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13 愛情をたくさん注げば

 わたし、フィオレです! たぶん八さいくらいだとおもいます!

 大好きなシルヴィアさまといっしょにくらしています。マイクおじさんも、家はちがうけどまいにち会いにきてくれます。とってもしあわせです! たのしいです!


 ……でも、気になることがあります。大好きなシルヴィアさまと、おじさんのことです。

 

 ふたりはとってもなかよしです。ときどきわたしにはわからない話をしているので、ヤキモチをやいちゃいます。こんがりです。いいきつねいろ? です。


 とはいえわたしももう、八さいくらい。いいオトナです。しかも、かしこいんです。どこで覚えたかはわからないけど、文字も、算数も、さいしょから知っていました。えっへん。


 そんな、かしこいわたしにはわかります。そう、ふたりは……あ、ああ、愛しあってるんです! きゃー!

 知ってます、『としのさカップル』ってやつです。ステキです。そーしそーあいなんです。


 かんちがいじゃありません。だって……ふたりとも。

 わたしに向けるまなざしと、おたがいを見つめるまなざし。……種類がちがうんです。

 そこに込められた――想いの種類が。


 だけど念のため。そう、念のためです。確認しようとおもいました。

 シルヴィアさまは……たぶん、ムリです。聞いてもきっと、"ふふ……さあ、どうでしょうね?"といって、はぐらかすに決まっています。もう三年もいっしょなんですから、わかってます。


 ――だから、ねらうべきは。

 ぶきようで、口べたで、聞いたらうっかり答えちゃいそうな……マイクおじさんです! かくごしてください!


 ”おじさんはシルヴィアさまが好きなんですか”


 ストレートに聞きました。ど真ん中ぼでぃねらいです。いろいろ吐いちゃうハズです。

 あんのじょう、あわてふためくマイクおじさん。ちょっとおもしろいです。さらにツイゲキをかけてみましょう。


 ”シルヴィアさまとケッコンしないんですか”


 思いっきり吹きだしちゃいました。おお。くりてぃかるひっと、です。

 すぐさま否定するおじさん。おうじょうぎわが悪いですね。もうネタはあがってるんです。


 ”ふたりとも、とってもなかよしです。それはお互いのことが、す、すきっ、だからですよね”


 あらためてコトバにすると、なんだかハズカシイですね。でも、悪いことなんかじゃありません。ごまかす必要なんて……と、おもっていたら。


 ”違う。俺とシルヴィアの仲が良いのは……”


 マイクおじさんが、ふたりがなかよしな理由をおしえてくれました。

 そのあと、わたしは。


 ――――泣きながらシルヴィア様の胸に飛び込み、何度も何度も『ごめんなさい』と謝ることになりました。

 


      ◇



 ――――目が覚める。懐かしくて、取り戻せない夢を見ていたようです。

 

 最近、私は泣き虫になってしまったらしい。ちゃんと顔を洗わないと。

 窓の外には鳥の囀り。胸の中には消えない痛み。頬を伝い落ちる、夢の名残。

 そのすべてを、柔らかな朝日が包み込んでいる。

 ……なにはともあれ、今日も恥ずかしくないように頑張ろう。


 着替えをしてすぐさま洗面所へ。今度はちゃんとノックをしてから中に入る。誰もいない。よし。

 顔を洗い、髪を梳き、おかしなところがないか入念に確認。……うん、これでルミナ様に会っても大丈夫です。ばっちりです。

 あとは朝食の準備を……と思い台所を覗くと誰もいない。二人とも、まだ起きていないんでしょうか。

 早足でシルヴィア様の寝室に向かう。もしまた体調を崩されていたら大変です。先生を呼ばないと。


「――――あれ?」


 だけれどそれは杞憂だった。寝室はもぬけの殻。シルヴィア様の姿は部屋のどこにも、ベッドの上にもない。

 ということはもう起きているはずで……お手洗いでしょうか、と部屋を見渡していたら気づいた。


「……杖がない」


 シルヴィア様が外出するときに使っている杖。二年ほど前のシルヴィア様の誕生日に、私とマイクおじさんがプレゼントしたもの。

 私としてはそれを贈っていいものか、すごく悩んだのだけれど……シルヴィア様は満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。喜びすぎて最初のころは、”汚したくないのです”となかなか使ってもらえなかったりしたんですけどね。


「……あ、花壇でしょうか」


 再び早足で庭へ。育てている薬草の様子を確認しているのでしょう、とアタリをつけたら大正解、シルヴィア様は庭にいた。

 ……残念。少し違いました。シルヴィア様が見ているのは薬草ではなくて、趣味で育てているお花の花壇でした。

 その手にはジョウロが握られている。水をやりながら花たちに話しかけていた。こんなに朝早くから……寒くないでしょうか。また体調を崩されないか心配です。

 とにかく挨拶をしよう、と近づいて、


「――――あ」


 朝日の光が少し、目に入るのを感じて、


「――……? おや、フィオレ」


 くらりと、眩暈が――――

 

「……フィオレ? どうしたのですか。またそんなぼーっとして」

「…………あ」


 いけない。またシルヴィア様を心配させてしまった。

 えへへ……ごめんなさい。ただ単に朝日が目に入って眩しかっただけなんです。


 そう、それだけ。

 別に何にも見えていないし。

 特に何にも気づいてないし。

 だから何にも理解してない。

 それなら大丈夫。いつも通り元気よく挨拶をしましょう。

 ああ――――それにしても、本当に眩しくて。

 ()が、焼け落ちてしまいそう。


「な、何でもないんです。ごめんなさい。……こほん。おはようございます、お――――……こほんこほん。お花の様子はどうですか、シルヴィア様」

「……ふふ、はい。おはようございますフィオレ。ちょうど水をやっていたところなんですよ」


 シルヴィア様は笑っている。いつも通りの朝の挨拶。…………いつも通り、ちょっと、情けない。


(わたくし)が臥せっている間、貴女がお世話をしてくれたおかげで元気ですよ。ほら」

「それなら良かった…………え」


 促されて花壇を見やる。そして、

 

「……シル、ヴィア様。これ……」


 そこにある惨状に言葉を失った。


「はい? どうしましたか?」


 一昨日まで私が代わりにお世話をしていた花たち。愛するお方が我が子のように育てていた可愛いお花たちは、ああ、なんということでしょう。


「――――また、やっちゃったんですか?」


 その愛するお方が持つジョウロによって――びっちゃびちゃの、ぐっしょぐしょにされてしまっていたのです!


「えっ……と? また、とは?」

「もう……いつも言っているじゃないですか。()()()()()()()()()()()()()()()()、って」


 そう、これは別に初めてのことじゃない。

 街では凄腕の薬師として知られるシルヴィア様。庭の花壇で栽培している薬草の管理も細やかで、趣味の園芸とはいえこんな事態になるなんて考えにくいのですけれど……事実として。

 シルヴィア様は趣味の園芸になると、なぜか水をやり過ぎたり肥料を入れすぎたり、初歩的な失敗ばかりしてしまう。


 ――――つまり簡単に言うと。

 シルヴィア様はお花のお世話がとーーーっても、ヘッタクソなんです!


「や、やり過ぎてなどいません。しばらく構ってあげられなかったですし、こうやって話しかけながら水を……」

「それがやり過ぎなんです! え、もしかして起きてからずーっと水をあげてたんですか? 田んぼでも作るのかってくらいに水浸しですけど」

「こ、これくらいが適量ですよフィオレ。いえ、むしろ足りないくらいです。この子たちはね、愛情をたくさん注いであげた方が立派に育ってくれるのです」

水分(あいじょう)が多すぎます! これじゃ、根腐れしちゃうじゃないですか!」


 あーだこーだと言い合う私たち。でも別に喧嘩しているわけではありません。だっていつものことなので。

 実際のところ、シルヴィア様も『やり過ぎた』という思いがあるようで声に張りがない。心なしかしゅん……としているようにも見える。


「もう……シルヴィア様ったら。この子たちが大切なのはわかりますし、たくさん愛してあげたいという気持ちは素敵だと思いますけど……限度があります。なので今度からは、愛情抑えめでお願いしますね」


 幾度となく繰り返したお願い。たぶん、叶わないでしょう。だって。


「そんなはず、ないんですけどね……」


 シルヴィア様、全然納得していないんですもの。

 なぜだか私をちらりと一瞥した後、少し気落ちした様子で花壇に視線を落とした。

 ……言いすぎちゃったでしょうか。いえ! これはシルヴィア様のため! 私が心を鬼にしてでも諫めないと……!

 強い決意とともにシルヴィア様の大切なお花たちを守ると誓い、決意だけでは何も変わらない、このびしょびしょの花壇どうしようと頭を悩ませていると。


「おはようフィオレ。なにしてんだ?」


 後ろからルミナ様の声が聞こえた。ちょうど起きてきたところらしい。


「ああ、シルヴィアさんもおはようございます。花壇を見てたんですか? ……って」


 そこで花壇の惨状に気づいたルミナ様は眉をひそめた。


「あれ、昨夜雨でも降ってましたっけ。そんな様子はなかったような。……この花壇だけ、みたいだけど」

「い、いえこれはシルヴィア様が……」


 通り雨でもあったのかと勘違いしたルミナ様に真実を伝える。視界の端でシルヴィア様がびくっとした。


「――シルヴィアさんが? これを? いやーそれはないだろ。田んぼでも作るのかってくらいに水浸しだし。ここまでする人なんかいるわけないじゃん。さすがに根腐れするだろ」

「……………………」

「シルヴィアさんて薬草の栽培とかもしてるんだろ? そんな人がこれを? 尚更有り得ない。……あ、もしかして冗談だったか? 駄目だぞフィオレ。シルヴィアさんを巻き込むなんて。あんまり面白くないし、シルヴィアさんが可哀そうだ」

「……………………………………」


 あ、あのー。実は一言どころじゃなく多いルミナ様? その辺にしていただけると……


「……ああでも、それはそれで意外性があって面白いかもな? いやシルヴィアさんがそんなアホなことするわけないけどさ。――そうですよね? シルヴィアさん」


 そんな風に、信頼に満ちた眼差しを向けられたシルヴィア様は――


「……………………………………しゅん」


 ああっ! シルヴィア様が落ち込み過ぎて座り込んじゃいましたっ! しゅん……ってなっちゃってますっ!


「し、シルヴィア様!? お気を確かにーー!?」


 ――――そのあと。

 真実に気づいたルミナ様と私で、一生懸命シルヴィア様を慰めて事なきを得たのでした。

 ちなみに水浸しの花壇は、ルミナ様が魔術で何とかしてくれました。あれ、なんか昨日もそんなことがあったような。

 シルヴィア様ともども本当にご迷惑をお掛けします。たぶん、また掛けます。ごめんなさい。

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