第二頁 来訪者 自殺志願者の少女
エルエスは、自分の庭に等しいほど理解することのできる図書館にて、来訪者の元へと向かった。
コツコツ、と自分の革靴を鳴らしながら、その人物に声をかける。
「ここに来たのは初めてかな、お客様」
「貴方、誰?」
黒いセーラー服を着た黒髪黒目の少女が、エルエスに疑念の目を向ける。
少女は少年に見える風貌のエルエスを警戒していた。
司書であるエルエスは動揺もせず、少女に尋ねる。
「ここは名無之世図書館、地球のことの全てが記されている図書館さ」
「……なら、私のことを知ってるの?」
エルエスは少女に穏やかに人形めいた完成された笑みに見ほれた。
「もちろんだよ、佐伯宥子さん。日本出身の日本人だよね」
「……だったら、何? ストーカーってことなら、いくらでも説明できることだよね」
「ストーカーじゃなくても、答えられると思う内容だと僕は思うよ」
「どうして?」
宥子は、疑念が詰まった濡羽色の瞳でエルエスを睨む。
しかし、エルエスにとっては子猫の威嚇に等しかった。
司書は落ち着いた口調で、彼女の質問に答える。
「君とは初対面だけど、僕は出会った人の人生を見ただけでわかるのさ。たとえそれが、まったく違う世界の人でもね」
「……信用できないるわけない」
「それはそうだろうね、でもここはとても不思議な図書館だからね」
「余計、意味がわかんなくなってきたんだけど」
「じゃあ、まず君の幼少期を当てようか。父親は他界して、シングルマザーの母親に育てられたんだよね? さっきまでずっと自室にいた」
「……!! なんで」
「それに君は小学生の頃、体の成長が早く胸も大きくなって男子からは性的な目で見られたのが嫌だったよね。とある男子グループからいじめられてる……ここまでは、合っているかな?」
「……完全にストーカーじゃないと説明になってないと思うのだけど」
「家でナイフを使って自殺しようとしたらここに来たんだろう? 学校で飛び降り自殺するのは、いじめっ子の男子生徒たちに死に様を見られるのに抵抗があったから」
「!? な、なんで知って」
宥子は目を見開き、動揺を隠しきれないほど驚愕する。
エルエスは、そんな彼女に当然のように口にした。
「言っただろう? 僕は、出会った人物の人生がわかる、とね。とりあえず、お茶にしよう。話はそれからだ」
「…………っ!!」
宥子は自殺用に念のために持っていた果物ナイフでエルエスを刺そうと飛び掛かった。
しかし、エルエスの背中を後1cmほどで差すことができたのに、横から腕を強く掴まれた。
クリードが強く沙那の腕を掴んで、ナイフを手から落させた。
「いっ……!!」
「エルエスを殺そうとしたな、女」
無表情のクリードに宥子は痛みに悶える。
エルエスは横目でクリードを制した。
「ダメだよクリード、お茶菓子の用意はどうしたの?」
「し、しかし……!」
「その子はお客様なんだ。丁重に扱ってくれないと」
「……わかった」
クリードは宥子の腕を離すと、宥子は掴まれた腕をさすった。
「……っ」
「どうして僕を殺そうとしたのかは、紅茶を飲んでから聞くことにするよ。さぁ、行こう」
宥子はエルエスの言葉を一応信じて、彼の元へと歩き始めた。