表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート5月〜4回目

矢印

作者: たかさば

 目の前に、矢印がある。

 ……なんだい、これは。


 左側を指している。


 左の方には、何もない。

 右の方にも、何もない。


 とりあえず矢印の方向に進むと決め、念のために反対方向にゆっくり進んでみる事にする。


 …とん。


 …いきなり壁に当たってしまった。

 なにもないのに、なにかある。


 なんだ、矢印の方向でないと進むことができないのか。


 矢印のところまで戻り、左の方へと歩き始めた。


 しばらく歩くと、今度は棒のようなものが現れた。

 よく見ると、まっすぐ進めという矢印の…お尻の部分だ。


 真っ直ぐこのまま行くしかなさそうだ。

 矢印に従い続けるのもしゃくだが、どうしようもない。


 横にそれようとしても、どうせ壁ばかりなんだろう。


 そのまま矢印に従ってまっすぐ進むと、右方向の矢印と左方向の矢印が現れた。

 どちらに進んでもいいということらしい。


 右か左か、どちらに行こうか。


 右の方向は薄暗く、左の方向はなんとなく雲行きが怪しい。

 正直どちらも行きたくない道だ。


 さてどうするか。


 悩み込む僕の目に、何か…違和感のようなものが映った。

 正面に、色の違う部分がある。


 ……なんだい、これは。


 近づいて確認してみると、隙間のようなものがあるのを発見した。


 そっと指を入れると、少し空間が広がった。

 そのまま慎重に、空間を広げてみる。


 なんとか進めないことも…ない。


 狭い空間の先に見える景色は、落ち着いた色合いをしている。


 少々骨が折れるが、狭い隙間を通って行くことにした。


 硬い壁、ぬかるむ足もと、息のつまる空間、深い闇、坂道、崖…道をこじ開け前に進む。



 遠くに見える、居心地の良さそうな場所を目指して、ただひたすらに。



「ひろ君、おかえりなさい!」

「パパ、お帰り!」

「弘、帰ったのか? お疲れ様」

「パパー、一緒にゲームやろ!」

「わん、わんわん!!」


 家族の笑顔が、僕を待っていた。


「…ただいま」



 今の今まで、藻掻きながら道を切り開いていたはずなのに。


 辛かったことが、全て吹っ飛んだ。

 疲れがすうっと、消えた。



 ああ……、癒される。



 僕が切り開いた、自分の運命。


 自分で選んだ、僕の未来。



 ここに…来ることができて、本当に良かった。



 ……僕は、大切な思い出をギュッと抱きしめて。



 矢印の見当たらない、晴れ渡る空に溶け込んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 人生とは選択や苦難の連続で、しかしそれを切り開いてこそ自分の未来が待っているんですよね。 強い気持ちになれる作品でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ