな時間ののちに。

 みんなが帰ってきた。


「ど、どうしたの? こんな早く……」

「……いや、なんというか」


 ウェンディさんの問い掛けに呆けたように返事をする団長さん。いったい、なにが――と思ったのも束の間。


「――すごかったな」

「いやスゴすぎだろ」

「――――――一騎当千。そのすごさ戦神のごとし」

「ダンナってすげえな……」

「ええ……怖いくらいすごいです」


 団長さんたちの反応でだいたいの事情を察する私。ああ……そういう……

 詳しく話を聞くと、どうやらルミナ様がとんでもない速さで縦横無尽に走り回り、魔獣という魔獣をあっという間に殺し尽くしてしまったらしい。さすがすぎです。

 その後、まさかこんなに早く帰って来るとは思っていなかった代行者さんたちを呼び戻し、予定通り積み荷の回収に出かけた。

 ほとんど体力を消耗していなかったミゲール団長たちも参加して、想定よりも圧倒的に早く散らばった積み荷を回収する事ができた。


「食品系は駄目ね……この感じだと二カ月以上は経ってるかしら」

「あ、ルーリィさん! あっちにもなにかあります!」

「はーい! 今行きますね――って、一人で走って行ったら駄目ですよフィオレちゃん!」

「おーい! こっちも手伝ってくんねぇ? なんか高そうな壺やら悪趣味な像やら、ゲージュツっていうの? がたくさんあってさぁ……って、あれ? ルーリィ? 嬢ちゃん? え、無視? ……寂しい」

「……はあ、しょうがない」

「だ、ダンナ……!」


「オレもフィオレを手伝うか」


「オイィィィィィッ!! なんでフェイント入れたァァァァァァッ!!」

「え、なにが? いやフィオレのそばを離れるわけにいかないし……」

「そうだったネ! チクショウ!」


 ……ちょっと騒がしかったけれど、本当は少し楽しかったり。

 多くの人と何かを成し遂げること。いままでなんの興味も持っていなかったこと。

 いろんな人と話して、拙い言葉で気持ちを伝えて。自分の世界がいかに狭かったかを知った。……確かにいい経験になったと思う。ありがとうございます、ルミナ様。


 ルミナ様が来てから本当にいろんなことが変わった。シルヴィア様を助けてもらって、魔術を教わって、たくさんの縁を結んでもらった。

 そうして、ルミナ様が街に来てから十日目のこと。協会より出された『魔獣の発生が激減している』という吉報が、瞬く間に街を駆け抜けた日のこと。


 ―――――私の日常は完全に崩壊した。

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