どこを吊るのか
そのまま、朝の議論は一旦終了した。
太月は、混乱しているのでしっかり考えてまた14時から再開すると、皆を解散させたのだ。
太月の悩みは分かるし、千隼は残ってノートを差し出した。
「…見るか?」
太月は、千隼を見上げて、ノートを受け取った。
「すまん。駄目だ、どこを吊ったら良いのか分からなくて。ああは言ったが、まだ迷ってる。これが結局、狼利になってるんじゃないかって。祐吏が本当に狐なら、涼太郎は偽だから狼だ。狂人だったら一弥が狼。誰を信じたらいいのか分からないんだよ。」
すると、由弥が後ろから言った。
「でもね、単独なら分からないけど、今日の理人噛みだ。普通なら共有者をチャレンジして来るところだろう。それを、理人を噛んでる。縄が増えるのを嫌がったとしても、だったら完全グレーでなくその辺の白出しした所を噛んでおいたらいいじゃないか。それをしないで、わざわざ一弥の占い先の理人だ。その意味だよ。」
太月は、ため息をついた。
「分かってる。分かってるんだが、せっかく狐だとCOしてくれてる祐吏を信じ切れない。理人噛みも、わざとじゃないかって。狼だって勝とうと必死だ。だからどうしたら良いのか考えたら、一弥と涼太郎、どっちが真だとしても明日の結果をどうしても落としてもらえる方法を考えるしかなかった。明日呪殺できたとしても、噛み合わせられたら真がわからないし…。」
夏菜がリア狂かもしれないという、意見が無ければここまで悩まなかった。
まだ縄に余裕があるので、今日グレーを詰めてお茶を濁して明日の結果を見る事もできた。
だが、夏菜が村騙りしていた村人だったら、人外はまだ5人居るかも知れない。
狐か狂人かわからないが、祐吏が人外なのは確かなのだ。
ここは確定人外の祐吏を吊るより他に、無いとまで追い詰められてしまったのだ。
「…あの子があんなことしなければこんなことにはならなかったのに!」由弥が、悔しげに言う。「でも、味方が居ないとかほざいてたけど、あれはどういう事だろう。そもそも、大都以外にそれを聞いてないわけだろ?ホントに聞いたの?もしかして、大都が狼で涼太郎が不利になるからあんなこと言ったとかない?だって、それまではどう占わせてどう呪殺させるかって話になってたよね。それが狼にとって不都合だから、作り話をしたとかないの?」
千隼は、言われて確かに、と思った。
夏菜はかなり怪しくて、みんな敵だと本気で思っているようだった。
あれがもし、狂人で狼がわからない状況で、全員村人に見えてそう言っていた可能性はないか…?
大都は、思えば初日以来千隼の側に来ない。
ちょうど、共有がどうのという話になっていた頃で、千隼は白い、が村で固定されていた頃だった。
投票先も、理由には納得したが本当にそういう理由なのだろうか。
もし、楓馬か眞耶が狼だったら…?
何しろ、涼太郎も大都と同じ投票先なのだ。
ラインがあるとしたら、一弥と祐吏ならば、涼太郎と大都もあるということになる。
大都は、初日の涼太郎の白先なのだ。
「…どっちがどっちかわからないけど、涼太郎目線で祐吏と一弥にラインがあるなら、一弥目線では涼太郎と大都にもラインがあるよな。投票先もだし、涼太郎の白先だ。」
太月は、背を背もたれから浮かせた。
「…そうか、投票先もか。」と、ノートを凝視した。「確かに大都と涼太郎にはラインがあるように見える。白先なだけなら分からなかったが、投票まで揃ってる。その大都からの意見、か…。」
千隼は、複雑な気持ちだった。
大都を疑わなければならないのか。
「…この際、友達フィルターは消すべきだよ。」由弥が言う。「僕は一弥の白先だから、一弥寄りの意見だと言われても仕方ないけど、千隼はまだグレーだ。あいつらが君に黒は打たないだろうけど、騙されてるかもしれないからね。」
その時、一敬が、そこへやって来た。
「…まだ決まらないか。」
投票先の事だろう。
太月は、頷く。
「本当に祐吏で良いのかって。占い師の決め打ちにはまだ早いし、明日の結果次第でやるしかないが、ここへ来て夏菜ちゃんの情報を出した大都の色が怪しくなって来てる。どうしたら良い?誰を吊れば良いと思う。」
一敬の後ろから来た、勇佑が言った。
「オレとしては、祐吏は残して他を吊りたい気分なんだ。」皆が勇佑を見ると、勇佑は続けた。「あいつは、本気で村を勝たせようとしてる。初日から真剣に議論に聴き入っていたし、積極的に占われようとしてたのは確かだ。現に初日に自分を占い指定先に入れろって言ってたよな。あいつの言動は一貫してて矛盾がない。そもそも大都の白だって、最初に日にメタで千隼たちが決めつけてたんじゃないのか。」
千隼は、バツが悪く頷いた。
「それは…確かにそうだけど。ほんとに、あいつは12時過ぎたら起きてられない奴で。」
由弥が、言った。
「オレも思ってた。でもさ、狼は複数居るわけだし。別に狼の会合に参加しなくて寝てても、他の狼が襲撃先を入れてくれたら大丈夫なわけだよ。大都は確かに寝ないと無理だけど、一度寝たら起こしても起きないじゃないか。狼達は、大都をほっといて自分達で決めたりしてたんじゃないの?初日以降は知らないけど、初日は少なくてもそれで大丈夫だったはずたろ?」
言われてみたらそうだ。
千隼は、目を開かれる気持ちだった。
大都は、一度寝たら起きない。
ということは、時間になっても起きなくて、寝かせたまま他の狼が襲撃していたらわからないのだ。
安易に白おきした、自分が恥ずかしかった。
「…そうだ。だったら大都もありえる。ってことは、吊られた楓馬にも眞耶にも二人は入れてなかったから、もし二人が狼ならこの二人のうちどちらかに狼が居たと考えるのが自然だ。特に昨日…勇佑は間違ってた狩人だとしても、涼太郎と大都は知ってて入れたと考えたら?辻褄が合う!」
勇佑は、渋い顔で頷いた。
「…オレはな、なんか怖くてな。」何の事だろう、と皆は勇佑を見る。勇佑は続けた。「みんながみんな、眞耶吊りの雰囲気だった。由弥の白は確定してないし、千隼も一敬もまだグレーなのにやたらと意見が揃ってる。知らず知らずのうちにラインができてるんだよ。涼太郎の方の旗色が悪いし、このままなら片方の勢いに飲まれて狼のストレート勝ちになるんじゃないかって。狩人が二人出てると聞いた時、だからこの中に居るんじゃないかと思った。オレが反対側に肩入れいたら、狼は面倒に思って噛んで来るんじゃないかと思った。だから、オレは敢えてみんなの意思とは反対の方に入れた。疑われてもオレには回避の方法がある。合っていたとして、これで狼がオレを面倒に思って噛んでくれたら、狩人騙りのもう片方は吊られるだろうと思った。今日は狩人ローラーだと思っていたし、そうしたら縄を消費せずに済むしな。だが、噛まれたのは同じグレーの理人だった。だから、オレは一弥や由弥側には狼が居ないと判断して、祐吏の言っている事は間違っていないと思った。」
そんなことを考えていたのか。
千隼は、感心して聞いていた。
勇佑は発言はあまりしなかったが、それなりに考えて行動していたのだ。
真狩人だからこそできた事なのだろう。
「…祐吏がCOしなかったら、今日吊られたのは君だったかもよ?」由弥は、言った。「回避できると思ってるのは、自分だけだ。だって、真だと知ってるから。でもみんなにはわからないんだからね。危ない橋を渡ってる。」
勇佑は、苦笑した。
「分かってる。だからこそ祐吏には感謝してるんだ。実際あいつがCOするまでは、自分が噛まれなかったからヤバいと焦ってたんだ。みんなに誤解されたままになるって。結果、真確したのは祐吏のお陰だ。あいつはホントに村に勝たせようとしてるとオレは思う。だから望み通り、呪殺したいと思ってるんだ。」
勇佑は、祐吏を信じたのだ。
太月は、苦悩の表情を浮かべた。
「でも…だったらどうする?人外は落ちてるのか?ここ二日のグレー吊りで。」
一敬は、同じように険しい顔で首を振った。
「わからない。勇佑の意見はわかったが、どうなんだろうな。楓馬は接戦だったし、吊れていたとしたら昨日の極端な投票だった眞耶か。だが…確証がない。狂人は生きてるのか。夏菜ちゃんは本当にリア狂だったのか。何もわからないんだ。どちらにしろ、今夜が山だな。」
千隼は、項垂れた。
わからない。本当にわからないのだ。これが狼側の罠なのか、それとも見えている通りに素直に涼太郎が狼なのか。
確かに今夜が山だった。




