昼
朝の会議はそんな感じで、理人の気持ちを知ってしまった皆が気を遣うので進まず、一度お開きになった。
こうして考えると、あの理人が初日の襲撃先に秀一を選ぶとは思えない。
仮に皆が進めたとしても、必ず他を推しただろうし、初日なのだから狼仲間も他を選んだ事だろう。
そう考えるとにわかに理人は白くなり、そうなると人外数を全く考慮に入れていない意見を垂れ流すだけの眞耶か、なかなか発言の伸びない奈央かとなって来ていた。
勇佑は聞いてみると結構見て考えていて、眞耶や奈央を差し置いてまで、吊り位置に指定するほど怪しくはないのだ。
千隼は、ノートを手にリビングのソファに座って、みんなの友達関係も聞いておかないととうんざりした気持ちになっていた。
このゲームでは、そんなことまで考察の要素に加わって来てしまうのだ。
ため息をつく千隼に、太月が話し掛けて来た。
「どうした?一人か。大都と由弥は?」
千隼は、首を振った。
「大都は飯がどうの言ってキッチンに行った。由弥はトイレ行って来るって。」と、リビング横のトイレの扉が開いたのを見た。「あ、ほら戻って来た。」
由弥は、太月が居るのを見ながら寄って来た。
「あれ?太月。お邪魔したかな。」
太月は、首を振った。
「いや、暇そうだなと声を掛けただけだ。なんだかため息をついてたしな。」
千隼は、頷いた。
「もううんざりなんだ。理人の話を聞いて、ああ友達関係も考慮にいれなきゃなのかってやっと思って。こうなって来ると理人は白いなって。」
太月は、前のソファに座った。
「オレもそう思った。あいつが初日に噛み放題なのにわざわざ秀一を選ぶとも思えない。一気に白く見えたよ。」
「…ま、知らなかっただけかもだけどね。」由弥が言うのに、二人は驚いた顔をする。由弥は続けた。「襲撃したらどうなるのか。でも、今日吊る位置じゃないと僕も思うよ。占わせたらいいんじゃない?それより眞耶が気になるよね。村人でもまともな思考ができないと、ノイズになるから縄に余裕があるなら吊るべきだよ。人外数すら把握できてない。居たら理人とのことで気になって議論も進まないし、ここらで整理するのも一案だとは思うけど。」
確かにそうだが、そんなに安易で良いんだろうか。
千隼は、言った。
「…でも、皆の同意が得られると思うか?」
しかし太月は言った。
「逆にきちんと考えている他の村人を差し置いて残す方が、同意を得られないとは思うがな。ここは奈央ちゃんと眞耶を指定するのが安牌かもしれない。霊能者が居ないから、どうせ色は見えないが、占い結果は残り続けるからな。明日は狩人精査になりそうだし…できたら今夜護衛成功を出して欲しい気持ちだけどな。」
…明日か。
千隼は、頷いた。
「そろそろ破綻が見れるかもしれないしね。狩人はお互いにお互いを知らないんだろ?だとしたら、相手がどこを守ってるのかも知らないから、もし狼なら知らずに噛むかもしれない。狂人だったら狼とは繋がって居なさそうだから、狼が知らずに護衛指定されてる所を噛むかもしれないし。何より狩人自身が噛まれる可能性もある。狼の噛み先でまた考えられそうだ。」
由弥も、それには頷いた。
「それは思うよ。もう噛みたい場所が共有ぐらいしかないのに、護衛成功が怖くて噛めないわけだ。縄が増えるからね。でも、そろそろ潜伏している共有の相方だけでも噛みたいだろうし、狼も困って来てるんじゃないかな。」
千隼は、苦笑した。
確かに、共有が残り続けるのは狼にとって不利なので、早めに処理したいはずなのだ。
狩人に出ているのが狐か狂人なら、そろそろワンチャンスに賭けて噛んで来てもおかしくはなかった。
そこへ、祐吏がやって来た。
部屋に帰っていたのか、リビングの扉から入って来てキッチンへ向かおうとして、3人に気付いて足を止めた。
「あれ、もうご飯食べた?」
千隼は、首を振った。
「いや、オレはまだ。そういえば、もう12時か。」
祐吏は、頷く。
「お腹空いてないけど、13時からでしょ?会議。昨日はそうだったから、今日もそうかなって。」
太月は、言われてみたら時間を指定していなかった、と答えた。
「時間は決めてないんだ。理人の発言から、なんか重苦しい感じになってしまったしな。こっちはこっちで話し合えば良いかと思って。」
祐吏は、キッチンへ行く足をこちらへ向けて、寄って来て小声で言った。
「あのさ、みんなの友達関係、調べた方が良いよ。オレはあんまり知らないけど、時々誰かの部屋から誰かが出てくるのを見掛けたりするんだ。その時、それが不自然なのか不自然じゃないのか関係性がわからないから判断つかなくて。あんまり仲が良くないのに、個別に話してるとか怪しいでしょ?でも、それを知らないからオレ、指摘もできなくてね。とりあえず今見掛けた事を話すけど、涼太郎の部屋から眞耶が出て来て、オレとかち合ってね。飯に行くんだと言ってたけど、来た?」
…見てない。
千隼は、思った。
由弥が顔をしかめた。
「僕はトイレ行ってたから知らないけど、見てないな。」
千隼は、頷く。
「オレはここに居たけど見てない。」
祐吏は、ため息をついた。
「やっぱり。オレも行くけど、トイレ行ってからにするってまた部屋に戻ったんだ。だってなんか気まずい感じだったし、一緒に降りる気にもならなくて。やり過ごしたつもりだったんだけど、だったら二人はどうしたんだろう?」
確かにな。
千隼は、太月と顔を見合わせた。
狼は、楓馬で落ちていなければまだ二人居るはずなのだ。
「…オレも、大都と部屋で話したりしたから友達同士なら分かるんだけどな。そういえば、あいつ今朝からあんまり側に来ないな。どうしたんだろう?」
それには、由弥が答えた。
「多分、僕が居るからじゃない?」皆が由弥を見ると、由弥は続けた。「ほら、昨日の投票だよ。大都は僕に入れてたから、あれから気まずいじゃん。僕はもう気にしてないけど、あっちは気にしてるみたい。そういえば、廊下で涼太郎と立ち話してるの見たな。僕が部屋から出て来たら、廊下に立ってたんだ。僕に気付くとすぐに離れたから、わからないけど。」
涼太郎…?
大都は、涼太郎の初日の白先だ。
大都は白いと考えていたし、涼太郎が占い師の立場で白と知ってる大都に何か話していても、おかしくはない。
「…わからない。とにかく、みんなの交友関係についてはまた話を聞くよ。雑談の中ででも。昼飯の時が良いんじゃないか?」と、ちょうどそこに、涼太郎と眞耶が入って来た。「お、飯か?」
太月は、なんでもないように言った。
その変わり身の早さに驚いたが、千隼も真顔でそちらを見る。
涼太郎が答えた。
「そろそろ食っとかないとと思ってな。」と、眞耶を見た。「今夜の占い先の事を考えて、あちこち話を聞いて回ってるんだが、眞耶は白そうだなと思ってなあ。やっぱり共有に指定してもらった所を占う方が良さそうだ。」
眞耶が、横で頬を膨らませる。
「だから、オレは村人だよ!何度も言ってるじゃないか、みんなみたいにいろいろ考えるのが苦手なだけなんだ。」
千隼は、顔をしかめた。
涼太郎は、眞耶を怪しいと見て単独で話を聞いていたのか。
「…とにかく、飯だ飯!」太月は、言った。「先に腹ごしらえしてから話そう。」
そうして、太月は先に立ってキッチンへと歩いて行く。
千隼は、由弥と顔を見合わせてから、祐吏にも頷き掛けて、そうしてキッチンへと向かったのだった。




