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第一頁 プロローグ

 ここはどこにも繋がっている泡沫の図書館、名無之世(ななしのよ)図書館(としょかん)

 地球のことなら、全てその図書館の本に綴られている唯一無二の楽園。 

 数多の各国の言語が綴られた物語、魔術書、語られない英雄譚、電子の海に消えたはずの作品すらも収納されている名無之世図書館にて、エルエス・ブッカーは椅子に座りティータイムを楽しんでいた。


「うん……今日も何もない日だね、クリード」


 鼻を掠める紅茶の香りに惹かれて、エルエスはカップの飲み口に口づける。

 テーブルには中世当時のアフタヌーンティーを再現した菓子と紅茶、ケーキスタンドや豪華そうなティーポットやカップなどが置かれている。

 この図書館では、定期的に開かれている茶会のようなもの。

 咎める者がいるとすれば、この図書館に訪れた人物くらいだろうとエルエスは認識している。


「ああ、それで今日のはどうだ」

「クリードが淹れてくれる紅茶はいつも美味しいよ」

「……エル、厳正な評価を求めたい」


 中性的な美貌を持ち少年のような恰好をしている司書は、自分の使い魔を褒める。

 しかし濡羽色(ぬればねいろ)のカラスを彷彿させる黒コートの青年はエルエスと対面する形で椅子に座りながら顔を顰める。のほほんとするエルエスに、クリードは不満のようだ。

 カップを片手に持っているソーサーに置き、エルエスは使い魔へと微笑む。


「固いなぁ、それじゃいつまでたっても僕に敵わないんだよ?」

「エル、俺はお前の使い魔だ。学習は大切なことだと、エルが言ったことだろう」

「そうだけど……あはは、困ったなぁ」


 エルエスは自分なりの茶々が通じないことに苦笑した。

 クリードは堅物だから、しかたがないが。

 新しい職員を雇いたくなってはいたが、雇用条件がぴったり合うような人材は滅多にいない。

 ……いるかなあ、そんな人。

 エルエスは紅茶を飲んでいるとベルが鳴り響く音を聞いた。

 コト、とエルエスはもう一度ソーサーにカップを置いた。


「お客様のようだね、クリード」

「わかってる。客人用のを新しく用意する」


 エルエスは紅茶のソーサーごとテーブルに置いて、席から立ち上がった。


「頼んだよ、僕の愛するセルウス」

「ああ、行ってこい」


 司書は、訪れた来訪者を迎えに行くためにコツ、と革靴の音を響かせた。


 ――――――ここは、名無之世(ななしのよ)図書館(としょかん)


 本来、名前など存在しない泡沫の泡で出来上がったこの楽園に踏み入るのは、何かしらの苦悩を持った来訪者のみ許される。

 例えば、地球の人間は基本的に来れる。

 けれど、時に人以外の者も、訪れることがある。


「さぁ――――――今回の君は、一体どんな軌跡を僕に見せてくれるのかな」


 司書は、クスっと小さく微笑んだ。

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