3日目昼
皆が、またリビングに集まった。
太月は千隼のノートを握りしめて、いつものようにホワイトボードの横に立ち、言った。
「…祐吏を吊ると言ったが、まだ夏菜ちゃん人外の疑いがぬぐえない。」太月は、絞り出すように続けた。「だから、希望通り呪殺で処理したいんだ。何を信じたら良いのかわからない今、夏菜ちゃん人外の情報だけはこれまで確かなことだった。なのに、大都からの情報で覆った。だが、それも定かではない。大都が白だとしても、夏菜ちゃんの口から素村だとハッキリ聞いたわけじゃない。だからこそ、みんなで確かに聞いた事だけ総合すると、やはり夏菜ちゃんは何らかの人外だったように思う。それが狐だろうと狂人だろうと、1人外は落ちている。夏菜ちゃんが素村なら、多くの味方が居る事を知っていたはずで、あそこまで極端な反応はしなかったと思うんだ。だから今夜は、残った完全グレーの奈央ちゃん、千隼、一敬の3人から吊ろうと思う。みんな白いが、それで占い師達の目線が詰まるんだ。勇佑と護衛先はしっかり考える。明日以降、真占い師が残るために。ちなみに、白先で言えば大都、君が投票からも皆に怪しまれているぞ。村人なら涼太郎のためにも、しっかり発言して色を落とせ。由弥も亜佳音ちゃんも、白と言われた後もしっかり発言しているんだ。」
大都は、驚いた顔をした。
「え、白なのにか?オレは毎日しっかり寝てるし、狼じゃない!」
千隼が、言った。
「メタでそう思ってたけど、お前が寝てても他の狼が襲撃したら済むからな。だからまだわからないって判断だ。村人なら、行動で示さないと占い師が二人出てるんだから怪しまれるに決まってるじゃないか。特に、もし涼太郎が偽だったら、一弥が噛まれていて色が見えなくても吊られる筆頭位置になるぞ。しっかりしないと。」
奈央が、言った。
「…だったら、私を吊って。」皆が目を丸くする。奈央が続けた。「良いのよ、勝ってもらわないと、生き残ってもどうせ死ぬの。私は千隼さんや一敬さんほど白く見えてないだろうし、無駄占いさせてしまいそうだわ。共有者でもない。だから、私を吊って。」
亜佳音が、慌てて言った。
「奈央ちゃん!何を言うのよ、あなたも白いわ!」
奈央は、首を振った。
「だから勝って欲しいのよ。この感じ、絶対囲いが発生してるのよね。私目線では、千隼さんはめっちゃ白いし、一敬さんはいつも睨むようにみんなを見て真剣に考えているようだし、白く見えるの。占い師のどっちが真かはまだわからないけど、一弥さんが狼なら由弥さんが仲間、涼太郎さんが狼なら大都さんが仲間に見えるわ。それだけ言っておく。」
村っぽい。
千隼は、思った。
だがここで自分を吊れと言ったら、共有ではないことがバレてしまう。
だが、どこが共有の相方なのか透けるかもしれないので、千隼には言う事ができなかったのだ。
「…奈央ちゃんは白い。」由弥は、言った。「どうしたらいい?占い師の白先を吊ったら白を出した占い師の真を切ることになるし、それは危ないよ。もう、共有の相方も出した方が良いんじゃないの?」
太月は、苦悩の顔を更に濃くした。
今まで隠して来たが、明日は占い結果もどうなるのかわからない。
太月は、言った。
「…例え相方が吊られそうになっても、ここまで隠したんだ、言わないよ。相方が出たいなら出てくれてもいい。」
千隼は、下を向いた。
多分、みんなの視線は千隼に刺さっているだろう。
だが、自分は相方ではないのだから、出る事はできなかった。
しばらく沈黙が続き、太月は言った。
「…相方も同じ気持ちだ。」と、皆を見回した。「じゃあ、申し訳ないが今夜は奈央さんを。夏菜ちゃんか楓馬か眞耶で人外が落ちていることに賭けよう。」
涼太郎が、言った。
「…だったら、オレに占い先を指定させてくれ。」皆が涼太郎を見る。涼太郎は続けた。「呪殺を出したい。狐っぽい所を占う。オレ目線じゃ絶対祐吏は狐じゃないんだから、それを狙うしかない。奈央ちゃんが怪しいかと思ってたが、吊りを飲むなら違うだろう。狂人は狼が噛んでくれる。オレはまだ夏菜ちゃんがリア狂だと思ってるから、ここで呪殺を出さないと勝てない!」
太月は、頷いた。
「わかった。じゃあ夜までに考えて来てくれ。一弥も一応、祐吏ともう一人指定先を考えてくれ。今夜はそれぞれの占い師の、占いたい所を占ってもらおう。」
今夜は、奈央を吊る。
千隼は、暗い気持ちになった。
今夜、必ず人外が落ちる。だが、もし一弥が狼で狂人を残して、夏菜がリア狂だったら涼太郎が別に呪殺を出さないと村に勝ちはないかもしれない。
村にとっても、大きな賭けだった。
千隼は、太月を訪ねた。
もう、皆が自分を共有の相方だと思っているようなので、だったらその相方が、さっさと占われて黒でも打たれてくれた方がいいのでもう、堂々と太月と接してもいいと思ったのだ。
部屋へと入って行くと、一敬が居て、振り返った。
「ああ、千隼。どうしたんだ?」
太月が言うと、千隼は言った。
「ああ、一敬が居るとは知らなかったんだ。出直そうか?」
太月は、首を振った。
「いいよ。一敬は大丈夫だから。」と、自分はベッドの方へと歩いて、二つしかない椅子の一つを千隼に進めた。「座ってくれ。何か話があったんだろ?」
千隼は、一敬を気にしながら、言った。
「…その、下では言えなかったんだ。だから、後で良いかなって。」
太月は、苦笑した。
「だから、良いんだって。」と、一敬を見た。一敬が頷く。太月は続けた。「一敬が、オレの相方なんだよ。」
千隼は、目を丸くした。
「ええ?!」
全然分からなかった。
というか、確かに理人も噛まれて勇佑は狩人、祐吏も狐か狂人で奈央も吊りを飲みととなれば、残っているのは珠緒とか一敬、亜佳音ぐらいしか居ない。
みんなは千隼が共有だと思っているようだが、千隼目線ではそこしか残っていなかった。
由弥もあり得たが、だったら出てしまえばもっと発言力が増すのだから、あの由弥が黙っているはずもなかった。
一敬は、笑った。
「分からなかったか?残ってる人達を見たらだいたい察しはつくだろうが。お前には感謝してるんだ。お前が盾になってくれてるから、オレはこのまま潜伏して人外がオレを黒置きして来るのを待つ事が出来る。お前が人外だったら、さっさと太月を噛んで共有者だと言えば、それで村の信頼は得られただろう。何しろ、オレの事なんかみんな共有者だと思ってないから、後からオレが出て主張しても誰も信じないだろうからな。だから、お前の事は信じてる。」
千隼は、しかし暗い顔をした。
「…信頼してくれるのは良いけど、オレが残っていて太月が噛まれたら、一敬が出るだろう?その時、勇佑ですらオレを守ってたんだからオレが相方だと思ってるだろうが、違うからまあ、一敬が真だってオレは言うわな。そうした時、オレは村から完全グレーなのに共有に取り入って生き残ろうとしてる人外に見えるような気がして。だったら、見るからに白い奈央ちゃんは残して、オレを吊って置いた方が後々のためなんじゃないかって。それを言うために、ここへ来たんだ。」
太月は、首を振った。
「オレ達は分かってる。お前がそもそも、それを分かっててオレが噛まれた後一敬が相方だって言ってくれたら、それ自体が白証明に見えるんだよ。今の状況で、いくら一敬が騙りでないって言っても、オレが死んでたら誰も確認の術がないんだから、お前は乗っ取り可能なんだ。実際、絶対乗っ取れた。なのに、二日待ったけどオレを噛んでないしお前はそうやって悩んでる。大丈夫、一敬が残るから。お前を疑わせないって。」
そうは言うが、由弥ですら千隼を共有者だと思って居そうな感じだ。
その前置きが無くなったら、皆の目線がガラリと変わるような気がするのだ。
「…分かった。じゃあ、今夜は奈央ちゃんに吊られてもらう事にするよ。でも、オレは村人だから。お前らの信頼は、絶対裏切らない。」
二人は、笑って頷いた。
だが、千隼は嫌な予感がして仕方がなかった。




