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14 ルミナ様はオトコノコ?

「な・ん・で・す・ってーーーーーーーーーーー!!!!??」


 これから依頼に臨む代行者たちの声で活気づく、朝の協会にて。

 その受付嬢たるウェンディさんの、窓ガラスを砕きかねない絶叫が響き渡った。


「とうっ!」


 またしても華麗にカウンターを跳び越えこちらに――というか、ルミナ様に肉薄するウェンディさん。もしかして、いつもああやって移動してるんでしょうか?


「どどどどどどういうことっ!? 説明! 説明してルミナさんっ! 今すぐ早く(ハリー)!!」

「おおおお落ち着いてください、ていうかブンブン揺らさないで……」

「落ち着いて!? ムリムリ! 落ち着けるわけないでしょうがふざけないで! だって……だって!」


 荒れ狂う美人受付嬢さん。ルミナ様の肩をがっしりと掴んで振り回している。

 どうしてウェンディさんがこんな凶行に及んだか、というと――――


「ルミナさんっ! あなた――――男の子なのっ!?」


 まあ、そういうことなんです。

 そもそもの発端。私たちが協会に来た理由は単純です。

 ”あ、そういや報酬受け取ってなかった。”

 昨日の墓送りの巨人(グレイブドール)討伐の報酬をもらっていないことに、ルミナ様が気づいたからです。


 朝食の後、なぜか私も一緒に来るようにとルミナ様に言われここまで来て。

 ミゲール団長さんたちもいたので朝の挨拶を交わして。

 するとあろうことかハインツさん(スキンヘッド。非モテ。彼女募集中)が、


「る、ルミナちゃん、だっけ? 今日時間ある? 良かったら一緒に食事でも……」


 とナンパし始めたのです。ルミナ様の手を取って!

 ――――は? いきなり何言ってるんでしょうこの非モテ私キレそう。

 突然の事態に未熟な私は心をかき乱し拳を固く握り、その光害みたいな脳天に赤い天幕でもかけてあげましょうと画策してしまうけれど、そこはさすがのルミナ様です。


「いやオレ男だけど」


 とても落ち着いた態度で不埒な輩を鮮やかに叩きのめし。


「は?」

「え?」

「――なに?」


 さらには協会中の人間を混乱の渦に叩き落したのでした。


「な・ん・で・す・ってーーーーーーーーーーー!!!!??」


 そしてウェンディさんの絶叫に繋がるわけです。


「……ちくしょう。……こんなことって、あるかよ……ッ。"ふへへ、めちゃつよ美少女とのボーイミーツガールキタ……ッ!"って期待、しちまったじゃねえか……ッ」

「――――――諦めろ。貴様には……主人公(ボーイ)は無理だ」

「頼むっ……ルミナのダンナっ! 今からでも遅くねぇ! "冗談です、ホントはあなたのことが好きな可愛いオンナノコです♥"って言ってやってくれっ……! コイツ、生涯独身(非モテ)なんだっ……!」

「いやまだ生涯独身と決まったわけじゃねぇよ!?」


 膝から崩れ落ち両手を地面につけ咽ぶハインツさんと、それを慰めるオスカーさん(メガネ。カッコつけ。言動が変)とビクトールさん(大柄。優しそう。苦労人ぽい)の二人。

 そういえば一昨日、私が依頼を受けるようお願いした時に、告白される五秒前みたいな態度をとってたのもこの人たちだった。たぶん三人は仲良しなんでしょう。いわゆる三バ……こほん、何でもありません。


「そ、そうか……男だったのか。俺はてっきり……」

「わ、私も勘違いしてました……」


 ミゲール団長とルーリィさんも驚きに目を見開いている。そのほかの協会内にいた代行者たちもざわついていた。みんながみんな、ルミナ様のことを可愛い! 女の子だと思っていたらしい。

 ……まあ、私もだったんですけどね。


「ちょっとウェンディさん離して……ふう。えっとそれで……なんだっけ? 冗談かどうかって? …………ふむ」


 ウェンディさんの手から逃れたルミナ様は三馬鹿に向き直り、思案する素振りを見せる。ちなみにウェンディさんはワナワナと震えながら固まってしまいました。


「えっと……ハインツだっけ?」

「な、なんだよ……」


 蹲るハインツさんに近づきしゃがみ込むルミナ様。なにをするのか、と思った矢先――


「――アハっ! 冗談ですよハインツさんっ! ワタシ、見てのとおり女の子です! こんな可愛い男の子、いるわけないじゃないですか!」


 朗らかに微笑み、思わずときめいてしまうような可愛い声でとんでもないことをのたまった――ってなんですか今のーーーーーーーーーーー!?!?!?!


「ごめんなさい……ちょっと恥ずかしくて。アナタみたいな人、初めてで……」

「えっ……(赤面)」

「ホントはワタシ、ハインツさんのこと……」

「えっ……(期待)」


「――――なーんてウッソでーす、男でーす」


「テメェェェェェェェェェッ!!! 今すぐブッ殺してやるァァァァァァッ!!!」

「くっはっはー!!」


 愛らしい笑みは意地の悪いものに。山の天気のようにコロっと表情を変えたルミナ様は、『コイツあっさり騙されてやんの』とでも言いたげに可笑しそうに笑っている。

 ……びっくりしました……ルミナ様、けっこうノリがいいというか、子供っぽいことするんですね……そういえば、ウェンディさんにもそんなことしてましたし。


「いやキレすぎだろ。なにその恋人の仇を目の当たりにしたみたいなセリフ」

「ザッケンナァァァァァッ!! んな状況になったことなんかねぇわァァァァァッ!! ……だって彼女いたことないし」

「――――――惨い。貴様……魔性の物、だったのか……!」

「本当にあんまりだぜ……! こいつ非モテだって言ったじゃんか!」


 さめざめと泣き崩れる非モテ。守るように寄り添う二人。見苦……こほん、美しい友情です。だけど魔性のルミナ様には届かないご様子。


「いやいや最初に男だって言ったじゃん。――ごめんねぇ? 彼女いない暦=年齢(非モテ)には刺激、強かったよねぇ? 期待させちゃったかな?」

「このガキ……!」

「――――――その可愛い声をやめろ……! 秘められし業が、覚醒し(めざめ)てしまう……!」

「ちくしょう……! 非モテだからってバカにして……! 俺だっていつか、可愛い彼女が出来るはずなんだ……!」

『それはない』

「うぉーいお前らァン!」


 きしし、なんて声が聞こえてきそうなほどおちょくり倒すルミナ様と、息ぴったりの三馬鹿。

 ……なんだかちょっと楽しそうですね。でもルミナ様? あんまりふざけてると天罰が下りますよ――なんて思ってたら本当に下ったみたいです。


「動かないで」

「へっ!?」


 硬直から回復したウェンディさんが、ルミナ様を後ろから羽交い絞めにする。……ってなにやってるんですか!?


「ちょっ!? ウェンディさん離して……ってか、くっつかないでください……!」

「あら。くっついたらいけないの? なにか問題があるのかしら――いいえないわ! 胸とかいろいろ押し付けてるけど、全然問題ないわね! だって私、まだあなたが男だって信じてないもの! ――いえよく考えたら、それはそれでいいんじゃないかしら。アリよりのアリなんじゃないかしら! 何はともあれ、確かめないと始まらないわよね!」


 わあ、ウェンディさん目が血走ってます。

 狂乱の受付嬢さんはルミナ様を拘束しながら、器用にその体をまさぐり始めた。


「お姉さんに任せなさい……あなたの真実は、私の手で証明してみせる……!」

「はあ!? だから男だって言ってるじゃ……ってぎゃーーー! どこ触ってんだアンターーーっ!」


 完全に正気を失っているとしか思えない所業。その吐息は熱を帯び、艶めかしく体を這いずる指はルミナ様の――――って。


 ――うん。それはさすがに、ウェンディさんでも怒りますよ?


「あ、あの。ルミナ様、嫌がってます」

「良いではないか良いではないかー……って、ひぃ!?」

「ウェンディさん、もうその辺にしてほしいです……じゃないと、私――」

「え、フィオレ、さん!? 今まで以上のこの圧力(プレッシャー)……! や、()られる!? 私、()られちゃうーー!?」


 やられる? なんのことでしょう。

 よくわからないけれど、ウェンディさんは逃げるようにルミナ様を解放してくれた。

 

「た、助かった……ありがとうフィオレ」

「い、いえ、私はなにも……ただその」

「ん?」

「ルミナ様ならすぐ振りほどけたと思うんですけど……どうして、されるがままだったんでしょうか」

「……え!? い、いやその。ほ、ほら。怪我させたらいけないし? うん、そんだけ」

「…………そうですか」


 ぐももーっと見つめる私から逃れるように、目を逸らすルミナ様。顔が赤い。

 はあ、と思わずため息をついてしまう。半分は安心から。もう半分は、不満を伝えたくて。


「……やっぱりルミナ様、男の子なんですね」

「だからそう言ってるだろぉ!」


 恥ずかしさから上擦った声で叫ぶルミナ様。その顔は赤いままで、周囲はやっぱり騒がしくて。

 いままで経験したことのない朝に、私は少しだけ、楽しい気分になってしまうのでした。


 ……それと、ルミナ様から極力離れないようにしよう。なにかあったら大変ですし。いえなにが、というワケではないんですけどね。こほんこほん。

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