一人だけ別ゲー・混ぜるな危険
実質プロローグに相当する、転生直後の確認フェイズだけです。 つまり説明回状態なので、苦手な方は回避をお願いします。
「終わったぁ………………」
そう言いながら、俺は手に持っていたゲームのコントローラーを放り投げる様に手放す。
さっきまでゲームの画面とにらめっこし続けていたから、目がショボショボしてつらい。
だが、今感じている苦難の果ての達成感はなにものにも代えがたく、脳汁の出方がドッバドバで本当にヤバい。
「そこらのやり込み勢に遅れること○作品。 他の同メーカーのやり込み作品も平行しながらだったし、我ながら良くやったよ。 ホント」
この独り言でわかる人はわかるが、メーカーが最狂のやり込みゲームだと自称するそのゲームで使う、メインメンバーの全強化が終わった所だ。
このゲームは自称する通り、やり込む必要がアホほど有る。
ファン達の間ではメインシナリオが終わってからが本番だと言い張るレベルなのだ。
それで何を育てるのかと言えば、主にキャラクターが身に付ける武器や防具がメインだったりする。
最大7桁の装備品性能で、アイテムひとつをそこまで育て上げるのに、失笑するほどの時間がかかる。
が、キャラクターのレベルアップより手っ取り早く一定ラインまで強く出来るので、実は有効な手段なのだ。
そして育て上げた武器と防具を装備させると、ステータス数値がなんと驚異の8桁を叩き出す。
体力や魔力なんかの限界は更に1桁多く、本当に途方もない。
そしてその装備品の力をより強力に引き出すために、キャラクターで別個に装備品のステータス補正と言う概念があり、それを極限に高めるのにまた時間が掛かったりする。
そのステータス補正を最大にするのにもまた、笑えない位の時間を要する。
だが、だからこそ育て上げた際の達成感が凄まじく、育成作業を達成したその一瞬のためだけの苦労を笑顔でこなすバカが一定数存在するのだ。
と言うか99999999の数字がステータス数値にズラッと並んでいる、その光景を見るだけで圧巻だし、そうなったメンバー達を眺める達成感は言葉に出来ない。
その達成感を感じるその日が一歩一歩近付いてくる期待感から、ニヤニヤと嬉しさを感じてしまうバカが、一定数存在するのだ。
そんなのを育ててどうするのかと訊かれれば、メーカーが用意した「倒せるものなら倒してみせろ」的な狂った強さを持つ裏ボスの撃破が基本目標。
それからその基本目標を1ターンで倒すのが大体の目標。
気が付けばメインメンバー全員のステータスカンストと、所持できる技能や魔法やアビリティーの全取得が最終目標。
……はい。 俺もその一人です、すみません。
このシリーズの最新作ではより多い桁らしいが、仕事をしながらやり込んでいる時間などなく、こうして周回遅れになってしまう。
「それでも少しでも最新作に追い付きたくて、連日|睡眠時間が少しでいい人でもないのに3時間程度の睡眠時間を2ヶ月とか…………っと」
まずい。 さすがに無理をし過ぎたようだ。
根を詰めてやって来て、いい加減に限界が来たらしい。
学生だった頃には平気で夜更かしして3時間睡眠でも平気だったのに、これが年齢の影響かと思ったり思わなかったり。
と言うか達成した瞬間だからか、今まで張っていた気が弛んで、意識の外に追いやっていた疲労がどかっと……。
「職場でも顔色が悪いとか、心配されてたものな。 もう40目前でも、まだ若いからイケるって決めつけが祟ったかな……?」
なんだかハッキリした意識を保てなくなってきた感じもする。
「………………あーー、これは本当にヤ――――」
~~~~~~
「あ~~~~………………あ?」
さっきまでハッキリしなかった意識が、急にハッキリした。
「…………ここは?」
ハッキリしたと同時に、認識したのは視界に映る光景。
「森……?」
そう。 目の前には、木が沢山有って漢字通り森になっている存在が見えている。
「え? 俺はさっきまで自宅に…………え?」
が、ハッキリした意識はほんの少し前に俺自身がいたはずの場所との違いを受け入れられず、ご丁寧に混乱し始める。
「ゲームを座ってやってたよね? なのに今はなぜ立ってる?」
体勢の違いも混乱に拍車をかける。
「胸が押し潰されて苦しいと思ったら、何かを抱えてる? いやそれ以前に俺は男のはずなのに、なんでおっ○いが?」
疑問がますます増えて、俺の心情がもはや一人牛追い祭りである。
「は? え? なに?」
この混乱はしばらく続く。
~~~~~~
「ある程度俺の現状は理解したけど、結局何も分からない事が分かっただけか」
よくわからないけど、よくわからなかったね。
……そうとしか言えない事態だ。
だって今の俺の姿を見てみよう。
ベリーショートでドングリ眼。
白のブラウスと緑を主な配色とする、スカート部が少しふくらんだロングワンピース。
金属を各所にあてたロングブーツ。
これだけの説明なら問題ないだろうと思われがちだが、問題だらけだ。
目はゲーム中では死に設定だった、未来を見通す魔眼になっている。
ゲームでは普通だが、実際に着るとなれば恥ずかしいとしか言えない、胸の直ぐ下を押さえつけて乳袋にする特殊なワンピースである。
「これ、さっきまでやってたやり込みゲームのモブキャラクターである、魔法戦士の格好じゃん!!」
つまりそう言うことだ。
そしてその魔法戦士は女性キャラクターだ。
股間に男らしさは無くなってました。
「シリーズによく出ていて、キャラクター性能の中途半端さが逆に気に入って、真っ先に育て上げた奴じゃん!!」
固有グラフィックのあるもっと強いキャラクターを差し置いて……ってその辺は言わなくても良いか。
それより言いたい事は山積みだ。
「俺が抱えていたの、同メーカーで別シリーズのやり込みゲームに出てきたヤバい本じゃん!」
本の表紙は真っ赤で、明らかにヒトの目と口を模したモノが描かれていて、その目と口は時折生きているかの様に動くのだ。
しかも俺の感情と連動しているみたいに。
この本の名前は“迷路灯火”と言う普段はトーカと呼ばれる本で、最大で40体近い等身大の人形を操れる。
まあ一番ヤバい能力は、ゲームで許された範囲内だとは言え、DRPGなのに壁壊しが出来る点であろう。
「反則だよなぁ、この本は……ん?」
本をめくってみると、ステータスや装備品が表記されているページを見つけた。
「あれ? この魔法戦士は、俺が育てた奴だな?」
名前や外見も載っていて、それで分かった。
「装備もそのまま。 ははっ、鎧を3つも同時装備とかしたまんまでやんの」
それでこのページを見ながら装備を外せるかなーなんて思ってたら、全部外せた。
「今の俺が差してた剣も消えてるってことは、今の俺はやっぱりこの魔法戦士になっているのか」
男だった俺がいつの間にか、本当に女になっているのだと思い知らされて軽くショックだが、ショックを受けるより本の確認が先だと思うことでショックは先送りにする。
更に本をめくってみると、他の俺が育てたシリーズ歴代のモブキャラクター達が載っている。
「まさかこいつらをトーカの人形として使えたりな……ははは」
今まで丹精込めて育てたキャラクター達を指揮して大暴れする微かな幻想を持つが、今は本の確認の続きである。
「お? あったあった。 トーカのステータスページ」
これもやり込んだ為に、全部のトーカ能力が解放されている。
特殊なダメージ空間から身を守れる能力や、アイテムを沢山持ち運べる能力、前述の壁壊しもそうだ。
それを楽しく眺めていたが、ある一点に気がついた。
「迷路灯火。 通称トーカ。 それと……真名?」
その項目はゲームに無かった。
そしてその項目に書かれていたのは……。
「俺の名前っ!!?」
――――異世界へのこんなメチャクチャな転生から始まる俺の新しい“本”生は、長く続く大魔神生活の出発点となった。
これで終わりと言う暴挙。
事実、この後は全然思い浮かばない(白目)
~~~~~~
蛇足
迷路灯火
おっさんが真に転生した対象。
本文中にある通り、今まで育て上げたやり込みゲームのモブキャラクターを保管、操作する端末でもある。
話が進むと同時操作に馴れて、出せる数が増える。
出した人形へ入り込む事も出来て、本体となる本の姿を隠せる。
壁壊しは凶悪その物で、トーカが攻略した迷路ダンジョンは、壁が穴だらけになって無惨な姿をさらす事になる。
と言うかトーカには詳細で親切なオートマッピング機能もあるので、ダンジョン攻略の難易度が極めて簡単になってしまう。
ダンジョンは泣いて良い。
前世で亡くなる直前までやっていたゲームの拠点機能もトーカ自身が担っており、キャラクターの新規作成や復活やアイテムショップ、装備品やキャラクターの強化やカスタマイズも可能。
転移やBGMを流す機能やイベント再生する機能も維持していて、ちょー便利。
モブキャラクター達
基本的に意思は無い。
人型の他にも、明らかに人外な魔物型だっている。
最初から育ちきった状態で運用されるので、正直戦闘は一体で十分。
やり込みの結果、キャラクターの素質は天才揃いなので、学習能力も段違い。
あまりの強さと、モブキャラクターは“悪魔”と言う元々の作品の設定から、おぞましく強く敵対してはいけないモノとして扱われる様になる。
しかもやり込み“SRPG”の方なら、いち戦闘マップで出せるのは10体までだが、DRPGの本に転生した影響か最大でおよそ40体まで出せる様になっている。
なお悪魔とか言いながら、大抵は気の良い連中。
まあその魔界の掟で悪いことこそ正しい行いなんてヤベー無法地帯にも等しいけど、そう言う所はそう言う所で明確なルールと秩序が出来上がるモンで。
と言ってもこの話にその辺は関係無いか。
それが後々に大魔神扱いへ変わり、その世界の本当の魔界一の悪魔や邪神ですら裸足で逃げだすヤベー奴等となる。
なるけど、結局その悪魔達を操るのはトーカであり中身のおっさんである。
おっさんは中間管理職でもほぼ最低階級の苦労してばかりなおっさんだけに、そこそこの人生経験があるので調子に乗らず自制を利かせてくれることでしょう。
モブキャラクター達の装備品
武器1 武器以外の装備品3 の枠がある。
防具はどんなのを装備しても、キャラクターのグラフィックに影響しない。
全身鎧を3つ装備とか、やり込みゲームの世界では当たり前なので。
そんなの描写していられない。
ただし拳武器以外の武器のグラフィックは変わる。
それでいてステータスには影響が出るんだから、不思議としか言いようがない。
異世界
この本文の時点では記述が無いが、王道ファンタジーRPGシリーズの世界であり、ステータスのカンストは3桁(HPやMPは4桁)の世界。
そんな世界に、何でもアリなSRPG世界に棲息する8桁ステータスのカンスト悪魔達が、破天荒なDRPGの要素も引っ提げて降り立った…………!!(絶望)
別ゲー要素
むしろ別メーカーかも。
その別メーカーの集合体が世界とメーカーの垣根を越えて殴り込み。
本当に悪夢でしか無いっすわ。
これをもう少し盛り上げるなら
初期化ですかね。
最初は本だけにして、モブキャラクターひとりを創るだけしかチカラが残ってなくて、そこからやり込みゲーム道の開始。
やり込みゲームもレベル100位までなら、標準的なSRPGっぽい遊び心地なので。
途中まではそれで標準的な成り上がりっぽいムーヴをかまし、当のゲーム世界の主人公をはじめとした主要キャラ達と関わりながら進行。
途中で準備が出来たとか言いながら、やり込み道に邁進して暴走し始めるパターン。
それで全てを置き去りにして、ブッ千切ってゴーイングマイウェイ!
周囲を唖然とさせながら、やり込みゲーム特有のモノで世界を混乱に叩き込む。
特に世界本来の主人公周りにはびこる鬱展開を蹴飛ばしたり、特別な○○が必要な展開すらステータスの暴力で解決したり。
ダンジョン内の分断罠でせり上がる壁を、壁壊しで解決して敵を発狂させたり。
やり込みゲームの方では店売りの雑魚装備品でも、転生した先のゲーム世界では神剣とか特別扱いされる装備品だったり。