1日目の投票
太月と千隼がキッチンへ入って行くと、もうみんな夕食を食べていた。
終えている人も居て、ダイニングテーブルに座って話している。
由弥が、振り返った。
「あれ。千隼、そろそろ起こしに行こうかって話してたんだよ。寝てると思ってたんだけど。」
千隼は、苦笑した。
「寝ようと思ったけど眠れなくて考えてたら、太月が来たからノート見て話してたんだ。」
太月は、頷く。
「こいつのノートにはいろいろ書いてあるし、話を聞きたくてな。」
由弥は、首を傾げた。
「いくら白くても千隼もグレーだよ?僕はまあ、千隼を信じてはいるけど、まさか狩人位置とか話してないよね。」
太月は、首を振った。
「ないない。ただ、みんなの発言を見返したかっただけだ。」と、わざと慌てた様子で言った。「一敬とも話したしな。千隼だけと話したわけじゃない。」
一敬は、頷いた。
「だな。太月はいろいろ回れたら回りたいって言って出て行ったもんな。」
大都が、何かを気取ったように言った。
「時間もなかったしみんなの部屋を回るのは無理だったかもね。分かる。」
由弥も、頷く。
「そうだよね。ごめん、いろいろ勘繰っちゃって。勝たないといけないから。」
それを聞いていた、亜佳音が気を利かせたのか言った。
「それで、指定位置は決まった?怪しい所がないから奈央ちゃんと珠緒ちゃんと困ってたのよ。」
太月は、頷いた。
「決めた。さっきも言ったように、今日はグレーを狭めるのが目的だから、村人でもすまないが吊られてくれとだけ言っておくよ。会議の席で話す。」と、千隼を見た。「なんか食べよう。時間がない。」
千隼は頷いて、そうして冷蔵庫を見に行く。
背後からの視線が、気のせいか前より鋭いような気がしていた。
共有の相方のふりをすると言っても、あからさまに共有です、と言うわけにも行かず、さっきと同じように行動するしかない。
リビングに集まった時も、なので特に変わった事はしなかった。
ただ、さっきよりもっと積極的に発言しようとは思っていた。
太月は、居並ぶ皆に向けて、言った。
「…今日は本当にわからないので明日からのライン考察に役立てるために、無理やり指定させてもらった。意見が違った所から一人ずつ。楓馬と、由弥だ。」
由弥は、少し鋭い視線になった。
千隼も驚いたが、顔には出さなかった。
「私は村人だから自分が入っていなくてホッとしたけど、寡黙な人は他にも居たよね。それなのに、積極的に話していた二人なの?」
亜佳音が言う。
太月は、頷いた。
「意見がハッキリしてるから、それに霊能者の件とかで意見が対立してる位置の二人を選んだんだよ。どっちも白いのは確かなんだが、狼は頑張って発言しないとまずいと考えると思うんだ。特に初日は黙っていたら吊られる可能性があるし。だから寡黙位置より、意見が目立つ中で対立位置を選んだ。入れた位置で明日からの色結果を見てラインが見えやすいだろ?寡黙位置は占いで潰して行く。」
一敬が、言った。
「白いって言っても、由弥と同じ意見だった千隼じゃなくて由弥にしたのはなぜだ?不自然じゃないか。」
太月は答えた。
「千隼はいつも発言が一番最初だし見るからに白いし、できたら占いで処理していきたいんだ。もちろん、今夜由弥が残ったら由弥は占い指定先に入れるよ。」
由弥が、言った。
「いいよ、理にかなってるし。」と、皆を見た。「じゃ、投票までに話せば良いんだよね?僕の白要素だよね。そうだなあ、問題を起こした夏菜ちゃんを怪しんでたことかな。メソメソしてた時から、村利がないと思って責めてたよ。意見も率先して出してたと思うし、僕の行動は一貫して村利があるかないかだ。千隼も大概自分から意見を言ってたけど、僕も言ってたよ。千隼が白いなら、僕も白いはずだ。」
千隼は、頷いた。
由弥は、大都と同じぐらい千隼も白いと思っていたのだ。
究極の二択だが、楓馬と由弥なら自分は僅かでも違和感のあった楓馬に入れるだろう。
楓馬は、言った。
「オレも積極的に発言してたぞ。そもそも霊能者のことも、人外を確実に落としたいと考えただけで、一番村利があるとオレは思っていた。誰にも夏菜ちゃんが偽だったなんてまだわからないだろうが。光祐が偽だった方が怖い。だから言ったんだ。間違ってるとは思っていない。それなのに投票対象にされるのは心外だよ。だったら意見が少ない所が他にもあったのに。勇佑だって祐吏だって、一敬だって大した事は言ってないぞ?亜佳音ちゃんは頑張ってるけど、奈央ちゃんだってそんなに話してない。なのになんでオレなんだ。」
由弥が言った。
「だから聞いてなかったの?村のグレーを狭めるためなんだよ。僕達は運悪く選ばれちゃったわけ。だから仕方ないんだって。それこそが村利なんじゃないの?縄はまだ7つあるし、村のためなら仕方ないんだって。」
楓馬は、由弥を睨んだ。
「だったらお前が吊られてくれ!オレは村人なんだ、まだ死にたくない!だからいろいろ頑張って話してたのに、話してない奴らが残ってオレが選ばれるのが納得行かない!」
それはそうかも知れない。
千隼も選ばれていたらそう思っただろう。
だが、由弥は険しい顔をして、言った。
「なんでわからないの?人狼ゲームはチームプレイなんだよ。夏菜ちゃんが偽だと言われてるのは、それが全くできてなかったからだ。自分が吊られた方がスッキリして村の勝利に近付くなら、吊られた方が生き残るのに近道になるんだ。そもそもただの村人なのに、いったい他に何の貢献ができるの?何もできないし、僕からしたら同じ意見を出せる千隼が残るなら二人も要らないかもって考えるよ。君だって選ばれたんだから素村でしょ?それとも何か役職持ってるの?」
言われて、楓馬はぐ、と黙った。
由弥はいちいちもっともなことを言っているのだ。
縄に余裕があるうちに、死んで色を見せながら村の視点をスッキリさせるのも素村の仕事なのだ。
太月は、ため息をついた。
「理不尽なのは分かってる。でも、村のためなんだ。まだ初日だ、村人ならば安心してくれ、必ず勝てるように動かして行くから。」
そうは言っても夏菜や秀一を見た後なのに、簡単にハイ分かりましたとは言えないだろう。
それでも、姿勢の違いからやはり、千隼の意思は固まりつつあった。
今夜は、楓馬に入れよう。
由弥の覚悟は、人外には絶対にできないものだと思う。
それとも、それが狙いなんだろうか?
それでも、由弥の事は信じていたい気持ちだった。
しばらく由弥と楓馬の応酬を聞いていると、パッとモニターが点灯した。
夏菜の事を見たばかりだったので、全員がそれに気付いて体を硬くする。
すると、機械的な声が言った。
『投票、5分前です。腕輪のカバーを開いてご準備ください。』
モニターには、大きくデジタル表示が現れて、それは5:00から4:59と凄い勢いで減って行く。
どうやら、分と秒を表しているらしかった。
「…投票時間だ。」太月が、それを見て言った。「みんな、明日からのライン考察にも関わって来る。心して投票してくれ。」
楓馬は、言った。
「待て、本当にオレと由弥なのか?!ここまで来て黙って見てるだけの奴らじゃなく、オレ達なのか?」
太月は、頷いた。
「だから、今日は盤面を詰めて行くだけなんだ。理解してくれ。みんな、投票の仕方は分かってるな。番号を入れて、0を三回だぞ。それぞれ、明日からの自分の色をしっかり白くできるように、考えて投票してくれ。」
楓馬の足掻きが、人外としての焦りなのか、それともただ秀一や夏奈のようになりたくないという恐怖からなのかは、全く分からなかった。
1 珠緒→11
3 亜佳音→7
4 奈央→7
5 大都→11
6 一弥→7
7 楓馬→11
8 眞耶→11
9 太月→7
10千隼→7
11由弥→7
12祐吏→7
13一敬→7
14光祐→7
15涼太郎→11
16理人→11
18勇佑→11
どっちだ…?!
千隼がモニターを見つめて数を数えていると、先に声が言った。
『№7が追放されます。』
楓馬が、椅子から弾かれたように立ち上がった。
「どうして!どうしてオレなんだよ!」
問いかける楓馬の視線をまともに受けながら、千隼は胸が苦しくなった。
もしかしたら、明日は自分かもしれない。
人外から黒を打たれたら、自分も白なのに誰にも信じてもらえずに吊られるのだ。
だが、その時間も長くは続かなかった。
楓馬は、一瞬にして糸が切れた操り人形のように、その場に足から崩れて倒れた。
「きゃあ!」
珠緒、奈央、亜佳音が声を上げる。
モニターからの声が無表情に言った。
『№7は、追放されました。夜時間に備えてください。』
目の前に倒れた、楓馬の目を開いたままで宙を見ている。
1日目の投票では、そうやって楓馬が吊られたのだった。




