4日目の朝
千隼は、目を覚ました。
いつもホッとしていたものだったが、今日ばかりは違う。
襲撃された方が、村におかしな疑念を湧かせなくて済むと思っていたからだ。
だが、無事だったのだから仕方がない。
千隼は、いつものルーティン通りに洗面所で準備して、そして扉の前で待機した。
6時になり、ガツンと閂の抜けた音がする。
すぐに部屋を飛び出して廊下へ出ると、出て来たのは亜佳音、一弥、太月、大都、そして千隼の5人だけだった。
「…珠緒ちゃんは?」
千隼が言う。
亜佳音は、急いで珠緒の扉の前へと走った。
「珠緒ちゃん?!」と、扉を開いた。「珠緒ちゃん!」
中へ駆け込んで行く。
…珠緒か。
千隼は、眉を寄せた。
珠緒は、初日は夏菜を庇ったりと怪しまれた位置だ。
だが、一弥の白だったので吊られることなくここまで残って来た。
「…死んでる。」亜佳音の声が、中からした。「襲撃?…でも、涼太郎さんの占い先だったわよね。」
太月が、険しい顔をする。
もしかしたら、昨日は一敬を守ったのだろうか。
それとも…?
千隼が思っていると、三階から由弥が降りて来た。
「祐吏が死んでるよ。」もはや、無感動なようだ。分かっていたことだからだろう。「…なに?そこ、珠緒ちゃんの部屋だよね?」
皆が1号室の前に集まっているので、由弥は怪訝な顔をしながら言った。
千隼は、頷いた。
「ああ。珠緒ちゃんが死んでるんだ。」
由弥は、目を丸くした。
「…なら、呪殺が出てる。」と、三階の方を見た。「2死体出てるよ!珠緒ちゃんが死んでる!」
すると、三階から涼太郎を先頭に、勇佑、一敬が降りて来た。
「やっぱりか!珠緒ちゃんが狐だったんだ!オレは昨日珠緒ちゃんを占って白が出てる!」
一弥が、負けじと叫んだ。
「違う!祐吏だよ!祐吏は白だった、呪殺されたんだ!」
太月は、ため息をついた。
「…狩人は、昨日どっちも守っていなかった。」やっぱり、と千隼は落胆した。太月は続けた。「…珠緒ちゃんか。確かに白でも初日から発言はそう多くなくて、夏菜ちゃんを庇ったり怪しまれていた位置だな。とはいえ、狐は落ちた。どっちが狐でもな。」
確かにそうだが、これではどちらが真占い師なのかわからない。
一弥が祐吏を噛んだのか、涼太郎が珠緒を噛んだのか、判別がつかないのだ。
今残っているのは、太月、亜佳音、由弥、大都、一弥、涼太郎、一敬、勇佑、千隼の9人だ。
縄は残り4つ。
千隼は、言った。
「…今9人、縄は4つ。各占い師目線でのグレーは、一弥は亜佳音ちゃん、大都、一敬、オレ。涼太郎目線では由弥、一敬、オレ。この中に2狼居ると思うか?」
亜佳音が、言った。
「私は白だから私目線じゃ、大都さん、由弥さん、一敬さん、千隼さんの中に2狼ってことになるんだけど…千隼さんか一敬さんが狼でもない限り、2狼はなさそう。きっとどこかで落ちてると思うわ。」
由弥は、頷いた。
「だよね。だとしたら、楓馬か眞耶で落ちてることになるから、その二人に入れてない涼太郎と大都は怪しく見える。僕は入れてるし、ここに残ってる中で狩人の勇佑以外、その二人に入れてない人は残ってないんじゃないの?」
太月は、頷いた。
「そうだな。確かに。」
涼太郎は、首を振った。
「オレ目線じゃ、まだ落ちてないと思うぞ。一敬と千隼は、占ってないんだからな!その二人は、いつも一弥に肩入れしてる由弥と同じ意見だったし、特に千隼はいつでも由弥と同じ意見だったじゃないか。一敬も、意見は出してたが様子見してる感じだった!この二人の中に、絶対間違ってる村人と、狼が居るはずだ!」
涼太郎目線ではそうなるだろう。
おかしくはない意見だった。
千隼は、言った。
「…じゃあ、今夜はオレを吊って一敬を統一占いするか?そうしたら、色が見えるだろうが。」
太月が、言った。
「何を言うんだよ!お前は白いじゃないか。統一占いするなら、お前だろう!」
まだ隠すのか。
千隼は思ったが、黙っていた。
一敬が、言った。
「…どちらにしろ今夜の吊り先に困るんだ。占い師の決め打ちターンだろう。だから言う。オレが、共有の相方だ。」
え、と、皆が固まる。
亜佳音が、呆然として言った。
「え…?待って、じゃあ千隼さんは?」
太月は、渋い顔で一敬を見てから、言った。
「…その通りだ。」皆が驚いた顔をした。太月は続けた。「千隼には、最初の白い姿勢から相方のふりをしてくれと言ってたんだ。これまで、だから千隼はオレとよく一緒に行動していた。共有の相方も、狩人も何も千隼は知らなかった。でも、ここまで共有のふりをして、だからこそ占い師も、占い指定先に入っても千隼を占わなかっただろう?だから完グレのままでリスクを背負って相方を守ってくれてたんだ。だから、千隼は吊らない。占ってからにする。本当は、一敬に黒を打って来た占い師を吊るし上げるための罠だったが、占い師達は千隼もだが、一敬も占わなかったからな。昨夜だって、一敬を守ってもらってた。もし、涼太郎が一敬の方を呪殺偽装しようとしたら護衛成功が出るだろうからだ。祐吏は、自分を守れと言ってたのにな。」
勇佑は、言った。
「だからオレは祐吏にしようと言ったのに!」怒っているようだ。「あいつを信じてやれば良かったのに!」
太月は、唇を噛み締めた。
悔やんでも、後の祭りなのだ。
千隼は、言った。
「オレの役目は終わった。今夜はオレを吊れ。そしたら勇佑は真だと思う方の占い師を守れるし、必ず狼を見つけてくれるだろう。オレは残っても狼の格好の黒打ち位置になる。両占い師目線で、これで二人のグレーが消えて残りは涼太郎は由弥だけ、一弥は亜佳音ちゃんと大都だけになる。一弥目線で、亜佳音ちゃんと大都が両方狼でない限り、黒がわかる。涼太郎目線では、由弥が狼か、それとも白なら楓馬と眞耶で2狼落ちてる計算になる。あと4縄、今夜オレで1つで3縄だろう?まだいける。」
由弥は、言った。
「それはそうだけど…良いの?共有のふりをしてくれって頼まれるほど白いんだよ?なのに今日吊れって言うの?」
亜佳音が、顔をしかめた。
千隼は、頷いた。
「いいよ。勝てるだろ?ここまで来たんだ。村目線、明日オレに黒を打たれたらそれを違うって言えるか?オレは寝て待つよ。奈央ちゃんだって白かった。」
亜佳音が、ぶるぶると唇を震わせていたが、言った。
「…じゃあ、私を吊って。」皆が驚いた顔をする。亜佳音は続けた。「私は祐吏さんを信じてる。だから一弥さんが真だわ。一弥さん目線の黒の可能性がある私を吊って、大都さんを占って。もし、大都さんが黒なら、千隼さんは白でしょ?」
千隼は、首を振った。
「ダメだ、君は涼太郎の白だから黒塗りは出来ないけど、オレにはできるんだ。どう考えてもオレ吊りが安定だよ。君は白いよ。」
「私だって一弥さん目線じゃ囲われてるかも知れないのよ?むしろ狼は、ここまで来て囲ってないなんてあり得ないじゃない。私を吊るべきよ。」
亜佳音も譲らない。
だが、どう考えても今日は千隼が安定な気がしてならなかった。
何しろ、唯一の完グレなのだ。
「両占い師目線黒の可能性があるのはオレだけだ。」千隼は、言った。「まだ涼太郎真を切れない以上、今夜はオレ吊り安定だ。太月、とにかくオレを吊れ。占い師の精査は明日の結果を見てからでいい。」
あまりにももっともな意見に、太月は頷くよりなかった。
いくら白くても、千隼は完全グレーなのだ。




