助かったのでは
モニターには何も映っておらず、真っ青なデモ画面のようなものしかなかったが、声は続けた。
『眞耶という子の…いや、成人したのだったな。男の叔父の船だったらしいが、跡形もなく沈んでしまった。もう君達が掴まっていた板切れすら海面に浮いてはいない。あの後朝から必死に皆が君達を捜索しているが、船がなくなっていたのと、漁船がおかしな方向へと航行する君達の乗った船を目撃していたので、湾の中を探しているが見つかっていない。そもそもここは、君達が出て来た港から直線距離で3時間の場所にある孤島だ。定期船もこの辺りには来ないし、潮の流れの関係上、航行が難しいので一般人もこの辺りには来ない。こんな所まで来ているなど、誰も思わないので捜索は難航している。もし君達を私達が見つけなければ、海水の温度からほんの数分で意識はなく海中に沈んでいただろう。つまり、君達はとっくに死んでいたのだ。溺死だけが海難事故の死亡案件ではないぞ。低体温症の方が多いのだ。1月中旬の海に投げ出されて、GPSすら起動させてはいなかった君達は誰にも知られず、生き残る術はなかった。これで、君達は自分達の立場を理解したかな?』
皆が、それを聞いて表情を暗くした。
船の事など何も知らず、酒に酔って無謀にも夜の海に出たのだ。
夏菜が、叫んだ。
「私は!私は嫌だって、戻ろうって何度も言ったんです!泳げないから海が怖くて…それなのに、男子達がいいからいいからって!」
夏菜は、涙を流していた。
確かに、夏奈は怯えて一生懸命戻ろうと訴えていた。
女子達も、顔をしかめていた者達も居たが、ノリノリで海を見て喜んでいた者も居た。
珠緒は怯える夏奈を庇って、そろそろ戻ろうと場を乱さないようにやんわりと進言していたが、酔って調子に乗った男子達にそれが届くはずもなかった。
ようやく光が見えなくなったのに気付いて、焦り出したが真っ暗な海の上で、数時間この孤島の光を見つけるまで、それは不安だったのだ。
男の声は答えた。
『連帯責任だ。それでも君があそこで死ぬのは他のもの達のせいだった。他のもの達は、友を殺したことを後悔しなければならない。』
眞耶は、顔をしかめた。
「そんな…みんな生きてる。殺してない。」
だが、声は鋭く言った。
『今の話を聞いていなかったのか?君達は本来もう死んでいた。私達がここに偶然居なければ、そして気付かなければ、死んでいたのだ。あんな時間に、仮にここに居たとしても、気付かない事も充分にあり得たのだぞ。たまたまやる事があったので起きている者達が居たのだ。今の言葉でも君達が全く反省していないのが分かった。助けなければ良かったと思わせるには充分なほどにな。ま、記憶を見た時に既に後悔していたがね。愚かな者達が勝手に死ぬのを放置しておけば良かったかと思った。なので、考えたのだ。』と、パッと画面にホワイトボードに貼ってあるのと同じ名簿が出た。『君達に番号を付けさせてもらったよ。それから、部屋も準備した。それぞれの番号をこれから自分のものとして使うようにしてくれ。部屋は、二階に1番から10番、三階に11番から18番まで準備してある。空き部屋は扉に鍵がかかっているので入ることはできない。三階から上には上がることはできない。今君達が居るのはリビング、背後に見える扉がダイニングキッチンへの扉だ。そこにある物は何を食べても構わない。毒も入っていないので安心して食事をしてくれ。それから、君達の腕に腕輪が装着されているのに気付いているか?』
千隼は、ハッと腕を見た。
確かに、こんな時計を巻いていた覚えはない。
銀色で、何やらスッキリとしたデザインだが曲線を描いた金属と、蛇腹のバンドでできていた。
『…それで、君達の事を管理している。』え、と皆が顔を上げると、声は続けた。『居場所も分かる。建物から出ることはできないが、建物のどこに居るのかもそれで分かる。外す事は君達にはできない。完全防水なのでそのまま入浴も可能。そして、これからちょっとしたゲームをしてもらうが、その投票時に使う事になる。逃げ出すことは不可能だ。君達は、籠の鳥なのだよ。』
夏奈がまた泣き出した。
つまりは、帰してくれないということだ。
「そんな…帰してくれないのか?!犯罪だぞ!」
声はフフンとせせら笑うような音を立てた。
『船を盗んで無許可で航行していた君達に言われたくないな。もう一度言うが、君達は死んでいるのだ。生きてここに居るなど、誰が知るというのだ。本土から遠く離れたこんな場所まで、まさか来ているなどと誰も思わないだろう。船の所在を知る者は居ない。君達は自分のせいで船を破損し、海へと沈め、そして海へと投げ出されて死んだ。誰もがそう思っているだろうし、こちらまで捜索しようとも思っていない。先ほども言ったように、ここはあちらから普通に航行しても三時間かかる距離の場所なのだ。海での遭難は、普通でも見つからないものなのに、船の残骸すら残っていない…綺麗に真っ二つになった船体が、海底へと沈んだからだ。何もない。君達は、自分達の愚かな行動のせいで死んだのだ。』
女子達が、震えて一か所に集まっている。
太月が、すっくと立ち上がって言った。
「それでも、部屋を与えてくれると言ったよな。殺すつもりはないってことだな?実験でもするつもりか。」
モニターの声は、答えた。
『物わかりの良い子が居て助かるよ。説明しよう。』と、画面が切り替わった。『君達には、今から人狼ゲームをしてもらう。18人、人狼3、狂人1、占い師1、霊能者1、狩人1、共有者2、妖狐1、村人8だ。勝利陣営は、ご褒美として本土へと帰してあげよう。だが、敗者は全て、元居た海へと戻るといい。ゲームが終わるまではこちらで保管しておいてやるが、終わって敗者であったら海で浮かぶのだ。もしかしたら、生きて浮かんでいる間に救助が来るかもしれないぞ?ま、望みはないだろうがな。』
全員が、顔を引きつらせた。
人狼ゲームって…村人だったら仲間が多いが、人外になんか、まして狐に当たってしまったら…!!
「そんな…!!そんなことって!助けてくれたのではないのか!」
声は、シビアな声で答えた。
『そう、君達を助けたが、何をしたのか記憶を見て知って後悔したと言ったな。放置しておけば、全員が今頃はとっくに死んでいた。人道的に見て助けないとと思って救い出したが、君達がしたことを全く反省していないと思ってね。放って置いたら良かったと思っているのだよ。まあ、一度は救った命だし、ゲームで勝ったら帰してやると言っているのだ。寛大な処置だと思うが?別に、真実を知った直後にまた海へと放り込んでも良かったのだぞ?嫌だというなら今からでも、全員戻してもいいがね。』
遂に泣いていなかった女子まで涙を流し始めた。
太月が、唇をブルブルと震わせていたが、言った。
「…分かった。」と、皆を見た。「この中の数人だけでも助かるんだ。村人陣営が勝てば、13人が助かることになる。本来全員死んでたんだ。オレ達が悪い…言う通りにしよう。」
皆が、それを聞いて仕方なく頷く。
太月は、同級生の中でも優秀な男で、学生時代はずっと陸上部で頑張っていたのを覚えている。しっかりとしていて、いつも皆が頼りにしている男だった。
大学も国公立大に受かり、都内で独り暮らしをしているはずだ。
そんな太月だったが、昨日は久しぶりに地元に帰って来たからか、確かに飲み過ぎていた。
正常な判断が、出来なかったのは他のもの達と同じだろう。
今素面に戻ってそれは後悔しているのに違いなかった。
男の声は続けた。
『では、ゲームの説明をしよう。全員、腕輪を見てくれ。』言われた通り、皆が腕輪を見た。『泣いていて知らないとか後で言っても私達は助けることはしない。腕輪の銀色のカバーを開いてくれ。』
言われた通りに触れてみると、銀色の部分はカバーのようになっていて、上へとぱかりと開いた。
中には、小さな液晶画面と本当に小さなテンキーが並んでいた。
『今から、そちらへ役職をランダムに振り分けて表示する。全員、自分の役職と、仲間がいる場合はその番号も出て来るので、それをしっかり見ておくようにな。表示時間は一分間。人外だったら知られたらすぐに吊られるぞ?しっかり隠して確認するように。では、表示させる。』
千隼は、慌てて手の平で画面を包んでそれを隠した。
だが、表示されたのは、「村人」という文字だった。
…ただの村人か。
ホッと肩の力を抜いたが、しかしまだ油断はできない。
人外から白を打たれたり、村人に怪しまれたりしたらそれだけで吊られてしまうのだ。
襲撃も、役職でもないので狩人の護衛もないだろうから、され放題だ。
気を引き締めて行かなければならなかった。
まだ、助かったわけではないのだから。