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第五頁 地球の東京にて

「うん、――――――ここは東京か」


 エルエスはそう囁くと、革靴の音を鳴らしながら東京の街の中を歩いた。

 僕の恰好に奇異の目で見てくるものがいるけれど、僕のこの恰好にとやかく言われる義理はないし、むしろ気にしない。むしろ、季節が秋のようだから助かった。

 ハロウィンとかだったりするなら、仮装だとか思ってもらえそうだしね。

 行く人行く人がコスプレをしているから間違いないだろうけれど……さてはて、まずどこから探そうか。


「うーん、とりあえず……泊まる場所の確保は大事かなぁ」


 エルエスは頬に人差し指を当てて、もう片方の手を肘に触れる。

 とりあえず、人ごみの多い交差点に出てこれたのは好都合だ。有効利用しなくては。


「……言いたくなかった、ということかな」


 依頼者の少女が田舎と言ったが、まあ東京にも田舎はある。けれど、僕が彼女と会った時に見た彼女の記憶では、間違いなくこの都市で合っているだろう。

 それに人が嘘をつくのは当然だし、偏見で物を言うのも至極当然だ。

 人間という物は、理屈と言う感情論と屁理屈という感情論の二つを兼ね備えた不思議な生き物だと僕は記憶している。言いたくないことを誤魔化すことは、たぶん正しいことではない。

 でも、それにこだわる善人も悪人も、偽善者も、偽悪者も……皆等しく愛おしい。だからこそ、だからこそ世界と言う物語が面白いのは、それがあるからこそ有意義に読み解くに値する存在(せかい)なんだ。

 司書はくすりと、口角を上げる。

  鼻歌を歌いながら、司書は青信号の歩道を歩き終えてから宣言した。


「……そうだ、先に学校に行ってしまおうか」

『待て、エル。先にホテルからだろう』


 エルエスは、むぅ、と不満そうに口を膨らませてから上着に忍ばせてあったシルバー色の携帯電話を手に取る。


「…………はぁ、クリード。君は状況を読むことを覚えた方がいいよ」

『すまない』


 携帯の画面を耳に当て電話をする振りをする司書は従者に不満を口にした。


「……人間というのは神秘という物に興味を持つのもあれど、同時に恐怖を抱いている物だと言ったよね、クリード。連絡手段のあるものを使っていないのを見たら、誰しも僕のことを精神異常者だのなんだのと難癖をつけてジトっと見てくる視線に僕は耐えろ、と言いたいのかな?」

『エルはすぐ興味本位で動くだろう、俺もすぐそっちに行くからもう少し待っててくれ』

「やだ、僕は学校に行きたい」

『東京の図書館の本を読み漁れる機会はそんなに多くないだろう?』

「……もぅ、僕のセルウスは可愛いんだからぁ」


 それは、一理あるから怒れない、か。

 むーっとするのをやめて、気遣ってくれる従者に通話越しにねだってみた。


「じゃあ、クレープ買ってくれるよね?」

『駄目だ、太るぞ』

「むぅ、僕に痩せるも太るも関係ないよ、必要経費だよ! 美味しいトレンドの所でお願い」

『……図書館の本を読んでからか? それとも後か?』

「今じゃないと、店が閉まっちゃうだろう? さーき!」

『……わかった、二種類買っておく。デザート系と食事系の二つな』

「うん、どれかは君に任せたよ」

『それじゃいつも通り、ホテルの最上階な』

「っふふ、うん。お願い」


 ピロン、と通話が向こう側から切られるのを確認して僕は身体を伸ばした。


「さぁーって、と……情報収集はまた後でしなくちゃね」


 エルエスは、そう呟くと東京の街へ奔走することにした。

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