じゃあ、食べるため……とか?
「……あれはただの死体だ。アタシ達と同じじゃねぇよ」
横たわる死体を見て、ぶっきら棒にサモが言った。
「ふぅん、そっか。サモちゃんが殺したの?」
「はぁっ!? バカ! アタシがそんな真似する訳ねぇだろ!!!」
更に素っ気無く、しれっと恐ろしげな事を言うボクにビシっとツッコミを入れる。ボクは何故ツッコまれたのかが分からず、コクリと首をかしげ頭に疑問符を浮かべた。
「たまたまその辺で死んでたからよぉ、ラッキーだなって拾ってきたんだよ。このご時勢死体の野晒しは珍しいからよ。色々“使い道”があると思ってな」
「…………使い道?」
ボクの頭にもう一つ疑問符が浮かび、その様を見てサモが得意げに鼻を鳴らす。
「良いか? これは先輩からのクイズだ。アタシが何に使おうと思ってたのか当ててみな!」
唐突に始まったクイズにまた疑問符が増えるが、当ててみろと言われた以上頑張らなくてはならない。手拍子と口ずさむ謎イントロに催促されながらも喉を唸りながら考える。
「生き返らせようとした……とか? こう、魔法とかでバーン! って」
「はいブブー! 違いまーす! 魔法でバーンとかメルヘンなこと出来ませーん! 次!」
「えっと、それじゃあ寂しかったからじゃない? 人肌の温もりが恋しくなったとか?」
「バカッ! 死体に温もりもクソもあるか!! アタシはそんな頭おかしい奴じゃねぇし、そもそも寂しくなんかこれっぽっちもねぇよ!!」
「そっか、そうだよね。サモちゃんにはボクが居るもんね」
「何勝手に変な解釈してんだよ!? ったく、ちょっとは真面目に考えやがれ!!」
ビシっともう一度ツッコミを入れられ、謎イントロと手拍子がテンポアップし再開される。困り果てたように寂しく唸るボク。頭の上には疑問符がポツポツと増え続けている。
勿論、この音は死体には聞こえていない。
「――じゃあ、食べるため……とか?」
自信無さげに呟くボク。あまりにも突拍子の無い一言に不思議と草木が揺れ、サモはぽっかりと口を開けた。
「あれ? ボクまた間違えちゃったかな?」
不安げな視線を送るボクに、サモは取あえず口を塞ぎ、暫し考え込む。
そして答えが出たのか、面倒臭そうにボサボサの髪を掻いてから。
「……まぁいいか。アタシは優しいからよぉ、今回はこれで正解ってことにしてやんよ」
「え? 本当?」
「言っとくけどマジでギリギリ合格点だからな? アタシが死体なんか食うわけねぇだろ」
「じゃあボクが食べる用ってこと?」
「そんな訳あるか!! バカ!!」
三度目のツッコミを入れられ、またしてもボクの頭には疑問符が浮かび上がる。溜まりに溜まった疑問符は真っ黒な集合体になり、まるで蚊柱の様に頭の上で蠢く。
「…………じゃあ、誰が食べるの?――」
――ボクが疑問を投げかけたその時だった。
夜風が音を立てて駆け抜け、ボクの疑問符を体現するかの様に、二人の前方には不気味な黒い霧が発生する。
黒い霧の中では何かが蠢いている。ユスリカでは無い。数十匹の群れから鳴る規則的な四本足の足音。狩りに適したしなやかな体躯は、漆黒の体毛で覆われている。生々しく露出した歯茎、四本の犬歯が太く、鋭く尖る。
そして聞こえる咆哮一つ。それを合図に群れは速度を更に上げて、ボク達に向かってくる。
漆黒の群れが向かってくる様は、まるで真っ暗な夜が星空を飲み込もうとしているようだ。
夜がやって来た。不気味な黒い霧を放ちながら、夜の集団が襲い掛かってきたのだ。