グレー
千隼は、一度部屋へ戻ろう、と大都に言った。
部屋へ戻って、ちょっと書き留めておこうと思ったのだ。
何を書き留めるかというと、太月がホワイトボードに書いているものとか、自分の考えとか、覚えている限りの皆の発言の事を、全部忘れないうちに残しておこうと思ったのだ。
もしも自分が噛まれた時でも、考えていた事を書いておけば、村人達はそれを読んで自分が白だったのか黒だったのか、しっかり判断してくれるだろう。
大都に言ったのだが、皆も頭を整理しておきたいと言って、部屋へと帰る事になったのだった。
二階へ上がると、大都が言った。
「なあ、ちょっと部屋行っていい?」
千隼は、頷いた。
「いいけど、なんか話しておきたいことでもあるのか?」
大都は、首を振った。
「いや、違うんだけど。なんかさ、秀一が死んでたのが怖くてさ。一人で部屋に居ると、誰かが入って来て首でも絞められるんじゃないかってびくびくするんだよ。」
千隼は、笑いながら扉を開いた。
「はあ?それってルール違反だから絶対無いって。っていうか、襲撃もそんな感じじゃないと思うぞ。秀一の体に傷なんか無かったじゃないか。首にも絞められた跡なんか無かったし。大丈夫だって。」
大都は、頷いたが千隼の後ろについて部屋へと入って来た。
部屋の中は、この一月中旬なのにとても暖かい。
思えばこの館の全てがとても温度管理されていて、どこも快適な温度を保っていた。
千隼は扉を閉じて、椅子へと座るように言った。
「座れよ。オレは机に何か書くものないか探すよ。」
大都は頷いて、窓際の椅子に座った。
千隼は、せっせと机の引き出しを開きまくって、そこにまっさらのノートとペンを数本見つけていた。
大都は、窓から見える中庭と、向こうの建物を見て言った。
「こっち側はこんな風になってたんだ。あれはホテルかなんか?」
千隼は、そう言えば大都とは向きが違うと頷いた。
「どうだろう。夜に見た時は全く灯りもついてなかったけどな。」
大都は、頷いた。
「1から6まではあっちだからな。オレは5だし、窓からは海が見えてる。城壁みたいなのに囲まれててな。中には庭があって、その向こうに海がある感じ。」
千隼は、向かい側の空いている椅子に座った。
「オーシャンビューだからそっちの方が良い部屋なんじゃないか?造りは同じみたいだけど。」
大都は、まだ窓の外を見ながら頷いた。
「そうかな。海には…トラウマができたから、できたら見たくない。だからレースのカーテンを閉じて見ないようにしてるよ。」
言われたらそうかも知れない。
千隼は、思った。
何しろ、その海に飲み込まれそうになったのは記憶に新しい。
できたらしばらくは海を見たくはなかった。
とはいえ、ここから帰るにはまた船に乗るしかないのだが。
千隼は、話題を変えようと言った。
「それより、お前覚えてる?誰が何を言ってたか。書いておこうと思ってるんだ。理由なく意見を変えたりしたら怪しめるだろ?手遅れになる前に書くかなって。」
大都は、頷いた。
「全部覚えてるかわからないけど、書いとく?ええっとな、じゃあ役職から書いとくか。」
千隼は、ウンウン頷いて共有者から役職名を書いた。
「ページごとに一人の事を書いたら?そしたら流れが見えやすいよ。」
千隼は、良い考えだと頷いた。
「そうだな。じゃあ上に名前を書いてくよ。そうだルールブック…」と、机を見た。「あった。持って来とく。」
無駄に広いのでいちいち立ち上がって取りに行かなくてはいけない。
定位置に座れば何でも手が届いた、自分が住んでいたアパートとは雲泥の差だった。
広ければ広いなりに、いろいろあるのだ。
まあ、こんな所に住んでいる人なら、使用人がたくさん居て自分で何かする事などないのかもしれないが。
千隼がルールブックの名簿の所を開いてテーブルの上に乗せると、大都が身を乗り出した。
「1番から濃いよねえ。珠緒ちゃんはもう、夏奈ちゃんを妄信してる感じだったから。でも、祐吏の話を聞いてると、珠緒ちゃんも騙されてるのかもしれないぞ。女子同士でもいろいろあるのかもしれない。」
千隼は、頷く。
「そうだな。珠緒ちゃんは一応、一弥の白が当たってるから置いとくとして、今日はグレー吊りなんだろ?グレーは何を言ってたかな。亜佳音ちゃんとか女子達は夏奈ちゃん真かなって感じの意見だったよな。」
千隼は、うーんと顔をしかめた。
「オレ達は女子が少ないから一括りに考えてるけど、確か奈央ちゃんはあんまり夏奈ちゃんと親しくないとか言ってなかったか。だから分からないって。多分、女子同士だから一緒には居るが、その中でも仲がいい、悪いがあるのかもしれない。悪くはなくても、そうでもないとか。だから奈央ちゃんは同意してないと見るかな。」
大都は、首を傾げた。
「そうだったかな。よく覚えてないよ。よく覚えてるな千隼。」
千隼は、自分でも驚いた。
「オレもそう思う。話してたら思い出して来てさ。」と、楓馬のページを開いた。「楓馬は、白く見えるよなあ。夏奈ちゃんを真だろうって意見を最初に違うだろうって意見出したの楓馬だし、もし夏奈ちゃんが偽なら白く見えるかな。ま、狂人なら狼でもどっちが真かまだ分かってないだろうから、もし夏奈ちゃんが狂人だったら楓馬もそこまで白くはないかもしれない。」
大都は、じっと真剣な顔をした。
「…怪しい位置ってあんまり分からないんだよなあ。みんな意見が違うだけで、その視点からおかしい事は言ってないし…。一敬は霊能ローラーの方が良いって言ってたよね。秀一で役欠けしてたらいつまで経っても呪殺も出ないし、早めに役職の中の人外を処理したい感じだったな。それも村利のある考え方だし、確実に人外を仕留めて行きたい感じだったよな。」
千隼は、頷いた。
「オレもそう思う。でも、役欠けを今考えても仕方がないじゃないか。一応、占いも霊能も二人ずつ出てるし、とりあえずは役欠けは無いと考えた方が楽だしな。占い結果がおかしいようだったら考えるけど…そんなにピンポイントで噛めないと思うよ?」
大都も頷く。
そんなに簡単に噛めるはずはない。
それはその通りだった。
自分達が人外をわからないように、人外からも役職は分からなかったはずだ。
今朝COするまでは。
「…そう考えると、狼だって対抗が狐なのか真なのか分かってないってことだよな。騙りに出てるのが狼だとして、だけど。」
千隼が言うと、大都も頷く。
「それはそうだろうな。今秀一の襲撃が通ったから17人で…太月は縄が8つって言ってた。狼はそれを狐と村人に使いたいわけだけど、だったらしばらくは占い師は噛まないよな。それが狐だったら縄が増えるんじゃ。」
千隼は、それには首を振った。
「奇数進行の時は縄は増えないぞ。二回護衛成功が出ないと。とはいえ護衛成功一回、狐噛み一回で縄数が増えるから、狐は噛みたくないはずだとは思う。占い師に出てる狼は、狐対策のためにも真目を取らないと勝てないわけだ。」と、ルールブックをめくった。「狼って自噛みできたっけ。」
大都は、首を振った。
「いいや。自噛み無しだよ。狐も噛めない。そう書いてあった。必ず誰かを襲撃しなきゃならないけど、狼は噛めないって書いてた。」
千隼は、昨日は役職の項目をしっかり見ていなかったと思った。
狩人も、同じ所を守れないので、同じ数字を打ち込んでもエラー表示が出ると書いてある。
「狩人は誰なんだろうなあ。」千隼は、言った。「生き残ってもらわないとここぞと言う時に守ってもらえないから困るよな。今頃太月に言ってるんだろうか。」
大都は、ああ、と頷いた。
「そうか、言ってたね!太月が知ってたら間違って吊られることもないだろうし、よく話を聞いて太月が怪しんでない所は投票しないようにしないと。共有の相方も居るし、気をつけて行こう。オレ達は太月に票を合わせるのが一番良いかも知れないな。」
千隼は、頷いた。
「確かにな。」と、ペンを握り直した。「じゃあ他の人が言ってたことも思い出して行こう。」
千隼は、大都と共にそうやってお腹が空いて来るまで、せっせと覚えている事をお互いに出し合って、書き記して行ったのだった。