共有者
昼の会議は、そのまま5時まで続いた。
途中トイレに立つ人もいたが、グレーの中で失言をするようなへまをする人外は居ない。
命懸けなので、その集中力は大したものだと千隼は思った。
占い師の話は聞いたが、両方共にグレー吊りを推奨していて意見は分かれなかった。
どちらかが人外なのは確定なのだが、そうなって来るとグレー吊り自体が狼にとって都合の良い事なのではと思えて来る。
要は、怪しまれない位置に狼が居て、余裕があるようにも見えなくはなかった。
太月は、時計を見た。
「…もう5時だ。」と、ぐったりと椅子に座った。「ダメだ、分からん。とりあえず、7時には二人指定して話してもらう事にする。その後投票にしよう。この分だとグレーで人外が吊れそうにないが、仕方ない。今夜吊ってその色を光祐に見てもらって、また明日だ。」
太月も疲れただろうが、みんな疲れていた。
ここまで話してダメなら仕方ないと、千隼は自暴自棄になりながら、立ち上がった。
「…ちょっと休もう。みんな疲れてるし。オレも話を書き貯めて来ないと。全部覚えてるかわからないけど…みんな同じような意見だったし。」
由弥が、うんざりした顔を隠そうともせずに言った。
「人外が合わせて来てるんじゃないの?とにかく怪しまれないように必死だろうからね。とにかく、最初に意見を出してる千隼はやっぱり白いと思うけどね。またラインとか言われてもそう思うんだから仕方ない。そこんところを思い出して見て、吊り先決めたら?」
太月は頷いたが、聞いているのかもわからない。
とにかく、横になりたかった千隼は、部屋へ帰ってベッドにダイブしたい気持ちしかなく、そのままリビングを後にしたのだった。
部屋に帰ってベッドにダイブしたものの、体は疲れているのに、いざ一人きりになると夏菜の最期が思い出されて目が冴えてならなかった。
夏菜は、もう復活しない。
仮に村人であったとして、自分達が勝ったとしても、夏菜はあのまま目覚める事はないのだ。
そう思うと、人の死を目の当たりにしたのだと今さらながらにゾッとする。
しかし夏菜は、いったい何だったのだろうか。
由弥が言っていたように、その言葉の通り味方の居ない、狐だったのだろうか。
今となっては知る由もない。
ただ夏菜が人外であったことを祈るばかりだった。
ベッドに転がって仰向けになると、千隼は手に握りしめていたノートを開いた。
こうして見ると、確かに楓馬が言っていた通りラインが見えて来る。
とはいえ、狼は3人で狂人を入れても4人、グレーの中にそんなに多くの狼が潜んで居るはずはない。
狐がまだ残っていたとしても、全員が誰かの意見に合わせて村人を装っているように見える。
そうなって来ると、由弥が言うように、意見を出した順番が重要になって来る。
つまり、積極的に先に話そうとする人は回りに合わせようとしているのではなく、あくまでも自分の意見を言っているのが分かるからだ。
とはいえ、よく考えたら千隼自身が一番、先に話していたように思う。
由弥もそうだし、亜佳音は案外にあれで、反対意見を真っ先に口にする感じだ。
目立つ行動が、まずいと思っていない証拠だった。
千隼は、また転がってうつ伏せになり、ノートに書き込み始めた。
…こうして見ると、楓馬は一見自分から話しているが、霊能者ローラーの件の後からは、千隼に反論され、そして由弥や他の人達に反論されてからおとなしい感じだったことが分かる。
怪しまれるのを避けている行動だが、村人でも同じ事をするだろう範囲の疑いだ。
ライン考察の事については、人数を考えると太月が言うようにまだ早いが、確かになとは思った。
千隼から見ると、千隼は村人なので同じ意見を常に出している繋がりは白く見えるのだ。
しかし他から見たら、千隼も含めた数人が同じ塊に見えているのかもしれない。
千隼が思い出せる限りの事をノートに書いてうーんと唸って見ていると、扉が急に開いた。
…そうだった、ノックは聴こえないから。
千隼が驚いて振り返ると、太月が疲れた顔で立っていた。
「すまん、邪魔したか?ちょっとノートを見せてくれないか。」
行き詰まってるな。
千隼は思って、頷いた。
「うん、いいよ。今ちょうど思い出せる事は書いたところなんだ。」
起き上がってテーブルの方へと歩くと、太月もそちらへ来た。
そして、千隼からノートを受け取って、椅子に座った。
太月は、1ページずつめくりながら、真剣に見ている。
千隼は、言った。
「ライン考察は早いと思うけど、オレ目線からは同じ意見の人達は白く見えるよ。でも、多すぎるから追随してる中に人外が居るとも思う。」
太月は、頷いた。
「その通りだな。みんながそんなに怪しくないから、ボロを出すのを待ってたがそれがない。」と、顔を上げた。「お前は白い、千隼。大体お前の意見を皆が指示する形だし、先陣切って話すのは人外には怖いんだ。それが村の同意を得られなかったら浮くだろう。夏菜ちゃんが追放された後の、楓馬の霊能者ローラーの意見みたいに。」
千隼は、頷いた。
「そうなんだよな。それまで結構積極的だったけど、あれで控えめになったのも気になってる。でも、村人でも自分が吊られたらヤバいとは思うから同じ行動をするだろうし、決定的に怪しいわけじゃないとも思うんだ。」
太月は、頷く。
「そうなんだよな。」と、ため息をついた。「やっぱり千隼は白い。いろいろ合わせても、今の会話でもオレは迷ってるんだから楓馬が怪しいと推せば良かったのにそれをしない。同じように色が見えてないんだろう。オレの相方もお前のことは白いと言ってたよ。もしかしたら、村人達はお前を相方だと思ってるかも知れないって。」
千隼は、驚いた顔をした。
オレが共有?
「…それって…アーマーになるか?」
太月は、頷いた。
「なるだろうな。お前は積極的に議論に参加してるし自信があるように見える。共有者っぽいんだ。狼がそう思う事で、黒は打たれないが噛まれる可能性がある。だから、二人の狩人のうち、どっちが真なのかまだわからないが、片方はお前に護衛させるよ。狼陣営ならバレたら吊られるからそこを噛まないだろうし、狐や狂人でもとりあえず偽だと分かる。だから吊れる。申し訳ないが、しばらく共有の相方のふりをしてくれないか。今夜の占い指定もお前は外す。噛まれてしまっても、絶対勝つから。明日からの占い指定先には入れるかも知れないが、共有かもしれないのに人外は黒を打っては来ないだろう。それでも黒を打ったら、それは真だからどんなに白くてもお前のことは吊る。それでいいか?」
つまりは、自分は共有トラップの片棒を担ぐのだ。
かなり危険だが、それでも真役職特定に役立つかもしれない。
千隼は、頷いた。
「やるよ。やらせてくれ。オレはどうしても勝ちたいんだ。でも、村人だから何もできないしせめて考えようと考察を落としていた。共有に見えるようにやってみる。」
太月は、頷き返した。
「頼んだぞ。とにかく、指定先はとりあえず決めた。二択にして、明日からの色で誰が誰に入れてるのかで判断がついて来るだろう。もう六時だし、飯に行こう。」
千隼は太月に頷き掛けて、立ち上がった。
誰かわからないが、もう一人の共有者に上手く黒を打ってくれたなら、真占い師が分かる。
そこから、見えて来る事も増えるだろうから、自分が死んでも村の役には立つのだ。
そう思うと、気持ちが浮き立つ感じがした。
どうしても勝って、家族の所へ帰って謝りたいのだ。




