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終わり

長い話を終えて、涼太郎は言った。

「…そこからは知っての通りだ。大都が吊られて思考ロックし始めた一敬を噛み、太月と一弥、オレの今日を迎えた。もう少し戦えると思ったんだがな。あいつらには、謝っても謝り切れない。もっとやりようはあったのに。安定進行信者の共有に助けられて何とか最終日まで来た感じだった。」

太月は、渋い顔をして黙っている。

結局は、もっと早くにいろいろ見えていたはずなのに、怖いという思いがあって涼太郎真を捨てきれなかった。

ここまで、1日目以降最終日前日まで、白ばかりを吊っていたことになるのだ。

その時、腕輪から声がした。

『…時間を短縮して、投票しますか?』

え、と太月は腕を見る。

涼太郎が、頷いた。

「ああ、どうせ夜には吊られるんだ。海も昼間の方がまだ水温が高いだろうし。投票してくれ。」

一弥が、戸惑う顔をした。

「…でも…。」

腕輪が、容赦なく言った。

『投票してください。』

「ええ?!」

一弥と太月は焦ったが、涼太郎はとっくに覚悟は決めたようで、さっさと入力した。

太月と一弥も、仕方なく打ち込む。

すると、腕輪の声が告げた。

『…No.15が追放されます。』

涼太郎は、その場に座り込んだ。

皆と同じように、このまま死ぬのだろうと思ったからだ。

だが、声が続けた。

『…この村から人外が居なくなりました。村人陣営の勝利です。』

涼太郎は、じっと座ったまま目を閉じてその瞬間を待ったが、いつまで経ってもその時は来なかった。

太月と一弥も、何がどうなっているのか分からなくて、キョロキョロと回りを見回すが、特に動きはない。

涼太郎が、あまりに長いので目を開いた。

「…オレだけなんでこんなにためるんだよ。」

すると、声が言った。

『一階リビングにお集まりください。これからのご説明があります。』

これから…?

3人は顔を見合わせたが、とりあえず指示に従おうと、仕方なく階下へと降りて行く事にしたのだった。


リビングは、シンと静まり返っていた。

モニターの灯りはついていたが、特に案内もない。

ここに居るよりないと、18脚ある椅子に、バラバラに座った。

もう、そうする必要はないのは分かっていたのだが、自分の番号の椅子に自然と座ったのだ。

そのまま、ぼうっと座っていると、開け放したリビングの扉の向こうから、追放されて行った人達がわらわらと入って来た。

「…涼太郎!」真っ先に飛び込んで来たのは、楓馬だった。「ごめんな、初日に吊られて…しんどかっただろ。オレ達は、ずっと見てたんだよ。向こうの、違う棟の部屋に居て…こっちの様子は、モニターで見る事ができて。」

涼太郎は、ピンピンしている楓馬の腕を掴んで、さすった。

「お前…!死んでたのに!蘇生か?!やっぱり死んでなかったのか?!」

楓馬は、頷いた。

「なんかそうみたいだ。気が付いたらあっちの部屋で寝てて、普通に毎日飯食って待ってた。みんなそうだ…誰も死んでないよ。」

言っている通り、全員がそこに居る。

しかし、一敬だけが居なかった。

『…一敬の処置が終わり次第こちらへ降りて来る。』最初に聞いた男の声だった。『君達のうち、13人は帰る事が可能。それが最初の話から分かっていると思うが?』

涼太郎と楓馬は、固い顔をした。

千隼が言った。

「…どうにかなりませんか。あの、役職が当たってしまっただけなんです。」

初日に襲撃された、秀一が頷いた。

「そうです、オレなんか何もしてないのに帰れるのに、頑張った狼が帰れないのはおかしいですよ!」

モニターの声は、クックと笑った。

『おもしろい。君達は本気で私が一度助けた命をまた、海へ放り込むと思っているのか?あり得ない。君達が己のやった事を、少しはその身に思い知る事が必要だと思ったからこそ言ったことだ。最初からそんなつもりはない。』

え、と、皆がモニターを見上げると、まだフラフラしている一敬が入って来た。

「…なんか、腕輪からゲームが終わったからリビングへ行けって言われて。みんな居るのか?」

太月が、パアッと明るい顔をして言った。

「一敬!そうなんだ、もう投票するかって言われて。お前が襲撃されてて…大丈夫か?」

一敬は、頷きながら椅子に座った。

「ああ、何とか。変な気分だが特におかしい感じはないよ。」

モニターの声は、言った。

『では皆揃ったので説明しよう。まずは現状だが、君達の捜索は1日目に終わっている。なぜなら、私がこちらで全員を無事に保護したと知らせたからだ。特にニュースにもなっていない。なぜならここは私有地で、私が医師なので皆を治療してから帰すと知らせてあるからだ。ちなみに報道規制を敷かせてもらったので、どこの島だとか何も知らされていない。私はこちらを静かに過ごすための場所として所有しているので、迷惑なのだよ。いろいろ手を回させてもらったので、時間を取った。君達がゲームをしている間に、いろいろ処理を完了した。そちらの眞耶という者、叔父のクルーザーは私が所有している物を代替品として君の両親に安く卸して、それで手打ちになった。中古だが使って居ないので綺麗だったし、前の物より一回り大きいので文句はないようだ。君はその両親に立て替えてもらった代金を、働いて返すといい。』

そんなことまで。

眞耶は、頭を下げた。

「ありがとうございます。でも、あの、いくらぐらいですか…?」

返すのだから気になるだろう。

声は答えた。

『そうだな、買った時は三千万だったが、長く放置していたのでこちらも引き取ってもらえるならと五百万で譲ったよ。』

五百万か…。

太月が、言った。

「だったら止めなかったオレ達男子14人で割ろう。それなら1人36万ぐらいじゃないか?バイトしたら何とかなる。」

眞耶は、ホッとしたように頷く。

千隼は、言った。

「ありがとうございます。でも…みんなの職場とか、大学にはこの事は知られていますよね。」

声の主は答えた。

『そうだな。気の毒だが、全員退学処置になるだろう。報道されていたからな。職場も事態を重くみてとか聞いたので、かなり厳しい事になっているはずだ。警察の事情聴取もある。とりあえず君達には、ここで療養していたとだけ話せと言っておく。前科は付くだろう…仕方のない事だ。それだけの事をしたのだ。』

全員が、下を向いた。

確かに大変な事をしてしまった…いくら報道規制を掛けていても、最初は大々的に報じられただろう。

これまで積み上げて来た全てが、脆くも崩れ落ちてしまったのだ。

皆が下を向いていると、声は言った。

『…とはいえ、若気の至りというものだと私は考えている。記憶を見たので知っているが、皆それなりに己のやるべき事をやって来たもの達だ。そこで提案だが、在学中の者達は、海外に留学するつもりはないか?この国はまだ海外でしっかり学んで来た者達には寛大だ。過去の少々の罪は目をつぶってくれるだろうし、何ならそのまま海外で根を張っても良い。やる気があるなら手続きを手伝うし、日本に残って働きたいと言うのなら、職場を紹介するがね。もちろん、面接はさせてもらう。どうする?』

皆は、顔を見合わせた。

海外など、考えてもいなかった。

それに、働ける場所と言っても、いったいどんなところなんだろうか。

そもそも、借金を背負っているのに、海外で学んでいる暇もないのだ。

「…お話は嬉しいんですが、オレ達は借金もあるし、奨学金も…受けられるのかどうか。」

太月が言うと、声は答えた。

『そんなことを聞いているのではない。やる気があるのかないのかと聞いているのだ。金の事は、後でいい。』

太月は、皆を見たが、またモニターへと視線を移して、言った。

「…オレだけの事で言えば、オレは行きたいです。ここまで一生懸命やって来たんです。それなのに…まだ理工学部とは言っても、二年しか行ってない。ここで退学になって、何もかも水の泡になったと思っていたので。」

亜佳音も、言った。

「みんなは私を看護師というけど、私は看護学校へ行ってるだけでまだあと一年行かなければならなかったの。だからまだ看護師じゃないわ。でも、海外へ行って頑張れる自信がない。だって英語だって全然だし、それを今からやるなんて無理だもの。どうしよう…。」

一弥が言った。

「オレと楓馬は社会人だから、どこか仕事を斡旋してもらえたらそこでしっかり働くけどな。みんなは就職目指して大学行ってるわけだし、困るだろうな。まずは英語だし。」

モニターの男は、ため息をついた。

『何事もやる気だ。英語など言語なのだから使っているうちに覚えて来る。では、まずは戻ってから後始末をつけて来るがいい。そして、私が斡旋する仕事をしっかりするといい。アルバイトだがな。そこは、英語を話せる者達ばかりの場所なので、通常は英語を話すように言っておこう。そうしたら、君達は日常会話ぐらいはできるようになるだろう。その上で、あちらの試験にパスしようと思ったら、もっと単語を覚えて行かねばならないが、それは君達自身が努力をするよりない。本気でやる気があるのなら、しっかりと借金を返すために働く間に学ぶが良い。それから、日本へ残って仕事をしようというもの達が居るなら、それらは正社員として働ける場所を紹介しよう。誰も詮索などしない。私が管理している会社ばかりなのでね。住む場所は寮があるし、家族とも気まずいのならそこへ入るといい。私の部下の連絡先を教えておくので、戻ったら全ての始末をつけて、そちらへ連絡を。それぞれの行く先は本日午後までに決めてくれ。ここを出る前に、ここでモニターに向かってそれぞれ言ってくれ。準備を進めておく。午後には、桟橋に海上保安庁の船が着く。君達を本土へ帰そう。』

こちらが答える前に、モニターの灯りはスッと消えた。

最初から最後まで、姿を見る事が無かった相手だったが、何もかもを考えて助けてくれたのだと、やっと皆は信じることができるようになっていた。

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