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第一話 俺、この戦いが終わったら彼女と別れるんだ

読んでいただきありがとうございます。

 「俺、この戦いが終わったら彼女と別れようと思うんだ」

 

 「はぁ?」

 


 これから命がけになるであろう戦場へ向かう軍用車両の中、俺は名前も知らない隣の奴にポツリとそんな言葉をつぶやいた。

 

 隣の奴は急に話しかけられて驚いたのか、ぎょっとしたような顔でこちらを振り向いた。



 「お、お前、こん...こんな時に何を言っているんだ?」



 その顔は蒼白といってもいいほど恐怖で怯えていて身体も小刻みに震えている。その目には涙を浮かべ今にも泣き出しそうなほどだった。


 だけど、そういう俺も現在進行形で震えが止まらない。

 

 ドクンッ。ドクンッ。

 

 心臓の音が絶え間なく耳に響き渡る。

 

 車両の中の静寂が余計にその音を加速させる。

 

 ふと、まわりを見てみると全員が俺たちと同じような様子だった。

 

 中にはよくわからない言葉で十字架にブツブツと話しかけている奴もいる。

 

 それもそのはずだ。ついこの間まで俺たちはこんな血と悲鳴が隣り合わせな世界とは全くといっていいほど無縁な世界にいたのだ。

 

 普通と呼べる日常で過ごしていたのだ。

 

 それがいきなり戦争だぞ?

 

 (誰だって怖いに決まっているじゃないか)



 「なぁ。お前の名前はなんていうんだ?」



 俺はこの緊張を少しでも紛らわすようにさっきの奴に名前を聞いた。

 

 なんという理由もない。

 

 本当にただ、聞いてみただけ。

 

 戦場への恐怖で頭がおかしくなったのかもしれない。

 

 (だけどここで隣になったのもきっと何かの縁に違いないしな)

 

 それに、これから命を懸けて戦場に行くのだ。

 

 一人でも知り合いがいれば安心するじゃないか。

 

 向こうにもそんな俺の意図が伝わったのか、泣きそうな目で俺を見つめ、震える身体を押さえつけるようにしてなんとか口を開こうとしている。


 しかし、口がパクパクと動いているだけで声が出せない様子だった。


 何度も、何度も繰り返すがいっこうに声を出せないでいる。


 俺は思う。彼はきっと優しい人間なのだと。だからこそ、人が簡単に死んでしまう戦場が恐ろしくてたまらないのだろう。


 だが、そんな姿を見て笑う人間はここにはいない。

 そんな姿を咎める人間もいない。

 

 ここにいる全員が死ぬのは怖いと絶対に思っている。



 (俺だって、死ぬのは怖いよ。だけどな...)


 俺は、いまだに喋ることができていない彼の右肩に優しく手を置いて微笑んで見せた。


 できるだけ、彼を安心させる。そんな笑顔で。


 そして俺は、スッと真顔になった。


 今の俺は無心である。


 これからすることに一切の罪悪感を抱かないように。

 


 バチンっ

 


 乾いた音が車内に響き渡った。


 俺は彼の右頬に思いっきりビンタをかました。

 

 彼はその勢いで床に倒れこみ、叩かれた右頬を触りながらヤバい奴を見る目で俺のことを見上げた。

 

 さすがのまわりも何事かと俺たちの方へ視線を向ける。


 俺は、この車両の全員が俺に注目したことを確認すると大声で言った。



 「いいか、お前らよく聞け。俺は必ず生きて故郷に帰る。だからビビッて震えるのは今、この瞬間までだ。お前らもそうしろ。じゃなきゃ絶対に死ぬ。きっとそういうのが戦争だ。全員、生きて帰るぞ。わかったか!」


 「「「おおぉぉぉ」」」


 

 気が付けばこの車両にいる全員が拳を握りしめ、声を上げていた。

 

 その熱気が落ち着いてきた頃に俺は、未だ座り込んでいるビンタをした彼に近づいて手を差し伸べた。

 

 そして、まだ答えをもらっていない質問を彼に問う。

 もう、彼の目には恐怖も涙もない。



 「俺は、神田幹也。お前の名前は?」



 彼は警戒するようにおずおずと俺の手をつかんだかと思うと、ギリギリと思いっきり握りしめてきた。

 

 あのぉ?結構痛いんですが?



 「俺は、羽田。羽田千歳だ。さっきのビンタは一生恨むと決めたからな」

 

 「それは...本当に申し訳ないと思ってる。これからもよろしく頼む千歳」

 

 「あぁ。よろしく幹也」



 こうして、俺はこの先戦友となる羽田千歳と出会い、戦場へと向かった。

 

 そして、この戦争は約一年で終戦し、俺は無事に故郷へと帰ることとなる。



 ◇◇◇



 「ところで幹也。一つだけ気になってることがあるんだけど」

 

 「なんだ?」

 

 「お前、彼女いるのか?」

 

 「えっ...いるけど...それがどうかしたのか?」



 俺がそう答えた瞬間、なぜか熱気に包まれていた車内の温度が少し低くなった気がした。


 

 「いっいや別に。それで...どうしてさっきは別れるなんて言ったんだ?彼女、可愛くないのか?」

 

 「可愛くないってわけではないんだと...思う。ただ...な」

 

 「ただどうしたんだよ?」



 俺は思い出す。


 彼女の俺に対する今までの行動を。



 「あいつとのデートの時な。いつもあいつの方が先に待ち合わせ場所にいるんだ。それで、『ごめん、待ったか』って聞くと、あいつは必ず『べっ別に、あんたのために一時間も早く来て、待ってたなんてことはないんだからね!』って言うんだ。これって、俺のことは好きでもないってことなのかな?」

 

 「幹也お、お前。それはっ...」



 なぜか、千歳はハッとしたような顔になっているが、俺は構わず続けた。


 一度入ってしまったスイッチは、なかなか止まらない。



 「それに思い返せば、高校の時に告白した時もそうだった。俺が一週間も考えた告白にあいつの返事はこうだった。『べっ別に、あんたが付き合ってほしいんだったら、付き合ってあげないこともないんだからね!』だぞ。これって俺のこと好きじゃなかったんじゃないのか?」

 

 「「「...」」」

 

 「幹也。お前って奴は、どうして...っ」



 気づいたときには、この車の中の全員が俺の愚痴を聞いていた。


 こうでもしないと戦場では生き残ることができないような気がした。

 

 しかし、なぜかみんなの反応が薄いような気がするんだが?



 「極めつきはこうだ。あれは付き合って初めてのバレンタインの時だったかな。あいつはもちろん俺にチョコをくれたよ。ちゃんときれいなラッピングで、しかも手作りだった。めちゃくちゃ美味しかったよ。ただな、渡すときの言葉はこうだった。『かっ勘違いしないでよね。べっ別に、これはあんたのために作ったんじゃないんだからね!とっ友達にあげるのが余ちゃった...そう!余ちゃっただけなんだからね!』だぞ。これって俺のことが好きじゃないから言ったのかな?」

 

 「「「...」」」

 

 「...」


 

 なんだか静かだなぁと思い、一度話すのをやめて顔を上げてみるとなぜだか全員が何か言いたそうな顔だった。


 なんというかあれだ、あれ。好きなソシャゲで自分がよく知らないアニメとコラボが決定した時のあの感じ。まさにそんな表情だった。

 

 えっ、わからない?



 「幹也。お前に、お前に言いたいことがある!」



 すると突然、途中から黙っていた千歳が急に立ち上がり俺に叫んできた。


 心なしか、ここにいる全員から可哀そうな奴を見る目で見られている気がする。

 

 俺、変なこと言ったか?



 「お前、さっきまで言ってたような女の子が世の中でなんて呼ばれているか知っているか?」

 

 「さぁな?なんていうんだよ?」

 

 「っ...いいだろう。鈍感で無知ななお前に教えてやるっ!」



 千歳の奴こんなキャラだったか?


 ていうか、泣いてない?



 「そういう女の子のことをな、世の中では畏怖と敬意と愛を込めてツンd」

 

 「「「だっ、ダメだっ!」」」

 

 「んんっ..モガモガッ」



 千歳が答えを言おうとした瞬間。


 千歳の口を俺以外の全員が止めに入った。


 そして、その全員が羨望と優しさの眼差しで俺を見ているような気がした。



 「はっ羽田さん、ごにょごにょごにょ」

 

 「それは確かに...そうかもしれないな」

 

 「そうですよ。ここはやはり...」

 

 「おいっ。結局なんていうんだよ?」



 さっきから俺に聞こえない声で話している千歳と他の面々。


 なんだか妙な一体感というか、仲間感というか。そういうのが出来ている気がする。

 

 ここ、本当に戦場へ行く車の中か?



 「幹也。その彼女、大切にしてやれよ」

 

 「はぁ?」



 千歳はそうとだけ言って、また俺の隣に座り直した。


 その横顔はやると決めた男の顔だった。


 あいつ俺の最初の話、聞いていたのか?



 「だから、俺は無事に帰れたらあいつと別れるって...」

 

 「神田さん。その彼女、絶滅危惧種ですよ(グッドサイン)」



 こいつは何を言っているんだ?



 「神田氏。その...なんていうか...そういう彼女って萌えますよな」


 「おいっ。いい加減、人の話を聞いたらどうだ?」



 メガネで少し太っている奴にそんなことを言われて、少しイラついてしまった。



 「神田さんっ!」

 

 「今度はなんだぁっ!」

 

 「(コクリッ)」

 

 「...」



 もはや、何も言われなくなってしまった。


 隣を見ると千歳もうんうんと頷いているだけだ。


 それは、車内のほかの奴らも同じだった。


 

 「もぉぉぉ。結局なんなんだよぉぉぉ!」



 この日。当人である神田幹也以外の全員は、幹也の彼女は所謂「ツンデレ」というものだと理解した。


 そんなものがこの世に存在したのか。と全員が驚いたが、そのことは幹也には絶対に話さないと全員が決めた。

 

 理由は単純。「なにこれ、めちゃくちゃおもしろいやつやん」だ。

 

 結局のところ全員が娯楽に飢えていた。


 戦争で戦うとはいえ彼らはまだまだ少年だった。



 「はぁ。俺も彼女ほしいなぁ」



 叫んでいる幹也を横目に、誰かに言うというわけでもなく千歳は一人つぶやいた。


 


ここまで読んでいただきありがとうございます。

ぜひ、面白いと思ったら評価のほうお願いします。


この作品は、今書いてるハイファンタジーの息抜きのようなものなので、大体三話で完結させようと思っています。


興味があったら、上記の「伝説の聖剣、実は人でした 〜魔法強化しかでいない俺と身体強化しかできない聖剣〜」もぜひ読んでください。


今後ともよろしくおねがいします。



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