第七頁 拠点作り
エルエスは感嘆の息を漏らしながら、訪れた部屋に歓喜した。
「おー、いいねぇ。流石東京のホテルの最上階……東京タワーもはっきり見える」
たくさんのビルが並ぶ中、東京という都市を見つめることができるこの場所は最高のロケーション、という奴だろう。司書たちがやってきたのは、東京でも有数の高級ホテルに来ていた。
最上階である一室から一望するとするなら、この角度からなら色々と仕事も捗るだろう。
僕は窓に両手を当てながら、外をじーっと眺める。
「エル、観光気分ばかりでいるのは依頼者に失礼なんじゃないか?」
「もう、クリード……空気を壊すようなことを言わないでもらえるかな」
「空気は吸う物であって、理解するものではないと思うが」
「そういうことじゃなくてだね……」
苦笑しつつ、僕は心の中で顎に手を当てて考え込む。
彼はカラスだというのに、どうしてこんなに頭が固いのか。
本来の姿の時は、もう少し賢いような気がするのになぁ。
エルエスははぁ、と溜息を一度零してからクリードに確認する。
「ねえ、クリード荷物は?」
「ああ、先に置いてある」
僕はベットの上に転がって、暇つぶしと情報交換を兼ねて足をパタパタと揺らす。
クリード、受付の人の前だと昔は固まっていたっけなぁ。
コミュ障とか陰キャとかって昔は、アイツにいじられていたりしたよなぁ……懐かしい。
僕はふむふむと、頷いた。
「それで、彼女から聞けた話は?」
「依頼者、サエキユウコの高校は志磨咲高校だ。学年は二年生で、いじめの主犯格のミソノヨシオは三年の先輩らしい……探偵なら、先にそっちを聞くべきだったんじゃないか?」
「君が依頼者を襲おうとした罰にならないだろう? 助手は探偵の補助をする役割があるんだから」
クリードは静かに頷いて、今回の依頼者のことの説明を始める。
「うーん、でも志磨咲高校……かぁ」
「どうかしたのか?」
クリードは不思議そうに僕を見つめてくる。
エルエスはそれを無視して、自分の思考の海と潜水する。
クリードが不思議そうにするのも当たり前だ。彼は僕の従者、図書館とのパスは僕が許可しない限り繋がらないのだから。
僕の知る現実世界での学校名にはヒットしないということは、作品群での名前か、それともパラレルワールドの方で派生した学校の名前か……どちらか知るためにも、情報を集めないといけないな。僕は名無之世図書館の扉を潜り抜けると、依頼者から聞き出した以外の情報は全てシャットアウトしている。
図書館との情報リンクは必要最低限は必要だが、最低限の範囲だ。
異世界の場合も同様だが、基本的に依頼者に頼まれた時の場合のみリンクを切らないといけない制約があるから面倒だ。しかし探偵らしくするためにも切っていないと怪しまれるのは確実だしね。いやはや、大変大変。
僕はクリードの疑問に笑顔で答えた。
「いいや? 僕は未知が好きだからね。知らない知識ほど、欲しがる知識狂なのは知っているだろう?」
「……正しい日本語としては、そんな単語はないはずだぞ」
「新しい言葉は勝手に生まれてくるものだよ、僕は未来の出来事は特に口にしないようにしているのは知っているだろう?」
「……それもそうか」
「それで、他は?」
「ああ、学校内部の情報はこれから調べて行かないと分からない。それと、サエキユウコの友人の場所は特定してある」
「じゃあ、後は違和感のないように接近して、情報の交換をすれば問題はないね」
「そうだな」
ちらっと、クリードは僕の方を見る。
その視線に気づかない主のつもりの内エルエスは、クスっと微笑んだ。
僕の従者が無表情でも褒めて、って顔が訴えているのがよくわかるよ。
「クリードは本当に真面目だよね。カラスなのにさ」
「……それは褒めているのか? けなしているのか?」
「褒めてるんだよ、そんな僕のかわいいセルウスには施しを与えないとね」
僕はクリードに手招きすると、彼は僕の前まで近づいて来た。
司書は自分の頭をトントンと突いてから下に指を差す。
クリードが察して素直に頭を下げるのを見て、彼の頭を優しく撫でた。
「……エル?」
「僕のかわいい従者には、いい子いい子してあげないと駄目だろう?」
「そういう、ものか?」
「そういうものだよ」
「そう、か」
慣れない、と言いたげに困った顔をする従者に愛おしさを感じる。
僕はクリードの頭を撫でまわして、だんだん恥ずかしくなりそうになる前を狙って撫でる手をやめた。従者が満足する褒美を与えられたなと感じたエルエスはクリードに微笑んだ。
「それじゃ、今回の依頼の拠点はここで問題はないね」
「ああ」
「じゃあ、クリード。依頼者の友人の元まで行くためにも準備をしようか」
「ああ、もちろんだ」
エルエスは、クリードに微笑んで依頼者の友人の元へと向かうための準備に取り掛かった。