3日目の朝
最早習慣化していて、千隼は次の日の朝、6時のアラームが鳴る前に目を覚ました。
サッと腕輪を操作してアラームをキャンセルすると、起き上がってトイレへと向かった。
まだ時間があるので、顔を洗って準備をしておこうと思ったのだ。
昨日は寝ぐせのまま出て行ったのだが、今日はちゃんと髪を整えるぐらいはできる。
千隼は、すっかり早起きになっている自分に驚いていたが、人の習慣とはこんなものなのだろう。
新しい環境に慣れるのも、人の順応という防御反応なのだ。
特に若い自分達は、そういう事に長けているんだなと今回の事で分かった。
こんな、普通ではない状況で、命を懸けてゲームをしているなんて、誰が知ってるのだろうか。
顔を洗って洗面所の鏡で顔を見ている間、千隼はそんなことを思っていた。
すると、お決まりの6時の閂の音がガツン、と派手に聴こえて来て、千隼は急いで洗面所から飛んで出て、扉を開いた。
ここ二階で生き残っていたのは、珠緒、亜佳音、奈央、大都、一弥、太月、千隼の7人のはずだ。
千隼が廊下へ出ると、皆が同じように扉を開いて外へと跳んで出て来ていた。
「みんな居るか?」
太月が言う。
太月の顔を見た千隼はホッとしたが、頷いた。
「居るみたいだ。7人だろ?居るよ。」
太月は、頷いて階段へと足を向けた。
「じゃあ、三階だ。でも三階に、噛む位置なんかあったか?」
護衛成功が出たのだろうか。
思いながら階段を上がって行くと、上から勇佑が顔を覗かせた。
「あ、来た。今、由弥と祐吏が見て来てくれてるけど。理人が襲撃されてるみたいだ。」
理人?!
太月は、千隼を見る。
千隼は、目を丸くして太月を見た。
グレー…しかも、完全グレー位置だ。
そこを狼が噛む?
「…オレ、理人白だけど。」
一弥が、後ろから言う。
理人白…つまり、呪殺?
「それって…つまり共有者で護衛成功が出てて、理人で呪殺が出てるってこと?」
一弥は、首を振った。
「分からない。なんで狼がこんな噛みをしてるのか、理解できなくて。」
わざわざ完グレを噛んで来るなんて、おかしな噛み筋だ。
だが、涼太郎は言った。
「オレは祐吏白だ。そんなはずないだろうが、一弥が狼で、焦って呪殺を装おうとして理人を噛んだんじゃないのか?明日共有者が噛まれるかどうかで分かるだろう。護衛成功じゃなかったらな。オレ目線じゃ、絶対狼が分かっててこんな所を噛んでるんだ。」
祐吏が、険しい顔をしている。
由弥が、それに気付いて話しかけた。
「どうしたの?何か気になるの?」
祐吏は、由弥を見た。
「ううん、なんかめっちゃ不自然な噛みだなって思って。狩人探しの噛みなのか、それとも一弥の呪殺を装おうとした噛みなのか、そう追わせて怪しくさせるための噛みなのか。一弥の真確を恐れて噛み合わせたとも考えられるよね。どちらにしろ、想定してなかったところを噛んだから、悩んでたんだ。」
それは、千隼もそうだった。
太月も同じらしく、部屋から出て来た由弥に言った。
「…襲撃の様子は?これまでと変わったところはあったか?」
由弥は、首を振った。
「無いよ。いつもと同じで、眠ってるみたいに死んでる。だから呪殺なのか襲撃なのか、見た感じじゃ分からないな。」
やっぱりそうか…。
千隼は、がっくりしながら太月を見た。
「とにかく、また白が二つだ。どうする?今日は狩人詰めか?決め打ちは明日でもいいような気もするけどな。今日のこれが護衛成功なのか、それともわざと噛んだのか、それを知りたいから。それとも理人は狩人だったのか?」
太月は、首を振った。
「いいや。理人は狩人じゃない。だから、狩人を狙った噛みなら間違いだった。でも、今日狩人を精査するのは昨日から言っていたことだから、狼は吊り縄を使わせるためにも狩人を探して噛んだというのは怪しい。だからやっぱり、違う気がするが…。」
皆は、顔を見合わせた。
どうして理人を噛んだのだろう。
完全グレーの寡黙位置で、確かに昨日の議論で秀一を噛む狼ではないとは思ったものの、まだ黒塗りはできた位置だ。
千隼は、言った。
「…この不自然な噛み、祐吏が言ってたけど、寡黙で完グレってさ、狐の可能性もある位置だよな。」皆が、千隼を見る。千隼は続けた。「もしかしたら、狼は狐がまだ居た時に呪殺が出るのを恐れて、理人を噛んだんじゃないのか。理人は狼はなさそうだったけど、狐はあり得た。もしかしたら、だからこんな不自然な位置を噛んだんじゃ。」
太月は、千隼を見て顔をしかめた。
「だが、昨日も噛み合わせを避けるために二人指定してたぞ?」
だが、その二人の内一人は千隼だ。
村からは共有者の太月と偽装しているので、恐らく相方だと思われているだろう。
そうなると、真占い師なら占うのを避けようとする。
一弥は、ほぼほぼ理人を占うだろうと予想は簡単だったはずなのだ。
それを気取ったのか、由弥が言った。
「昨日は一弥に千隼と理人が指定されてたもんね。見るからに白い千隼が、占われると思った人は少ないんじゃない?だから理人だったって考えたら、噛み合わせも考えられるよ。でも、逆もあるけどね。狐かもしれないから噛んでみて、噛めたらラッキーみたいな。護衛成功が出たとしても誰も理人で成功してるなんて思わないから、そこが狐だったと分かるのは狼だけだ。噛めなかったら黒を打てばいいわけだし。」
どっちだろう。
皆は、眉根を寄せて顔を見合わせる。
祐吏が、言った。
「…狼には誰を噛んだのか分かってるはずだよね。狐が居たら狐にも分かってるよ。わからないのは村人だけだ。」と、太月を見た。「会議は何時?いつも通り8時にする?」
太月は、やけに積極的な祐吏に驚きながらも、頷いた。
「ああ…8時に、リビングに集まろう。」
ここで長話もできない。
千隼はそう思って、さっさと部屋に戻って行く祐吏の背を見つめた。
そして、自分も階段を降りて部屋に戻って行ったのだった。
今日のジャージは、紺色の物にした。
クローゼットには、多くの着替えが入っていたが、毎回減っていくので寝る前に、下着だけは洗うようにしている。
だが、そろそろジャージも着替えないと、臭いそうな気がしたのだ。
これまで着ていた深緑のジャージを脱衣所に置いて、夜に洗濯しよう、と千隼は思った。
そう思って見ると、女子達は毎日ジャージの色が違うので、毎日着替えているようだ。
千隼が階段を降りていると、亜佳音に声を掛けられた。
「あら、千隼さん、やっと着替えたの?」
え、と振り返ると、奈央も珠緒も頷いている。
どうやら、同じジャージを着た切りだったのを知られていたようだった。
「下着は洗って毎日変えてるけど、ジャージは着た切りだったから。気付いてたのか?」
奈央が、苦笑した。
「私達は毎日お風呂で洗ってるからね。ジャージは五枚あったけど、きっと最終日までもたないでしょ?だからなのよ。でも、男子達は結構平気みたいね。着た切りな人は多いわ。由弥さんは毎日変えてるよ。あと、太月さんと祐吏さんも。」
珠緒が、うんうんと頷いた。
「だよね。それはそう。こういう時に性格って出るよね。」
オレは結構適当だから。
千隼は、バツが悪い顔をした。
「まあ…女子ほど着る物にこだわりないからな。」
妹に、よく服のダメ出しをされたものだ。
だが、女子はそんなところをよく見ているのだ。
「それより、どう思う?」千隼は、話題を変えた。「ほら、今日の襲撃だよ。不自然過ぎて狼から結構な情報が落ちてるんだと思うんだけど、違う方向に解釈したらヤバいだろ?だから迷ってるんだ。」
亜佳音が、歩きながら言った。
「わからない。どっちとも解釈できるもの。一弥さんの真確を恐れた噛みか、呪殺を装おうとした噛みか。でも、呪殺は無理があるよね。二死体出ないと確定しないもの。」
確かにそうだ。
だとしたら、やはり涼太郎が一弥真を確定させないために占うだろう理人を噛んで来たのか?
しかし、涼太郎に怪しいところはあっただろうか。
「…占い師の真贋がわからないからな。昨日の投票結果は確かに怪しいけど、眞耶は村人だったかもって思ってるからなあ。入れなかったからっておかしいわけじゃない気もするし。」
奈央は、頷いた。
「昨日も言ったでしょ?眞耶さんが村人なんじゃって。それならまだ楓馬さんの方が黒だったかもって思うわ。次の日の光佑さん噛みでね。」
そうなのだ。
楓馬は光佑が噛まれたので狼だったのではと思っているが、眞耶まで狼となると人外数が合わない。
何しろ昨日眞耶に入れていないのは涼太郎、大都、勇佑の3人なのだ。
その上に楓馬、眞耶となると多過ぎる。
千隼は考え込みながら、キッチンへと女子達と一緒に歩いたのだった。




