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説明

1分が過ぎた。

画面の文字は消え、元の時計表示に戻る。

千隼が顔を上げると、皆も同じように顔を上げていた。

『役職確認が終わったら、次にここでの生活を説明しよう。時間には正確に動いてもらう。ルールが幾つかあるが、それを違えたら追放。それ以上ゲームに参加できない。まず、今は夜の8時だ。夜の10時には部屋に入ってもらう。部屋の鍵が自動的に施錠されてそれを過ぎたら部屋に入れない。部屋に入っていなかった時点で追放だ。村役職の行使は10時から11時。その間に腕輪のテンキーで、占い師なら占いたい人の番号を、狩人なら守りたい人の番号を入力して0を3つ入力する。すると、占い師には結果が表示される。霊能者には、10時になったらその日吊られた人の正体が表示される。』

モニターに、その説明が出ている。

皆は、黙ってそれを見上げていた。

『次に、人狼の役職行使は夜12時から翌2時まで。人狼はこの間部屋の扉が解錠されて外に出る事ができる。話し合って襲撃先を誰か一人の腕輪から入力し、0を3つ入力することで確定する。部屋に入り、2時に再び施錠される。朝6時に全員の部屋の扉が解錠される。自由時間になり、夜8時、投票。時間になるとこのモニターから案内が流れる。腕輪から投票したい人の番号を入力し、0を3つ。その日の追放者が決まる。同票の場合再投票で、決まらない場合は両方共追放となる。そして、再び10時の役職行使というタイムスケジュールになっている。いずれの場合も、ルール違反は全て追放となる。詳しい説明は、部屋にルールブックを置いておいたので参考にしてもらいたい。知らなかったでは済まされないので、しっかり把握しておくように。』

千隼は、隣りで不安そうにしている大都と目を合わせた。

そして、お互いに慰めるように視線を交わすと、またモニターに視線を戻した。

声は続けた。

『今日から、役職行使は始まる。狩人は守り先を決め、占い師はお告げ先を知らされる。初日の白先は狐は含まれない。狩人の連続護衛はできない。つまり二日連続で同じ人を守る事はできない。狼は襲撃先を決める。つまり、今夜の襲撃で役職を持つ誰かが居なくなることもあり得る。共有者は、お互いに腕輪の通信機能を使って役職行使の時間の間、話をすることができる。他の役職は、基本的にその機能を使えないようにロックしてあるので人狼が仲間と通信するのは不可能だし、村人同士でも無理だ。対面での話し合いをして欲しい。』

千隼は、段々に頭がハッキリしてきて、本当に命を懸けてゲームをするのだと思った。

この、誰だか知らない人は自分達を助けた事を後悔している。

本当なら全員海に戻したいのだろうが、勝てば帰してくれるというのだ。

こんな場所から自力で帰る事は不可能なので、それを信じて戦うより他、なかった。

そう思うと、しっかりしなければという気持ちになって来た。

『…以上が、ゲームの説明だ。先ほども言ったように、キッチンにある物は自由に食べて良いので、勝手に食事をしてくれ。こちらからは補充する以外に手出しはしない。自分のことは自分で管理してくれ。それから、入れない場所には全て鍵がかかっているので無理に入ろうとしない事だ。君達は君達に許された範囲で行動するように。では、これで説明を終わる。自分達がしでかした事の大きさを、少しは省みるがいい。』

「え?待っ…、」

誰かが言ったが、モニターの電源は唐突に切れた。

静寂が訪れる。

太月が、重い口を開いた。

「…確かに、あの人が言うようにオレ達は死んでたよ。夜中にこの孤島から転覆したのを見ていて、すぐに来てくれたからこそ助かった。やった事も…記憶を見たとか言っていたな?そんな手段を持っているということだ。歯向かわない方が良いと思った。」

珠緒が、言った。

「だから言ったのに!本当に死んでいたわ!全員あの状況で助かったなんて奇跡よ!夏菜だって…千隼くんと板の上に上げた時には、もう息をしているのかもわからない状態だった。ここの誰かが治療してくれたから助かったけど、本当にヤバかった…。」

珠緒の言う通りだった。

確かに何時間も光を求めて彷徨ったが、まさかそんな遠くまで来ていたなんて。

「…とにかく、誰もオレ達がここに居るなんて知らない。」千隼は言った。「きっと、救難信号を出せても助けに来るまでに死んでた。沈んでいただろうしな。オレ達は、万にひとつのチャンスに賭けて、ゲームをするよりないんだよ。そもそも建物から出られたとしても、どうやって逃げるんだ?外は寒いぞ。海水の冷たさは忘れられない。」

全員が、同じようだった。

ものの数分で手足が動かなくなって、気が遠くなった。

こんなことになっているのは、自分達のせいなのだ。

「…飯でも食おう。」一弥(かずや)が、ボソッと言った。「ここでゲームするしかないなら、体力を付けないとな。」

隣りの楓馬(ふうま)が、頷く。

「だな。やっちまったんだから仕方ない。あんなことを言ってるけど、全員帰してくれるのかもしれないし。希望は持とう。」

だが、帰ったところでやった事の責任はつき纏う。

まだ大学に在学中の太月(たつき)や他の大学生達、既に就職していた秀一(しゅういち)一敬(いちたか)など、居場所を失う可能性が高かった。

亜佳音(あかね) が、目に涙を溜めて言った。

「…でも…帰ったところで、こんな事が知られたら私達きっと、社会から批判されるわ。あの人の話だと大変な事になってるみたいだもの。港に置いてた車で、どこに居たのか分かってるだろうし、だからこそ、船が無くなってて、私達が乗って行ったと探してるんだろうし…。」

眞耶が、言った。

「お前らはまだいいよ!オレはおじさんの船だったのに…こんなことになって、あれ、中古だけど5000万ぐらいしたって言ってたのに!全員で払っても一人300万近く払わなきゃならないんだぞ?!」

太月が、言った。

「バイトで必死に働いたら稼げない額じゃない。それより、社会的信用の方が大変だ。オレだって、生きたいけど戻っても…せっかくのこれまでの努力が、全部無駄になる。そう思うと、つらい。でもな、生きてたら何とかなると思うんだ。やってしまったことの償いはしなきゃならない。眞耶も、他人のせいにしてるがあれを散々自慢してたのはお前だろうが。乗ろう乗ろうと言ったのもお前。それに乗ったんだからオレ達も同罪だが、お前に何か言う権利はない。全員が、責任を負うんだ。分かったな。」

眞耶は、不貞腐れた顔をしていたが、頷いた。

恐らく、眞耶も分かっているのだが、罪悪感が大きくてつい、皆に責任転嫁をしたくなってあんなことを言ったのだろう。

珠緒が、項垂れて言った。

「…せっかく、順調に単位取ってたのに…。きっと、退学になるわ。これからどうしたらいいのかしら。」

皆は、ため息をついた。

それでも、生きているので腹が減る。

千隼が、皆の背に続いてキッチンへと歩いて入って行くと、中には大きな冷蔵庫が幾つも並んでいて、業務用の物もあるようだった。

ダイニングテーブルがドンと真ん中に置いてあって、その回りに椅子も並んで置いてあったが、全く邪魔になっていない。

広く、綺麗に整頓されて掃除されたキッチンで、何やらホッとした心地になった。

先に歩いて行っていた、楓馬と一弥が冷蔵庫を開いて、驚いた顔をした。

「うわ。めっちゃいろいろある。」

大都が、業務用の方の冷蔵庫を開いた。

「あ、こっちも!冷凍庫だぞ。冷凍食品めちゃくちゃある。ほら、高級冷凍食品ってやつ。」

「こっちは冷蔵庫よ。」向こう側の業務用の冷蔵庫を開いた奈央(なお)が言った。「野菜とか、果物とか。めちゃくちゃ入ってる。」

自炊もできるということか。

千隼が思ってあちこち目移りしていると、楓馬が刺身の短冊を手に言った。

「切るかな。あっちの棚にチンするご飯があるし、腹ごしらえしてから部屋に行きたいしな。」

珠緒が、言った。

「よく食べる気になるわね。私は…そっちのパンでいいかも。なんだか胸がいっぱいだし、部屋も気になるわ。髪はべたべたしたままだから、お風呂も入りたいし…だから、部屋へ持って帰ろうと思うの。」

夏菜も、頷いた。

「私もそうする。番号順って言ってたよね?良かった、珠緒と隣同士で。」

珠緒は、頷いた。

「そうだね。10時までは一緒の部屋に居ようよ。亜佳音も、奈央もどう?」

二人は、頷く。

「うん、行くよ。女子の部屋が全部近くて良かったよね。私達、1から4までだもんね。一応考えてくれたのかな。」

亜佳音が言うと、奈央も頷いた。

「だよね。私達、たまたま男子達が約束してるのを脇で聞いてて仲間に入れてもらっただけだったもんね…。」

それで、こうなってしまった。

四人は、ため息をついて冷蔵庫からペットボトル飲料を選んで、パンを棚から選んで手に持つと、ぞろぞろと先に、あの男が言っていた、二階が本当にあるのかと話し合いながらキッチンを出て行った。



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