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第六頁 東京の街並みを眺めて

 東京の街並みを楽しみつつ六本木ヒルズ展望台の東京シティビューへとやって来たエルエスはぼーっと椅子に座っている。

 一流の水彩画家の一枚絵を眺めている気分になりながら、エルエスはぼそっと呟いた。


「ああ……外はいい、とても飽きないなぁ」


 じろじろとエルエスを見る学生は、あの人、男? 女? なんて話は慣れた物なので聞き流しながら思考する。依頼者の生きている時代がいつなのか、街並みをわざわざ見なくても電子端末を見てしまえば一発だが、それではおもしろくない。

 僕の図書館は可能性に満ち溢れているから、たとえネットの海の中に消去された情報さえもみんな全部閲覧することができる状態にしているし、絶版や有害図書指定を受けた作品だって読める。

 なんでも見れるは便利だが、見れない時の土地勘を育てておくのはいいことだと昔、誰かが言っていた気がするな。誰だったか……もう、覚えてないな。

 背後からやって来る人物の気配を察知したエルエスは、ふふっと笑う。


「エル、持ってきたぞ」

「うん……ありがとう、クリード」


 クリードが可愛らしいピンクの包み紙に包まれたクレープを二つ持ってきてくれた。

 クリードは立ったまま、デザートの方を差し出しながら僕に聞いてくる。


「それで、今回はどうだ?」

「うん、()()だね」


 電子器具がスマホからガラケーに変わったのがその証拠だ。

 僕が持つ道具はみな時代に合わせて変化するように図書館の加護を得ている。

 だからこそ、無駄な金がかからないという特別な品でもある。

 エルエスはクリードからクレープを受け取る。

 僕が受け取ったクレープを食べるか見計らっているのか、クリードが片方の方に持ってるクレープを食べようとしない。

 ……従者としては、正しい反応なんだろうけどね。僕は自分の口元にクリードから受け取ったクレープを口に当てながら、クリードに自分のを食べるようにという意味で顎で命令した。


「…………!」


 クリードは僕の意図を察すると無言で小さく自分のクレープに噛り付く。

 そこで僕もようやくストロベリーの果肉がごろっと入ったクレープを一口食べた。

 口の中に広がる生クリームと果実の甘みに僕の舌は満足感を感じる。

 トレンドじゃなくて普通にイチゴ系を選んできたのは、特別咎めないでおこう。

 今、どっちかと言うとチョコレート系や抹茶系よりも果物の甘い物が食べたかったし。


「それで?」

「……学校は、まだ行ったららダメなんだろう?」

「いきなり行くのは無理がある」


 エルエスの隣にようやく座ったクリードは一度、大口でクレープを食べる。

 冷静な従者を持てて、僕は幸せ者だな、と喜ぶべきなんだろうけど……僕としてはもう少し融通が利くようになってくれたらいいなぁ、なんて淡い期待をしている。

 僕はあっという間にクレープを食べて終えるのを見て、はやいな、なんて口にするから、探偵には当分は欠かせないんだよ、とクリードに笑う。


「だよねぇ、それは探偵がすることじゃないよねぇ……いい案ある?」

「……あの少女が言うには、友人が一人いたそうだ」

「友人」

「ああ、名前は――」


 クリードが言ってしまう前に、クリードの唇に指を当てた。


「そう、今は言っちゃダメ。二人っきりの時だよ? ダーリン」

「……俺は従者だ」

「あっはは、クリードは真面目だなぁ。僕は嫌いじゃないけどさ」


 先に立ち上がって、僕は軽く伸びをする。

 クリードは真面目に僕を見てくるから、思わずクスっと笑ってしまった。


「そうだ、そっちのクレープ一口頂戴?」

「……わかってる」

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