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夜、1日目の朝

千隼は、暗い気持ちで自分にあてがわれている10号室へと戻った。

そこは、奈央の部屋と変わった所はなく、同じように豪華な設えだ。

ただ、奈央の部屋とは向かい側になるので、窓からは海ではなく中庭が見え、その向こうにまだ大きな建物があるのが見えた。

やはりここは、ホテルか何かなのだろう。

ただ、そちらの建物には灯りは全くついていなかった。

ベタベタする髪を洗って出て来ると、クローゼットにはきちんと替えのジャージが何着かと、下着が入っていた。

靴下もまっさらな物が準備されていて、至れり尽くせりだ。

遊びに来たのならそれは嬉しかっただろうが、あいにくそうではない。

千隼は、黙って新しい下着の封を切って、それを身に付けた。

…そういえば、着て来た服はどうなったのだろう。

千隼は気になった。

あれは、妹が誕生日にバイト代で買ってくれたものだった。

急に買い物に行きたいとか言うから、車に乗せて連れて行ってやったら、自分の物ではなく、千隼の物を買うと言った。

しょっちゅうバイトで遅くなる妹を、心配して迎えに行ってやっていたのだが、そのお礼だと言って笑っていた。

あれだけは、手元に置いておきたかった。

…心配してるだろうな。

千隼は、妹や両親の事を思うと胸が痛くなった。

大事になって、マスコミに追われたりしていないだろうか。

気になって仕方がなかったが、今は何もできなかった。

スマホもきっと海に沈んだだろう。

あったとしても水没していて使えるとは思えない。

そもそもここまで電波か届くとも思えなかった。

ふと、机の上を見ると、ルールブックと書かれたA4の紙の上をホチキスで留めただけの物が見えた。

…そういえば、ルールブックを読んでおけと言ってたな。

千隼は、それを手に取り、ベッドに横になって読み始めた。

最初に名簿があり、タイムスケジュール、そして、各役職の説明とつらつらと書かれてある。

そして、ここでのルールについて書かれてあった。

・時間通りに行動する。

・侵入禁止の場所に入ってはならない。

・如何なる時も冷静に行動しなければならない。

・備品その他を損傷してはならない。

・その他管理者が不適切と判断することをしたら追放となる。

だいたいそんな感じだった。

どちらにしろ、村人である千隼には、夜にやることは何もない。

今頃は共有者達が腕輪で話をしているのだろうか。

そして、12時になったら狼達は誰かを襲撃するのだろうか…。

そんなことを考えながら、寝転がっていた千隼は、気がつくと眠りの世界に入っていたのだった。


次の日の朝、扉の方から急にガツンという音がしてびっくりして目を開いた。

何事だろうと扉の方を見たが、シンとしていて扉も開いていない。

机の上の金時計がくるくると回っていて、6時を指していた。

外は白々と明けて来ているような様子で、まだ薄暗かった。

…そうか、部屋の鍵が開いたんだ。

千隼は、思った。

部屋には他に鍵は着いていたが、それは開けても閉じても10時を過ぎると扉はびくともしなかったのだ。

つまりは、別の鍵があって、それが皆を部屋に閉じ込めているのだと思われた。

まだ朝も早いし、誰も起きてはいないだろうが、とりあえず外の様子を見てみようかと扉を開いてみると、外から急に話し声がした。

…うわ、防音か?

千隼は、驚いた。

が、開いた目の前に居た大都はもっと驚いているようだった。

「うわ、千隼!良かった、出てこないから襲撃されたのかと思ったよ!何度もノックしてるのに。」

全然聞こえなかった。

千隼は、言った。

「ごめん、全く聞こえなかった。多分、ここ防音凄いんだ。扉を開いたら急に声が聴こえて驚いたんだよ。今朝はどう?誰か襲撃されてるの?」

というか、襲撃ってどういう感じなんだろう。

千隼が思っていると、三階から声がした。

「おい!来てくれ、秀一が目を覚まさないんだよ!何か様子がおかしい!」

「え?」

千隼は、にわかに背筋が冷たくなるのを感じた。

まさか、本当に殺されるわけじゃ…。

大都が、急いで階段に足を向けた。

「ちょっと待って!こっちも女子達がまだ出て来てないから!」と、千隼を見た。「千隼、見ての通り一弥や眞耶は出て来てるけど、女子達が何度声をかけても出てこないんだよ。太月があっちで扉叩いてるだろ?」

見ると、確かに太月は頑張って声をかけている。

千隼は、言った。

「だから防音凄くて中には聴こえないんだよ。」と、急いで太月に駆け寄りながら言った。「太月、中には聴こえてないはずだ!扉を開いて声を掛けないと!」

太月は、顔をしかめた。

「中から鍵がかかってて開かないんだよ。じゃあ自主的に出て来てくれないと無理か。」

千隼は、頷いた。

「うん。多分寝てるんだろう。三階に行って来よう。秀一が襲撃されてるみたいだ。目を覚まさないんだって。」

太月は、頷いた。

「行こう。」と、今やっと出て来た楓馬を見た。「楓馬!上だ、行くぞ?!」

楓馬は、わけがわからない顔をしながら目をこすった。

「え?え?なんだって?」

太月は、もう階段を駆け上がって行く。

大都が、言った。

「だから多分襲撃だ。秀一が目を覚まさないし何か様子がおかしいらしいぞ。」

楓馬は、目を丸くした。

「ええ?!様子がおかしいって、死んでるのか?!」

千隼は、首を振った。

「わからない。とにかく行くぞ!」

そうして、とりあえず二階で起きて来た太月、大都、一弥、眞耶、楓馬は階段を上がって行ったのだった。


三階は8人のはずだった。

だが、秀一の17号室の前には、3人しかいない。

そのうちの一人の、祐吏(ゆうり)が振り返った。

「…なんか、死んでるみたい。」

元々表情が乏しく口数の少ない祐吏だったが、今朝は一層そうだった。

「は?死んでる?!」

大都が驚いて声を上げる。

太月が険しい顔をして中へと入って行くと、理人、涼太郎、光祐、由弥がいて振り返った。

「ああ、来たの?どう見ても死んでるんだよね。息もしてないし、脈も探ってみたけどないみたいなんだ。」

由弥が言う。

どうしてそんなに冷静なんだよ。

千隼は後ろから思ったが、何も言わなかった。

確かに秀一は真っ青を通り越して土気色の顔をしていて、ピクリとも動かなかった。

太月は、冷静に寄って行って首の辺りに手を置いて探っていたが、ため息をついた。

「…確かに死んでる。」千隼がショックを受けると、太月は続けた。「医者じゃないしはっきり分かるわけじゃないが、素人でもこれは死んでるって分かる。」

「確か亜佳音ちゃんが看護師だったよね?」由弥が言う。「見てもらったらいいんじゃないか。亜佳音ちゃんは?」

「まだ寝てるんだよ。何度ノックしても全く反応無し。」

涼太郎が言った。

「ここ防音しっかりしてるよ。全く聴こえないんだ。扉を開かないと。」

千隼は頷く。

「知ってる。でも鍵が掛かってて扉を開けないんだ。」

これから毎日これでは生存確認に困る。

皆が思って困惑した顔をしていると、扉から声がした。

「何…?どうしたの?なんか、廊下に出てみたら騒がしいから。」

振り返ると、亜佳音が目をこすりながら立っていた。

「亜佳音ちゃん!秀一が、秀一が死んでるんだ!」

大都が言うと、亜佳音はスッと険しい目付きになって、秀一に寄って行った。

そして、瞼を下げたり背中の下に手を入れたりといろいろやっていたが、ため息をついた。

「…ほんとだ。死んでる。」

やっぱり。

千隼が絶望的な気持ちになっていると、亜佳音は続けた。

「でも…おかしいのよ。だってもう遺体は完全に冷えてるし、結構時間が経ってそうなのに硬直もない。紫斑も出てない。死んでるにしても…もしかしたら、死んでるように見えてるけど、生きてるのかも。わからないけど。」

太月が、言った。

「それって、じゃあ蘇生できるかもなのか?」

亜佳音は、顔をしかめた。

「いえ、死んでるのよ、ほんとに。でもね、死後の動きが全くないの。それだけよ。私にはこんな状態から生き返った人を見た経験はないし、でもこんな遺体を見た記憶もないわ。それだけ。わからないわ。」

由弥が、ため息をついた。

「もう、僕ね、海でみんなが段々死にそうな顔になってくのをこの目で見たから、あの時もう死んだな、って思ったから。今更死体とか見てもどうにも思わないし、それにね、秀一は噛まれてるってことは村人でしょ?村人が勝ったら帰してくれるって言ってたんだから、多分死んでるように見えてるけど死んでないんじゃないかな。ルールブック読んだ?僕は読んだけど、勝利陣営は帰って来るって書いてたよ。だから、きっと死んでるように見えるけど、まだ死んでないんだ。負けたら分からないけど。」

そういえば、そんな項目があったかもしれない。

ウトウトしながら備考を読んでいたので、千隼はうろ覚えだった。

由弥が無感動な理由は分かったが、千隼はまだそこまでではなかった。

思えば自分は珠緒と夏菜しか視界に入っていなかったし、あちらがどんな感じだったかも知らない。

千隼は、言った。

「…オレは必死で回りなんか見えなかったけど。由弥は見えたのか?」

由弥は、頷いた。

「うん。千隼と珠緒ちゃんが近くで必死に夏菜ちゃんを助けようとしてたのは見えたよ。こっちはみんな1ヵ所に固まってて、同じ板に掴まるわけにはいかなくて…沈むんだ。だから大騒ぎだったさ。僕は、近くのライフジャケットを見つけてそれに抱き付いたから。あちこちに浮いてる板の取り合いだったよ。そしたら、千隼が島の方に向かうのが見えて、僕もそれしかないからみんなを置いてそっちに向かった。後ろじゃ太月が泳げない亜佳音ちゃんを背負って精一杯だし、他は立ち泳ぎしてるのに足が動かなくなって来たとか叫んでるし…ああ、死ぬなって。実際死んだと思ってた。目の前に光が見えたから、そんなはずないし天国に行くんだなあって。」

それが、助けが来た瞬間だったのだろう。

太月が、言った。

「…オレも必死でよく覚えてない。亜佳音ちゃんをボートの上に何とか押し上げたら力尽きて沈みそうになったけど、何かに腕を掴まれて、そこで意識がなくなった。回りの事も見てる余裕がなかったんだ。」

亜佳音は、太月を見た。

「本当にありがとう。あなたの背で気が遠くなって来て、ダメだ、低体温症だって分かったけどどうしようもなくて。私も死んだと思っていたわ。そもそもあの男が言ってた通り、私達は冬の海に投げ出された時点でもう数分の命だったのよ。全員助かったなんて奇跡なの。だから、もう秀一さんが死んでるのを見ても、私もそう心は動かないわ。きっとまた生き返るんじゃなんて、どこかで思ってしまう。看護師なのにね。あり得ないけど。」

太月は、顔を上げた。

「…とにかく、今日は秀一が襲撃された。」と、皆を見た。「オレは共有者だ。相方には潜伏してもらうことで話がついてる。まだ寝てる人も居るし、起きたらリビングで話し合いをしたいと伝えてくれ。とりあえずここに居る人達は、朝ご飯を食べて8時にリビングに集合だ。」

太月が共有者…!

千隼は、ホッとした。

太月なら、任せておける。

皆は頷いて、秀一の部屋を後にしたのだった。

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