白か黒か
珠緒が、夏菜の強い様子に戸惑っているようだ。
なだめるように言った。
「夏菜ちゃん、落ち着いて。とりあえず今夜吊られないために真霊能者だって事をアピールしないと。」
夏菜は、キッと珠緒を睨んだ。
「そんなの、わからないわ!珠緒ちゃんは占い師から白って言われてて吊られないから、そんなに落ち着いていられるのよ!この人達は私を吊りたいのよ、きっとそうだわ!さっきも泣いてる私にすごくキツい事を言ってた!由弥さんが!」
由弥は、言った。
「泣くのは君の勝手だもの。冷静でいられないのは、人外なんじゃないかってみんな思うよ?村人が勝てば死なずに済むんだから、落ち着いて話すべきなんだ。村人なら、分かってくれるよ?一生懸命に話してたら気持ちは伝わるからね。でも、君は全く考えてないみたいだったから。今がチャンスなんだよ?」
夏菜は、涙を流した。
「みんな敵ばかりなのに!」夏菜は、叫ぶように言った。「ここへ来る前から!私を殺したかったのね!良いわよ、もうゲームなんかしない!部屋に帰る!」
夏菜が部屋を飛び出そうとすると、モニターがパッとついた。
千隼がそれに気付いてギョッとすると、最初とは違う機械的な声が言った。
『ゲームを放棄しますか?』
…もしかして、追放?!
そうなったら夏菜の色が永遠にわからない。
太月が、慌てて言った。
「待て!」と、夏菜を見た。「夏菜ちゃん、追放になるぞ!君の色が永遠に分からなくなる!」
夏菜は、モニターに背を向けた。
「何よ、どうせ殺すつもりのくせに!みんなみんな敵よ!困れば良いんだわ!」
「夏菜ちゃん!」
夏菜は、駆け出した。
モニターから逃げたら勝てると思ったのだろうか。
千隼には、そうは思えなかった。
『ゲーム放棄の意思を確認しました。No.2を追放します。』
え…?
千隼が思った瞬間、目の前のリビングの扉の前で、夏菜はおかしな方向へ足を向けた状態でひっくり返った。
「夏菜ちゃん!」
珠緒が、駆け寄る。
由弥が、ため息をついた。
「だから言ったでしょ?足が絡まったのよ。」
転んだだけだとみんなには見えた。
だが、倒れた夏菜の顔を覗き込んだ珠緒は、弾かれたように夏菜から離れた。
「…!待って!様子がおかしい!」
太月が、怪訝な顔をする。
「様子がおかしいって?」
確かに今の取り乱し方は尋常ではなかった。
「…確かにおかしいわ。」亜佳音が、深刻な顔をしながら寄って行く。「…え…夏菜ちゃん?!」
亜佳音は、急いで夏菜の体を不自然な形から仰向けに横たわる状態へと直した。
その目は、開いているのに何も映していないのは遠目に分かった。
そして、亜佳音は急いでその胸を何度も押した。
「大変!心肺停止してる!」
「ええ?!」
すると、モニターから声がした。
『No.2は、追放されました。』
機械的な声たったが、別の男声が次に続けた。
『何をしても蘇生は無理だ。我々が手を下さない限りは。本来、追放又は襲撃されてその状態になっても、勝利陣営ならば蘇生するが、彼女の場合はいずれの場合ももはや蘇生しない。ゲームを放棄したからだ。君達は、引き続きゲームを楽しんでくれたまえ。では。』
「待ってくれ、だったら秀一は…!」
モニターの灯りが、消えた。
太月は、その先の言葉を飲み込んで、ため息をついた。
夏菜は墓穴を掘った…もう、死ぬよりないのだ。
「…逃げたら死ぬしかない。」太月は、言った。「オレ達はゲームを続けよう。彼女が真役職でなかった事を祈ろう。」
亜佳音は、それでも胸を押す手を止めない。
奈央が、そんな亜佳音の肩に手を置いた。
「亜佳音ちゃん…もう、無理よ。」
目に涙を浮かべている。
こんなことを一瞬でしてしまう相手が、無理だと言っているのだから無理なのだろう。
「…まだ温かいのに!」亜佳音は、叫ぶように言った。「何をしたのよ…!」
亜佳音は、その場にがっくりとくず折れた。
誰にも、答えることはできなかった。
男子達で夏菜を二階の彼女の部屋へと運び込んだ後、再び皆はリビングに集まった。
珠緒は呆然としていて、奈央は椅子に身を預けて項垂れている亜佳音の肩を抱いている。
全員が戻って来たのを見た太月は、ため息をついた。
「…困った事になった。」皆が、太月を見る。太月は続けた。「今ので16人になった。偶数進行に変わって吊り縄は一縄減って7つ。夏菜さんの色が重要になってくる。ローラーしたと思って今夜光祐を吊るか、それともグレーに行くかだ。」
楓馬が言った。
「ここは霊能者は居なかったと考えて光祐も吊って確実に1人外落とす方が良いんじゃないか?縄に余裕がなくなるだろう。」
しかし、千隼は言った。
「光祐は限りなく真だとオレは思ってる。夏菜ちゃんのあれが、真霊能者に見えたか?まだ秀一以外生き残ってるんだから、村人なら一時吊られても、生き残るチャンスがあったはずだ。それなのにあんなに取り乱して…敵ばっかりとか言ってた。」
由弥は、頷いた。
「そうだよ、夏菜ちゃんはみんな敵だって言ってたぞ。そんなはずはないんだ、孤立無援なのは、この中では狐しか居ないはずなんだ。そうだ、やっぱり夏菜ちゃんは狐だったんじゃないのか?何も知らないから、霊能者でも何でも、役職にさえ出たら吊られないと考えたていたんじゃ。」
そう考えたら辻褄は合う。
珠緒は、力なく言った。
「…そうね。言われてみたらそうなのよ。白が出てる私の事も、まるで敵を見る目で見てた。あれだけ仲良くしてたのに…あんなの、あの子じゃない。」
祐吏が、少し悲しげな顔で千隼を見る。
千隼は、言った。
「…それなんだけど。」と、自分のノートを開いた。「ほら、ここ。祐吏が言ってた事を書いてるんだけど…ここで、何人かで話してた時に聞いたんだ。夏菜ちゃんは、女子達が思ってるようなおとなしい子じゃないよ。」
え、とあの時居なかった太月や一弥、勇祐がノートを覗き込む。
由弥が、言った。
「成人式の後の事だよ。ほら、祐吏だけトイレに行ってたでしょ?その時に女子達に声をかけられて、祐吏が戻って来て、その後夏菜ちゃんも来たじゃないか。その時の事だよ。」
ノートが、順に回って行く。
珠緒が、言った。
「…え、待って。あの子が舌打ち?」
祐吏は、頷く。
「うん。みんなの間に割り込んでたよ。オレって存在感ないから、気付いてなかったみたいだけど。顔つきももっと…今さっきみたいなキツそうな感じだったよ。割り込まれても、誰も文句言えずにいたもの。」
亜佳音と奈央も顔を見合わせる。
「…やっぱり。」奈央が、言った。「私、あんまり仲良くなかったって言ったでしょ?小学校の時、一度同じクラスになったけど、意地悪な子でね、何て言うか、陰湿な事をするの。クラスで飼ってた金魚の水槽に牛乳を入れたり、誰かの上靴を隠したり…全部犯人は分からなかったけど、私はあの子だと思ってたわ。知ってる子も居たんじゃないかな。でも言えなかった。だって、自分が標的にされるかもしれないから。そんなことが起こる度に、あの子の影があったのは事実よ。あんなに気の弱い子じゃなかったのにって、珠緒ちゃんが仲良くしてるから言えなかったけど…。」
珠緒は、驚いた顔をした。
「私は中学の時に引っ越して来たから。あの子が一番最初に話し掛けて来てくれて、それで仲良くしてたの。他の子が避けてそうなのは知ってたけど、おとなしいからかなと思っていたわ。だって、いつも涙ぐんでて、庇ってあげないとって…。」
亜佳音は、言った。
「私は別のクラスに中学で転校して来たから知らなかったわ。その時から奈央と仲が良かったから…珠緒ちゃんとは部活が同じで友達だったから、たまに顔は見てたけど。だから今回会うまで深くは知らなかったのよ。」
そんな感じの関係だったのか。
ならばこの中で夏菜と仲が良かったのは、珠緒だけなのだ。
本性を見せずに来たのだろう。
奈央は、知っていたから役職の真贋の際にまだわからないと発言していた。
辻褄は合う。
「…振り出しに戻った。」太月は言った。「とりあえず、もう夏菜ちゃんは居なかった事にしよう。それで、光祐はとりあえず明日の色を落として欲しいし残して、やはりグレーから吊る。占い師視点を狭めて行かないとヤバい。男の声が言ってただろう、勝利陣営は蘇生されるんだ。ここは村人には頑張ってもらいたいが、もし吊られても必ず勝つから我慢してくれ。」
千隼は、ややこしい事になってしまった、せめて次の占い結果が出た後ならと、夏菜の暴走を恨んだのだった。




