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気が付くと

「…外からの救助は恐らく間に合いません!」駆け込んで来た男が言った。「救難信号も出さないまま転覆しましたから…!そもそもここにはチャーター船しか航行しないはずで…!素人が操縦していたとしか…!」

別の男は言った。

「もうこちらから救助に向かっているのだろう?助けられる事を祈るしかないな。」

隣に立つ男が歩き出しながら言う。

「どちらにしろ手当てをしなければならない。行こう。」

男は頷いて、歩き出した。

こんな辺境の海域に、いったい何をしに来たのかわからないが、とにかくは助けるしかないのだ。



1 珠緒(たまお)

2 夏菜(なつな)

3 亜佳音(あかね)

4 奈央(なお)

5 大都(ひろと)

6 一弥(かずや)

7 楓馬(ふうま)

8 眞耶(しんや)

9 太月(たつき)

10千隼(ちはや)

11由弥(ゆうや)

12祐吏(ゆうり)

13一敬(いちたか)

14光祐(こうすけ)

15涼太郎(りょうたろう)

16理人(としひと)

17秀一(しゅういち)

18勇佑(ゆうすけ)


目が覚めると、大きな洋風の館らしき場所の床で転がっていた。

目の前には、この豪華な設えの場所にはそぐわない事務的なホワイトボードが立っていて、そこには名簿のようなものが貼られてある。

どの名前にも覚えが無かったが、ふと、自分の胸にぶら下がっている札を見てハッとした。

そこには、10千隼(ちはや)と書かれてあったのだ。

え…オレって千隼だったっけ。

混乱した。

だが、薄っすらと浮かんで来た記憶の中に、そういえば自分は千隼で、成人式を終えて、皆で着替えて集まろうと言う事になり、海を見に行って、そして…。

そこから、記憶がなかった。

誰かが、船に乗ろうと言い出したのは覚えている。

だが、その後どうなったのか思い出せない。

船にあった酒をしこたま飲んだような気もするが、どうだったのか…。

そもそも、苗字も何も、その成人式の後の僅かな記憶しか残っていないんだが…。

自分が床の上に転がったまま、ホワイトボードを見上げている事実にすら気付いていなかった千隼は、体を起こした。

すると、回りには自分と同じように床に転がったもの達が居た。

「え…」千隼は、一気に戻ってきた記憶を使って叫んだ。「大都(ひろと)!大都、しっかりしろ!」

言われた大都は、ハッと目を覚ました。

そして、千隼を見た。

千隼(ちはや)…?」と、回りを見た。「あれ…?うわ、なんだ、服は?ジャージなんか着てたか?それになんだ、この名札。罰ゲームでもしてたっけ…?」

5大都と書いてあるのだ。

回りで、声に反応して皆が呻き声を上げる。

言われてみたら自分もジャージだ。

千隼は、言った。

「わからないよ!って言うか、ここはどこだ?どうなったんだっけ…?」

そこで、一人の女子が悲鳴を上げた。

「いやー!」ぎょっとして振り返ると、彼女はジタバタと暴れた。「溺れる!溺れるわ!」

それを聞いて、千隼はやっとフラッシュバックしてくる光景を脳裏に見た。

いきなりの轟音と衝撃、皆の悲鳴、冷たい海水の感覚…。

…そうだった。

千隼は、悟った。

あの後側にあった船が、眞耶(しんや)の叔父さんの船だと自慢話が始まり、面白半分に乗り込んだ。

そこそこ大きな船だったが鍵もかかっておらず、酒も入っていたので好き勝手船内の物を飲食し、眞耶(しんや)が面白半分にエンジンを掛けたら、案外簡単に海に出た。

反対する女子も居たが、調子に乗った男子達はそのまま海に漕ぎ出したのだ。

船は快適に航行して、男子達は変わりばんこに酒を片手に運転し続けた。

その頃はまだ、港に光も見えたのでいくらでも戻れる気がしていた。

だが、そうやって馬鹿騒ぎをしているうちに、気が付くと回りに光はなかった。

もう真夜中で、どちらへ行けば元来た港に帰れるのかもわからない。

無線はあったが、使い方がわからない。

コンパスの見方も全く分からず、スマートフォンも完全に圏外で連絡の取りようがなかった。

そのまま何時間も航行し、泣き出す女子も出始めた頃、遠くにポツンと光が見えた。

「…灯台の灯りだ!」誰かが叫んだ。「あれに向かって行けば帰れるぞ!」

良かった。

皆がホッとしてその灯りに向かって航行していると、段々に大きくなって来る灯りにそこが、小さな島なのだと気付いた。

立派な建物が上に建っていて、真夜中なのに、それをライトアップして闇の中に浮かび上がり、不思議な光景だった。

しかし、人が居るとホッとした瞬間、それは起こった。

何かにぶつかったのか、ガツンと視界がひっくり返り、途端に冷たい海に投げ出されたのだ。

必死に島を目指して真っ直ぐに進んでいたので、恐らく暗い海中の岩に全く気付かなかったのだ。

「うわ…!」

空気が、ない。

千隼は、暗い海の中でどちらが海面なのか全く分からずもがいた。

月灯りが、こちらが上だと示しているのに気付いて、必死に水を蹴ったが思うように体が動かない。

体がどんどん冷えて行く。

やっとの事で浮き上がった海面は、皆が暴れて泣き叫んでいた。

千隼は、側のもはや何だったかわからない瓦礫に掴まって、叫んだ。

「何かに掴まれ!早く!」

「夏菜が泳げないの!」珠緒(たまお)の声が聴こえる。「夏菜!夏菜しっかりして!」

千隼は、瓦礫に掴まったままそちらを見た。

珠緒は必死に夏菜の腕を掴んでいるが、顔が海中に浮き沈みしている。

「こっち!」千隼は、自分もそちらへとビート板のように瓦礫を押して向かった。「これに掴まるんだ!」

珠緒は、夏菜を引っ張ってこちらへ来る。

夏菜は完全に気を失っていて、ピクリとも動かなかった。

千隼は、その夏菜を珠緒と共に必死にその板の上に上げて、何とか上半身だけを板に乗せた状態にした。

「…寒いわ。」珠緒が震えながら言った。「気が遠くなりそう…。」

回りには、同じように瓦礫に掴まった皆が浮いていた。

島まではまだ距離があったが、見えているのだからあちらへ泳ぐより、助かる方法はない。

「…島に行くしかない。」千隼も歯の根が合わなくなっていたが、言った。「このままじゃ凍えてしまう。」

そこで島へ向かって動かない体を必死に動かして進んだ。

途方もない距離に思えて来て、体が動かなくなって来た時、ふと見ると珠緒が意識を失っていた。

「珠緒ちゃん!」千隼は叫んだが、その声もしゃがれていた。「ダメだ、オレも…」

「生きてるか?!」その時、遠くボートがこちらへ来るのが見えた。「全員居るのか?!」

島から来てくれたのか。

そう思ったところで、千隼の意識は途切れた。

気がついたら、ここだったのだ。

「…思い出した!」千隼は、叫び声の方向を見た。「夏菜ちゃんは無事だったんだ。珠緒ちゃんは?」

珠緒は、頷いた。

「私も大丈夫。」と、隣りの夏菜をなだめた。「夏菜、落ち着いて。助かったのよ。」

ということは、ここは島のあの大きな邸宅だ。

ホテルのような建物だと思っていたが、中はこんな感じだったのだ。

ジャージを着ているのは、服が濡れたからだろう。

それにしても、助けてくれたのには感謝しているが、どうしてこんな所に転がされているのだろう。

千隼が首を傾げながらも、全員居るのを確認していると、上から吊り下げられたモニターから声がした。

『ようこそ、私の館へ。記憶を見させてもらったよ。君達は皆、本来死んでいた。あんな夜中に救難信号も出さず、航行記録もなくこんな場所にまで来て座礁して生きられるはずはなかったからな。君達は運がいい。とはいえ、その運もどこまで続くのかな?ここで試してみようではないか。』

記憶を見た…?!

千隼はにわかに不安感が押し寄せて来た。

全員が、固唾を飲んでモニターを見上げていた。

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