投票
そのまま、何度聞いても二人の意見はそう変わらないので、夜の会議は無しになり、それぞれ投票時間前にリビングへ来る事になった。
千隼としては、必死な眞耶は黒くは見えたが、誰でも投票対象に挙げられたらああなるだろうと思われたので、村人でもおかしくはないと思っていた。
しかし、奈央の眞耶を攻撃しない様子を見ていると、あっちこそ村人なのではないかと思えて来る。
奈央は、あの後も本気で眞耶も村人なのではないかと太月に訴えていた。
だが、一敬も言っていたように、これはグレーを狭めるための吊りだ。
なので、両方が村人かもしれないというのは、誰もが思っていることだったのだ。
だが、だからどこが黒いと言われても、誰にも答えられない。
なので、太月が指定した所を否定することもできなかったのだ。
そのまま、無言で皆が時間になって次々にリビングへと集まって来て、そうして粛々と、機械的な音声に従って投票した。
1 珠緒→8
3 亜佳音→8
4 奈央→8
5 大都→4
6 一弥→8
8 眞耶→4
9 太月→8
10千隼→8
11由弥→8
12祐吏→8
13一敬→8
15涼太郎→4
16理人→8
18勇佑→4
…圧倒的だな。
千隼は、思った。
だが、たった4人、大都と涼太郎と勇佑、そして眞耶自身が奈央に入れているだけで、ほぼ全員が眞耶に入れていたのだ。
「なんで?!」
眞耶が、立ち上がった。
ひと目で眞耶吊りだと分かったからだろう。
『№8は追放されます。』
音声が言う。
千隼は、慌てて言った。
「眞耶、座れ!でないと怪我するぞ!」
だが、時既に遅く、眞耶はその場にぐにゃりとへたり込んで倒れた。
「眞耶!」
太月が、急いで寄って行って、体を伸ばして横たえようと引っ張った。
あんなおかしな方向に足が投げ出されると、骨折してしまいそうに見えたのだ。
声が、淡々と告げた。
『№8は追放されました。夜時間に備えてください。』
そして、声は途切れた。
モニターには、投票先が出ている。
太月が、それをチラと見上げてから、千隼に言った。
「…これ、メモっててくれ。」
千隼は、頷いてノートを取り出す。
由弥が、倒れた眞耶に寄って行って言った。
「部屋に連れてく?」
太月は、頷く。
「運ぼう。その後、占い先を指定する。」
皆が頷いて、男子達で手分けして目を見開いたままピクリともしない眞耶を持ち上げて、リビングを出て行った。
残された千隼は、せっせと投票先をメモっていた。
残っていた女子達が、寄って来て覗き込んだ。
「…これ、どう思う?」
亜佳音が、話し掛けて来る。
千隼は、手を止めずに行った。
「…どうだろう。両方白だったら迷うだろうし、涼太郎は眞耶と仲が良いからな。」
珠緒が言った。
「でも、だったら大都さんは?昼にキッチンで話してた時、大都さんと眞耶さんってそんなに仲良くなかったよね。もし眞耶さんが黒だったら、大都さんは怪しいんじゃないかな。」
奈央が、言った。
「でも、何度も涼太郎さんが真っぽいから大都さんは白だってみんな言ってなかった?そもそも、眞耶さんってさ、こう言ったら悪いけど、あんまり賢そうじゃないじゃない?私が投票してても、迷ったと思うんだよね。結果は結構偏ってたから、逆に驚いたぐらい。私が吊られてもおかしくないなって思ってたから。」
確かにみんな、眞耶はちょっと頭が弱いと思っていた。
だが、投票して切り捨てたが、奈央は自分も指定されているのに、眞耶の村を追ってそう考えていたのだ。
「…奈央ちゃん、白いよね。」奈央は驚いた顔をする。千隼は続けた。「なんか、あいつはあんなに奈央ちゃんを叩いてたのにさ。最後まで、眞耶の黒要素とか、言わなかったじゃないか。」
奈央は、苦笑した。
「まあ、なんか同情しちゃってね。」奈央は、言った。「なんか必死だし、村なのかなって思って来て。みんなの話が、ほんとに分からないみたいだったの。どうして自分が黒く見られるのか、ほんとに。だから、黒く見えるところはみんな分かってくれてるみたいだったし、可哀そうで言えなかった。票はもっと割れると思ったの。私みたいに思ってる人も居るだろうなって思ってたから。吊られるのは怖かったけど、太月さんは頑張ってくれてるし、勝ってくれるんじゃないかなって。私が残っても、多分そんなに意見を落とせないと思ったからね。」
諦めてたのか。
千隼は、思って聞いていた。
そういう空気は、村人に伝わるのだ。
奈央が、白いという感覚として皆に伝わった結果、恐らく票が偏ったのだろうと思われた。
だが、そうなって来ると大都、涼太郎、勇佑にはそれが伝わらなかったのか?
単に眞耶に同情したのかもしれないが。
千隼が投票結果をメモし終える頃、男子達が戻って来て椅子へと座った。
女子達も、千隼の回りから自分の椅子へと戻ったのを見て、太月が言った。
「…とりあえず、もしかしたら村人だったかもしれないが、グレーの眞耶を吊った。じゃあ、今日の占い先を指定するな。」と、涼太郎を見た。「涼太郎は、祐吏か一敬、一弥は千隼か理人を占ってくれ。狐らしい所は分からないが…もし、狐で呪殺できたらラッキーぐらいに思ってくれたらいい。黒だと思う方を選んで、占って欲しい。」
そう言ってから、太月はホワイトボードにそれを書き記した。
千隼は、それを見て自分も占い指定先をノートにメモって行く。
太月は、ペンを置いて振り返った。
「じゃあ、今夜はこれで解散だ。狩人には、共有者の相互護衛を続けてもらう。また改めて護衛先を知らせるよ。じゃあ、解散。」
相互護衛って事は、やっぱり太月とオレの相互なんだろうか。
千隼は、思って聞いていた。
昨日も、太月の言い方ではそうだったはずだからだ。
皆が立ち上がってそれぞれ思い思いの方向へと歩いて行く中で、太月は千隼に言った。
「投票先はメモってくれたか?」
千隼は、頷いた。
「ああ、メモったよ。でも、あんまり分からないな。そもそも二人共白だったかもってさっきも女子達と話してたんだ。だとしたら、分からないだろ?同情票みたいなのかもしれない。」
太月は、顔をしかめた。
「なんだ、同情票って?ま、いい。後で聞くよ。」
千隼は頷いたが、今は9時前で10時までもう一時間ほどしかない。
聞く人が聞いたら、共有者同士が腕輪で話すと思うところだろう。
だが、あいにく千隼は、共有者ではなかった。
それでも、太月がわざとそう言っているのだろうと、黙っていた。
由弥が、言った。
「明日、結構盤面が動くと思うんだよね。狩人も出すんだろ?そうしたら、グレーが一気に狭まるし、狩人ローラーするかしないか考えることができるしね。共有者も出しちゃったらいいんだよ。そうしたら、手探り感が無くなると思うんだ。各占い師単独のグレーが広すぎるからね。見えなさ過ぎるんだ。」
太月は、頷く。
さすがに3日目になって、そろそろ縄も足りなくなって来るとなると、そうせざる得ないだろう。
…今夜は、一応覚悟しておいた方がいいかな。
千隼は、皆と共にリビングの扉へと歩いて無言の視線に晒されながら、この中の誰が今夜、自分を噛もうとしているのだろうと考えていたのだった。




